家を飛び出したソレイユ。
上着は着込んで出たので、とりあえず寒くはないが、財布がない・・・。
飛び出したはいいが、これからどうしたものか・・・途方に暮れながら、街へ向かってひとり歩いていた。
「なんで、あんな事言っちゃったんだろう。パパ・ジョー達が、悪い訳じゃないのに。僕達が転々としなくちゃいけないことは、小さい頃から当たり前で・・・僕だってルナだってわかっているのに・・・。」
やはり、自分の口から出てしまった言葉に対して、自己嫌悪に陥っている。
ジョー達が「戦士」であること、そのためいつも極秘に「仕事」をしなくてはいけないこと、それに伴う自分達の「不自由」・・・全て納得しているはずなのに・・・。
ソレイユは、自分にあんな感情があったことに、自分が一番驚いていた。
細切れの学校生活。
事実、馴染むのに、時間がかかったこともあった。
いままでも、自分が理不尽なイジメの対象になったことが、なかったとは言わない。
それのほとんどは、自分に対するねたみであって、小さな誤解からだった。
自分がしっかり「立って」いれば、いずれはわだかまりも解けて友達になれた。だが、今回はちょっと違う。
いままでにない存在感を持っているヤツがいる。その影響力は、絶大だ。
みんな、無意識のうちにアイツを、恐れてしまっているのだろう。
自分に味方しては、次は、己に火の粉が降りかかってくるのを、自然と避けようとしている・・・。
その証拠に、彼が現れると、決まって、気まずい瞳を所在なげにうろつかせ、自分と目を合わさずに離れていく。
それが、手に取るようにわかるソレイユは、そんな子を責める気には、なれない。
自分の周りにいたはずの「友達」が、次々とはがれ落ちて行くみたい・・・ここ数日、そんな疎外感を感じていたのだった。
「彼」の存在感・・・もまた、ソレイユには、違った意味で、とても気になる存在でもあったのである。
ソレイユは、客観的に自分を見つめれば見つめるほど、寂しさが募っていくのだった。
それが、つい自分の特殊な環境と重なってしまった。
原因がそちらにあるのではないことは、頭では理解できているのに・・・。
ジョーの「友達」の言葉に対して、あれほどの反応を示した自分・・・自分が、自分の中で何かを求めている・・・まだぼんやりとしか、わかっていないが・・・。
自己嫌悪でいっぱいの頭で、とりあえず、現在の対処方法を考える。
(どうしよう・・・しばらくぶらぶらしているしかないかな・・・)
ゆるゆると考えを巡らしているウチに、コンビニの前を通りかかった。
運の悪いことに、そこにたむろっていた数人のグループと目が合う。あのグループだ。
アイツ、リーダー・・・イザム・・・もいる。
「しまった!」と、自分の不運を呪ったときにはすでに遅かった。
イザムがニヤニヤしながら、ソレイユに近づいてくる。
「誰かと思ったら・・・ソレイユの坊ちゃんじゃねえか? 今日はままと一緒じゃないのかよ?」
ソレイユを挑発するように悪態をついてくる。
子分数人を引き連れた悪ガキ集団・・・ソレイユには、そういう構図にしか見えない。
が、やはり「イザム」は、その中でも何か違う・・・その存在感を主張している・・・ソレイユは、そのことが気になるが、今は極力、無視を決め込んで、素通りしようとした。
しかし、イザムは益々罵声を投げてくる。
「へん? お高く止まりやがって! おまえなんか「若い」母ちゃんとひっついているのがお似合いなんだよ!」
ソレイユには、どうして彼が、フランソワーズを引き合いに出してくるのかわからなかった。しかし、自分が罵倒されているにもかかわらず、なんだかフランソワーズも一緒に馬鹿にされているようで、カチンとくる。
ソレイユをからかうように、行く手を阻もうとする彼等に、どんなにイライラしたとしても、手を挙げるわけにはいかない。
(ソレイユは、自分の護身術の確かさを認識していた。)
しかし・・・今日はちょっと違う。彼の中で、何かが、弾け飛んだ。
・・・コイツらのせいで、僕はパパ・ジョーにあんな事・・・言っちゃったんだ・・・。
そう考えると、自分をおさえなくては・・・という理性よりも、怒りの方が勝ってきてしまう。
ソレイユが・・・静かに「キレ」た。
「・・・どけよ・・・。」
「へっ? ・・・なんだって? もう一変言って見ろよ! 」
極力自分を抑えて、小さな声で呟いたソレイユに対して、待ってましたとばかりにイザムがのってくる。
あわよくば、多人数に頼って、ソレイユを叩いてやろうとでも思っていたのだろうか?
