さて、その日の夕食後、フランソワーズが双子と一緒にお風呂に入っている間のこと、ギルモア邸のリビングではなにやら密かな動きが・・・。
大人の男が7人・・・メンバー勢揃いして、なにやらコソコソ・・・。
ちょっとその輪から離れたところにイワンのクーファンもフヨフヨと浮いていた。
「やっぱ。園庭の外からじゃあ限界があるな。」
「ルナの周りには女の子ばっかりだったぞ。」
「ソレイユの友達にもそんなに乱暴な子はみかけなかったし・・・。」
「だが、ブランコとりあげてるヤツは目撃したよ。力ずくだったなあれは。」
「子分引き連れているガキ大将風にもいたな。」
「へえ〜それは今時珍しくないか?」
「これまで見ている限りではやっぱり教室の中での接近を要注意しなければいけないみたいだね?」
「う〜ん、フランソワーズに透視の協力は望めないしなあ。」
「ルナにフルネームできいておけばよかったなあ。」
真剣な表情で持って帰った情報を披露しあうメンバー達。
・・・言わずとしれた・・・ルナのバレンタインデーのプレゼント相手の身辺調査のつもりらしい・・・。
「おいっ!イワン?お前だったらわかるか?」
「ソンナ・・・僕ダッテアッタコトナイシ・・・イクラナンデモワカンナイヨ〜」
いきなりミッション(えっ?)に強制参加させられたイワン。めずらしくしどろもどろ・・・。
「顔写真があればなあ?」
「どうも入園時とか、年度始めには毎年集合写真を撮るらしいんだけど、ウチの子達は途中入園だからそれがないしね・・・。」
「それだっ!イワン!それをちょっとお前の力で取り寄せてくれよ!」
「エエ〜ッ、ソレジャア僕ガ泥棒ニナッチャウジャナイカ!」
「この際だ。背に腹は代えられん。」
「そうだよ。ここはひとつ・・・。」
「あるべると?ぴゅんまマデ・・・。」
真顔でクーファンに視線が集中している。
イワンにとってはなんとも居心地の悪い視線の束。
と・・・その時・・・。
パタパタパタパタ、バタ〜ン!
ノックもなくリビングのドアが大きく開いて、
「あなた達〜〜〜一体何の相談をなさっているのかしら〜〜〜?」
頭にバスタオルを巻き付けてバスローブ姿のフランソワーズがドアの所にたっていた・・・壮絶色っぽい♪
が・・・それどころではない迫力でリビングの空気が凍り付く。
「フッフランソワーズ?なんて格好で!ダメダヨ!そんな格好で!」
ジョーが顔を赤らめながらフランソワーズの格好を窘めるが、
「ジョー・・・あなたまで一緒になって・・・。」
あわてるジョーを一喝、蒼い瞳が冷たく一睨み。
当然ジョーはそのがに貼り付けられて身動きできなくなった。
「なっなんのことだい?フランソワーズ?」
「とぼけないでね?このアタシの『耳』によからぬ『お話』がきこえちゃったものでね・・・。」
「おいっ、イワン?だめじゃないかよお?シールド、チャンと貼ってくれなかったのか?」
「お前、手を抜いたな?」
「・・・ぼくハ今回部外者ダヨ・・・」
「この期に及んで裏切るのか?」
「人聞キ悪イナア・・・。ぼくハ最初カラ荷担シテイタツモリナイケド?」
口調はしどろもどろ、視線はあちこちに泳いでいる面々を前に、フランソワーズが口を開く。
「幼稚園であなた達がどんなに噂になっていることわかってないみたいね?
ただでさえ、ここ日本じゃあ目立つ存在なのに!
あなた達!
自分がどんなに目立つ存在か忘れたわけじゃないでしょうねえ?
それにグレートに大人?
今日はやけに店じまいが早いんじゃないの?
