遥かなる未来にて



 ここは寄宿制度が整っている、とある男女共学の中等高等学校。

「ルームメイトとはうまくやっていけそう?」

「うん、昨日は質問攻めで少し疲れちゃったわ」

今、中庭に面している中2階の踊り場では、ひと組の男の子と女の子が、大きな窓から初春の花がちらほらと咲き出した、中庭の花壇を見下ろしていた。

「なんとか過ごせそうだね」

「どのぐらいここに居られるのかしら?」

「さあね、どうかな?彼等の仕事が暇なうちは居られるんじゃないかな?」


この二人、先日この学校に編入してきたばかりである。寄宿生活は今回が初めて。

男の子の名前はソレイユ、女の子の名前はルナという。まだまだ初めてのことだらけに翻弄されていて少々お疲れのご様子である。


そんな時、ルナがふっと顔を上げた。

「ねえ、今聴こえてきた曲・・・」

「ああ・・・この上は確か音楽教室だったね」

窓の外にはかすかにピアノの音色が降ってきている。しばらくその場所で耳を傾けていたが、聞き覚えのある優しい曲に誘われるように、二人は自然と階段を上っていた。

音楽教室の前まで来ると、教室の防音設備が施されている重たいドアが、かすかに開いていた。音はそこから、開け放たれた廊下の窓を通って外に漏れ聴こえていたのだろう。だが、その時には、もうピアノの音は漏れていなかった。先程までその音色を奏でていた人物は、すでにどこかへ行ってしまったようだった。


二人はドアをそっと開け、つい先ほどまでその主がいたであろうピアノの前までやってきた。

「さっきの曲を知っている人がここにいるのね。」

ルナが呟くようにソレイユに話し掛ける。

「うん、彼の事も知っているかな?」

ソレイユはちょっと懐かしむかのように、にっこりと微笑みかえした。ルナはそっと椅子を引きピアノの前に座って、鍵盤を優しくたたきだした。ソレイユも隣に立ち、1オクターブ高いキーで主旋律を一緒に奏でる。それは、先程かすかに聴こえてきたあの曲と確かに同じものだった。少しゆっくりとではあったが。


 弾き始めてほどなく、彼等が入ってきたドアと反対側の少し小さなドアが、バターンという激しい音とともに大きく開けられ、一人の男が入ってきた。彼は二人に向かい

「なぜその曲を知っている?誰に教わったんだ?」

と、いきなり大声で質問を浴びせかけてきた。驚いたルナはピアノを弾く手を止め、ソレイユとともに開かれたドアのほうを見つめた。

「すみません。勝手に触ってしまって・・・」

慌てたのか、ちょっと的外れな答え方をしてしまう二人。戸惑い気味の二人をみて男は

「ああ、大声をあげてすまなかった。ちょっと驚いてな。ええっと、君たちは前の授業のクラスにいた編入生ではないかな?」


彼はここの学校の音楽の教師だった。この街のアマチュア楽壇を率いて指導したり、時には自ら指揮棒をふったりしている。普段はこの学校で曲を作りながら、生徒達に音楽を教えていた。歳の頃は60代中ばであろうか。

「はい、そうです。下の踊り場にいたらここからピアノの音が聴こえてきて、それが好きな曲だったもので、つい・・・」

「君たちはあの曲を知っているのだね。あの曲はすばらしい曲なのだが、残念ながら世には出ていない曲なのだ。しかも私を含む友人数人の所にしか楽譜が存在していないはずなのだが。いったいその曲は誰から教わったんだい?」

 その教師は興奮を押さえるかのようにと、ゆっくりとした口調で尋ねてきた。二人は顔を見合わせ、どう答えてよいものかと思案していたが、そのうちソレイユが答えた。


「身内同然の知り合いから教わりました。彼が『大事な曲なんだ』と言いながらよく弾いていて・・・自分でメロディをピアノ用にアレンジして・・・綺麗な曲なので自分でも弾いてみたくて、頼んでレッスンしてもらいました。・・・なんでも恩師の遺作で、彼が会いにいったその日に事故で亡くなってしまったときいています。」

