Image


Image


 数日後、フランソワーズは、ジョーを伴って再びその店のドアを開けた。

 優しいかわいらしい小物達が、2人を歓迎してくれる。

 そして、奥へと一歩足を踏み込んだとたん、温かい空気に満たされてくる。

 ゆったりとカウンターの椅子を引き、先日と同様、香りに誘われてブレンドを注文してみる。

 ジョーの表情も和んでいくのがわかる。

 カウンター越しに渡されたブレンドの香りが、まるで彼を包み込むように漂う。

 ジョーの笑顔がなんて優しいのだろう。


 「ねぇ? どう? 私の言ったとおりのお店でしょ?」

 「ああ、なんだかここでこのまま昼寝でも出来ちゃいそうだよ。 これって、居心地がいいっていうのかな?」

 「そのお言葉、私どもへの最高の賛辞ですよ。」

 カウンターの向こう側から、柔らかい笑顔と共に返された言葉に、更に心が満ちてくる。

 コーヒーのカップを両手で包み込むように抱えて、ジョーはその味と香りと一緒に、店の空気を楽しむ。そして、自然と言葉がこぼれた。

 「いいね・・・ここ。 差し込む日差しも柔らかい。 背中からすーっと染みこんで、小さな傷も治してくれそうだよ。 このコーヒーもとっても美味しい。」

 「ケーキも美味しいって。 ソレイユとルナが無言で頬張ってたのよ。 食べてみる?」

 「はは? おしゃべりも惜しんで・・・ってことだったのかな?」

 2人がココに座って、一心不乱にフォークを動かしている様を想像しているのだろう。ジョーの目元がこの上なく優しげに細められていた。

 「そうね、いただきましょ。 今日のケーキは何かしら?」

 「今日は、チーズケーキと、バナナブレッドをご用意してありますよ。」

 なつさんが、答える。

 「じゃ・・・ひとつずつお願いします。」

 「フラン? 両方食べるの?」

 「あら? ジョー? どちらか選べた?」

 「・・・ううん。」

 「でしょ? 半分こしましょ♪」

 「ははは、そうだね。」

 「お待たせしました。どうぞ。」

 差し出された2枚のプレートの間を、ジョーの瞳がまるで子供のように行き来している。

 「ふふふ、ジョー? そんなに迷わないで、どうぞ、召し上がれ。」

 「あ・・・わかった?」

 「ええ、そりゃ・・・もう。」

 フランソワーズが、必死に笑いをかみ殺しているのが、その肩が小刻みに震えることでわかってしまう。


 ケーキを口に運ぶごとに、ジョーは満足げに頷く。

 結局、ジョーはどちらのケーキも2/3を食べてしまい、フランソワーズの口に運ばれたのはそののこり・・・となってしまった。

 「あ、ゴメン。 ・・・食べ過ぎだよね?」

 最後の一口になってその状況のようやく気付いたジョーだったが、そんなジョーの狼狽えた様子さえも、フランソワーズには可笑しくてたまらない。

 こんなに素直に感情を表すジョーを見るのは久しぶりかも知れない。

 今、彼は「009」をしまい込んで、完全に島村ジョーに戻って、心からくつろいでいるのだ。


 それはおそらく「ここ」だから・・・?


 (「ここ」で、柔らかな陽射しに包まれて、コーヒーを飲み、ケーキを食べ・・・でもどうして?)

 (予想はしていたけど・・・だからこそ、貴方を連れてきたかったのだけど・・・。)

 (ジョーったら、どうして、そんなにいい顔するの?)

 (そりゃ・・・私が入れたコーヒーよりも、私が作ったケーキよりも、ずっとずっとココの方が美味しいわ。)

 (それは認めるけど・・・それだけ?)


 ジョーの心からの笑顔に出会えて、フランソワーズは至極満足なはずなのに、相反するような嫉妬の感情が沸きだしていることに気付く。


 (やだ・・・私ったら、どうして、こんなこと考えちゃうんだろう。 確かに、美味しいわ。 それは、認めるわよ・・・認めるけど・・・。 なんだか、妬けちゃうわ・・・。)


 「あの・・・お口に合いませんでしたか?」

 ジョーの横顔を眺めながら微笑んだり、眉根を潜ませたり・・・複雑な表情を見え隠れさせていた彼女に、ケーキ制作担当のみっちゃんがこっそりと声をかけてきた。

 「あ・・・いいえ。 そんなことないです。 今日のケーキ、凄く美味しくて・・・この人があまりにも幸せそうに頬張っているから・・・。 私、なんだか悔しくて・・・。きっと、このケーキに嫉妬しちゃったんです。」

 「まあ! ふふふ・・・申し訳ないことしちゃったかな?」

 「私も・・・ケーキとコーヒーに嫉妬したのなんて初めてです。」

 そんな彼女に、店の女性達は、優しい眼差しで包み込むように見つめてくれていた。

 フランソワーズは、困ったような複雑な表情を見せながら、素直に今の自分の感情を白状する。

 「お詫びに、ケーキのレシピをお教えしましょうか?」

 「えっ? 本当ですか?」

 「ここで、あんな複雑なお顔をさせてしまったお詫びだわ。 きっとあなたでしたら、こちらの方の好みのモノが作れますよ。」

 「いいのですか? 企業秘密じゃないのですか?」

 「ふふふ♪ そんな大仰なものじゃないわ。 かまいませんですよ。」

 「嬉しい! 是非ともお願いします。でも・・・。」

 「でも?」

 「でも、この人・・・ジョーには作ってあげないわ。」

 「ええっ? どうして?」

 「なんで? 僕に作ってくれないの?」

 フランソワーズの意外な言葉に、みっちゃんだけでなく、ジョーも鋭く反応し、まゆさんやなつさんも彼女の真意に注目する。

 「ふふ・・・あなたはね、ここで、食べるの。 ここで、コーヒーを飲んで、ここでケーキを頂くの。 私が教わったケーキは、研究所でソレイユやルナや、みんなに作ってあげる事にするわ。」

