「誕生日おめでとう・・・か・・・」
フランソワーズがふいにつぶやく。
手に持ったワインのグラスはすでにカラになっていた。
それをもてあそびながら・・・
「おめでとう、フランソワーズ・・・」 と、小さな声でつぶやく。
その表情はけっして沈んだモノではなかったが、自分で自分におめでとうといっている光景は隣に座っていたジョーを驚かせるには十分な出来事だった。
「フランソワーズ?どうしたの?今日のパーティー、気に入らなかったのかい?」
今日は1月24日。
フランソワーズの誕生日。
当然メンバー全員プラス双子も一緒に盛大にお祝いをしたのはつい1時間前のコトだった。
次の日のギルモア博士のお祝いも一緒にと大きなケーキが用意され、大人がいつものように豪華な料理に腕を振るい、双子もそれのお手伝いによく動いていた。
そして今はそのパーティーも一段落してそれぞれがのんびりとリビングでお酒を楽しんでいる時間だった。
双子もジュースでつきあいながら。
フランソワーズもお気に入りのワインをゆっくりと楽しんでいた。
「パパ・ジョー?どうしたの?」
「ママン・フラン?何かあった?」
双子も気が付いたようだ。
ワインのグラスを手の中で遊ばせているフランソワーズと、不思議そうな視線をフランソワーズに送っているジョーにみんなの注目が集まる。
「あっ、ごめんなさい。違うわ、とっても楽しいパーティーだったわよ。とっても感謝しているわ。 ・・・ちょっとね・・・昔を思い出しちゃったの・・・。」
あわてて否定するフランソワーズの瞳が遠くに泳いでいた。
「昔のこと?」
「ええ・・・そう・・・。誕生日って・・・自分の誕生日の位置づけっていうのかな?その時その時でずいぶんと違っていたなってね・・・」
「どういう意味?」
ルナが不思議そうにフランソワーズの顔をのぞき込みながら尋ねてくる。
フランソワーズが口元をほころばせながら、自分の空いているグラスにワインをつぎながら答える。
「ええ・・・今は、みんなが祝ってくれることが嬉しいわ。
祝ってくれるってコトは・・・今が平和で、『家』にいれて・・・それだけでとっても満たされるの。
みんなで平和な時が過ごせていることが嬉しいって感じるの。
でも、それって裏返せば・・・誕生日なんて感じる余裕すらないときが存在したってコトなのよね。
実際、自分の誕生日なんて忘れていた時期だってあったわけだし・・・
あのころは、自分の誕生日が誰かに祝ってもらえるなんてもう二度とないって思っていたなって・・・そんな状況だった時があったのよねって・・・。」
「ママン・フラン?それって・・・みんなが改造されちゃって・・・BGにいた頃のこと?」
ルナが心配顔でのぞき込む。
「ええそう・・・毎日が生き抜くことで精一杯だったころね。
誕生日どころか毎日に希望さえ持てなかった頃・・・そんな頃が確かにあったなって・・・
脱出して、BGと対峙して・・・そのころもやっぱり余裕なんてなくて・・・毎日が精一杯・・・
そんな日々になれてきて、戦いがなくてつかの間の平和が訪れても、誕生日を祝うだなんて余裕が出たのは、たぶん・・・ずいぶんと時間が経ってからだったと思うわ。
もう・・・一体どのくらい前だったのかさえわからいなあってね。」
双子がうまれるずっと前のはなし。
ジョーもメンバーたちも最近は成長した双子に自分たちの過去を隠すことはしていない。
十分に理解できる年頃のなったとの判断からだった。
反対にこうして過去の話しが及ぶこともあった。
だから、サイボーグである部分の自分達にに向けられる疑問や質問にも正直に答えるようにしていた。
「そうだね・・・そして戦いが終わればみんなそれぞれの場所に帰っていった・・・」
ジョーが静かに当時を振り返る。
「自分だけで精一杯・・・そんな時期を乗り越えるのに結構時間がかかったよな・・・」
ジェットが少し遠くを見るような目をしてつぶやく。
「僕たちが集まる時は戦いの時・・・それ以外はそれぞれの世界を持っていた。
今のような絆じゃなかったのかもしれないね。だから、『お祝い』には縁はなかった。」
ピュンマが当時を冷静に分析していた。
「みんながこうして自然とこの『家』に帰ってくるようになったのは・・・いつごろからだったかねえ?」
グレートがグラスの中の氷をカラカラと音をさせながら話す。
「なにより、時間がとまってしまった俺達に誕生日を祝う意味があるのか?って議論した頃もあったな・・・確か・・・」
アルベルトが時間を遡って自分達の絆の経緯を探る。
「誕生日の存在、思い出すまでにずいぶんと時間、流れていった。」
ジェロニモが静かに流れた年月を数えていた。
「わてがみんなにお祝いのごちそうに腕を振るえるようになったのはいつ頃だったアルねえ?」
大人が自分の料理人としての立場から思い出そうとしていた。
みんなフランソワーズのつぶやきから過去の自分達を思いだしている。
「自分の誕生日を思い出したのは、誰かが「おめでとう」って言ってくれたからだよ。
でもそれって、一体いつ頃からなのか・・・定かじゃないね。」
そしていつの間にか、それぞれの時期にみんながここに、みんなの所に帰って来始めていた。
平和な時間に余裕が生まれて、絆が深くなったのかな・・・
ジョーが複雑な笑みを浮かべながらフランソワーズを見つめた。
「・・・そうなの・・・どうしてかしら?
そんな時期を不意に思い出してしまって・・・
だからおめでとうって言われたついさっきの出来事が、なんだか不思議におもわれちゃってね。」
ワインを口に運びながら、なおもフランソワーズが語る。
「誕生日は人が一つ歳を重ねることでしょ?
