健康/癒し/脳-3


目次

西丸震哉 『体内崩壊』 法研 (2000)★★★
西丸震哉 『こんなものを食べていたのか』 青春出版社 (2000)★★★

日本バーチャルリアリティ学会・VR心理学研究委員会 『だまされる脳』 講談社ブルーバックス (2006) ★★

野村進 『脳を知りたい!』 新潮社 (2001)★★★★★

長谷川淳史 『腰痛は<怒り>である』 春秋社 (2000)★★★★★

林晋哉/林裕之 『歯医者の言いなりになるな!』 角川oneテーマ21 (2010) ★★★★

春山茂雄 『脳内革命2』 サンマーク出版 (1996)

久恒辰博 『1週間で脳から生まれ変わる技術』 扶桑社 (2011) ★★★★

久永陽介 『骨格3分ストレッチ』 幻冬舎 (2006)★★★★

福岡伸一 『動的平衡』 木楽舎 (2009)★★★★★
福岡伸一 『生物と無生物のあいだ』 講談社現代新書 (2007)★★★★★

藤田紘一郎 『日本人の清潔がアブナイ!』 小学館 (2000)★★★★★
藤田絋一郎 『原始人健康学』 新潮選書 (1997) 
藤田絋一郎 『空飛ぶ寄生虫』 講談社 (1996) 

船井幸雄 若山敏弘 『本物の力』 徳間書店 (1998)
船井幸雄編 『船井幸雄と「本物人」たちPart2』共生社会と企業経営 ビジネス社 (1996)
船井幸雄編 『早起きは自分を賢くする!』 三笠書房 (1996)
船井幸雄、七田眞 『百匹目の猿現象は右脳から』KKベストセラーズ (1996)

古井倫士 『頭痛の話』 中公新書 (2005) ★★

星野泰三 『統合医療でガンを防ぐ、ガンを治す』 角川oneテーマ21(2005)★★★★

前野隆司 『脳はなぜ「心」を作ったのか』 筑摩書房 (2004)★★★★★

松井浩 『高岡英夫は語る すべてはゆるむこと』 総合法令 (1999)

松崎五三男 『眼筋を伸ばせば視力は回復する!』 成美文庫 (2006)★★★★
松崎五三男 『2週間で目が驚くほど良くなる本』 三笠書房 (2003)★★★★★

松澤大樹 『こころと脳の革命』 徳間書店 (1999)
松澤大樹 『「こころ」のコアがわかった!』同朋舎 (1998)

丸尾敏夫 『老眼と正しくつきあう』 岩波アクティブ新書 (2002)★★★

三浦敬三 『98歳、 元気の秘密』 祥伝社 (2002)★★★★★

宮崎雅敬 『万病の原因はウイルスだった』 KKベストセラーズ (1996)

宮本省三 『脳のなかの身体』 講談社現代新書 (2008) ★★★★

村津和正 『歯は臓器だった』 KOS九州口腔健康科学センター (2000)★★★★★

村山正治 『フォーカシング・セミナー』 福村出版 (1991)

茂木健一郎 『化粧する脳』 集英社新書 (2009) ★★
茂木健一郎 『「脳」整理法』 ちくま新書 (2005)★★★
茂木健一郎 『意識とはなにか』 ちくま新書 (2003)★★★★★

森田豊 『ねぎを首に巻くと風邪が治るか?』 角川SSC新書 (2010) ★★★

森眞由美 『すべてで一つ』 PHP研究所 (1999)

矢部武 『携帯電磁波の人体影響』 集英社新書 (2010) ★★★★

山形謙二 『人間らしく死ぬということ』 海竜社 (1996)

山川健一 『ヒーリング・ハイ』 早川書房 (1995)

山口創 『皮膚感覚の不思議』 講談社ブルーバックス (2006) ★★★★★

山田規畝子 『壊れた脳 生存する知』 講談社 (2004)★★★★★

山本光輝 『いろは呼吸書法』 平凡社 (2003)★★★★★

矢山利彦 『気でひきだせ、無限の治癒力』 太郎次郎社 (1995)

養老孟司 『バカの壁』 新潮新書 (2003)★★★

横井則彦 『先端技術が応える!中高年の目の悩み』 集英社新書 (2011) ★★★★

リラ研 自然音楽研究所編著 『癒しの自然音楽』 でくのぼう出版 (1997)

和田秀樹 『30代から始める頭のいい勉強術』 三笠書房 (2002)★★★★
和田秀樹・テリー伊藤 『病院のカラクリ、医者のホンネ』 アスキー (2001)★★★

 



要約・書評


『だまされる脳』 日本バーチャルリアリティ学会・VR心理学研究委員会 講談社ブルーバックス (2006)
日本バーチャルリアリティ学会は、バーチャルリアリティ(VR)に関連する技術と文化に対する貢献を目的として、1996年 に設立。さらにこの学会の中に、VR技術を積極的に活用して、人間の知覚やそこから発生する心理現象のメカニズムを解明 したり、VR特有の心理現象を研究するために、2003年、VR心理学研究委員会がVR学会の研究委員会のひとつとして立ち上げられた。

二次元の網膜像が脳でどのようにして三次元として感じられるようになるかという仕組みの説明は面白かったが、全体的に はいまひとつ。文章もいまひとつ硬い。

・ 網膜に映った運動情報が外の世界にある物や人の運動なのか、それとも自分自身の移動によるのかは、曖昧さがある問題だ。 それどころか、完全に正確に間違いなくこの問題を解くことは絶対に不可能だ。

・ 私たちの脳は、とても限られた情報から「現実世界」とは違う「知覚世界」を作り上げている。

・ 知覚の処理においては、脳はなにか一つに答えを決めないと世界が見えない、わからないことになってしまう。そこで、足 りない情報を追加して答えを決めている。たとえば、「物体の奥行きはなめらかにしか変化しない」とか「うごいている物体は、 ぐにゃぐにゃ変形しない」などという仮定を脳が自然制約条件として利用している。

・ 視野の大きさは、自己運動知覚のためのもっとも重要な要因であり、視角20度以上の広さが必要といわれている。つまり、 脳は「広い面積を占める運動」を静止した環境から生じていると仮定し、逆に自分の身体のほうが動いていると解釈している。

・ お祭りの露店で売っているお面を裏側から見た顔は凹んだ顔に見える。ところが下から光を当てると、凹んだところが反対 に膨らみ、きちんとした顔のように見える。脳は無意識の仮定を持ち込んでいる。光源は上にあると仮定するからこそ、凹んだ 顔に下から光を当てると普通の顔に見える。

・ 網膜では二次元にしか投影されていないので、三次元の形が見えるということは、頭の中で次元を一つ増やしている。その ため、私達は「きっと世界はこうなっているはずだ」といった仮定を前もってしている。ベイズの定理とは、ある物体が世の中に 存在する確率(事前確率)と、その物体ならこのように網膜に像を映すという確率(条件つき確率)を掛け算したものと、このよう に見えているなら物体の形がこうであるという確率(事後確率)とが比例関係にあることをいう

。私達は網膜像が与えられて、それに対して世の中の物体の三次元構造を推測しているわけだから、日常、事後確率を求めている のだ。そして、この事後確率が最も大きくなる場合の物体の形を、「そこに存在する物の形」として採用していると考えられる。

ベイズの定理より、網膜像から三次元構造を推測するのと事前確率と条件つき確率の掛け算をやることは同等だから、実際には、 物理的事実から得られる事前確率と条件つき確率の掛け算に相当することを瞬時的にやっていると思われる。

・ 生まれてからずっと目が見えない人が、手術をして目が見えるようになったとき、立方体と球を触らずに識別できるかどう かという問題を、17世紀にモリヌークスという人が、経験主義の有名な学者であったジョン・ロックに宛てた手紙の中で提出し ている。

この問題については数多くの研究がなされているが、どうやら視力がある程度戻ったとしても、形の識別は難しいようだ。逆に いえば、触ることとの対応が学習されなければ、視角単独では形の識別ができないことを意味している。すなわち、三次元構 造と網膜像の対応には、触覚が重要な役目を担うことになる。

・ 被験者がVRを使って空間の移動をシミュレートした場合に、経路の周囲に配置した物体の多さ(密度)によって、被験者が推 定した距離、時間、速度がどのように変化するかを実験した。全体的に密度が高いほど距離を長く感じている。時間は密度が高 いほど遅く感じ、速度は密度が高いほど速く感じている。

・ 移動距離が短いときには網膜に投影される情報からの遠近感が重要であり、密度が高いほど遠近感が強調され、距離を過大 視していると考えられる。したがって、時間や速度の推定には影響を受けない。一方、移動距離が長くなるにしたがって、移動 により得られる速度や時間の情報がはっきりとし、距離=時間X速度の関係で判断する。

・ 脳における視覚情報処理の最初の地点(V1)は後頭部にあり、ここから各種の情報処理が本格的にスタートする。V1は「見え ている」という意識状態を作るのに必要と考えられている。たとえば、盲視という現象がある。脳梗塞などでV1が機能しなくな った場合は「見えている」という意識は持てない。

それにもかかわらず、その失われたはずの視野に提示された光点の方向を指差すことができる場合がある。本人はあくまでも「見 えない」のに課題を行うことができる。V1が活動しなければ、脳はたしかに情報を得ていても、視覚体験をもてないようだ。




『腰痛は<怒り>である』 長谷川淳史 春秋社 (2000)
1960年生まれ。北海道旭川市在住。長生学園卒。ガラップ治療院院長。現在は往診治療専門。筋骨格系疾患及び慢性疼痛に関する研究のかたわら、講演活動も行っている。

サーノ博士の「TMS理論」をわかりやすく紹介。腰痛の原因は姿勢、骨格異常等すべて違う、真の原因は怒りであるというメッセージにびっくりさせられたが、読むと論理的で納得もでき、目から鱗である。ぜひお薦め。

・ 厚生省の1999年度「国民生活基礎調査」によると、日本人が自覚している症状の第一位が腰痛、第二位が肩こり、第三位が関節痛。第四位が咳、第五位が倦怠感。つまり、日本人が最も多く訴える症状は、筋骨格系の痛み(2500万人)。それも年々増えつづけている。

・ 腰痛を訴えるのは30,40代が最も多く、その後は歳をとるにつれて徐々に減少している。つまり老化現象と腰痛は関係ない。

・ 医学界は以下の理由で腰痛に本気で取り組んでいない。
1. 腰痛は命にかかわらない病気だから。
2. 腰痛の本当の原因が解明されていないから。
3. 効果的な治療法がないから。
4. 腰痛は慢性化したり再発を繰り返すから。

・ 腰痛患者の85%は二週間以内に治る。

・ 腰の骨の一番下の変形(骨棘形成こっきょくけいせい)は20代から始まり、40代で50%、70代になると90%に認められる。ところが腰痛は40代をピークに減少している。これをみても、背骨の変形と腰痛は関係ないといえる。

・ 椎間板ヘルニアの症状は、手術を選択しようが理学療法を選択しようが、四年後の結果は同じ。

・ 腰痛研究で世界的に有名なアルフ・ナチェムソンは、「大部分の腰下肢痛の原因は判明していないので、患者の98%は保存的(非外科的)に治療するべきだ」と言っている。

・ 恐怖心をあおるような診断名、根拠のない誤った原因論、不適切なアドバイスのせいで、腰痛は治りにくくなるだけでなく、何度も再発するようになってしまう。

・ 悪性腫瘍が原因の腰痛は全体の1%以下にすぎない。しかも、その80%は50歳以上。だから、50歳以上の腰痛患者は、必ずレントゲン写真を撮るべきだろう。

・ 腰痛が起きて安静に横になっていると、かえって回復を遅らせる。できるだけ早く身体を動かし始めたほうがいい。

・ 腰痛に使われる貼り薬や塗り薬には、主にNSAIDが配合されていて(胃炎、胃潰瘍といった胃腸障害、頭痛、耳鳴り、めまいなどの副作用あり)、爽快感を得るためにメントールが加えられているものもある。NASAIDの経口投与より優れていない。根本原因を治療していることにはならない。

・ 痛みを起こしていると思われる神経の近くにステロイド剤、局所麻酔、オピオイド剤などを注射する「硬膜外ブロック」が一般的に行われているが、短期的効果は認められているが、長期的効果は認められていない。
主な副作用には頭痛や発熱があり、重大なものとしては細菌感染による硬膜外膿瘍、軽い意識障害を伴う呼吸機能低下が報告されている。
A・H・ホワイトの調査によると、全体の25%は不適切な位置に注射されているらしい。

・ 牽引が腰痛に有効だという証拠は出ていない。しかも骨盤牽引は筋力低下や骨萎縮、下肢の血栓性静脈炎などの副作用があり、逆さ吊り牽引では、眼球内圧の亢進や血圧が高くなる危険がある。本気で牽引が効くと考えている専門家はほとんどいない。

