遥かなる未来にて〜面会の日〜 1


「コンコン」

ホテルの一室を一組の少年と少女がノックする。

ここは、あまり大きくない地方都市にあるホテルの客室の前。

彼等はこの街にある寄宿制の学校の制服を着ている。

今日は外出許可もらって『彼等』に会うためにこの部屋までやってきた。

中から若い男の声が聞こえると同時にドアが開く。


「よお待っていたぜ、元気そうだな。初めての寄宿制学校の生活はどんなもんだい?」

ドアをあけながらジェットは廊下の二人に声をかけた。

「わーっジェットじゃない?きてくれたの?」

廊下にいた少女ルナが嬉しそうにジェットに飛びついて来た。部屋の中にはジェットの他、ジョ−とフランソワーズ、それにアルベルトの4人がいる。

「元気そうね、二人ともどう?ちゃんと御飯食べてる?」

早速母親らしく二人を気遣うフランソワーズは、部屋の中に入ってきた少年ソレイユの頬に軽くキスをしながら優しく尋ねた。

「相変わらず、心配性だね、ママン・フラン。大丈夫、ちゃんと食べてるよ。」

「集団生活って規則がうるさいだろう?息詰まらねえか?」

飛びついてきたルナを抱き上げたまま、ジェットが真面目な顔で質問するとルナはそのままの格好で

「ジェットには無理だと思うけど、私達は大丈夫よ。案外おもしろいものよ、慣れてみると!」

と、ジェットの顔を見上げながら笑顔で答えた。

「なんだよ。それ!ちょっと離れているうちに随分と生意気な口きくようになったな、コイツ」

口では怒っているようだが、ジェットの瞳は優しく笑っていた。


「ここはここなりに案外楽しいよ。メールにも書いたけど、はじめのうちは勝手が解らずに戸惑うこともあったけどね。結構、自然態で過ごせている。心配しないで。」

ソレイユもフランソワーズやジョ−の顔を見ながら、笑顔をみせている。

「毎日のように誰かのところにメールしてくれるから、学校や寮での生活の様子はわかっているつもりだけどね。やっぱりこうして会うと安心するよ。元気そうでよかった。」

ジョ−が優しく話し掛けると、ルナがジェットの腕の中からピョンと下りて、今度はジョ−に飛びついてきた。そんなルナを抱きとめながら、

「うん?ルナ?少し重くなったような・・・」

「もう!パパ・ジョ−ったら、酷いわ!綺麗になったねとか言えないの?3ヶ月ぶりだっていうのに!あっ、3ヶ月じゃあ変わらないか?」

拗ねてみせるルナがかわいくて思わず笑みがこぼれる。


「3ヶ月も離れている事なんて初めてだし、最初は私の方が寂しくてなんだか、おかしくなりそうだったわ。それなのに、メールではあなた達、楽しくて全然平気そうな事しか書いてこなくて・・・もしかしたら無理してないかって逆に心配になったりして・・・でもこうして会ってみたら、とっても良い顔してるわ。本当に楽しいのね。私ってなんだったのかしら。」

フランソワーズが一人で喜んだり、拗ねたりするのが可笑しくて、その場のみんなが声をあげて笑い出した。


「みんなも会いたがっていたんだが、全員で来ては目立ち過ぎるからな。ジョ−とフランソワーズの他は二人にしようと決めて、俺とジェットの4人が来たんだ。」

アルベルトが穏やかに話し掛けると、

「ジョ−とフラン以外の二人の枠の争奪戦はすごかったぞおっ!」

大袈裟にいうジェットに、ソレイユとルナが尚更嬉しそうに笑った。

「4人でも十分、目立ってない?」

ソレイユが笑いながらしっかりと突っ込んでいる。

「だから、本当は外のテラスでもよかったんだけど、この部屋にしたんだよ。」

「あたし、テラスでケーキがよかったなあー」

ジョ−が説明したが、ルナは、ちょっとムクれてみせた。それに対してムキになるジェット。

「なんだよ、俺達お邪魔虫かよ?」

「ルナ、いくらなんでも失礼じゃない?」

「えへっ!ごめんね、ジェットお・じ・ちゃ・ま!コレで許してね!」

ルナがジェットにもう一度飛びついて頬にキスすると、彼は満更でも無いのか澄ましてもう何も言わない。


「みんなも元気?今はみんなどこにいるの?やっぱりみんなに会いたかったな。」

ルナの問いにアルベルトが答えた。

「今は、全員ドルフィン号住いだ。ちょっと目の離せないポイントがあるんで待機の状態だ。出動の可能性は低いがな。研究所に詰めていたのでは、ここに何かあった時に間に合わないからな。とりあえず、一番近い海の沖合いに停泊中だ。」

「そうなの。ちょっと大変ね。」


ソレイユとルナがこの学校に編入する事になってまずは、二人の安全を考えて何か異変があれば駆け付けられる場所を確保し、それとなくここを見守る体制をとった。全員でそこに詰めては、かえって目立つので一人ないしは二人で、あくまでも普通に生活を送っていた。3ヶ月たって、誰か交代しようか、拠点を変えてみようかとなった時に少々気になるので一応集合しようとなったのである。


「今の所、ここは安全なようだし・・・このあたりは取りあえず何事もなさそうだ。安心して学校生活を続けていいぞ。」

少し心配顔になった二人を気遣ってアルベルトが穏やかに二人に声をかける。

そう、何よりソレイユとルナが、メンバーの元を離れてこの学校で生活をするにあたっての大前提は、二人にとって絶対的の安全な場所である事。

今回、初めてこの二人を寄宿制度の整った学校に編入させたのは、彼等がいつかは自立しなければならない為の第一歩。今までは安全を第一に考え、どんな時でも常に手許で育ててきた。9人のメンバーとギルモア博士の10人の溢れんばかりの愛情の中で二人はすくすくと成長してきた。だが、いずれは彼等の元を旅立たなくてはいけない。二人はいずれメンバーのみんなを追いこしていってしまうのだから。二人がちょうど14歳を迎えた頃、戦いもなく落ち着いていたのを機会に少し離れてみようか、と言う事になった次第であった。


アルベルトの言葉に安心して、学校生活での出来事などを楽しく話し出すソレイユとルナ。メールでやり取りしていても話しは幾らでも湧いてくるものである。3ヶ月ぶりの再会に会話も弾んでいた。


だが、この何気ない会話の中に、アルベルトにとってはとんでもない落とし穴が存在しようとは、この時まだ誰も気が付いていなかった。


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