「フラン〜っ?僕、ちょっと出かけてくるね。」
ジョーは、リビングのドアからひょいっと顔だけ出して、朝の一仕事を追えてティーカップ片手に、ソファーで一息いれていたフランソワーズに、声をかけた。
「ジョー?ひとりで?」
「うん。」
「どこにいくの?」
「うーん・・・ちょっと買い物なんだけど・・・。」
「ん・・・わかったわ。いってらっしゃい♪」
「いってきまーす♪」
身体は廊下においたまま、ジョーは軽やかに手を振ると「バタン」・・・ドアを閉めて玄関へ向かった。
店に入っただけで、目の前が、ちかちか、クラクラ・・・。
(今日ばっかりは・・・ひとりでいかなくちゃ、意味ないんだよ・・・。ごめんね、フラン・・・。)
心の中で呟いて、彼は元気よく玄関から飛び出していった。
ジョーが向かった先は、ショッピングモールの一角。
ジュエリーショップ。
オープンな雰囲気で、リーズナブルな品揃え、若い者にとっても、あまり敷居の高くない・・・そんな店。
ジョーのような若造でも足を踏み入れやすい・・・そんな明るい雰囲気の店だった。
それでも、その「一歩」は、彼にとっては一大事業。
店内に、その一歩を踏み入れるだけで、相当の勇気が必要となる。
しかし・・・今日はもう、そんなことにこだわっている余裕なんてなかった。
なにせ・・・今日が「当日」なんだから。
ジョーは、勇気を出して店内にはいる。が、すぐにその思考が、少々甘かった。・・・しばし固まる。
「・・・どれにしよう・・・」
ペンダント、イヤリング&ピアス、ブレスレットにアンクネットにリング・・・。
店に入っただけで、目の前が、ちかちか、クラクラ・・・。
あまりの品数の多さに圧倒・・・お値段もピンからキリまで・・・。
ナンとか体制を取り戻して、思案する。
リングは・・・駄目だ・・・サイズがわからないや。
ピアス?彼女、ピアスホールあったっけ?
それに、そんな関係・・・じゃないよな?・・・まだ。
無難なところって・・・やっぱりペンダントネックレスなのかな?
だけど・・・それにしても・・・ふう・・・どんなのがいいのかな?
ジョーは、ペンダントネックレスのコーナーの前に立つ。
壁一面にディスプレイされているそれや、ショーケースに飾られている色とりどりの石のはまったペンダントトップの数々が、彼の目に迫ってくる。
とりあえず、ジョーはひとつひとつ丁寧に眺めて、フランソワーズのイメージに合うモノを見つけようと努力しする。
悩み倒しているうちに、彼はある石に目をとめる。
「あっ・・・これって・・・」
ひとつの色の石から、目が離せない。
ちょうどその時、すっと自分の隣から手が伸びてきた。
「うわあ〜この蒼い石!綺麗!」
子供の声だ。
思わず、そちらを向くジョー。
彼の隣には10歳くらいの女の子。ジョーがたった今、目にとめた石を指さしていた。
そして、その瞳は・・・その子が見つめている(ジョーが目にとめた)蒼い石より、ほんの少し淡い、綺麗な蒼い瞳をしていた。
「この子の目って・・・フランソワーズと同じ色してる・・・?」
ジョーは、視線をその子が指し示していたペンダントネックレスのトップへと、再び移す。
その石の色は・・・深い蒼、フランソワーズやこの子の瞳を一層濃く深くしたような蒼。
(空の青って言うよりは・・・深海の蒼・・・かな?)
それは、ハートモチーフの土台にはめ込まれている小さな石だった。
トップ自体も、小さめでかわいらしい。
「ふふっ、これ?ラピスラズリっていうのよ。災いから守ってくれる石なのよ。」
店員が、女の子の声をかけている。
「へえーそうなの。お守りなのね?・・・パパ・ジョーも、こんな素敵なのをママン・フランにプレゼントすれば、気が利いてるって、褒めてあげられるのになあ〜。」
「えっ?」
女の子の独り言に、少なからず、驚くジョー。
失礼も忘れて、女の子をまじまじと見つめている。
すると、突然、女の子がジョーの方に振り向いた。
じっとジョーの顔を見つめて、
「ねえ?お兄ちゃんは、コレを誰かにプレゼントしようって思ってたの?」
「えっ?・・・ああ・・・そうだね。なんて綺麗な蒼なんだろうって・・・。」
「そうね?アタシがお薦めしてあげる!きっとフ・・・・−・に、似合うわ。」
「ええっ?・・・今なんて・・・!」
ジョーが尋ね返そうとした、その時、遠くの方からこっちに向かって、声がした。
「ルナーッ!いくよ!」
「あっ、はーいっ!」
自分にかけられた呼び声に返事を返すと、
「じゃあね〜がんばってね?パ・・ジョー♪」
女の子は、バタバタとかけていってしまった。
その先にいたのは、女の子と同じ髪の色をした男の子・・・
(・・・えっ?なんなんだ?一体?それに、あっちのあの子・・・似ている?・・・って、俺?)
しばし呆然としている間に、2人は人混みに紛れて見えなくなってしまった。
(なんだ?今のは・・・?あの子は?・・・誰だ?)
妙なデジャブの襲われて、ジョーは数瞬、自分が何処にいるのか、忘れた。
「あのう・・・お客様?お気に召した品物はありましたでしょうか?」
店員に声をかけられて、やっと意識を引き戻されたジョー。
はっと、我に返ると「それを・・・」・・・ラピスラズリのはまったペンダントネックレスを指さして、
「これを・・・お願いします。これって・・・災いから護ってくれる石なんですね?」
「はい、そうですよ。深い素敵な色でしょ?日本にも古来からあって「瑠璃」っていわれています。プレゼントで、よろしゅうございますか?」
「はい・・・お願いします。」
「かしこまりました。ただ今ご用意いたしますので、少々お待ち下さいませ。」
ラピスラズリ・・・災いから護ってくれる石。
お守り・・・護符・・・
・・・フランソワーズを全ての災いから護りたい・・・
・・・彼女はボクが護る・・・そう、どんなことが起ころうとも・・・。
・・・何時の頃からかな・・・そう決心したのは。
石に頼っちゃ、いけないんだろうけど・・・。
どんな方法を使ってでも、彼女を護りたいしね・・・。
ジョーは、自分の考えにこっそり苦笑を漏らす。
彼女の瞳も綺麗は蒼だって、いつも思っているんだけど、コレはもっともっと蒼いな。
・・・この蒼には、なんか不思議な力が閉じこめられている気がするね。
うん・・・こんな最強の護符は・・・またとないな。
この蒼い石が魔よけの石なら、僕達を災いから護ってくれているのは、あの蒼い二つの瞳なのかも知れないな・・・。
だからこそ・・・僕は君を護りたい・・・のかもしれない。
ジョーは目に焼き付いてしまったラピスラズリの蒼に想いをはせていた。
それにしてもあの子達って・・・一体?・・・こっちも不思議だったな・・・。
でも、感謝しなきゃいかないかな?
あの子がいなかったら、こんなに早くには決まらなかったかも知れないしね。
ねえ?頼むよ。・・・ラピスラズリ・・・だったよね?僕と一緒に彼女を護ってくれよ・・・。
店員から綺麗にラッピングされて小さな紙袋に収まったプレゼントを抱えて、ジョーは、研究所に戻ってきた。
出かけたときと同じくらいの元気で、玄関のドアを開ける。
「ただいま〜フラン?戻ったよ?」