・ コルセットやサポートベルトが腰痛に有効だという証拠はない。

・ 腰痛の治療には、理学療法と呼ばれる「温熱療法」「冷却療法」「ジアテルミー」「マッサージ」「超音波」「低出力レーザー」などがよく使われる。これらの治療法はいずれも有効性が確認されていない。ただ、急性腰痛には効果があるようにみえる報告もある。

・ 腰痛運動のような運動療法も効果がない。それよりも、徐々に日常生活に復帰するような活動が一番効果的。

・ 腰痛発症から二週間以内の患者には、カイロプラクティックの効果は認められた。しかし二週間以上痛みが続いている患者については、腰痛の改善は認められなかった。

・ アメリカの健康管理政策・研究局がまとめた「成人の急性腰痛治療ガイドライン」の要旨は以下のとおり。

1. 急性腰痛患者の最初の評価では、「危険信号」(重大な脊柱疾患や脊柱以外の病変を示す徴候)の発見に焦点をあてる。

2. 「危険信号」がない場合、腰痛が発症してから最初の四週間は、画像検査やその他の精密検査を行う意味はない。

3. 症状の改善は、市販薬(医師の処方箋によらない)や脊椎マニュピレーションによって最も安全に達成される。

4. 急性期にはある程度の活動制限は必要かもしれないが、四日以上の安静臥床は役立たないばかりか、かえって患者の筋力低下を招く可能性がある。

5. 負荷の少ないエアロビック(有酸素)運動は、発症後二週間以内から安全にはじめることができ、筋力低下の予防に役立つ。体幹筋のコンディショニング運動は、少なくとも二週間待った後にはじめるべきである。

6. 急性腰痛から回復した患者は、できるだけ早く仕事や通常の日常活動に戻ることが望ましい。

7. 腰痛症状が持続する場合は、さらに詳しい検査が必要である。

8. 坐骨神経痛を伴う患者は回復に時間がかかる可能性があるが、精密検査を先に延ばしても安全である。

9. 腰痛発症後三ヶ月以内では、重篤な脊柱疾患、耐えられないほどの激しい坐骨神経痛、画像診断によって確認できる神経根障害の生理学的所見がある患者にかぎり、手術の効果が期待できる。

10. 手術を行うか否かにかかわらず、坐骨神経痛患者の80%は最終的に回復する。

11. 予後については、非身体的要因(精神的、社会・経済的問題)を考慮に入れるべきである。

・ 上記ガイドラインは「急性腰痛」に関するものであって、「慢性腰痛」には言及していない、ということを忘れないように。

・ サーノ博士の腰痛治療法「TMS」とは、「Tension Myositis Syndrome」の頭文字からとった略称で、「緊張性筋炎症候群」という意味。ただし、筋肉に炎症があるという意味ではなく、筋肉内に何らかの変化があるという意味でしかない。

・ TMS理論を開発したジョン・E・サーノ博士は、TMSの定義を「痛みを伴う筋肉の生理的変化」としている。

・ 肩こりと呼ばれている首や肩、背中の痛みをはじめ、腰痛、臀部通、手足の痛みや痺れ、さらには四十肩、五十肩と呼ばれる肩関節の痛み、手首、足首、肘、膝などの関節痛まで、すべては共通した原因によるひとつの症候群だということ。

・ サーノ博士は現在、ニューヨーク大学医学部臨床リハビリテーション医学の教授だが、世界的にも有名なハワード・ラスク・リハビリテーション研究所のスタッフ・ドクターでもある。
コロンビア大学医学部を卒業した後、コロンビア・プレスビテリアン小児病院の小児科でレジデンシー・トレーニング(専門医学実習=インターン終了後、さらに病院内に宿泊して臨床医学を学ぶこと)を受けている。
そして、ニューヨーク大学医療センターで特別研究員としてリハビリテーション医学を修め、1965年にハワード・ラスク・リハビリテーション研究所の外来部長に就任している。

・ サーノ博士は従来の診断学や治療学への不信感を募らせながらも、患者を詳しく診察しているうちに、彼らの痛みは骨や軟骨から生じているのではなく、筋肉に生じていることに気づいた。これが「緊張性筋炎症候群」に「筋炎」という語を使った根拠になっている。
やがて、博士は興味深い事実を発見する。患者の病歴を調べ直しているとき、筋骨格系疾患に苦しむ患者の多くは、緊張性頭痛、片頭痛、胸やけ、胃酸過多、食道裂孔ヘルニア、胃十二指腸潰瘍、大腸炎、過敏性大腸症候群、痙攣性大腸、花粉症、喘息、前立腺炎、湿疹、乾癬、蕁麻疹、ニキビ、めまい、耳鳴り、頻尿、反復性膀胱炎、易感染症といった健康上の問題を経験していることに気づいた。
実に、約九割の患者がこれらの病歴を持っていた。これらはすべて、「心身症」と呼ばれる病態。つまり、筋骨格系疾患を抱える患者の大部分が、心理的緊張によって生じる病態を経験していた。
そこでサーノ博士は、もしかすると患者が訴えている痛みの原因も、心の緊張にあったのではないかと考えた。緊張性筋炎症候群の「緊張性」は、この心の緊張から名付けられた。

・ サーノ博士は、痛みの原因が心にあることを認めた患者は、それを否定した患者に比べると、より早く改善していることにも気づいた。

・ 腰痛の特効薬とは、医学界に流布している「呪い」を解くための正しい情報である。痛みの原因が身体にあるという考え方は、すっぱりと切り捨てなければならない。
老化現象、外傷、運動不足、不良姿勢、先天的異常などという身体の構造異常は、腰下肢痛とは一切関係ない。こうした誤った情報を信じているかぎり、不安や恐怖によって痛みが強くなるだけでなく、治癒が遅れたり、何度でも再発する可能性が高くなる。

・ 1965年「ゲート・コントロール学説」が発表された。それは背骨の中を通る脊髄にはあらゆる感覚の伝達を調節するゲート(関門)があり、触覚・圧覚・振動覚などの無害な感覚は、ゲートを閉じることで痛みとして脳に伝わらないようにする一方、有害な侵害刺激は、ゲートを開くことで痛みを脳に伝えているという説。このように痛覚は、ゲートの開閉によって感じ方や強さがコントロールされている。

・ ゲート・コントロール学説の優れているところは、ゲートの開閉は中枢からもコントロールを受けているとする点。末梢からのインパルスがそのままストレートに大脳に伝達されるだけでなく、意識や注意の集中、過去の記憶や条件付け、情動などによってもゲートの調節が行われているという。この理論は今日最も広く世界に認められている。

・ ゲート・コントロール学説にしたがうなら、痛みとは危険を探知するための原始的感覚であると同時に、当人の心理状態の影響を何がしか受けたものであるといえる。言い換えるなら、痛みという現象は、身体的要因と心理社会的要因という二つの要因が混在した精神身体領域の問題であり、そのことをまず理解する必要がある。

・ サーノ博士は、「筋骨格系疾患は胃・十二指腸潰瘍の身代わりとなって増えている」という。胃・十二指腸潰瘍はストレスが原因だということが広く知れわたったために減少したけれども、筋骨格系疾患は誰もストレスと結び付けて考えないので増加する一方だ、というわけ。

・ 自律神経は全身の血流量を調節しているが、実は、TMSによる痛みの直接的原因は、血流不足によって起こる酸素欠乏なのだ。

・ ストレスによって自律神経の交感神経が興奮し、全身適応症候群(闘争か逃走反応)が生じるが、この際、副腎髄質から大量のアドレナリンとノルアドレナリンというホルモンが分泌される。
これらのホルモンには、心拍数や血圧を上昇させる作用だけでなく、強力な血管収縮作用がある。筋肉以外に血液を供給しなくてよいのなら、すばやく筋肉に血液を供給するにはこの血管収縮作用が有効に働く。というのも、血管が収縮すると血流速度が増すから。
ところが、ストレスが長引いて「疲憊期ひはいき」の段階になると、いつまでも他の器官を犠牲にするわけにはいかなくなってくる。生命を維持するために必要な器官にも血液を供給する必要が出てくる。
だが、依然として慢性のストレスが加わっている場合、アドレナリンとノルアドレナリンの分泌はさらに続き、血管収縮による弊害が出てくる。これが血流不足による酸素欠乏というわけ。

・ 慢性的なストレスによって筋肉に酸素欠乏が起こる。これを虚血状態という。そこでは三つの変化がおきている。

1. 化学的老廃物の蓄積。この老廃物は主に乳酸という疲労物質だが、通常は血液循環によって洗い流され、蓄積されるということはない。ところが血管収縮に伴って血流量が減少すると、筋肉内に発痛物質でもある乳酸が蓄積し、筋肉痛を引き起こしてしまう。

2. 筋肉の痙攣。血流量の減少によって酸素欠乏がより深刻になると、筋肉が痙攣し始める。治るまでに数日はかかる。

3. 神経障害。神経は筋肉より繊細にできていて、ほんのわずかな酸素欠乏でも症状を出して危険を知らせる。神経を養っている血流量の減少は、上腕神経叢(腕の神経)や坐骨神経のような末梢神経の酸素欠乏を引き起こす。一般的な酸素濃度の低下による症状は痛みだが、さらに酸素濃度が低下した場合、さまざまな種類の知覚異常や筋力低下をきたすことがある。

・ TMSが標的とする組織は、「筋肉」「神経」「腱・靭帯」の三つ。

・ まず筋肉の痛みは、四肢の筋肉というよりも、いわゆる「姿勢筋」と呼ばれる部位に現れやすい傾向がある。姿勢筋とは、首の後ろ側、肩の上部、背中や腰、そして臀部の筋肉を含み、姿勢を保つとともに腕の運動を助ける働きがある。
興味深いのは、ある特定の筋肉に痛みが生じるだけでなく、かなり広範囲にわたって痛みを感じたり、複数の筋肉が痛いと訴える患者が多いこと。しかもその痛みは、日によって強さが変わったり、移動することさえある。

・ 第二に神経痛。最も多くみられるのは、太ももの後からふくらはぎにかけて、あるいは脛にかけての痛みや痺れ。これを坐骨神経痛という。次に多いのは腕から手にかけての痛みや痺れが生じる上腕神経痛。

・ 第三に関節痛や腱痛。腱は筋肉と骨との付着部にある組織で、靭帯は骨と骨とを連結させている組織。

・ 緊張性筋炎症候群の「緊張」は、無意識下で生み出され、ほとんど無意識の外に出ることのない感情を指す。その多くは、不快、苦痛、決まり悪さを伴う感情で、本人にも社会にも受け入れられず抑圧される。
抑圧が起きるのは、これらの感情を味わいたくない、これらの感情を抱いていることを周りに知られたくないと心が思うからだ。
自覚できるのであれば真正面から向き合おうとするのだろうが、いかんせん、人間の心は無意識下の感情を自覚するようにはできていない。またたくまに、それも自動的に、これらの感情を抑圧してしまう。

・ 不快な感情にどう対処すればいいのだろう?答えは簡単。意識の目を他に向けさせればいい。そしてそのためには、痛み以上にふさわしいものはない。身体に痛みがあると、不安や恐怖が意識の大部分を占め、とりわけ身体が動かせないともなれば、本人の注意を完璧に身体にひきつけておくことができる。実は、これがTMSで起きていること。

・ TMSは不快な感情から注意をそらすために存在する。それは抑圧を助けるための防衛機構のひつ。では逆に、不快な感情に目を向けるとどうなるだろうか?すると、注意をひきつけることが目的だった痛みは、もはや必要がなくなって消え去るしかない。
つまり防衛機構が解除されるというわけ。こうした情報を患者に提供することがTMS治療プログラムであり、「認識療法」と呼ばれる由縁。

・ 我々が抑圧している感情は怒り。我々は怒りという勘定を忌み嫌う。なぜなら、子どもの頃から怒りを表現することは悪いことだと教育されてきたから。社会に適応するためにはぜひ必要なことだった。こうして我々は怒りを抑制するようになった。
ところが、抑制することを長く続けているうちに、いつのまにか怒りを抑えることが習い性となり、無意識的にそうするまでになってしまった。怒りが生じたことにも気づかず、自動的に抑え込んでしまう。これが「抑圧」だ。

・ TMSの原因となる無意識下に抑圧された怒りは、次の三種類に大別できる。
1. 日常生活におけるプレッシャーによる怒り
2. 幼少時に受けたトラウマによる怒り
3. 欲求を満たすために自ら課したプレッシャーによる怒り

・ 幼少時に受けたトラウマによる怒り:粗野で横暴な父親から叩かれたり殴られたりの折檻を受け、心気的傾向をもつ母親優位の家庭で育ち、しかも明らかな形で両親との分離体験がある。そしてこのときに感じた孤独感や不安感は、親への愛憎半ばする感情を伴った攻撃性へと発達し、潜在化してしまっている。