自分にはもう関係ないんだわって悲観的になった頃があった・・・
年月は私たちを素通りしていく・・・私たちを置き去りにして流れていく・・・
だから・・・外見の変わらない私たちには歳を重ねるって事は・・・あてはまらい。」
フランソワーズの瞳に寂しさが浮かんでいた。
その瞳はずっとワイングラスを見つめてながら・・・
「ママン・フラン?お誕生日がつらいの?」
ルナが泣きそうな顔で彼女を気遣う。
「あっルナ?ごめんなさい!泣かないで!
そんな・・・泣かせるつもりなかったのに・・・ごめんね。
ちょっと飲み過ぎちゃったかしら・・・暗くなっちゃったわね。」
はっとして顔を上げたフランソワーズの目に泣きそうなルナの顔が飛ぶ込んできてうろたえる。
あわてて否定するが、ルナの瞳からは今にも涙がこぼれそうになっている状態だった
「ごめんなさい、お願い、泣かないでね。あのね?今日の「おめでとう」が嬉しかったのは本当よ。嬉しくて、楽しくて、それになんだかこのワインも美味しくて・・・ そうしたらなんだか逆の事考えちゃって・・・つい過去に浸っちゃっただけだから・・・ なんかみんなにも感染させちゃったみたいね。 折角お祝いしてもらったのに・・・悪かったわ。」
フランソワーズが申し訳なさそうにみんなに視線を送る。
「本当?辛いわけじゃないのね?」
ルナがフランソワーズの顔をのぞき込みながら確かめるように聴いてくる。
「ええ、今はもう大丈夫よ。誕生日は、今は違う・・・もっと大事な意味合いを持つモノになっていると思っているから・・・」
「大事な意味合い?」
「そう、歳を重ねるってことより、この日があったから今自分が存在している・・・そんな自分を確かめる日・・・なの。」
「誕生日・・・生まれたこの日がなければ今の自分は存在しえなかったわけだから・・・」
「存在を証明してくれる日なんだよ。確かに生きているぞって・・・」
「そして1年が無事に過ごせた、無事に生き延びた記念・・・誕生日はみんなが無事に生きているコトを確かめる節目に変化しているんだよな・・・」
「そうだね・・・1年が巡ってきてお互いに存在を確かめ合って・・・また次もこの面子で顔をつきあわせてやるぞってね。」
フランソワーズをフォローするようにメンバー達が口々に今の心境を話し出す。
その口調に先程まで浸っていた暗さは含まれてはいなかった。
「・・・ずいぶんと前向きに変化したんだね?」
静かにやり取りに耳を傾けていたソレイユがほっとしたようにジョーに話しかけてくる。
「そうだよ・・・確かに未来が見えない暗かった時期もあったのよね。
でもね、そんな時期は自分達の中で過去のコトになっているんだよ。
だから、こうしてみんなで話せるんだ。」
「そうさ・・・未だにひきずっていたら、口にもだせやしないぜ。」
ジェットの明るい声がひときわ大きくリビングに響いた。
涙をためていたルナが顔を上げてみんなを見回す。
そこには、過去を過去のこととして昇華し、今を生きているメンバー達の顔がそこにあった。
ルナもソレイユも今は大丈夫なんだと認識してほっとする。
ルナの涙は瞳から溢れる寸前で微笑みに変わっていった。
その感情が素直に二人の表情に表れていて、それを見ていたメンバー達にも笑みがこぼれた。
「フランソワーズ?やっぱり飲み過ぎなんだよ・・・だからこんな話になっちゃったんだ。」
ジョーがフランソワーズの目の前にあったワインのボトルを取り上げながら彼女に話しかける。
「えっ?私、そんなに飲んだかしら?」
自分が持っていたグラスに視線を落としながらフランソワーズが素っ頓狂な声を上げる。
「そうだよ。これ・・・君が一人で飲んじゃったんだよ。しかもこれ・・・2本目・・・」
「え〜っ、一人で?そんなことないと思うけど・・・」
どうもフランソワーズには、自分が目の前のワインのボトルを独り占めしていた自覚は全くないらしい。
「これ・・・ロゼだよね?・・・誰か食事中にロゼ飲んだ人は?」
ジョーはリビングにいるみんなに声をかける。
するとそっと挙手したのが一人だけ・・・
「あっ、アタシ、1杯だけもらったわ。」
遠慮がち声の主はルナだった。
「ルナ?君が?・・・お酒、飲んじゃったの?」
「・・・食前酒よ。パパ・ジョー・・・」
ちょっとバツの悪い表情が浮かんでいたが、反省の色はなかった。
その表情はもういつものルナのモノに戻っていた。
「仕方がないなあ・・・他には?・・・いない?」
「ほらね?フランソワーズ?ほとんど君一人で飲んでいるんだよ。」
ジョーがちょっと呆れたような瞳をフランソワーズにむけた。
・・・まあ、怒ってはいないようだ。ニコニコと笑みがこぼれている。
「あっ・・・そう・・・。まあ♪いいじゃない?アタシの誕生パーティーだったんだから?ねっ?」
先程の話の時からは想像出来ないほどの明るい声で、ジョーに笑いかける。
「・・・はいはい・・・じゃあ、もうこの話はおしまいだね・・・」
「そうだな・・・おめでとう、フランソワーズ」
「そうだね、誕生日おめでとう、フランソワーズ」
「おめでとう!ママン・フラン・・・」
全員の顔に笑顔がもどったいた。
「・・・ありがとう・・・みんな・・・」
1月24日が静かに更けていった。

