「おっ?流星か・・・ここは星がよく見えるね?流星、たくさん見えたんじゃないかい?」
ドルフィン号のデッキで風にあたっていたソレイユとルナにむかって、側に付き添っていたピュンマが尋ねた。
双子達も当然知っていただろうと思ってピュンマは更に言葉を繋げる。
「お願いごとはできたかい?」
その言葉を聞いたふたごの反応はピュンマが想像していたものとは随分と違っていた。
「お願いごと?」
「なんでお願いするの?いま?」
「ふたりとも知らない?流星が消える前にお願いすると叶うっていうおまじない?」
「流星にお願い・・・するの?」
尚も怪訝な顔でききかえしてくる双子。
「フランソワーズあたりに聞いてないかい?流星そのものは何回もみたことあるよね?」
ピュンマは、デッキのフェンスに肩ひじをついてもたれ掛かたまま、尚も怪訝そうな双子の表情をマジマジと見つめてしまった。
「ええ、何度もあるわよ?こうやってドルフィン号に乗っている時って海の上が多いでしょ?そうしたら、星は一杯みれるから、流星もよくみてるわ。」
「いままでに、お願いごとした事、無いのかい?流星に『願いごと』をするおまじないのこと、知らないの?」
フランソワーズとの会話でいままでに話題が登らなかったとは考え難いので、ついもう1度尋ねてみてしまった。
「ううん?そうじゃないの。『お願い』のおまじないは知っているわ。でも、ママン・フランは流星が嫌いだから。・・・だから、あたしたちも『お願い』はしないの。」
「フランソワーズが流星が嫌い・・・だって?彼女がそう言ったのかい?」
「そうよ?ピュンマこそ知らなかった?あたし達ずーっと前から知ってた事だわ。」
驚いた表情で二人に言葉を返そうとしていたピュンマが口を開くより一瞬早く、
「それは、僕も知らなかったよ?本当?」
何時のまにか後ろにジョ−が立っていて、突然声が降って来た。
「パパ・ジョー!驚かさないでよ。ああ、びっくりした・・・心臓に悪いわ。・・・パパ・ジョーも知らなかったの?」
「うん。フランならお願いごとはしても嫌いとは言わないと思うんだけど・・・」
自分も双子達のあとについてデッキで星でも・・・と思ってドルフィン号から出て来たジョ−はいきなり耳に入った話に戸惑いながら聞き返す。
「あらっ?本当よ!随分前の事だけど、ママン・フランがね?『流星はその命を燃やす最後の輝きなの』って。だから、『その輝きにお願いごとはできないの。』って。」
「その話をね、とても悲しそうに言ったんだ。どうしてなのかは、聞いて無い。だって、泣きそうな顏だったから・・・だから、ママン・フランとはそれから流星の話はして無いんだ。当然僕達も流星にお願いはしてないよ。」
ルナの説明にソレイユが補足する。双子達も以前の記憶が間違っていないかどうか、確かめながらジョ−と向き合っていた。
「・・・『命を燃やす最後の輝き』って言ったんだね?」
ソレイユとルナには、そう言ったジョ−の声は驚く程沈んだものに聞こえ、その紅い瞳はあの時のフランソワーズの表情よりもよりももっと悲しそうに見えた。
『何かあったの?話してはいけない事を口にしてしまったのだろうか?』
そんなジョ−の様子を見て、二人は明らかに動揺した。
「パパ・ジョー?何か・・・あるの?(どうして、そんなに悲しい顔するの?)」
それきり口を噤んだジョ−にむかってルナが囁くように尋ねた。
「フランソワーズらしい理由だよ。多分・・・彼女にはあれは辛過ぎたからね。僕達だって・・・辛かったよ。」
俯いてしまったジョ−に代わってピュンマが口を開いた。ジョ−は黙ったまま・・・
「何の事?」
心配顔で覗き込む二人にピュンマが思い当たる出来事を話してやる。
「昔ね、君達がうまれるずーっと前の事だよ。・・・ジョ−はジェットと一緒に流星になったんだ。」
「えっ?」
理解できずにただピュンマを見つめ返すだけの二人。そして、その視線はジョ−にも向けられる。が、ジョ−本人の表情はかわらない。