まさか明日はあなた達の番なんて事はないわよね」
ゆっくりとリビングの中に入りながら冷たい声が響き渡る。
「・・・なんでわかるアル?」
「おやっ?フランソワーズ?最近予知能力まで御身につけられたかな?」
あっさり認めるこの二人・・・完全に墓穴を掘っているよ・・・
「!!!冗談じゃないわよ。ド派手なヤンキーとマフィアなドイツ人だけでも十分に目立っているのに!
それに知的なアフリカ人に似せプロバスケ選手なネイティブ・アメリカンまで加わって!
おまけに地味に単独行動しているつもりの天然日本人まで・・・すっかりばれているんだから!
この上、英国紳士のつもりの禿頭にアヤシイチャイニーズまで現れたんじゃあ、あの子達がもう幼稚園にいけなくなっちゃうわよ!」
・・・容赦のないフランソワーズの暴言が・・・彼女の怒りを十分に表しているようだ。
「なにオーバーなこといってんだよお〜俺達が『正体』まで見破られる訳ないじゃん?」
ジェットが軽〜く言葉を返したが
「・・・ご自分では変装していたつもりでした?」
フランソワーズのこめかみがピクピクと動き出す。
・・・そろそろやばいかも・・・。
状況の厳しさに気が付いている者はいるのか?
・・・多分、イワンくらいだろう・・・。
彼のクーファンはいつの間にか彼女の視界から消えていた。
腕組みをしたフランソワーズの口元から不意に笑いがこぼれる。
「・・・ふふふっ・・・甘いわね・・・お母様がたのパワーを甘く見ない事ね・・・。
狭い社会ですもの、情報がいきわたるのに1日いえ実質保育時間の6時間もあれば十分なものなのよ!
しかもそれが子供がらみでおまけにアヤシイ男がうろついているだなんて・・・そんなスリリングな状況に興味を持つなって言うのは、猫の目の前にまたたびぶら下げて無視しろって言うくらい無理な話よ・・・。
ご自分達が置かれている状況が少しはおわかりかしら?」
「・・・・・」
フランソワーズの警告は更に続く。
「噂が噂を呼んで・・・すでにイメージは一人歩きして・・・多分幼稚園とは全然関係ないところを歩いていても背後でヒソヒソやられるわよ・・・ヒソヒソくらいなら幸いかもしれないわね?有無を言わせずに通報・・・なんて事も十分にあり得るわよ。」
「はははっ、いくらなんでも・・・そんな・・・。」
ピュンマが抵抗してみるがその声は何とも弱々しい。
「・・・覚悟するのね・・・。母親集団を甘く見ない事よ・・・。」
フランソワーズの言葉は一向に容赦ない。
「・・・母は強し・・・ってことか?」
「その通りよ、アルベルト。まったく・・・あなたやピュンマ・・・ジェロニモまでいっしょになって・・・。」
・・・ジェットやグレートならわかるけど・・・という言葉はあえて省略した。
特大の溜息をつきながらフランソワーズは面々を見渡した。
「ママン・フラン?どうしたの〜?」
「そんな格好でウロウロしてたらおかぜひいちゃうよ〜?」
パジャマを着たソレイユとルナがリビングにあらわれて、緊迫したリビングの空気が少し動く。
「あらっ?良い子ね〜きちんとひとりでパジャマきたのね?」
「頭もチャンと拭けたよ。」
「えらい〜?」
《この1件、ルナに知れたらどうなるかしらね〜?
先生から『アヤシイ人には気をつけましょう』ってきかされてるのよ?
そのあやしい人物が実はあなた達で、しかもお友達のことを探っているなんてことを知ったら・・・?
