「なるほどね・・・それで俺の「オトナ」の身分証明が、必要なわけか?」
3人は、双子がジェットを引っ張るようにお目当ての店へと歩いていた。
「だけじゃないよ。」
「だけじゃない?じゃほかに・・・なんだ?」
「ジェットだけなのよ、まだ出資してくれてないのは♪」
「出資だ???」
「そう。僕達のお小遣いだけじゃさすがに手が出なくてね。」
「お前達、お目当てが、すでにあるのか?」
確信犯を臭わせる双子の言葉に、ジェットは、いささか「やられた」ぎみに、不本意を覚える。
「ええ。随分前から見つけていたんだけど、結構高価でね。かなり悩んだのよ。」
「で、みんなから金集めたのか?」
「まあね。でもね、最初は大人がね・・・。」
「大人だあ?大人が発起人なのか?」
・・・いつもながらルナの話は、ひとつの所に落ち着いていない・・・。
「うーん、発起人とはちょっと違うんだけど。あのね?大人がね、一緒に包丁を研いでいたときに、いつものナイフの刃がほんの少し、刃こぼれしていたのに、気が付いたんだって。」
「それがたまたま、僕達がキッチンでお手伝いしているときに話題になってさ。」
「新しいの・・・どうかなってことに・・・。」
どうやら大人がキッカケをくれたらしい。
「刃こぼれねえ・・・。それでも、アイツ、それを大事に研いでいた・・・って訳か?」
「そう。彼らしいでしょ?」
「まあな。」
ジェットは、キッチンに並んだ対称的な体格の2人の姿を想像して、思わず、吹き出しそうになる。
「そんなことの後に、たまたまこのお店見つけて、プレゼントしようって思ったって訳。」
「きっと新しいのも、もっと大事につかってくれるよね?ってさ♪」
ルナもソレイユも、瞳をキラキラさせて、ジェットに話しかける。
「なるほどね、お前達にしちゃあ、ナイスなプレゼントじゃないか?」
「ジェット?言葉の使い方を誤っているわよ?あたし達だからこそ!でしょ?」
「・・・まあ、そういうことにしてやるよ。」
「もう!ジェットたら!」
ルナが、頬を膨らませて、ジェットをの腕を思い切りどつく。
ルナの力くらいでは、ジェットだってビクともしない。
ジェットは、「はははっ」と楽しそうに、軽く笑ってルナに一言返してやった。
「おいおい・・・俺が行かなきゃ・・・買えねえんだろ?」
「・・・ぐ・・・」
はなはだ不本意ながら、言葉が出ないルナだった。
<珍しい・・・ルナがジェットに突っ込まれてる・・・>
ソレイユは、滅多に見れない構図を、ひとりコッソリと楽しんでいたりする。
途切れることのない会話の間に、一行は、目的の店にたどり着く。
日本風ののれんと、引き戸の入り口。
3人は店の中に向かって、「こんにちは」・・・と、声をかけながら、ちょっと重たい引き戸を開けた。
「今時、自動じゃねえって言うのも珍しいな・・・。」
ジェットが、物珍しそうに、店の中のあちこちに視線を巡らす。
「いらっしゃいませ・・・おや?今日は、ちゃんと保護者同伴なんだね?」
店の奥から出てきたのは、人の良さそうな白髪の老人。
ギルモア博士よりは・・・若そうだ。
「ええ、こんにちは。今日はちゃんと買いに来たわ。よろしくお願いしますね。」
「はいはい、かしこまりましたよ。ちょっとお待ち下さいな。あのナイフ・・・ですな?」
「はい、・・・まだあります・・・よね?」
「勿論・・・アレは特別製ですからね。」
店主が、双子と親しげに会話する光景をみて、ジェットが不思議な表情をする。
「お前達・・・しっかり顔なじみか?」
「うん・・・お店の中まで入ったのは2回目だけどね。」
「あそこに飾ってあったの。だから、見つけて気に入ったってわけよ!」
「・・・あそこ・・・ね。」
ルナが店のショウウインドウを指さす。
日本風の格子のはまった、出窓のようなウインドウには、数本の刃物が飾られていた。
店主は、その中のひとつを取り出すと、3人の前に持ってくる。
「おまちどおさま。さあ、どうぞ。」
「わー、ありがとう。」
「そう!これこれ!」
「へー、これって、日本式かい?」
店主が持ってきてくれたナイフを覗き込む3人。
ジェットは、その形状に目を見張る。
自分が想像したモノとは、若干違ったようだ。
「そうですね。洋式のナイフに対して、これは和式ですね。日本の伝統工芸のひとつなんですよ。」
「コレは、あんたが?」
「いえ、私は取り扱わせて頂いているだけです。コレを作ったのは、若くして伝統工芸士の認定を受けた老舗の鍛冶屋の跡取りさんの作品です。」
「ふーん・・・じゃあ、値も張るってわけか?」
素人の目で見ても、シンプルなデザインの中にも丁寧な作りなのがわかる。
コレは双子の小遣い程度で、手の出るのもじゃないな・・・ジェットは納得した。
「そういうこと。ねえ?ジェット?コレくらい出してくれる?」
ソレイユは、ジェットの目の前に右手を開いて突きだした。
「あん?なんだ?これは?」
「もう!にぶいなあ・・・5000円!出せる?」
「お前なあ・・・俺様をバカにするなよ?そんくらい・・・。」