・ 欲求を満たすために自ら課したプレッシャーによる怒り:タイプT性格が内的葛藤を引き起こし、気づかないうちに激しい怒りを生み出している。

・ タイプT性格は、次の六つの根本的欲求に起因している。

1. 完璧でありたい:“人の上に立ちたい”“業績を上げたい”“成功したい”という欲求が強い、高い理想と道徳的規範を持つ、自己批判的で他人の批判に過敏

2. 人に好かれたい:“認められたい”“愛されたい”“賞賛されたい”“尊敬されたい”という欲求が強い、人を喜ばせたい、世間からは「いい奴」、よい母親、よい父親と思われたい衝動がある

3. 見捨てられたくない:たとえ歳をたったり独りになったとしても、見捨てられたくないという無意識的願望がある

4. 満足したい:食べ物、飲み物、喫煙、セックス、パーティ、娯楽などに満足を求める

5. 強靭な肉体でありたい:たくましい身体、丈夫な身体、セクシーな身体を求める

6. 死にたくない:死は避けられないという事実に対して無意識的に憤慨している

・ 怒りは蓄積されていくうちに、やがて臨界点に達する。もう抑圧しているだけでは、怒りの存在を隠し通すことは不可能になる。そこでTMSの登場となる。強烈な痛みを起こすことで、強引に焦点を怒りから背けさせる。したがって、抑圧された怒りが強いほど、TMSは重症になる。

・ 抑圧せずに怒りを消す方法はないが、ただ怒りと仲良くなる。身体の症状のことは気にせず、まずは、自分の中に怒りがあることを認めよう。そのためには心の動きに注意を向ける習慣を身につけること。自分の心の中の感情を、判断することなく、ありのままに受け入れてみる。

・ そもそも怒りとは、ある状況に対する情動反応のひとつでしかなく、その反応の一定の文化的枠組みの中で「怒り」と名付けられているにすぎない。情動そのものは基本的に善でも悪でもない。それにもかかわらず、怒りを嫌悪し、みえないふりをしたり、忘れようとしたり、考えまいとするからこそ、いつのまにか怒りが蓄積されてしまう。

・ 夏樹静子さんが『椅子がこわい』(文春文庫)で、三年間に及ぶ壮絶なまでの腰痛闘病記を書いている。

・ ただ単にTMSに関する情報を与えても、患者がそれを受け入れなければ何の効果もない。サーノ博士は、「意識レベルの理解だけでは不十分で、無意識レベルでしっかり理解することが必要であり、それには4-6週間を要する」と述べている。

・ TMS治療プログラム、80-85%の患者が数週間のうちに症状をほぼ消失させている。

・ TMSを解決させるコツは、痛みを感じたとき、怒りとその理由について考えることに尽きる。

・ 頭の中だけで考えるのではなく、ノートに書き出したほうが能率的だし、問題がより一層明確になる。その際、次の二つに分類してみる。自分の力で変えられることと、自分の力では変えられないことの二つ。

・ 自分の力で変えられることは、勇気をもって、今すぐ行動に移すこと。その問題を解決するためにできることは何でもやってみるか、あるいは、結果はともかく解決する努力だけでもする。

・ 自分の力で変えられないことについては、その事実を受け入れるだけでいい。自分はこの問題に悩んでいる、腹を立てている、憤慨しているということを、どんな価値判断も加えずに認めて受け入れる。自分を責める必要はないし、TMSを完治させるためには、問題を取り除く必要もない。問題の存在、怒りの存在にただ気づいているだけでいい。

・ 社会からのストレスを減らす方法としては、「ニュース断食」がある。一方的に押し寄せてくる新聞・テレビ・ラジオ等の情報を、一週間ほどシャット・アウトする。

・ 「瞑想」や「熟考」もお薦めである。

・ TMS治療プログラムのプロセス

1. 理学検査や画像検査によって、まず危険な疾患の有無を確かめる。そこで問題のないことが確認されると、TMSに関する最初の講義が診察室で始まる。

2. 講義討論会。第一回目のテーマは「TMSの生理学と診断学」、二回目は「TMSの心理学と治療学」

3. 患者に「毎日に注意」と呼ばれる12項目のリストが手渡される。そして、静かにリラックスできる時間帯を選び、少なくとも一日一回、15分ほどかけて、「毎日の注意」でTMS理論を復習するように指示される。

4. 二回の講義討論会に出席して4-6週間経過しても、なお激しい痛みが続いている患者は、毎週開かれる「グループ・ミーティング」に出席するように勧められる。一度は改善したものの、その後再発した患者も対象となる。

・ 「毎日の注意」の内容は以下のとおり。

1. 痛みは構造異常ではなくTMSのせいで起こる

2. 痛みの直接原因は軽い酸素欠乏である

3. TMSは抑圧された感情が引き起こす無害な状態である

4. 主犯たる感情は抑圧された怒りである

5. TMSは感情から注意をそらすためにだけ存在する

6. 背中も腰も正常なので何も恐れることはない

7. それゆえ身体を動かすことは危険ではない

8. それゆえ元のように普通に身体を動かすべきである

9. 痛みを気に病んだり怯えたりしない

10. 注意を痛みから感情の問題に移す

11. 自分を管理するのは無意識ではなく自分自身である

12. 常に身体ではなく心に注目して考えなければならない

・ もし急に腰が痛くなったら、以下の事をするように。

1. 尿がちゃんと出るか、あるいは便失禁はないかを確認する。もし尿が出なかったり、便失禁がある場合は、ただちに整形外科か外科を受診すること。

2. 1の症状がない場合には、痛みのことはとりあえず置いておき、心に注意を向けて怒りを探し出すこと。最近の出来事を振り返り、ストレスになったことはないか、緊張したことはないか、腹を立てたことはないかをじっくり考えてみる。

3. それでも怒りが見つからなければ、「ストレス・リスト」を作ってみる。同時に、不安や恐怖を抱かないことも大切。腰痛患者の85%は二週間以内に治ることを思い出す。また、痛みを叱り飛ばし、「毎日の注意」を読んだり、書いたりする。

4. 痛みが強くてそんな余裕のないときは、市販の鎮痛剤を服用するのもいいだろう。そして安静にすることなく、できるだけ普段通りの生活をする。

5. 普段通りに動いているうちに痛みが軽くなるようなら、そのまま様子をみる。ただし、心の中の怒りを探し出す作業は忘れずに。もし痛みに変化がないか、あるいは強くなるようなら、正規の医師の診察を受けて危険な疾患の可能性がないか調べてもらう。

・ TMSは心から身体に注意を向けさせようとする無意識のトリックである。そのトリックが見破られそうになると、無意識はまた違った方法でトリックを仕掛けてくることがある。腰痛が治りかけてくると今度は首が痛くなったり、関節が痛くなったりすることもある。
こうした患部の異動は、筋骨格系だけではなく、自律神経が支配している器官であればどこにでも起こりえる。それは頭痛であったり、胃腸障害であったり、時には皮膚の症状となって現れるかもしれない。しかしこうした心身症も、TMS治療プログラムで解決することが可能。

・ TMSは抑圧された怒りが原因であって、簡単に自覚できるような怒りとは何ひとつ関係ない。

・ TMS理論を導入するにあたって一番気をつけなければならないのは、患者に病気の責任を押し付けてはならないということ。

・ TMSにおいては、心が大きな役割を果たしている。それだけに私たちは、より慎重でなければならない。侮辱された、精神的暴行を受けたと患者に感じさせないよう、また患者が自分を責めないよう、細心の注意を払ってサポートする必要がある。場合によってはこれまで以上に怒りを抑圧しようとしたり、時には抑うつ状態に陥る危険性があるから。

・ 筋骨格系の痛みを持つ患者の95%は、TMS治療プログラムで解決する。残りの5%は心理療法が必要となるかもしれない。

・ サーノ博士の著書『サーノ博士のヒーリング・バックペイン』春秋社



『歯医者の言いなりになるな!』 林晋哉/林裕之 角川oneテーマ21 (2010) 
はやし・しんや:歯科医。1962年東京生まれ。日本大学歯学部卒業後、勤務医を経て、歯科医療研究センターを併設した林歯科を開業。

はやし・ひろゆき:歯科技工士。1956年東京生まれ。日本歯科大学付属歯科専門学校卒業後、ラボ勤務を経て、歯科医療研究センターを開設。

林歯科 http://www.exajp.com/hayashi/

『正しい歯科治療とインプラントの危険性』が副題。

嚙むということの大切さ、嚙み合わせの重要性、インプラントの危険性が分かりやすく解説。お勧め。

・ 口と肛門は細菌数がほぼ一緒で、ばい菌の侵入に対して寛容にできている。だから痔の手術と口の手術はオープンスペースで行っても大丈夫。

・ 物を食べる時に使う咀嚼筋は、頭を支える筋肉と隣り合って密接な関係を持って、働いている。したがって、 咀嚼筋の不調和が全身の筋肉バランスを崩し、身体の姿勢に悪影響を及ぼすこともある。またその逆の姿勢の悪さが、 咀嚼筋に悪影響を与えることもあり得る。

たとえば、左側の歯に虫歯の痛みや欠損があって右側ばかりで嚙む癖が長く続くと、右側の咀嚼筋が発達する。 咀嚼筋とは頭と顔とあごの骨についているので、その筋力が強くなると顔の右側を引っ張ることになり、頭は右側に傾く。

すると左側の頭を支える筋肉が、頭の傾きを治そうと強く働く。このような筋肉の働き過ぎの状態が続くと首筋や肩、 背中に痛み、こりが発生する。やがて傾いた頭の重みのために背骨のゆがみ、腰痛やひざの痛み、内臓を圧迫すること による内臓疾患など口から遠い部分にもその影響が出てくる。

・ 入れ歯は合わないものと思い込まされている。しかし、これは入れ歯自体に問題があるのではなく、入れ歯の作り方 に問題があるからなのだ。歯科医のなかには入れ歯がなぜ合わないのかの理由すらわからない人が大勢いる。

当然、そういう歯科医は、うまく入れ歯が作れない。そして、入れ歯がうまく作れない歯科医は、さんぜん嫌な思いをし ているので入れ歯という治療手段を選ばなくなってしまうのだ。

これには歯科教育の問題もある。大学の歯学部や歯科技工士学校で間違った入れ歯作りの方法を教えているからだ。 たとえば、歯科大学や技工士学校で教えられている総入れ歯の作り方は、歯槽頂間線法則という方法に基づいているが、 この方法で入れ歯を作ると、その患者本来の歯列よりも小さい入れ歯ができてしまう。

歯槽頂間線法則とは、歯ぐきの中央の部分、つまり歯槽の頂点に歯を立てるようにして総入れ歯を作る方法だ。 しかし、歯が抜けると歯槽骨は痩せ細ってくる。痩せ方のパターンは決まっていて、誰でも外から痩せていく。

この状態が進むと、歯槽頂は内側に引っ込んでくる。つまり歯列が自分の歯の時よりも小さなものになる。これに 合わせてできあがった「小さな入れ歯」を入れると、唇の上下が引っ込み、口をすぼめているような状態になる。

また、小さい入れ歯を入れると、口の中が狭くなり、頻繁に舌を嚙むようになる。すると無意識のうちに舌を奥に引っ 込めるようになり、舌が緊張した状態になる。舌が緊張すると免疫力が低下する。

それは、舌を引っ込めようとすると、喉のまわりの筋肉が緊張するが、そこにはワルダイエル咽頭輪という免疫を司る 器官がある。そこが緊張によって圧迫されたりうっ血したりしてストレスを受けてしまう。

合わない入れ歯が作られるもう一点の理由は、入れ歯の基準となる患者の口の中の状態を再現した石膏模型を、入れ歯 を作った後に壊してしまう場合が多いためだ。入れ歯作りでは、まず、ガムのようなアルギン酸ナトリウムという材料 で歯ぐきの型をとった印象(陰型)に石膏を流しこんで石膏模型を作る。

そして、この口の中の状態を再現した石膏模型の上に、蠟堤(人工の歯ぐき)を置いて人工の歯を並べていき、入れ歯を作る。 入れ歯の鋳型である石膏模型が歯科医から歯科技工所(ラボ)に送られて、作られるのだが、多くの場合、この石膏模型は 仕上がりの段階で壊されてしまう。

ところが、石膏模型を元に作られる入れ歯の材質はプラスチックで、作る過程で熱を加えるためかなり変形する。仕上げの 段階で元の石膏模型を使って修正すべきなのだが、それがないため修正ができず、変形したままの入れ歯が出来上がってしまうというわけだ。

・ 入れ歯は、歯科医にとってコストパフォーマンスが低いという点も、いい入れ歯ができない大きな理由だ。入れ歯を作 るのには手間ひまがかかるのに、保険適用で、しかも保険点数が低いので、入れ歯作りをやりにくくし、使えない入れ歯が 量産されてしまう原因となっているのだ。

