「さあて、これでいいわ。」
フランソワーズは紙おむつの束を、車のトランクに放り込むと、側に付き添っていた張大人の方を振り向いた。
「ごめんね、大人。ついでに付き合わせちゃって。」
大人も手に大きなスーパーの袋を持っていた。
「たいしたことないアル。ワテも買い忘れた調味料をちゃんと揃える事、できたアルから。おまけにこれだけ買い足せば、ついでも何もないアル。気にする事ないアルね。」
フランソワーズはにっこりと微笑むと、車の横に止めてあるベビーカーの中を覗きこんで声をかけた。
「さあ、待たせたわね。ソレイユ、ルナ。お家に帰りますよ。」
ベビーカーの中でちょこんとおすわりしているのは、1歳になったばかりの赤ちゃんが二人。一人は赤茶の瞳に茶色の髪の男の子のソレイユ、もう一人は蒼い瞳と茶色の髪の女の子ルナ。
今日はふたりの1歳児検診の日だった。
本来ならばジョ−が一緒に付き添う所だが、このところそれまでの平穏だった日々が失われつつあった。
各地で不穏な動きが目立ってきて、故郷に帰っていたメンバーも個々で集めた情報にB.G.が絡んでいそうだ、と予想をつけた段階で研究所に集合してきていた。今日、ジョ−は他のメンバーと共に研究所で、情報の整理とドルフィン号の整備に追われていた。
1歳児検診の方は、日時が指定されていて変えられない為、急きょ買い出しから帰ってきたばかりの張大人を、もう1度ガードにひっぱり出した。検診が終わって、すぐにも研究所に戻らなければいけない所だが、これからの事を考えると『おむつを買い足しておきたい』と言い出したフランソワーズと、買い忘れがあったという大人の意見が一致して、この大型スーパーに立ち寄る事となった次第である。
「遅くなると、みんなに心配かけちゃうから、急いで帰りましょうね。」
フランソワーズは子供達に話しかけながら、運転席のドアを開けキーを回してエンジンをかけ、軽くエアコンを入れると後ろのドアを開ける為、ベビーカーを少し車から離した。
そして二人を後部座席のベビーシートに移動させるため、まず、ベビーカーの前に乗っていたソレイユを抱き上げようとした時だった。
フランソワーズは背後で人の気配を感じた。
大人は反対側でまだ大きな荷物と格闘中。
不穏な空気に振り向こうとした時
「動くな!」 の声とともに銃を突き付けられた。
「しまった。誰?気が付かなかったわ。何時の間に・・・」
大人は車の反対側で手が出せずに固まっている。
「003だな?」
銃を突き付けて、黒尽くめの男の冷たい声が響いた。
「まさかこんな町中に紛れていようとはな。しかも子供だと?ふんっ!カモフラージュしたつもりか?まさか、おまえの子共?まあどっちでもいい。おいっ一人確保しろっ。人質だ。」
「この人達、B.G. ?何人いるの?」
一つ息を吐いて、冷静に目と耳を使って敵の数と配置を把握する。
後ろには銃を突き付けている奴の他にもう一人。
怪しい車が1台、ここの連中と同じく黒ずくめの男が2人。
「ジョ−!聞こえる?」
脳波通信で呼び出してみるが、応答はない。遠すぎるらしい。
「全部で4人・・・車の中には、通信機があるわ。何とか連絡をつけなきゃ。それまでは、どうにかして、なんとか切り抜けなくては。」
指示されたもう一人の男が、ソレイユに手を伸ばそうしたその時、フランソワーズの身体が自然と反応していた。
すっと沈みこんだかと思うと、身体を反転させ銃を構えていた右手を下からおもいきり蹴りあげる。銃は見事に宙を舞い、後方に転がった。
ふいをつかれて、二人の男の動きが一瞬止まる。張大人はバタンとトランクを閉めるとその上に飛び乗り、ベビーカーから遠ざけさせようと男達の目の前にお得意の火をふくが、勢いの良すぎる火炎に、子供たちがすぐ側にいる事を思い出し、
「アイヤー、危ない危ない」
とすぐにやめてしまった。
それでも威嚇するには充分だったとみえて、その隙にフランソワーズは自分がケリ飛ばした相手の銃のところまで走り、それを拾い上げ男達に向かって構えていた。すかさず、ソレイユに手を出そうとした奴に狙いをつけると、引き金をひく。弾は見事に左胸を打ち抜いた。だが、その時もう一方のフランソワーズに蹴られた男がソレイユを抱え上げていた。
「しまった!あいつのほうが、近かった?」
ナイフを取り出しソレイユに突き付けた格好で走り出してた。フランソワーズは、銃を構えようとするが、当たったはずみであのナイフがどうなるかを考えるとトリガーがひけない。
「大人!ルナと車で避難して!車から応援の連絡を!私は追い掛けるから!」
必要なことだけいうと、敵を追い掛けた。