「!・・・・恩師に会いに行っただとっ!では、君たちにこの曲を教えたのは・・・アルベルト・ハインリヒなのかっ?」


驚きの声をあげる教師を見つめながら二人は小さくうなずいた。教師の瞳が少し潤んだようにもみえたが、彼は、

「そうかハインリヒに教わったのか・・・身内同然といったが・・・親族ではないのか?」

と、懐かしむ瞳を彼等に向けながら訪ねてきた。

「ええ、血が繋がっているわけではありません。でも私達にとってはとても近しい人です。」

ルナが少し誇らし気に答えた。

「この曲は難しかったけれど、頼みこんだら照れながら優しく教えてくれました。」

「そうか・・・彼はどこにいるのかね?元気なんだね?」

教師に感慨深気にそう聞かれて、今度はソレイユが彼の質問には答えずに逆に尋ねた。

「先生はハインリヒを御存じなんですね?」

「彼も私もストリンドナー教授の弟子だったんだよ。この曲、雪割草交響曲を受け取った事情は別の友人から聞いておってね。その時には結局会えなかったものだから、彼とは学生時代に会ったきりなんだ。そうか、彼から教わったのか・・・」


 懐かしむように彼等を通してハインリヒの事を思う教授を見て、二人は『言ってよかったものか』と戸惑っていた。が、そんな二人に向かって彼は、穏やかな声で語りかける。

「いや、まさか彼の名前をきこうとは思わなかったからね。驚かしてすまなかった。この曲を大事に弾いてくれたまえ。」

「はい、わかりました。」

 彼等はにっこりと微笑み、大きくうなずくと、一礼して教室から出ていこうとした。が、その時、

「ああ、君たち、ええっと名前はなんといったかね?すまんね、まだ覚えていなくて・・・双児だとは覚えているんだが・・・」

呼び止められ振り替えると、二人はきちんと正面を向いて姿勢をのばして名乗った。

「ええ、そうです。昨日、編入しました。僕は、ソレイユ・シマムラ」

「私はルナ・シマムラです。ここのピアノ、また弾きにきてもいいですか?」

教師は優しく微笑みを返しながら答えた。

「一声かけなさい。弾く事はかまわん。」


階段をおりながらルナが明るい声で話し掛ける。

「アルベルトは知っていたのかしら?あの先生がここにいるって事。」

「さあねえ、偶然じゃないかな?たとえ知っていても会えるわけじゃないだろう?」

ソレイユが少し考えながら答える。

「でも、彼の事を教えてあげてもいいんじゃないかな。アルベルト以外にこの曲を弾いている人がいたよって。」

「そうね。今度連絡がとれたら教えてあげましょうよ。きっとびっくりするわ。」


 中2階の大きな窓が夕焼けで赤くそまっていた。


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 もうお判りですよね?

 ソレイユ&ルナ・・・ジョ−&フランソワーズの子どもです

 ”いつの間に?”か始まった物語です。

 これから時間軸があちこちと飛びますが、二人が出刃って参ります(爆)

 尚、ここに登場しました『学校』につきましては全て架空です。モデルは萩尾望都先生作の『ポーの一族』あたりから。(お察し頂いた方も多いと思います〜)

  N.B.G.投稿時には『雪割草交響曲』を『〜協奏曲』と間違えていました(かなり後で気付いた時には・・・アセッたけど・・・開き直ってそのまま)。今回こっそりと手直し(大汗)

 更にこれを書いた後でこの”ブツ”がこんなに広がるとは思わず、多少他のモノとのズレが生じているので小さく手直ししてあります。まあ、小さい事なんで気にせずとも・・・

 おつき合いありがとうございます〜


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