保険診療をしている歯科医の場合、患者に満足してもらえる入れ歯を作ろうとすると、赤字になるケースがほとんどだ。 保険診療で総入れ歯を作ると、歯科医の手元には約6万円が入る。

ここから材料費や技工士への報酬(約2万5000円)、その他の経費を差し引き、自分が使った労力・時間を差し引くと、割の 合わない仕事になってしまう。

赤字にならないようにするために、歯科医はまず技工士への報酬を安くし、自分の手間と時間をなるべく省くようになる。 技工士も、手間ひまかけないようにするのは同じだ。

・ 私たちが主張しているのは、保険での入れ歯には成功報酬制度を追加することだ。入れ歯を装着して1年後に、患者に アンケートを行って、入れ歯が使えていたら100点でも200点でももらえるということだ。

そのような成功報酬点数を5年間与えるといった制度を作れば、入れ歯作りのモチベーションが上がる。患者にとっても使える 入れ歯を獲得することができる。日本で1年間に作られている入れ歯の数は、約1000万床(しょう/入れ歯の数え方)だと言われている。

12年間作れば、日本人全員に入れ歯が行き渡る勘定だ。成功報酬制度を実現して、無駄な使えない入れ歯を半減できたとし たら巨額の医療費が削減できるだろう。

・ 入れ歯のなかでも難しいといわれるのが総入れ歯だ。総入れ歯の場合は、上に14本、下に14本の人工歯を並べるわけだが、 左右対称に7本ずつ並べるためには、中心線をどこに設定するかが重要だ。

そのためには、顔を左右に割った時の真ん中にあたる正中をきちんと割り出して、石膏模型に記入しなければならない。

上顎では、上顎基底骨という上顎の骨の中央部に口蓋正中縫合線という骨の合わせ目があり、そこに正中線を求めるのだが、 実際の患者の口蓋粘膜に現れる痕跡を参考にしたり、レントゲン写真や口腔内写真などを手掛かりに割り出していくという、 模型の読み込みを行う。

さらに、入れ歯の制作では、咬合平面(上下の歯の嚙む平面)が、フランクフルト平面(外耳道の上縁と目のくぼみの 下線を結んだ解剖学的な基準平面で頭蓋骨の水平面)に対して、ある範囲の角度で一定になるようにしなければならない。

このような様々な基準を割り出すには、解剖学と人類学の素養が重要になるわけだ。基準を割り出したら、技工作業に 入る。正中線や顎堤(歯ぐきの高まり)の形を参考にして、石膏模型をトリーマーという機械で丁寧に削って全体の形を整える。

この模型に嚙み合わせの高さの基準となる点を記入して技工のための作業模型が完成する。そして、ここに、歯が抜けてか ら吸収してしまった歯槽骨や歯肉の形(歯の根の部分)と歯が生えそろったときの歯列の部分を歯科用ワックスで上下とも再現する。これが蠟堤だ。

蠟堤ができたら口の中に入れて、咬合平面、頬のふくらみ方、くちびるとの位置関係を分析して差し引きして、総入 れ歯の嚙み合わせとサイズが決定される。できあがったら、蠟堤を必要な場合には1〜2時間ぐらい装着してもらい、 不具合があれば調整する。ここまでやって、ようやく満足のいく入れ歯ができあがる。

・ 歯を失うと最初は1本補うところから始まるわけだが、この時にはできるだけ、周囲の健康な歯を削ったり、インプラ ントを打つためにあごの骨を削ったりという余計な侵襲はするべきではない。

私たちが提唱しているのは、部分入れ歯を継ぎ足していく方法だ。1本欠損した歯を補う入れ歯に始まり、その後、 左右両側の歯が欠損するに至り、両側にまたがる大きな入れ歯になった後には、総入れ歯になるまで、ずっと継ぎ 足しで作っていくという方法を、私たちは行っている。

入れ歯が合わない理由の多くは、歯がなくなるたびに次々に新しい入れ歯に作り替えるため、せっかく慣れた 入れ歯を手放し、また一からリハビリをして慣れていかなくてはならないという状況を自ら作ってしまっているからだ。

使えている自分に合った両側にまたがる入れ歯を一度獲得したら、調整しながらその入れ歯の咀嚼機能を維持し て壊さないようにして、抜けたところだけを付け足していけばいいのだ。

そして、1本抜けたら1本補充を繰り返し、口にストレスを与えずに、最終的に、自分の歯が一切欠損して、気がつい たら苦労した自覚のないままに総入れ歯になっているというのが理想だ。

しかもその総入れ歯は元の自分の歯列そのままの大きさ、形をなしているはずだ。入れ歯を少しでも長持ちさせ、咀嚼シ ステムをいい状態に維持して健康な日常生活を保つためには、年に少なくとも3〜4回は定期点検が必要だ。

・ インプラント治療とは、歯の抜けた部分の骨に手術で穴をあけ、チタン製などのインプラント(人工歯根)を埋入し、 その後3〜6ヶ月経ってから顎の骨とくっついたのを確認したうえ、そのインプラントの上に金属やセラミック製の人工の歯を被せるという方法だ。

・ インプラントは治療が始まってから約30年で、本格的に普及したのは1988年頃だ。まだ20年強しか経っていな い治療であるのに急速に普及している理由は、歯科医にとってメリットがあるからだ。

それは、歯科治療行為の中でいちばんお金にしやすい治療法ということだ。インプラントは、保険診療でカバーさ れないので、自費治療となる。1本あたり30〜50万円+上部構造(インプラントに被せる人工歯)の代金がかかる。

・ インプラント自体の決定的なマイナス点は、生体にとっては異物だということ。骨とくっつきやすいチタンとい う金属がインプラントの素材として使われているが、生体にとって異物であることに変わりはない。

異物を排除しようとする免疫反応で炎症が大なり小なり起きている。一番重要なことは、骨にはくっつくが、その上 の歯ぐきや歯肉にはくっつかないため、細菌などによる炎症のリスクに常にさらされていることだ。

インプラントは半分が顎の骨の中に、半分が口の中に突き出ている。つまり、インプラントが歯肉を貫いているために、 常に清潔な状態を保つことを強いられるのだ。

治療後のメンテナンスについてうるさく言われるのは、少しでも怠ると歯ぐきが炎症を起こす可能性が高いからだ。 インプラントは、その治療後に様々な合併症や後遺症が起こる可能性もある。

インプラント周囲炎という、インプラント埋入後に歯垢などでインプラント体の周囲に炎症が広がり、インプラント 周囲の骨が溶け、ぐらついてしまうという病態がある。

インプラント発祥の地であるスウェーデンのデータでも、埋入後40年間で4人に1人、つまり少なくとも4本に1本の割合 で必ず起きると言われている。また、インプラント治療は顎の骨の十分な厚さと幅が重要だ。

顎の骨が薄いと、十分にインプラントを埋入することができず、無理をするとインプラント体が骨を突き抜けその先 に神経や血管がある様な時には、その神経や血管を傷つけてしまう可能性があるからだ。

下顎管の中には神経が入っている。頤孔(おとがいこう)という穴があり、ここから下歯槽神経が入っているが、もし そこを傷つけてしまうと、知覚麻痺の後遺症が起こる。

インプラントは上顎の奥歯、上の大臼歯(6番7番)という奥の2本には打たない方がいいというのが原則だ。なぜなら、 その部位の上顎洞(じょうがくどう:上顎骨体中の空洞で、左右に存在し副鼻腔の中で最大のもの)に隣接する骨は非常 に薄く、インプラント体を安全に打つための十分な厚さの骨がないからだ。

・ インプラントの生着率は90〜95%程度といわれている。生着とは顎の骨に埋め込んだチタン製などのインプラントが、 顎の骨と結合することだ。

この生着したインプラントに人工の歯を取り付けて嚙み合わせを回復するのだから、うまく生着するかどうかがインプ ラント治療の正否を決定づける。インプラントは手術をして顎の骨にドリルで穴をあけるのだから、それが失敗すると 元のようには戻らない。

失敗する5〜10%のリスクを冒してまで、わざわざ手術を受けるほどのメリットがインプラントにあるとは思えない。

・ 天然の歯には歯根膜があり、顎の骨と直に結合していない。歯は歯槽骨の中に浮いている感じだ。歯根膜は歯と歯槽骨を つなぐと同時に、嚙んだ時の負荷を吸収するクッションの働きがある。嚙むということは、顎がいろいろな方向に動くことだ。

いろいろな方向から咬合圧(嚙む力)が歯にかかり、それで歯は揺さぶられているわけだ。それに対応するためにはクッ ションが必要なのだ。顎の骨に直に結合しているインプラントにはそのクッションはなく、嚙んだ時の負荷がダイレクトに顎の骨に伝わってしまう。

インプラントを植えてガチガチに嚙んでいたら、歯やあごに大きな影響がある。従って、特にインプラント治療では 噛みしめや歯ぎしりの対策といった点にまで目を向けた治療を必須で行わないと危険だと思う。

・ インプラントは「植えて何ヶ月も歯がない」状態になることが非常にまずいと思う。骨に穴をあけ、インプラント を入れて歯肉を閉じて、インプラントと骨がくっつくまでにはそこに3〜4ヶ月歯がない状態が続くわけだ。

まったくの歯抜け状態だ。歯がないままにしていると、片側ばかりで嚙むことになり、どちらか一方への過負担になる。 嚙める歯がある側の歯に大きな負担がかかることになる。

インプラントはその人の嚙み癖も考慮して入れないと、後々、身体にも大きな影響を及ぼしてしまう可能性がある。 患者が長年偏った嚙み方をしていると、たとえば、右の歯が欠損していたために、左嚙みをしていた人であれば左嚙 みのシステムができあがっている。

その左嚙みに合わせて右にインプラントを入れてしまうとしたら、偏ったままの左嚙みを固定してしまう。

・ インプラントの埋め込みがうまくいかなかったり、使用後に不具合が生じたりして、撤去せざるを得なくなった 場合の最大の問題は、インプラント体を除去した部位の顎の骨が痩せ細り極端にうすくなってしまい、きちんとした 入れ歯が入らなくなるということだ。

入れ歯は歯ぐきの高まりを拠り所とするものだから、骨がなく、歯ぐきの高まりがない、つまり土手が全部決壊した ような状態になっているので、しっかりとした良い入れ歯が入れられない。

・ 現在、インプラントはわずかな大学の一部の講座でしか教えていない。大学では国家試験を通るのにインプラント は必要ないので教えないのだ。では歯科医はどこでインプラントを学ぶのだろう。

それは、材料メーカーなどが主催する研修などでだ。そこに講師を呼んで1日コースから、数ヶ月コースまでといった 講習を行い、そのメーカーの扱う材料を用いる技術を学べば、ある程度未熟でもそこそこ治療ができてしまうのだ。

・ 歯にも寿命がある。一番平均寿命の短い第二大臼歯で49〜50年。最も平均寿命が長いのは、下顎の犬歯で約67年。 平均的日本人は男女ともに51歳頃から歯が抜け始める(多くは第一、第二大臼歯から)。

年齢を重ねながら徐々に抜けていき、65歳を過ぎる頃から抜ける頻度は速まり、73歳頃には、上顎は歯無し、下顎も それに近い状態になる。そして、80歳では6割強の人が総入れ歯になる。

・ 歯ぎしり、噛みしめは主に寝ている間に行われることが多いが、ぐっと噛みしめるタイプと、横にスライドさせる タイプがある。鏡を見て犬歯がとがっていない人はたいていスライドさせるタイプの歯ぎしりの癖がある。

歯ぎしりや噛みしめは口の中の骨の形状にも影響する。骨隆起といって、上顎と下顎の内側の骨が膨らんでいる人が多い。 これは、強い噛みしめや歯ぎしりが大きな要因だ。

上顎は構造学上、応力の集中が真ん中で起こる。下顎は応力の集中が起こる部位が、左右の小臼歯部の内側の歯根部分 が多く、その強い力に耐えようとして骨が厚くなってくるのだ。

・ 歯と歯肉の間に歯垢が溜まり炎症を起こすのは、歯肉炎だが、歯肉炎がさらに進行し、歯を支える歯槽骨にまで 波及すると歯周炎と呼ばれる。

歯周病菌が繁殖し、膿が溜まって、歯と歯肉の間が広がっていくと、歯を支えている歯根膜と歯槽骨が冒されて グラグラしてしまう。そして最後には、歯が抜け落ちてしまう。

歯周病は、高齢化していくと避けられない病気ともいえるが、噛みしめをせずに、嚙み合わせのバランスを整えて いれば、進行を遅くできる可能性がある。歯ブラシよりも効果がある。したがって、虫歯も歯周病も噛みしめも、治療は同時に行うべきだ。

・ 噛みしめや歯ぎしりを改善する方法に、私たちがずっと推奨し、実践している、割り箸法がある。割り箸法 とは、仰向けに力を抜いて寝て、割り箸を1本、軽く開けた唇の上に載せて、30分ぐらいじっとしているものだ (30分経ったら体を少しずつ動かしてほぐしながら、ゆっくりと起き上がる)。