 「フランソワーズゥ〜?」

 「ふふふ・・・そんな顔しないで。 ここは貴方の特等席なの。 ここは、貴方の場所なの。 ね? そうですよね? マスター。」

 「ふふふ? わかりますか?」


 ジョ−本人はきょとんとするばかり・・・。




   勿論、こんな素敵なお店、みんなにも教えてあげたいわ。

   きっとみんなも、ココで心を解き放して、くつろげるはず。

   もしかしたら、お気に入りの本でも持ち込んで、長居しちゃうかも知れないわ。

   うん・・・アルベルトやピュンマなんかはやりそうね。

   それでもね、だれよりも・・・ココは貴方のために用意された、

   とっておきの場所・・・のような気がするの。

   いいえ、何より、私がそんな貴方を見ていたいんだわ。

   誰にも邪魔されないで。(あ・・・ここのマスター達は別ね。)

   そうよ。 ジョーをあんなにくつろがせてくれるケーキとコーヒーにも感謝しなくちゃね。

   嫉妬している場合じゃないわね。 

   嫉妬なんかしたら・・・あんなジョーが見れなくなっちゃうじゃないの?

   それって・・・とっても損だわ!




     ジョー・・・貴方の横顔を私・・・ずっと見ていたいのよ。

     だから・・・貴方はココで、ココに座って・・・ね?

     ここなら、ソレイユにもルナにも、誰にも邪魔されないもの。




 納得顔のフランソワーズの横で、ジョーは首を傾げるばかり・・・。

 それでも、(ま・・・それでもいいけど・・・。)と、思ってしまうジョーだった。

 「ここって・・・不思議だ・・・。」

 ジョーの思考回路は、休憩中らしい・・・。




Image



 「もう! みっちゃんたら・・・彼女にレシピ教えちゃったら、彼が来なくなったかもしれないのよ? 驚かさないでよね?」

 「そうよ。 彼女がああ言ってくれなかったら・・・折角作ったココが、全て無駄になったかも知れないのよ?」

 「ごめんごめん! だって〜彼女の言葉が嬉しかったから・・・つい。」

 2人が帰った後、カウンターの中でのやり取りだ。

 それまで、にこやかに客を見送っていた女性達は、ドアの外に2人の姿が消えたとたん、レシピを教えると宣言したみっちゃんに向かって、他の2人が詰め寄った。

 2人から同時に責められたみっちゃんは、両手を合わせて、謝る仕草を繰り返す。

 「もう・・・ホントに人がいいんだから・・・。」

 「ふふ・・・ま、よかったわ、彼女がああ言ってくれて。 これからも通ってくれるかしらね? 彼。」

 「そうね・・・。 きてくれなくちゃ困るわ。 その為に、作ったんだから、ここ。」

 「そうそう・・・彼のために、まずは、彼女の気に入りそうなモノを沢山作って。」

 「子供の目にも留まりやすいように、ディスプレイも考えたし。」

 「彼に食べてもらうために、美味しいケーキを用意して。」

 「勿論、他のみんながきてくれても全然OKなんだけどね。」

 「それは・・・彼女次第かな?」

 「まあね。 とりあえず・・・成功ね。」


 ゆったりと時間を過ごし満足げな表情で引き上げていった2人を思い出しながら、「MAYUDAMA」のマスター達の笑顔が弾けてる。

 フランソワーズの耳には、届いているかも知れない彼女たちの会話だが・・・。

 作戦が成功した喜びで、そんな配慮はすっ飛んでいるようだ。




 そう・・・ここはジョーのために作った空間。

 ジョーが009から解放されて「島村ジョー」に帰ってもらうために。

 全てを忘れてくつろげるように。

 彼が心から休息できるように。

 彼に座ってもらうために。




     「MAYUDAMA」の一角に儲けられたカフェ「日溜まり」

     ここは、ジョーのために、作られた安らぎの空間

     勿論、他のメンバーもいずれは発見してお気に入りの場所になるはず

     それでもここに一番「似合う」のは、彼

     そして、その横には「彼女」




   さあ、いつでもそうぞ。

   かわいい小物と、美味しいケーキと、薫り高いコーヒーが、

   いつでもあなた方をお待ちしております。


   ここは、2人のための「指定席」ですから


   どうぞ、ごゆっくり・・・お過ごし下さいな・・・



< イラスト by 繭様 >


〜 Fin 〜


Image


 ジョー&フラン・・・時にはコブなしでくつろいでいただきましょう(笑)


 ふふふ〜(*^・^*) 2005年のジョー君お誕生日SS『ぷれぜんと♪』に

 頂いちゃいました素敵イラストから、わき出した「続き」でございます♪

 きっかけは、ありがたくも頂きました1枚のイラストから〜♪

 ←『いただきもの』のお部屋に飾ってございます〜踊

 妄想の神様〜いらっしゃいませ♪・・・ってことで(^。^)

 妄想頂いちゃったついでに(←ついでなのか?・・・失礼な!)

 『カフェ』企画繋がりで〜ご登場頂きました(^▽^ケケケ

 「まゆさん」「なつさん」「みっちゃん」・・・ほほほ〜もう皆様〜お分かりですよね?(確信犯)

 ご出演ご協力〜ありがとうございました(ぺこり♪)

 ↑ それぞれ〜素敵なお宅への通路はりんくるーむにございます♪

 さて・・・今夜もまったりと〜(^。^)


Image