「俺、ちょっと出てくる。」
ジェロニモは、ダイニングのテーブルを拭いていたフランソワーズに声をかける。
時間は、まだお昼少し前。
ブランチが終わって、みんなそれぞれ・・・散っている。
「あら?ひとりで?」
「うむ・・・ちょっと買い物だ。」
「了解〜いってらっしゃい♪」
フランソワーズは、笑顔で彼を送り出した。
ジェロニモが、向かう先は、ホームセンター。
目的は、日曜大工用の白木の板。
用途は、彼お得意の木彫りの腕を生かして、小鉢のカバーを作るため。
イメージはできあがっている。
あとは・・・こっそり作るだけ。
数日前、フランソワーズは、リビングや出窓を飾るために、小花の鉢植えを数点買ってきた。そして、呟いた。
「うーん・・・ポットにカバー・・・欲しいわ。」
通りすがりにきいてしまったのは、ジェロニモ。
彼は、即刻・・・決断した。
今年の彼女へのバースデープレゼント・・・として。
そして、約1時間後・・・ジェロニモはこっそり研究所へと戻ってくると、リビングからは、死角になるウッドデッキの一角に、腰を落ち着けた。
ポカポカポカ・・・彼に降り注ぐのは、柔らかな冬の日差し。
ヒュルルン・・・時々、季節は冬真っ盛りなんだ・・・って、事を思い出させる風が頬をかすめる。
ギコギコギコ・・・あたりにこっそりと響くのは、白木の板を、計った寸法通りに切り離すための鋸の音。
コリコリコリ・・・今度は糸鋸?繊細な柔らかい音。木片がことりと彼に足下に落ちた。
カッカッカッ・・・キュッキュッキュッ・・・ギシッギシッギシッ・・・何本かの彫刻刀や、彼愛用の切り出しナイフを駆使して、繊細な文様が刻まれていく。
彼の大きな手からは、一見想像もつかないようなかわいらしい小花の文様。
あっという間に平らだった板の上に、スノードロップのかわいらしい花が咲きそろった。
トントントン・・・小さなクギが打ち込まれる。
あっちの角度、こっちの角度からよーく眺めて、ゆがみはないかな?合わせ目は?
キコキコキコ・・・切断面には、ヤスリをかけて、ささくれなどがないように。
シュッシュッシュッ・・・文様の上からは、丁寧に紙ヤスリをかける。
フウッ・・・ヤスリで削った細かい粉が、彼の一息で吹き飛ばされた。
ジェロニモは、できばえを満足げに見つめる。
最後にゆっくり、丁寧に、防水のためのニスを塗って・・・作業は全て終了した。
できあがった「それ」は、冬の日差しに照らされてつやつやしていた。
ジュリアン=プリムラ=サクラソウ・・・彼女が買ってきている小鉢の花々。
花言葉には「運命をひらく」とある。
それを思い出して、ジェロニモは、こっそり思う。
彼女は、この花言葉をわかっていて、買ってきていたのだろうか?
色とりどりジュリアン・・・ひとつひとつでも、この真冬に鮮やかに胸を張っている可憐な花だ。色も多種に渡る。
ひとつでも、十分存在感がある。それらが、寄り集まって、更なる華やかさを意味だし、見るモノに与えてくれる。
自分はたまたま・・・彼女のために、これらをまとめる<カバー>を作って、彼女に贈ろうと思った。
箇々のジュリアンをひとつにまとめるためのものして・・・。
(ジュリアンを俺達にたとえるのは・・・少々かわいすぎるが・・・)
ジェロニモは、自然と口元に笑みを浮かべながら、頭の隅っこで考える。
俺達だって、あのジュリアン達だって、元々は、箇々の集まりに過ぎない。
が・・・彼女は俺達=箇々の男どもを、自分達を、繋いでくれている・・・のかも知れない。
そうだな・・・たぶん。
彼女が・・・カバーが・・・優しく箇々を包んでいるのだ・・・。
いや、抱いているのか?
彼女の優しさと慈愛の心で・・・。
ジェロニモは、自分がプレゼントしようとしている「それ」・・・ウッディーカバー・・・に、そうっとジュリアンの小鉢を収める彼女を想像して、こっそり思った。
ちょうどその時、リビングとウッドデッキを繋ぐドアが突然開き、フランソワーズが顔を覗かせた。
そして、ジェロニモは、使った道具を片づけて、コッソリとどこからリビングに戻ろうかな?・・・と、思案しながら、腰を上げた。
(いかん・・・見つかってはまずいな・・・。)
ジェロニモは、「それ」を咄嗟に自分の背後に隠す。
彼の大きな背中に、「それ」は楽々隠せた。
「やっぱり!ジェロニモ?何時のまに戻っていたの?そんなところにいたのね?気が付かなかったわ。」
(・・・コッソリやらないと・・・意味ない・・・)
ジェロニモは心の中で言い訳する。
「帰っていたんだったら、ちゃんと挨拶してね?」
フランソワーズが、ジェロニモを見上げながら、少し恐い目で睨む。
(・・・怒らせたか?・・・)
ジェロニモが、困惑気味に眉を寄せた。
「気がつかなかったから、貴方をお茶に呼ぶのを忘れてしまったじゃない?」
どうやら、怒っているのとは、少々違うようだ。
ほっとした表情を見せるジェロニモ。
「・・・あっ・・・すまない・・・これから、気をつけよう。」
(・・・怒られているわけではないようだが・・・とりあえず謝っておこう・・・)
「ふふふっ。そんなわけで、貴方の分のクッキー、食べられちゃったわよ?お茶だけでもいかが?」
にっこりと見上げるフランソワーズ。
(もう・・・睨んでない。)
「あむ・・・もらおうか・・・。」
「ええ、わかったわ。・・・あっ、ジェロニモ?」
「ん?」
「ああ・・・だたいま・・・フランソワーズ」
「おかえりなさい!」
・・・ああ・・・やはり、彼女は包み込んでくれているな・・・ジェロニモは心の中でもう一度思った。