割り箸法のメカニズムは身体に緩みを生み出すということだ。顎の緊張は身体の緊張と連動しているので、顎を 緩めることで身体の緊張を取り除けるのだ。力を抜くためには、歯と歯が触れていないということが有効だ。

割り箸を載せるとその情報が入って、下顎の安静口隙という上下の歯が触れない隙間が自然とできるのだ。すると、 自然に身体の力が抜けていきやすいというわけだ。

・ 自然と上下の歯が離れて噛みしめを予防するもう一つの方法が、咀嚼筋マッサージ、つまり顎のマッサージだ。 これは顎の筋肉の凝りをほぐすのを第一の目的とする。顎をもみほぐして緩むと必ず上下の歯は離れる。

だから、意識して顎の筋肉をもむ習慣をつけるといい。凝りがとれるし、歯の寿命にも好影響が出る。顔の表情筋 の凝りもとれ血行が良くなり、肌にツヤが出る。具体的な方法は以下の通り。

まず、咬筋マッサージ。両手を左右の頬に当てて奥歯を噛みしめてみる。その時に、グッと動くところが咀嚼筋で ある咬筋だ。ここを指の腹で押す。もしそこで痛みを感じるようであれば、そこに筋肉痛がある=凝っているということだ。

押す強さは、自分で気持ちがいいと感じる程度で行う。あまり強く押しすぎないようにする。

次に側頭筋マッサージ。目と耳の間から頭にかけての側頭筋のあたりも指で押さえてみる。噛みしめた時に動く部分だ。 凝りがあるようだったら、指に軽く力を入れて押す。

マッサージ時間は、1回1分以内。短いマッサージをこまめに行うことが効果的だ。1日に10回程度、1時間おきぐらい を目安にやる。くれぐれも、上下の歯を嚙み合わせないようにすること。

・ 歯の矯正は嚙み合わせが安定してからやるのが一番よくない。つまり大人になってからやるのはよくない。仮 に歯並びが悪くても、その人固有の咀嚼システムができあがっているものを、急激に変化させるということは極力しない方がいい。

また矯正で歯を移動してしまうと、急激な咀嚼システムの変化を強いることとなる。それによって、顔の筋肉や 顎関節に大きな負担を強いるため、全身のバランスに悪影響を及ぼし、大きな病気の引き金になりかねない。

・ 歯並びを治すのに、健康な前歯を全部一回り小さく削って人工の白い歯をかぶせるという方法がある。見た目は きれいに並ぶが、当然、嚙み合わせが変わるので、咀嚼システムも変化して体調がおかしくなることもある。無理な治療は歯の寿命を縮める。

・ 嚙むという行為は、人間が生きていくための源だ。生きる糧であり栄養を摂るために重要であると同時に、 脳への血流がよくなり、嚙むことによる咀嚼筋の活性化にともない顔の表情筋の動きも活発にし、ひいては心の不調を改善する。

心身ともに活き活きと過ごすためには、生まれてから人生を全うするまで“嚙む”という行為は切っても切れないのだ。

・ よく嚙んで食べる子どもは、知能指数が高い可能性があるという研究結果がある。

・ 九州大学歯学部が老人施設に入院している65歳以上(平均年齢78.5歳)の987人を対象にした調査によると、 歯が少ない人(3.5本)ほど認知症が進み、毎日よく嚙んで食べている人(8.8本)ほど症状が少ないことが分かった。

嚙むことは、血液の流れがよくなり十分な酸素と栄養が脳に送られるため脳が活性化されるのだ。

また、脳のMRI検査では、歯が少ないほど、記憶や空間認知、計算や思考を司る重要な場所である海馬を含む 側頭葉内側部や前頭・前頂連合野領域の灰白質の容積が、減少することが分かっている。

・ 嚙むことは血液循環を良くする“第二の心臓”的な役割を果たし、脳の血流をよくする。嚙むことは下顎に あるポンプの役目をする場所(下顎頭の少し上にある静脈叢)がよく働いて脳に血液がよく送られるのだ。




『脳内革命2』 春山茂雄 サンマーク出版 (1996)
 ・左脳はその人が生まれてからインプットされた情報が支配する脳である。右脳は先祖から受け継いだ遺伝子レベルの情報がある。この右脳情報こそが感情に支配されない心である。そして我々は先祖から受け継いだ情報を受けて活用し、それに我々の情報も付け加えて子孫の残すのが人間として生まれてきた者の役割である。

 ・人間の脳は三重構造になっている。原脳の「爬虫類脳」、原始哺乳類の「イヌネコ脳」、新哺乳類の「人間脳」の三つ。

・ 「人間脳」が他の生物と一番異なる点は右脳と左脳が機能分担していること。

・ 左脳は感情も含めて自分一代の「自分脳」、右脳は先祖から受け継いだ遺伝子を持った「先祖脳」と筆者は解釈。

・ 遺伝子の刻まれた情報はざっと五百年分である。右脳はその五百年分の人間の英知を詰め込んで基本ソフトにしている。人類の知恵のエッセンスのようなものである。だから右脳は、左脳の10万倍の情報蓄積がある。

・ 左脳は生まれてから一代で取り込んだ情報が中心で、損得と快・不快で機能する。

・ 右脳とは先祖脳であり、同時に心の在り処である。右脳を活用するのが最高の生き方。

・ イメージトレーニングをすれば右脳の扉が開き、脳内ホルモンがどんどん出る。

・ 左脳の重要情報は右脳の遺伝子に書き込まれる。右脳は過去にそうやって情報を蓄積してきた。

・ 遺伝子にはある方向性が刻まれている。その方向性こそ宇宙の意思である。

・ 心と感情は異なる。左脳中心の感情は損得、快・不快で左右されるが、右脳中心にすると過去から積み重なった遺伝子の方向性に沿ったパワーが出る。

・ A―10神経は人間のあらゆる営みと関係し、そこから快感を与えてくれる。

・ 右脳を活用する4つのポイント:
1.プラス発想する
2. 筋肉を使う
3. 瞑想をする
4. 食生活に注意する

・ まず左脳に情報を強烈にインプットしてから、あとは楽しいことをする。そうすると右脳からヒントが得られる。

・ 神社仏閣で「家内安全」「商売繁盛」をお願いしてはいけない。「お願いする」は損得の世界、アドレナリン系のホルモンが出る。

・ 右脳で考えるとは、感情に支配されないということである。

・ 「二つの考えが心の中に入ると、並列状態では存在しうるが、お互いが重なりあうことはできない」(心理学者 E.クーエ)。楽しい考え、好ましい考えで頭の中を満たしてやる。そうすれば嫌な考えは存在できなくなる。

・ 多くの人が勘違いしているのは、現実に起こった出来事で、自分が左右されると思っていることである。だが出来事は純粋に出来事で、それ自体はニュートラルなものだから何の影響も与えない。影響を与えるのは人がその出来事をどうとらえるか、その見方、考え方である。

・ いきなりプラス発想をするのは難しい。最初は起こった出来事を「あたりまえ」とまず受け入れ、次にその意味をプラスに捉えていくツーステップで行えば、プラス発想は簡単にできる。

・ プラス発想を習慣化する方法として、「鏡に映った自分」に心地好い言葉を投げかけるやり方がある。自分をたえず誉めてやると、脳もその気になるものである。

・ 脳内モルヒネは筋肉量と比例する。筋肉の多い人ほど脳内モルヒネがよく出る。

・ ストレッチ体操は活性酸素を出さずに筋肉を付ける方法。ストレッチをやると成長ホルモンが出る。成長ホルモンが筋肉を増やす。

・ ストレッチで筋肉をつけ、ウォーキングで脂肪を燃やす。これが最高の方法。

・ 瞑想は左脳を静めて右脳の声に耳を傾けさせてくれる。脳生理学的にみれば瞑想は脳内モルヒネを間違いなく出す手段といえる。

・ 腹式呼吸をやると肺の下にたまったプロスタグランディンという物質が血管内ににじみ出てくる。この物質は活性酸素を消去し血管を広げる働きがあり、高血圧、不整脈、呼吸器疾患、便秘、しもやけなどに有効。

・ 脳内モルヒネの出る食生活は次の三点に留意すること。
1. 良質の蛋白質をとる(大豆と米飯の組み合わせが最高)
2. 血管の目詰まりを防ぐ(高たんぱく、低カロリー)
3. 活性酸素を中和する(抗酸化物質の摂取)

・ 筋肉が正常に付いていれば摂取カロリーの60%は燃焼する。筋肉が半分になると30%しか燃えない。残りの30%が全部脂肪に変わる。

・ 脂肪を効率良く燃やす数字は「(220−年齢)x0.7」。ここで得られた数字の心拍数以下の近似値で運動をする時、脂肪はもっともよく燃える。

・ 年齢が若いほど激しい運動で脂肪は燃え、加齢につれて穏やかな運動で燃える。また、筋肉を激しく動かす運動をすると骨の中に血が入っていかない。骨粗ショウ症には穏やかな運動がいい。

・ 日常生活で副交感神経を優位に立たせられるのは眠っている時だけである。それを覚醒中にできるのが瞑想であり、自立訓練法はその入り口である。

・ 覚醒中の自己催眠は睡眠中よりも左脳と右脳の会話がスムーズにできる。

・ ウォーキングを始めたら立ち止まらないようにする。立ち止まると効果が半減する。ウォーキング速度は、歩き始めは一分間50メートル、体がほぐれたら一分間100メートル程度に速め、やめる前の五分間はゆっくりした歩きに戻る。




『1週間で脳から生まれ変わる技術』 久恒辰博 扶桑社 (2011)
ひさつね・たつひろ:1964年生まれ。東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻准教授。87年、東京大学 農学部農芸化学科卒業。91年、東京大学大学院農学生命科学研究科助手、93年同博士、94〜96年アメリカ国立予防衛生 研究所(NIH)脳疾患および脳卒中研究所(NINDS)客員研究員。99年より現職。

海馬におけるニューロンの新生や脳回路の再生についての研究で知られ、2001年にはサルの脳で、大人になっても新しい ニューロンが生まれていることをつきとめ世界的な注目を集める。

『“活脳レシピ&エクササイズ”で大人でも脳細胞は増える!』が副題。

大人になっても海馬のニューロンが生まれ続けるというのは朗報だ。そのためにはストレスを抑制し、シータ波の状態に なること。この両方を同時に達成する生活習慣は、運動だ。脳のアンチエイジングのためには、参考になる本だ。

・ 現在の脳科学では「ニューロンは、一日に数千個が新しい細胞と入れ替わっている」といわれている。新しいニューロン が生まれているのは、脳の中の主に記憶を司る「海馬」という部位だ。

さらに、私たちの東京大学の研究グループは2001年、ニホンザルの脳において、海馬の他にも大脳新皮質という部位におい てニューロンの「卵」にあたる神経幹細胞が盛んに分裂・増殖していることを世界で初めて発見し注目された。

この「卵」が成長してニューロンになっていれば、いよいよ大発見だったが、そこまではまだ確認できていない。

・ 新しく生まれる脳細胞の数は、環境によって変化してしまう。例えば、ストレスフルな環境においては、通常の半分 ほどしか脳細胞が生まれない。

・ 脳組織を調べてもニューロンの分裂を示す組織像が見つからなかったことで「ニューロンは再生しない」と結論付けてし まったこと。ニューロンは神経幹細胞が分裂・分化して成長したものだが、ノーベル医学生理学賞受賞の大科学者カハー ル博士はニューロン自体が分裂すると考えてしまった。

ここに根本的な誤解があった。そしてこの誤解こそ、「ニューロンが新しく生まれる」という発見を100年も遅らせる原因になった。

・ 脳を構成している細胞はニューロンだけではない。そのひとつが「グリア細胞」という細胞で、ニューロンの働きを サポートするのが主な役割だ。

グリア細胞には、血管から突起を出してニューロンに栄養を送る「星状グリア」や、ニューロンの軸索に巻きついて電気信号 のやり取りの際に絶縁体のような働きをする「希突起グリア」、また、ニューロンから出た老廃物を処分する「小グリア」 などさまざまな種類がある。

これらは、情報伝達には直接かかわらないものの、ニューロンを活性化させるための重要な役目を果たしているとみられている。

・ ニューロンとグリア細胞は、「神経幹細胞」と呼ばれる「脳細胞の卵」から生まれる細胞だ。神経幹細胞は盛んに分裂・ 増殖を繰り返し、その際に「分化」といってニューロンになるかグリア細胞になるかという将来の進路が決まる。

そして、進路が決まると準備段階である「前駆細胞」を経て、それぞれの細胞として成長していく。この「ニューロンの卵」 「グリア細胞の卵」である神経幹細胞は大人の脳の中にも存在しており、日々私たちの脳に新しい細胞を供給している。