この前ちょっと尋ねただけでもあれだけ怒っていたのに・・・。
もし真相知ったら・・・どうなるのかしら?》
フランソワーズの精一杯のご厚意で脳波通信を使ってにこやかに伝えられた。
沈黙したまま蒼白化するおじさまな面々。
「ソレイユ、ルナ、そろそろ寝ましょうか?みんなにお休みなさいしましょうね?」
「は〜い♪」
一人一人にお休みなさいのキスをして回る二人。
ちょっと堅い表情のパパ・ジョーとおじさまたちに「?」と思いながらも大人しくフランソワーズと共に寝室へと引き上げていった。
フランソワーズがロビングを後にして、ほっと息を付くメンバー達。解凍すると共にぽつりぽつりと言葉が出てくる。
「・・・このまま中止した方が無難かな?」
「そっそうだね・・・、ルナのお怒り買っちゃあもともこもないし・・・。」
「ミッションの中止・・・不本意だが、しかたない。」
「チェッ、なんだか煮え切らねえな・・・。」
内心誰もがルナの口からこぼれた『たっくん』『みっちゃん』『かずくん』が気になるところ。
それでもこれ以上のフランソワーズと更なるルナの二重のお怒りを被るのは誰もが避けたくて、やむなく中止せざるを得なかった。
・・・あっさりと事は収束したのだった・・・。

そしてバレンタインデーの当日。
「たっくん〜、はい!チョコレート♪」
「みっちゃ〜ん、いつもありがとう〜はいチョコ!」
「かずく〜ん、チョコあげる〜♪」
幼稚園のお帰りの時間、園の正門を出たところでフランソワーズにもってきてもらったかわいいサイズのピンク色にラッピングされたハートのチョコレートを、あの夜に宣言した通り、極上の微笑みを添えて渡すルナの姿があった。
あれから、気にしていた例の男どもは・・・自主規制を何とか保ったらしい。
ここにその姿はなかった。
『アヤシイ男』の噂はまだまだ健在・・・『見てみたいわ♪』とあらぬ方向にも広がっているようだが・・・。
フランソワーズにとっては気が抜けない日々が続きそうだった。
その帰り道、
「ルナ?ボクにもチョコレートある?」
「うん♪ちゃ〜んとママン・フランといっしょにかったから〜おうちにかえったらね〜」
「・・・よかった♪ねえママン・フランもボクにくれる?」
ルナとフランソワーズ両方の顔をのぞき込みながらこちらもニコニコとえらく機嫌がよい。
「・・・ソレイユ?まだほしいの?・・・こんなにもらったのに・・・」
「うん♪・・・ねえ?ないの?」
「・・・そんな顔しないで・・・チャンとあるから!ねっ?でもその前にこのチョコレート・・・誰から頂いたのかをきちんとチェックしてからよ。
おともだちにのお名前おぼえてるわよね?」
「うん、大丈夫♪コレがみいちゃんで、こっちがさっちゃん、これが・・・」
今にもバッグの中からとりだして道ばたに並べそうな勢いのソレイユをいそいで制止する。
「・・・帰ってからでいいのよ・・・ソレイユ・・・」
ルナが幼稚園のお友達にチョコレートをあげたのだ。
当然ソレイユは頂く立場で・・・彼の幼稚園バッグの中には・・・一体何個はいっているのやら・・・。
フランソワーズは別の意味で頭を抱えることとなってしまっていた。
<ルナのことに気を取られてこっちはすっかり忘れていたわ。この子・・・ジョーのこだったのよね・・・。>
「ルナはおうちに帰ったらジョーやみんなにチョコレートあげてね・・・きっとみんな待っているはずだから。」
「は〜い♪」
<ルナの1件は、今日みんながルナからもらえば落ち着くわね・・・あれから大人しくしていたみたいだし。
ソレイユがこんなにもらって帰れば・・・また騒ぐわね、あのヤンキーあたりが・・・。
バレンタインデーってこんなに疲れるイベントだったっけ?>
フランソワーズはまたもや盛大な溜息をもらしたのだった。
そしてソレイユのもらったチョコレートを目撃したメンバーは・・・
うらやましがるやら、誉めるやら、生意気だとチョッカイ出すやら・・・。
やはり大騒ぎのタネとなったのだった。
まあ・・・こんな事も今が平和だからこそ!
リビングにはいつまでも明るい声が響いて・・・
・・・ところでソレイユがもらったチョコレートの数は?いくつだったのでしょうね?
ソレイユ&ルナ、もうすぐ5歳の冬に出来事♪
コレが初めてのバレンタインデー体験・・・でした・・・♪

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