「流星はね、宇宙空間から、物質が大気圏に突入した時に空気との摩擦熱でそれそのものが燃えるんだよ。それが地上からは光となって見えるんだ。ジョ−とジェットはそうして大気圏に突入して燃えた事があるんだよ。」
分かりやすく説明するピュンマだが、それがかえって二人には大きな衝撃となっていた。
声を荒げ、顔色変えて動揺するふたりに過去の話だと言う事を強調しながら、話を続けようとした所、ジョ−が言葉をつないだ。
「燃え尽きそうになったけど、僕達は生還したんだ。だから、こうして今ここにいるんだよ。」
俯いた顔をあげて、ふたりに優しい笑顔を向けながら酷く静かに答える。その瞳はやはり悲し気に見えて二人の胸がチクっと痛む。自分達がうまれるずっと以前の話し・・・でもフランソワーズにとっては今も辛い想いとして残っている事がわかってきた。
「パパ・ジョー?ママン・フランは流星になったパパ・ジョーとジェットを『見た』の?」
「だから、流星が嫌いなの?もしかしたら、燃えて無くなっちゃったかも知れなかったから?」
「多分そうだと思うよ。僕は気がついて無かった・・・」
ジョ−の声が静かに二人にしみ込む。
「ママン・フランはきっと、パパ・ジョーとジェットがいなくなるみたいで、今もまだ流星が嫌いなのね?」
「ママン・フランには『見えちゃった』んだね?」
どんなに辛い状況だったのかふたりには想像もつかないが、ジョ−から伝わる悲し気な感情がふたりの胸に迫る。
「ジョ−も知らなかった事だったんだね・・・」
ジョ−はピュンマの言葉に頷くと静かに「ふたりを頼む」と言い残すと、ドルフィン号の中へとスタスタ歩いていってしまった。
あまりの咄嗟の事で双子達とピュンマは返事ができなかった。
「パパ・ジョー?突然どうしちゃったの?大丈夫かしら?」
「きっとフランソワーズの所だよ。呪縛は解かなくちゃね?ジョ−たちは流星になったけど、命は燃えつきなかったんだから。悲しい想いは一掃しなきゃいけない。」
ピュンマがにこやかにジョ−の行動を分析するが、わかったような分からなかったような複雑な表情を浮かべる双子達。クスクス笑いながらピュンマが話を続けた。
「大丈夫だよ。今頃ジョ−はフランソワーズの所にいっていきなり言い訳しているさ。『僕は燃え尽きなかったよ』ってね。フランソワーズは何の事だかわからずに慌てているはずだよ。近くにジェットがいたら『何を今更言ってるんだ?』って呆れられているかもしれないよ?でもね、フランソワーズがそんなに気にしていたんだったら、その呪縛は解いてあげないといけない。呪縛が解ければフランソワーズも流星が嫌いだなんて思わなくなるだろうし、ジョ−もあんな悲しい表情しなくて済むようになるさ。」
「ホント?二人とも泣いて無いかな?なんか心配だな・・・」
まだオロオロしている双子。そんな心優しい双子にピュンマは明るく優しい言葉をかける。
「ソレイユ?ルナ?確かに流星はその命と身体を燃やして光りを生み出している。それに願い事をかける事は、フランソワーズにとっては辛い記憶を繋がってしまって流星自体が嫌いになってしまった。」
「そうなんだろうね?」
「きっとそうよ。」
「ママン・フランが嫌いって思うのもわかるなあ。僕も聞いちゃったら・・・なんかね?大丈夫だってわかっても・・・」
まだ、複雑な表情の二人に向かって、ピュンマの言葉は続く。
「でもね?君達もこんな話を聞いてしまってもう流星に願いごとなんてかけられないというのなら、わざわざ流星でなくても『星』そのものに願いをかけてみればいいんだよ。見て御覧?今日はまた満天の星だ。この中に一つくらい『お願い』に耳を傾けてくれて、それを叶えてくれる星がいるかもしれないからね。ジョ−とジェットの流星は燃え尽きないで、ちゃんと願いごとを叶えてくれたんだよ。僕達仲間の元に生還したのだから・・・」