「大丈夫なの?この前飲み過ぎちゃって、お金足りないって、パパ・ジョーから借りてたでしょ?」
横からルナが、ジェットの財布の中身を透視しそうな視線で眺めながら、声をかける。
「!!!なんで、そんなこと知ってんだよ?」
「あのねえ・・・リビングで、しかもあんな大声で会話してれば・・・聞こえると思うけど?」
双子なりにジェットの財布の中身を心配している・・・つもりらしい・・・。
「・・・クスクスクス・・・」
目の前で始まったルナとジェットのやり取りに、店主が、楽しそうに笑いをかみ殺していた。
「ほらあ!ジェット!ルナ!・・・恥ずかしいから、ここで暴露話は止めようよ・・・。」
「「あっ・・・」」
「・・・で!おい!これ!いくらすんだよ?」
照れ隠しのためか、ちょっと乱暴に店主に尋ねるジェット。
「クスクスクス・・・はい・・・こちらの方々の熱意に負けましてね、4万円でお譲りしようということになっています。」
「4万?・・・それって、無理してねえか?おっさん?」
【もっと高価だろ?これ・・・。】
ジェットの目が店主に詰め寄っていた。・・・知らず知らずのうちに、口が悪くなる。
「ジェット!失礼な!」
「あっ・・・悪い・・・。だってよお・・・これって、もっと値が張りそうだぜ?」
ジェットが、思った通りのことをそのまま口にする。
ジェットの正直な反応を見て、店主も、けっして気を悪くするでもなかったようだ。
「ふふふっ・・・お客様、なかなか見る目がありますね。確かに、そうなのですが、いいんですよ。元々コレは、売れるとは思っていなかったので。」
「は?どういうことだい?」
「持っていただければおわかりかと。」
店主から手渡されて、ジェットはナイフの柄をしっかりと握ってみる。
「あっ、あれっ?・・・これ、見た目より太くないか?」
「はい・・・柄だけではなく、全体に大降りなんです。実は、コレは私がディスプレイ用に見栄えがするようにと、特別に頼んで作ってもらったモノなのです。勿論、実用にも耐えられますが、余程大柄の方の手でないと、無理かと思いましてね。それで、ずっと、購入される方が現れるとは、思っていなかったのですよ。」
店主は、そのナイフを丁寧な手つきでジェットから受け取りながら、その由来を説明する。
「そうか・・・大きいのか!ルナ?ソレイユ?それで気に入ったのか?」
「うん!似合いそうでしょ?ジェロおじさんに!」
「そうだな・・・。お前達、やっぱり見る目あるな。」
「「でしょ?」」
少々高価な「本物」の刃物・・・店主が、安易に「子供」に売りたくなかったのである。
そう・・・コレが、「オトナ」のジェットが必要だった理由。
店主は、熱心な双子の態度から、妙な使い方をする子供達ではなさそうだ・・・と想像はしていたのだが、・・・もしもがあっては遅い・・・との考えから「誰か成人の保護者の方とご一緒にお越しになられたら、お売りしますよ。」と言ってくれたのである。
そして・・・白羽の矢は・・・ジェットにあたった・・・。

「ジェロおじさんのお誕生日にナイフをプレゼントしたいの。」
ジェットを呼びつけておいて、双子はそう、ジェットに理由を話した。
「ジェロニモの誕生日?」
「そう。ジェロおじさんの!今月の25日よ?忘れてた?」
「そうか・・・アイツの誕生日ってクリスマスだったよな・・・。で、プレゼントって、わけか?」
「そうなの・・・ちょっといい物見つけちゃってね。」
「だけど、それって、僕達じゃ買うことができないんだよ。」
「買えない?軍資金が足りねえのか?」
「それもあるけど、それだけじゃないの。「子供」では、買えないのよ。」
「まあね、そんなところ。」
「未成年お断りってか?」
「子供には売れないって、言われちゃってさ。」
「そうなの。よかったわ。連絡ついて。」
「それで、俺様の出番ってわけか?」
この店に着くまでの間に、双子はジェットを呼びつけた理由を、こんな風に説明していた。
ジェロニモへのプレゼント。
<クリスマスも、大事な行事だけど、お誕生日だって、とても大切。
いつも優しいジェロおじさんにプレゼントがしたい・・・。>
そんな思いと、たまたま見かけたナイフ・・・
そんな思いと、たまたま見かけたナイフ・・・、それと、大人の証言・・・。
双子は、コレだ!・・・と、思った。
そして・・・
今年のクリスマスのプレゼントの中に、そっと隠すように用意されたそれは、25日の朝に、恭しく双子からジェロニモに渡されるのだろう。
「見つけたのは、ソレイユ&ルナ。でも、みんなからのプレゼントなの。気に入ってくれると嬉しいけど・・・。」
しおらしく、遠慮がちに差し出したその包みを、ジェロニモが笑顔で受け取るのだろう。
そして、数日後、真新しいナイフを手に、新しい木彫りの作品に取りかかるジェロニモの姿を、研究所の片隅に見かける・・・のかもしれない。
クリスマスが終わると、1年も残りわずか。
そして、また、新たな1年が始まる。
ジェロニモが掘っている木彫りは、新たな年の魔よけ?かも知れません。