しかし・・・その思惑は、直後に、もろくも外れる。
「・・・邪魔だ・・・どけっ!」
その表情は、普段の彼の優しげなモノとは全く違い、圧倒されるような迫力を背負っている。勿論、誰ひとりとして、そんなソレイユは・・・知っているはずもなかった。
先程よりも、もう少し通る声。しかし、低く響く声・・・と、同時に、ソレイユが、俯き加減だったその顔を上げる。長い前髪の間からは、紅い瞳が、鋭い光を放っていた。
ソレイユは、グループひとりひとりの目をみて、射すくめる。
イザムを初め、グループの誰もが、ソレイユの一睨みで、蛇に睨まれたカエルが如く、声も動きも止めてしまった。
ソレイユは、動きが止まった彼等の横をするりと抜けると、そのまま、公園の方に向かって歩いていった。

夕暮れが近づきつつある公園。
この季節、陽が落ちるのは、極めて早い。
大きなオレンジ色の太陽が、グングンとその角度をなくしていくのに伴って、当たりはどんどん暗さを増していった。
暗くなるのと比例して、ソレイユの心の中もだんだんと心細くなってくる。
「・・・はあ・・・どうしよう・・・。」
引っ込みがつかない自分に、嫌気を指しながら、彼は、もう誰も遊んでいない公園のブランコをユラユラと揺らしていた。
遠く、表通り方向では、車の行き来する音がきこえ、中学生らしい団体が、わいわいとおしゃべりしながら、家路についている声が聞こえる。
「・・・お腹すいちゃったな・・・。」
お腹の空き具合と共に、益々心細くなる・・・。
彼の中で、空腹と男の意地が競い合っていた。
思わぬ所で、自分の感情を認識してしまった為に、自分自身で、この感情を整理しないと、どういって、彼等に接してよいのか、まるで見当がつかない。
・・・心から話せる友達・・・今まで自分は持ったことがなかったな・・・
気付いてしまったら、無性に寂しい気分になっていたのだった。
そんな時、ソレイユは、彼の背後に人の気配を感じる。それも、ただ近づいてくるとか、擦れちがってくるのもではない。少々、不穏な動きだ。
反射的に身構えるソレイユ。それと同時に、自分の軽はずみな行動に後悔する。
今、ここで、BGに狙われたら、自分は間違いなく拉致されてしまう。
「自分自身の安全のタメには、まず単独行動は禁物・・・十分にわかっていたはずなのに・・・。しまった・・・こんな時に! どうしよう・・・。」
神経を集中させて、気配を探り、人数と場所の配置を見切ろうと努力する。
が、その緊張は、まもなく、しかも、あっけなく解けることとなる。
「あれっ? この気配は??? なんだ・・・あいつらか?」
最初に感じ取った不穏な気配とは違って、明らかに子供の気配。
先程のヤツラが、自分を襲いに来たに違いない。
ソレイユは、自分の予測が単に考えすぎだったみたいだ・・・と、ほっと胸をなで下ろした。
しかし・・・実のところ、ソレイユの「カン」は、決して狂ってはいなかったことが、数分の後に判明することとなるのである。
そして、彼は、自分の判断の甘さに後悔する。
が、とりあえず今は、彼の神経は、自分に襲いかかろうとしている数人の同級生に、向いていたのだった。
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