しかし、その中には、ニューロンにもグリア細胞にもならず「卵」のままとどまっているものも数多くある。その理由は、 ケガや病気などで脳が損傷を負った時に備えて、回復用に脳細胞のストックが必要だからだとされている。

だが、近年の研究ではグリア細胞と同様にニューロンの働きを助ける働きも併せ持っていることがわかってきている。こうし て多くの神経幹細胞が「卵」のまま存在し続けているなかで、今のところ、ニューロンへと成長することがわかっているのは 海馬にある神経幹細胞だけになる。

それゆえ、海馬が「大人の脳において唯一、新生ニューロンが生まれる場所」になっている。

・ 海馬は「記憶の貯蔵庫」ではなく、日常の経験や情報などの記憶を一時的に保存するための場所だ。記憶は、 いったん海馬で保存されている間に整理整頓され、記憶として残しておくかどうか取捨選択された上で、大脳新 皮質に長期的に保存されることになる。

・ 海馬の先端には「扁桃体」がある。ここは嬉しい、悲しい、好き、嫌いなどの感情に関わる記憶を司っている。 また、扁桃体の近くにある「側坐核」は、やる気を司る部位だ。

脳の中心近く、ちょうどおでこと耳の中間に位置する直径2ミリほどの小さな器官である側坐核は、前頭葉から「こ ういう行動を起こしてみよう」という指令を受け取ると、海馬や扁桃体と相談して実行に移すかどうかの判断をする。

もし、その行動が過去の嫌な記憶や感情と結びついている場合はやる気を起こさず、実行に移すことを拒否してしまうとう具合だ。

・ 大脳の神経幹細胞は、脳全体の5%ほどはあると推測されている。脳細胞が2000億個だとすると、100億個も存在 していることになる。

さらに、脳細胞全体は加齢とともに減少していくにもかかわらず、この神経幹細胞は日夜増殖を繰り返し、年を重ね ていくほどその数は多くなるともいわれている。

こうして増え続ける神経幹細胞が何をしているかというと、シナプスの結合に変化を与える役割を担っていることが明ら かになってきている。具体的にいうと、「ヒラメキ」という現象がある。

私の考えでは、脳のネットワークが書き換わり、今まで未開通だった回路が開くことで新しい情報のつながりが生じ、 その結果「ヒラメキ」が生まれているのだと思う。そして、このとき大脳新皮質にある神経幹細胞が中心的な役割を 果たしていることがわかってきた。

というのも、神経幹細胞は脳の新しい回路が開通しようとしているところに集まってきて、シナプスの結合を高める ために必要な栄養因子を放出しているのだ。

・ 爬虫類は「脱皮」をする。その「脱皮」をする際に、重要な役割を果たしているのが「プロラクチン」というホルモンだ。 このホルモンは、脱皮以外にも、両生類の「変態」(例えば、オタマジャクシに足が生えてカエルになること)や、鳥類の「渡り」 や「巣篭もり」にも大きく関与している。

つまり、生物が「変わろう」とするときに必須な物質と言える。そして、このプロラクチンは人間の脳内にも存在している。 一般には「授乳ホルモン」と呼ばれ、子供に乳を与えるときに大量に分泌される。

そして、この授乳ホルモンが脳の新生ニューロンの成長を促進させることがわかった。そして肌の新陳代謝を促す「bFGF」 という物質が、これもまた新生ニューロン、さらには大脳新皮質の神経幹細胞の増殖に効果があることがわかっている。

このように、爬虫類の「脱皮」と人間の脳内における「ニューロジェネシス」にはいくつもの共通項がある。人間の脳で唯一、 新生ニューロンが生まれる=生まれ変わることができる場所である海馬が、「恐竜(爬虫類)の脳」と呼ばれる大脳辺縁系に あることも偶然ではないだろう。

・ 海馬は記憶を一時的に保存する以外にも、その保存した情報を脳の各部に振り分けていく「脳の管制塔」の役割を担って いる。さらにストレス抑制機能も持っている。

脳においてストレスを発信しているのは視床下部という部位だが、ここから発せられたストレス情報に対して快・不快を判断 する扁桃体が反応することで、実際にストレスを感じることになる。

扁桃体は海馬のすぐそばにあり、「好き・嫌い」「快・不快」「安心・恐怖」などの情動に反応する部位で、とりわけ 「嫌い・不快・恐怖」などのマイナス方向の情動に敏感に反応してストレスを促進する。

この「視床下部→扁桃体」というストレス情報の流れに立ち向かうのが海馬だ。ストレス情報が入ってくると、海馬は過去 の記憶と照合して、問題の解決方法や、過去にストレスを乗り越えた経験を探し出してくる。

そうすることで、「大丈夫、なんとかなる」とストレスを抑制する方向へと働きかける。つまり、実際にストレスを感じるか どうかは、海馬が記憶から解決法を見つけられるか、それとも見つからずに扁桃体が反応してしまうか、という一種の綱引き にかかっているのだ。

だから、海馬が新生ニューロンで溢れ元気な状態であれば、ストレス情報が扁桃体へと行き着くことを阻止する確率が高まり、 ストレスを感じることが少なくなるわけだ。

事実、海馬の新生ニューロンが活発だと「ストレスホルモン」と呼ばれるコルチゾールの分泌が抑制されるという研究もある。 このように海馬が元気であれば、ストレスを打ち消す効果が高まる。

・ ネズミの実験では、歯状回にあるニューロンのうち、一日0.1%程度が新しい細胞と入れ替わっているという研究結果 が出ている。これを単純計算すると、一ヶ月で3%、一年で36%、三年足らずですべての細胞が入れ替わってしまうことになる。

・ アメリカ・プリンストン大学のグールド博士らが、カニクイザルというサルの新生ニューロンの数を数えた研究では、 3〜6歳(人間でいえば10〜18歳に相当)では約7000個あった新生ニューロンが、20歳以上(人間でいえば60歳以上)になる と50分の1以下の約130個にまで減ってしまうということがわかった。

同じように人間も、海馬を刺激することなく漫然と過ごしていては、新生ニューロンの数はどんどん減少していくことだ ろう。「ニューロンの卵」である神経幹細胞の数は年齢を重ねてもそれほど変わらないので、大人の脳を元気に保つには、 どれだけ「ニューロンの卵」を新生ニューロンにまで育てられるかにかかっている。

・ 情報を操作する作用が高いことを、脳科学では「可塑性が高い」と表現する。そして、情報を増幅したり、情報を縮小 したりすることが活発にできる柔軟性の高いニューロンを「可塑性が高いニューロン」と呼び、それこそが海馬の情報処理能力を支えている。

この可塑性がもっとも高いニューロンが海馬の新生ニューロンだ。可塑性に富んだ新生ニューロンは、刺激に敏感に反応 するだけでなく、環境に対応しようと軸索をいろんな方向に伸ばして、脳に新しい回路を切り開いていく。

新生ニューロンが少なくなり、海馬の情報処理能力が衰える、判断力や記憶力が低下するなどのさまざまな弊害が起こる。 そして、この新生ニューロンを維持していくためには、日頃の生活習慣が大切になる。というのも、海馬のニューロンは 時間がたつにつれて「可塑性」が低くなっていくからだ。

・ 現在、人間の脳内で神経幹細胞の存在が確認されているのは、「脳室の周囲」「大脳新皮質」そして「海馬の歯状回」の三ヵ所だ。 脳室とは、受精卵から生まれるまでの間に盛んに細胞分裂を起こして脳細胞を作りだす場所で、この場所の神経幹細胞は、その 時の細胞が残ったものだと思われる。

大脳新皮質の神経幹細胞は、脳梗塞などの非常事態に備えた「待機細胞」であると同時に、ニューロンの働きを助け、脳のネット ワークを広げる役割を果たしている。この脳室と大脳新皮質の二か所の神経幹細胞は、ニューロンへと成長することは確認されていない。

海馬の歯状回の神経幹細胞だけが、ニューロンへと成長することができる唯一の細胞なのだ。しかし、海馬の神経幹細胞も すべてがニューロンへと成長できるわけではない。

分裂を始めても、また「卵」の状態へと戻ってしまったり、ニューロンへと成長する過程で挫折してしまったり、うまく成長 できずにダメになってしまったりと、一人前のニューロンになるにはさまざまな困難を乗り越えていかなくてはならない。

つまり脳内で新生ニューロンを育てるための環境が整っていないと、若いニューロンたちの多くは厳しい環境に耐えられず ドロップアウトしたり、死んでしまうケースも少なくない。中でも、新生ニューロンの成長を阻害する一番大きな原因となるのが「ストレス」だ。

・ 脳の中でストレスと戦ってくれる物質がある。それが「BDNF」というたんぱく質と、「IGF−1」というホルモンだ。 BDNFは脳の栄養因子となるたんぱく質で、この物質がたくさんあるとストレスホルモンであるコルチゾールの分泌 量が減少することがわかっており、さらに新生ニューロンの成長を促進する効果もある。

またBDNFの働きを抑えると、脳内の神経細胞の数が減少することもわかっている。IGF-1は、インスリン様成長因子 という、代謝を活発にして細胞の機能を高める役割を持つホルモンだ。このIFG-1によって、新生ニューロンはスト レスへの耐性が高まり、生存確率が上昇する。

そして、BDNFもIGF-1も有酸素運動などのエクササイズをすることで増えることが判明している。

・ GABAがニューロンに与える効果には二種類ある。若いニューロンに対しては興奮させて元気にする効果があるが、 大人のニューロンに対しては抑制的に落ち着かせる効果がある。

このように、ニューロンの状態によって、まったく対照的な働きをするのがGABAだ。ただし、GABA入りサプリメントを 摂取することで新生ニューロンが増えたという研究報告は一例もない(GABAを外部から経口摂取しても、脳の血管には「 脳血液関門」という検問所があるため、脳の中に届くかどうか不明)。

もっとも重要なのは食生活のバランスだ。あくまで、自然な食生活の中で、脳にいいとされる食材や栄養素をバランス よく摂取していくということが、脳にその栄養素を到達させるためには必要なのだ。

さて、このGABAは外部から摂取せずとも、脳内に日常的に存在している物質だ。脳内には「GABA性ニューロン」という 細胞があり、この細胞がGABAを放出している。

・ GABA性ニューロンを活性化し、放出されるGABAを増やすためにはまず、シータ波という脳波を出すことだ。そして GABAを増やすもう一つの方法は、「学習」することだ。

言い換えれば、さまざまなことを記憶しようとしたり、思考を巡らすことで、日常的によく頭を使うことだ。

・ 人間の脳と肌には共通点がある。まず、発生学的にみると肌の細胞も脳の細胞も、同じ外胚葉という部位の細胞が 分化したもので、その故郷を同じくするものだ。

また、肌には脳内の情報の伝達に使われる神経伝達物質をキャッチするための受容体がたくさん存在している。これは、 脳と肌が近しい器官であるということを表わすものだ。そして、肌の細胞の新陳代謝を行う「bFGF」というたんぱく質。

これは、実は新生ニューロンの成長をサポートすることがわかっている。人間の肌は、常に古い細胞を捨て、新しい細胞 と入れ替わることで生まれ変わっている。

しかし、30歳前後を境に細胞の新陳代謝の力は衰え始め、肌荒れやニキビが回復しづらくなったり、ハリやツヤが失わ れていく。そして、これと同じことが海馬でも起こっている。

肌の「曲がり角」と同様に、脳にも「曲がり角」があり、年齢を重ねるほどにやる気が出なくなったり、物忘れが激しく なったり、落ち込みやすくなったりする。しかし同時に、肌は日頃の手入れを欠かさず行うことで若さを保てることもわかっている。

いわゆるアンチエイジングだ。ストレス対策や睡眠、栄養補給などを適切に行うことで、新しい細胞による新陳代謝を 推し進め、老化を防ぐのだ。だから、肌と同じように新陳代謝する力を持っている海馬も、アンチエイジングする必要があるというわけだ。

・ 何かに集中している時にもシータ波は出るが、単純に「集中=シータ波が発生」というわけでもないので注意 しなければならない。というのも、シータ波は「何かを学習しようと集中しているとき」にしか発生しないからだ。

この「学習」とは新しい刺激に対して学ぼうとすることで、必ずしも勉強に限ったことではない。仕事はもちろん、 読書や趣味や旅行でも構わないが、その場合、同じようなことを頭を使わずに反復するだけではシータ波は発生しないということだ。

シータ波が発生するのは、新しい刺激に対して積極的に吸収しようと集中している時だ。同じ記憶で、「ドキドキ しながら初めて経験したこと」や「ワクワクしながら夢中で覚えたこと」は、いつまでも強く頭の中に残るものだ。 これは、その事柄を記憶する時に、たくさんシータ波が出ていたからだろう。

・ シータ波にはまどろんだ状態で出る通常のシータ波と、学習状態で、集中している時に出るシータ・オシレーションの二種類が存在する。

・ シータ波は、意識の中枢と呼ばれる「網様体」を刺激することで発生し、さらに、「乳頭体上核」という部位 を中継して、網様体と海馬の中間にある「中隔野(セプタム)」に届き、海馬へと伝わっていく。

さらに、セプタムを直接刺激しても、シータ波が発生することが分かっており、このことから、セプタムは「シータ 波の第二の源」と呼ばれている。このセプタムには、二種類のニューロンが存在している。

ひとつが、記憶や集中力に関わる神経伝達物質である「アセチルコリン」を作るニューロン、そしてもうひとつが、 鎮静作用や血圧を下げる効果のあるGABAを作るGABA性ニューロンだ。

セプタムが刺激されると、この二つのニューロンからアセチルコリンとGABAが海馬に送られ、そこで初めてシータ波 が発生する。

そして、このシータ波の第二の源であるセプタムの働きを助けるのが、「A10細胞群腹側被蓋野(VTA)」という部位だ。 ここは、運動やホルモンのバランス、意欲や学習、快感に関わる神経伝達物質である「ドーパミン」が生み出される場所だ。

このドーパミンの助けがなければ、セプタムでアセチルコリンを生成することができない。アセチルコリンが生成さ れなければシータ波も発生せず、結果として海馬はどんどん老化の一途を辿る。

このことを裏付けるように、アルツハイマーの患者の脳には、アセチルコリンが不足していることが知られている。

・ シータ波には海馬の新生ニューロンを増やす効果がある。

・ 生物の進化の過程において、DNAの中にある「レトロトランスポゾン」という特殊な遺伝子が別の場所に組み込ま れることで、DNA自体に変化が起こることがある。

爬虫類の脳は大脳皮質が三層構造であるのに対して、哺乳類では六層構造になっているのも、このレトロトランスポゾ ンの働きであるとされている。

そして、長らくこの特殊な遺伝子は、卵子や精子などに遺伝子の変化を伝える役割を担っているとされてきた。つまり、 生物としての進化を促進させるための物質といえるだろう。

ところが、アメリカ・ソーク研究所は、レトロトランスポゾンの働きはそれだけではないことを示した。海馬にある神 経幹細胞が分裂・増殖して、次の段階である前駆細胞へと成長する時に、このレトロトランスポゾンが一瞬だけ働いて いることが発見された。

これは言い換えれば、「生物の進化の過程で起こる現象」が、大人の脳の中でも起こっているということだ。進化とは、 生物が環境の変化に適応して生き延びるために起こっているものだとすれば、海馬で新生ニューロンが生まれているのは、 もしかすると人間が新しい環境に適応し、より高度な生物へと成長するためなのかもしれない。

レトロトランスポゾンの働きを受けて生まれた前駆細胞は、新生ニューロンへと成長し、海馬と脳のネットワークを リフォームする。だから、シータ波によって新生ニューロンを増やすことは、性格や人格まで含めた「進化」という 劇的な変化に通じる可能性を秘めているといっていいだろう。

・ シータ波の源であるセプタムを活性化させるために不可欠なVTAは、快楽や幸福感を生み出す器官でもある。 脳内に「心地よい」という感情が生まれると、VTAはドーパミンを大量に分泌する。

VTAの神経突起は、セプタムはもちろん、扁桃体や側坐核、前頭連合野の前部帯状皮質などの脳のさまざまな部位と 連結している。

だから、セプタムの働きが活発になると、海馬でシータ波が発生し、やる気や集中力がアップすると同時に、海馬以 外の部位も刺激されることで、脳のネットワーク全体を成長させる効果が期待できる。

・ カナダのマギル大学のブラッド博士とザトール博士は2001年に「素晴らしい音楽を聴き感動すると、脳内の報酬 系が活発になる」と発表した。「報酬系」とは、「快の感情」に関わる神経回路のことだ。

彼らの研究によると、世界的な作曲家であるラフマニノフのピアノコンチェルト第三番を学生たちに聴かせ、その学生 たちの脳の様子をPETスキャンを用いて調べたところ、中脳、運動野、前部帯状回などが活発に反応していることが分かった。

これは、優れた楽曲を聴くことでシータ波が生じ、脳全体のネットワークが成長した結果だろう。脳のネットワーク が成長すれば、今まで繋がっていなかった回路が開き、思いもよらないヒラメキが浮かんだり、思い切った行動が取れるようになる。

芸術作品に触れたり、没頭できる趣味を持つことは、シータ波を通じて、脳全体のリフォームに繋がっていくことなのだ。

・ 「VTAを刺激」→「ドーパミンが分泌されてセプタムを刺激」→「セプタムでアセチルコリンとGABAが生成される」 →「シータ波が発生」という一連の流れのひとつに「チル反応」というものがある。

素晴らしい絵画を見たり、音楽を聴いたりした時に、背中から首筋にかけてぞくぞくする感覚が走ったことがあるだろう。 それが「チル反応」だ。大きなチル反応が起こると、ぞくぞくした感覚に加えて、心拍数や呼吸数、皮膚からの発汗も増加する。

いわゆる「胸が高鳴る」という状態だ。このチル反応には、大きいものも小さいものもあるが、最も想像しやすい 例としては、お風呂や温泉に入ったときやマッサージを受けたときに感じるしみじみするような幸福感が挙げられる。

さらに、このチル反応はヒラメキの一歩手前の状態でもある。シータ波が発生し、脳のネットワークが組み替ってい くことで、新しい回路が開くこともある。

ヒラメキとは、そうした瞬間に今まで組み合わさったことのなかった情報や記憶がつながることで生まれるものだ。 例えば、日常的にチル反応に極めて近い反応が起こる場面として、トイレがある。あの用を足したときの身震いする ような感覚がそうだ。

トイレで新しいアイデアがひらめくことが多いのは、チル反応によって脳のネットワークが刺激されているからかもしれない。

・ 「ストレスから身を守る」「シータ波を出す」という新生ニューロンを育てるカギである二つの働きを同時に 達成できる生活習慣がある。それが「運動」「エクササイズ」だ。

運動をするにしても、ゆっくり走るよりも、速く走った方がより強いシータ波が出る。これは激しい運動、複雑な 運動になるほど、ハイレベルな集中力が必要とされるからだ。

シータ波研究の権威であるアメリカ・ラトガース大学のブザーキ博士による2006年の研究でも、筋肉をたくさん使う 命令を出す、つまりカロリー消費が多い運動をするほど、シータ波は強くなることが判明している。

・ よく運動をすると、アセチルコリンの働きが高まり、シータ波が海馬に伝わって神経幹細胞を刺激する。その 結果、細胞の増殖・分裂が進み、新生ニューロンが増える。

・ 近年の研究では「ウォーキングをすることで脳の形が変わるほどの効果がみられた」という報告もある。平均年齢 65歳の人たちに「週3回、一日40分」のウォーキングを6ヶ月続けてもらったところ、前頭葉の内側にある「前部帯状回」の厚みが増した。

厚みが増したということは、その部位のニューロンがシナプスの枝を広げることで、ネットワークを増強したという こと。そして、前部帯状回はやる気を起こしたり、ストレス抑制に関わる部位なので、そこが強化されれば、ストレ スに強い体質になるということだ。ちなみに、運動がうつ病に効果があることも明らかになってきている。

・ 運動におけるカロリー消費が多いほど新生ニューロンを増やす効果がある。さらに、消費カロリーが多いと、脳の容積が微量ながら増える。

・ シータ波にはまどろんだ時に出る通常のシータ波と、覚醒時に何かに集中している時に出るシータ・オシレー ションの二種類がある。

この二つが新生ニューロンに及ぼす効果はほぼ同一と考えられるので、通常の4〜8ヘルツのゆったりした波である シータ波でも、新生ニューロンを育てることができる。

では、このゆったりしたシータ波はどういった時に発生するかというと、一般的には「夢を見ている時」に発生する。

・ ほかにも、日常生活で簡単に行えるシータ波を出す習慣の一つとして「料理」がある。また、体を動かす運動の 中でも、格闘技はより強いシータ波を発生させる。

・ 日常生活で新生ニューロンを増やす方法として、「恋愛」がある。チル反応を頻繁に感じることができるのが恋愛 中の脳だ。さらに、恋愛はシータ波だけでなく、新生ニューロンを助けるBDNFの分泌量を増やす効果もある。

というのは、恋愛中は性ホルモンの分泌量が増える。この性ホルモンが増えると、新生ニューロンの敵であるストレ スホルモンを抑制するBDNFの分泌量が増えるのだ。BDNFが増えることで海馬の新生ニューロンが育ち、脳が元気になっている。

・ フルーツや野菜、豆類を多く摂取し、肉よりも魚を中心とした食生活である地中海ダイエットは、脳の健康 管理において非常に理にかなった食文化だ。

・ 新生ニューロンの数が多ければ多いほど、記憶する必要がある情報を脳にしっかりと定着させることができる。

・ 新生ニューロンは大人のニューロンに比べ、記憶を保存しやすい。

・ ダイエット中のように軽い空腹感を覚える状態においては、新生ニューロンの成長を助けるBDNFが1.5倍分 泌されるという研究結果があり、カロリーを抑えることで脳細胞が増えやすくなる。

・ 適切なエクササイズの運動レベルは、週に1000キロカロリーを消費する程度のエクササイズだ。




『骨格3分ストレッチ』 久永陽介 幻冬舎 (2006)
鹿児島県生まれ。オアシスグループ代表。日本ジョイレッチ協会(JJA)会長。指圧、鍼灸、カイロプラクティック、柔道 整復、整体の5つのライセンスを取得後、複数のサロン、治療院を経て1996年独立。オリンピック体操選手トレーナーとして 選手の体をケアしていくことから編み出された「関節」を重視した骨格ストレッチを開発。

「簡単!やせる!ゆがみがとれる!」が副題。写真付きで、解説も簡単で、わかりやすい。肩こり、頭痛、腰痛、くびれをつくる、 お腹ぽっこり、バスト・ヒップアップ等、役に立ちそうなストレッチが一杯。

・骨格ストレッチは、ゆっくりとしたリズムと呼吸で、ゆがんでいる骨格を整え、本来あるべき位置に調整することで、関節、 筋肉の柔軟性を高める。




『動的平衡』 福岡伸一 木楽舎 (2009)
『生命はなぜそこに宿るのか』が副題。

『生物と無生物のあいだ』ほどのインパクトはなかったが、文章がうまいので惹き込まれてしまう。面白かった。お勧め。

・ 仮に「五年前にはこんなことがあり、十年前にはあんなことがあったなあ」と思いだすことはできても、それは日記 なり写真なりがあるから、それを手がかりに過去の順番をかろうじて跡づけられるのであって、感覚としては、十年前の ことが五年前のことよりも、より遠い昔のことだという実感を持つことはできない。

逆に五年前のことが十年前よりも新鮮な記憶としてあるという実感も実はない。人は年齢を重ねるごとに時間経過の順に物事 を記憶しているのではなく、実は過去をおぼろげながらにしか想起できはしないのだ。ここに記憶というものの正体がある。

人間の記憶とは、脳のどこかにビデオテープのようなものが古い順に並んでいるのではなく、「想起した瞬間に作り出されて いる何ものか」なのである。つまり過去とは現在のことであり、懐かしいものがあるとすれば、それは過去が懐かしいのでは なく、今、懐かしいという状態にあるにすぎない。

ビビッドなものがあるとすれば、それは過去がビビッドなのではなく、たった今、ビビッドな感覚の中にいるということである。

・ 完全に外界から遮断された場合、30歳の時に自分の体内時計が感じた「一年」は、3歳の時に感じた「一年」より実際の 時間としては長い。それは私たちの「体内時計」の仕組みに起因する。生物の体内時計の正確な分子メカニズムはいまだ完全 には解明されていない。

しかし、細胞分裂のタイミングや分化プログラムなどの時間経過は、すべてタンパク質の分解と合成のサイクルによって コントロールされていることがわかっている。つまりタンパク質の新陳代謝速度が、体内時計の秒針なのである。

そしてもう一つ厳然たる事実は、私たちの新陳代謝速度が加齢とともに確実に遅くなるということである。つまり体内時計 は徐々にゆっくりと回ることになる。

・ タンパク質の代謝回転が遅くなり、その結果、一年の感じ方は徐々に長くなっていく。にもかかわらず、実際の物理的 な時間はいつでも同じスピードで過ぎていく。

だからこそ、自分ではまだ一年なんて経っているとは全然思えない、自分としては半年くらいが経過したかなと思った、 その時には、すでにもう実際の一年が過ぎ去ってしまっているのだ。

つまり、年をとると一年が早く過ぎるのは「分母が大きくなるから」ではない。実際の時間の経過に、自分の生命の回転速度 がついていけていないからだ。

・ 虹のスペクトルは連続していて決して七色に見えないこと、本来、ランダムな文様に様々な人面が見えてしまうこと等は 、人間の脳が勝手にパターンを作っている例証だ。つまり、私たちが今、この目で見ている世界はありのままの自然ではなく、 加工され、デフォルメされているものなのだ。

デフォルメしているのは脳の特殊な操作である。実は、これは視覚だけに限ったことではない。私たちは、本当は無関係なこ とがらの多くに因果関係を付与しがちである。

ことさら差異を強調し、わざと不足を補って観察することが、あるいは、ランダムに推移する自然現象を無理にでも関係づけ ることが、長い進化の途上、生き残る上で有利だったからだ。世界を図式化して、単純化できるから。

・ 私たちは、脳のほんのわずかしか使っていないなどと言われるが、実は、それは世界のありようを「ごく直感的にしか見 ていない」ということと同義語だ。世界は私たちの気がつかない部分で、依然として驚きと美しさに満ちている。

このことから、私たちは重要な箴言を引き出すことができる。「直感に頼るな」ということである。つまり私たちは、直感 が導きやすい誤謬を見直すために、あるいは直感が把握しづらい現象へイマジネーションを届かせるためにこそ、勉強を続 けるべきなのである。それが私たちを自由にするのだ。

・ 窒素には、質量数14の普通の窒素と、質量数15の重窒素がある。食物連鎖の上位者、つまり草食よりも肉食、同じ肉食 でも魚より獣肉というように、上位の肉食者になればなるほど、その者のタンパク質中の重窒素の比率が上昇することが知 られている。

つまり遺跡の人骨のコラーゲンを分析すると、彼らがベジタリアンだったのか、あるいは肉食主義者だったのかが判明する。 同時に、炭素の同位体を分析すれば、ベジタリアンでも野草の採集によってサラダを作っていたのか、それとも穀物倉を持っていたのかがわかる。

・ タンパク質には、元の生命体を構成していたときの情報がぎっしり書き込まれている。ここでいう情報とは、タンパク質 の構造のことである。このタンパク質の構造情報が生命の機能を支えている。タンパク質とは、アミノ酸がいくつも連結した 高分子化合物である。

生体を構成するアミノ酸は20種あり、その組み合わせが「情報」となる。このためタンパク質の種類は数千万種と言われている。 では、タンパク質の摂取、つまり「消化」とはいったい何を意味するのだろうか。

もし、他の生物のタンパク質がそのまま私たちの身体の内部に取り込まれれば、他者の情報は、私たち自身の情報と衝突し、 干渉し合い、さまざまなトラブルが引き起こされる。アレルギー反応やアトピー、あるいは炎症や拒絶反応とは、すべてそ のような生体情報同士のぶつかり合いのことである。

そこで、生命体は口に入れた食物をいったん粉々に分解することによって、そこに内包されていた他者の情報を解体する。 これが消化である。タンパク質は、消化酵素によって、その構成単位つまりアミノ酸にまで分解されてから吸収される。

・ 優れた「脳」、つまり中枢神経系を持った私たちにも、消化管に沿って緻密な末梢神経系が存在している。そして、 脳で情報伝達に関わっている神経ペプチドと呼ばれるホルモンとほとんど同じものが、消化管の神経細胞でも使われてい ることが判明している。

これらの神経ペプチドがいったいなぜこれほど多種類、大量に消化管近傍に存在するのか、そしてそれらが日々、いった い何を司っているのかは未だによく分かっていない。第六感のことを英語では、ガット(gut=消化管)・フィーリングという。

私たちは、もっぱら自分の思惟は脳にあり、脳がすべてをコントロールし、あらゆるリアルな感覚とバーチャルな幻想を 作り出しているように思っているけれど、それは実証されたものではない。

・ 消化管は、私たちの皮膚が内側に入り込んだ中空の構造体であり、ちょうどチクワの穴のようなものなのである。 消化管壁は一種のバリアであり、消化管壁を構成する細胞はたがいに密着して、まるごとのタンパク質がそのまま通過 することを許さない。

つまり他者の情報を保持したタンパク質は身体の「外側」に留め置かれる。そこでタンパク質はアミノ酸にまで分解され、 アミノ酸だけが特別な輸送機構によって消化管壁を通過し、初めて「体内」に入る。体内に入ったアミノ酸は血流に乗っ て全身の細胞に運ばれる。

そして細胞内に取り込まれて新たなタンパク質に再合成され、新たな情報=意味をつむぎだす。つまり生命活動とは、 アミノ酸というアルファベットによる不断のアナグラム=並べ替えであるといってもよい。

新たなタンパク質の合成がある一方で、細胞は自分自身のタンパク質を常に分解して捨て去っている。合成と分解との 動的な平衡状態が「生きている」ということであり、生命とはそのバランスの上に成り立つ「効果」である。

合成と分解との平衡状態を保つことによってのみ、生命は環境に適応するよう自分自身の状態を調節することができる。

・ コラーゲンを食べ物として外部からたくさん摂取すれば、衰えがちな肌の張りを取り戻すことができるだろうか。 答えは端的に否である。食品として摂取されたコラーゲンは消化管内で消化酵素の働きにより、ばらばらのアミノ酸に 消化され吸収される。

コラーゲンはあまり効率よく消化されないタンパク質である。消化できなかった部分は排泄されてしまう。一方、吸収 されたアミノ酸は血液に乗って全身に散らばっていく。そこで新しいタンパク質の合成材料になる。

しかし、コラーゲン由来のアミノ酸は、必ずしも体内のコラーゲンの原料とはならない。むしろほとんどコラーゲンに はならないと言ってよい。

なぜなら、コラーゲンを構成するアミノ酸はグリシン、プロリン、アラニンといった、どこにでもある、ありきたりな アミノ酸であり、あらゆる食品タンパク質から補給される。また、他のアミノ酸を作り替えることによって体内でも合 成できる、つまり非・必須アミノ酸である。

もし、皮膚がコラーゲンを作り出したい時は、皮膚の細胞が血液中のアミノ酸を取り込んで必要量を合成するだけ。 コラーゲン、あるいはそれを低分子化したものをいくら摂っても、それは体内のコラーゲンを補給することにはなりえないのである。

・ 食べ物として摂取したタンパク質が、身体のどこかに届けられ、そこで不足するタンパク質を補う、という考え方 はあまりに素人的な生命観である。それは生物をミクロな部品からなるプラモデルのように捉える。

ある意味でナイーブ過ぎる機械論でもある。タンパク質に限らず、食べ物が保持していた情報は、消化管内でいったん 完膚なきまでに解体されてしまう。

・ 巷間には「コラーゲン配合」の化粧品まで氾濫しているが、コラーゲンが皮膚から吸収されることはありえない。

・ アミノ酸は20種あるが、ヒトにおいてはそのうち9種が必須アミノ酸、11種が非・必須アミノ酸である。必須アミノ酸 とは、動物が自分の体内では製造できないもの、非・必須アミノ酸は体内で製造できるものである。

コラーゲンは非・必須アミノ酸なので、ヒトは体内で製造できる。必須アミノ酸は、種によって異なる。つまりヒトと ネズミでは必須アミノ酸が異なる。そして、それぞれの動物は必須アミノ酸を食物という形で外部から摂取することで 生命を維持している。

したがって、私たちにとって「身体にいい」食べ物とは、必須アミノ酸をバランスよく含んでいる食材ということになる。 身近なところでは鶏卵がその代表と言える。ホール・フーズ(魚なら魚を丸ごと食べること)がよいのも全体としてバラン スがよいという意味である。

トウモロコシは必須アミノ酸がほとんどない。栄養面から言えば、トウモロコシはあまりよい食材とは言えない。

・ 膵臓は人間の臓器のうち、最もタンパク質合成が盛んな臓器である。トリプシン、アミラーゼ、リパーゼといった 消化酵素はみな膵臓が合成している。消化酵素はタンパク質でできている。

膵臓の内部に張り巡らされた細い分泌管に放出された消化酵素液は、やがて太い管に合一され、その管は胃のすぐ下、 十二指腸のあたりに繋がって、消化管の内側に口を開いている。私たちが食物を食べると、ここからドクドクと消化酵 素液が流れ出てくる。

一日当たり60〜70グラム。つまり食べた食品タンパク質とほぼ同量か、それ以上の量の消化酵素が膵臓から消化管内に 放出されているのである。消化管内は、食べた食品タンパク質とこれを解体しようとする消化酵素がほぼ等量、グジャ グジャに混じり合ったカオス状態にある。

そして消化酵素もまたタンパク質なので、最終的に消化酵素は消化酵素自体も消化する。そしてアミノ酸になる。 それらは再び消化管壁から吸収される。消化管内でひとたびアミノ酸にまで分解されると、それはもともと食品タ ンパク質だったのか、消化酵素だったのか見分けはつかない。つまり私たちは食べ物とともに自身をも食べているのだ。

・ 余剰カロリー(インプット)と体重増加(アウトプット)は、生命現象として非線形の関係にある。1000キロカロリー をドカッと食べると100グラムの体脂肪がつく。しかし、その十分の一の100キロカロリーを摂ると、それはただちに体 脂肪10グラム増加とはならない。

インプットが小さい領域では、アウトプットの立ち上がりが低く、おそらく2グラム程度にしかならない。だから、 いっぺんにドカッと食べるよりも、食べる回数を多くして、少しずつ食べる方が体重増加は少なくて済む。

・ お腹がすくというのは、血糖値が下がるということ。逆に言えば、エネルギーの消費が進み、血糖値が低下すると 、空腹感を覚える。私たちは、それに応じて摂食行動を起こす。お腹がいっぱいになり、必要以上のブドウ糖が血中 に存在すると、脂肪細胞はせっせとブドウ糖を取り込む。

これを変換して脂肪に変え、細胞内に蓄える。つまり余分なカロリーが「身につく、体重となる」ということは、摂取し た過剰なエネルギーがブドウ糖として身体をめぐった末に、脂肪に変換されて脂肪細胞の内部に貯蔵された時点をもって完了する。

私たちは長い間、飢餓状態の中を進化してきたおかげで、カロリーのリミッター、つまり満腹中枢の規制が弱い。 それゆえにこそ、私たちはついつい太ってしまうのである。

・ 脂肪細胞は細胞膜によって取り囲まれている。細胞膜は極めて薄い膜だが、強度があり、また、物質をそう 簡単には通過させない。細胞膜が物質のバリアーとなっていることが、細胞を外界と隔て、細胞内に生命環境を 形づくる基本構造を提供しているのである。

ブドウ糖も例外ではなく、細胞膜をそのまま通過することはできない。ブドウ糖が脂肪細胞の外から内へ入るため には、細胞膜を貫通している特殊なトンネルをくぐる必要がある。とりあえず風船に短いマカロニが突き刺さって いるようなイメージを思い浮かべていただきたい。

マカロニの穴を抜けてブドウ糖が細胞内に入る。ただし、このマカロニの穴は一方通行で、細胞の内部から外へと、 ブドウ糖は出ていくことができない。また、ブドウ糖以外の物質はたとえブドウ糖より小さい分子であっても、この 穴を通って出入りすることはできない。

分子の形が穴に合わないのだ。このミクロなマカロニが、脂肪細胞の細胞膜にたくさん突き刺さっていれば、それだ けたくさんのブドウ糖を取り込むことができる。逆にマカロニの数が少なければ、その分、ブドウ糖の取り込み量は少なくなる。

実際、一つの脂肪細胞の細胞膜にどの程度のマカロニが突き刺さっているかは、時と場合によって異なる。マカロニ は普段、脂肪細胞の内部にある格納庫にしまわれているのである。

そして、血液中に余剰のブドウ糖が増えてくると、マカロニは格納庫を出て、一斉に細胞膜に配備される。ブドウ糖 を細胞内に取り込むために。血液中のブドウ糖濃度が下がると、脂肪細胞はそれ以上ブドウ糖を取り込む必要がなく なるので、細胞膜に突き出ていたマカロニは細胞内の貯蔵庫にしまわれる。

結局、脂肪細胞の細胞膜上に存在するマカロニの量が、ブドウ糖の取り込み量を決定することになる。

・ ランゲルハンス島は血液中のブドウ糖の濃度、すなわち血糖値をモニタリングする。もし血液中のブドウ糖が 余剰にあると、ランゲルハンス島は脂肪細胞に向けて号令を発する。マカロニを細胞表面に配備してただちにブドウ糖を回収・蓄積せよ、と。

この号令の実体がインシュリンである。このような「号令をかける」物質はホルモンと呼ばれていて、インシュリ ンはランゲルハンス島から放出されると、血流に乗って全身をめぐり脂肪細胞に到達する。

脂肪細胞の表面にはインシュリンを受け止めるアンテナのような分子がある。インシュリン・レセプターである。 インシュリンはインシュリン・レセプターと特異的に(鍵と鍵穴の関係で)結合し、脂肪細胞に情報を伝える。

この情報をもとに、脂肪細胞内部の格納庫からブドウ糖輸送体(マカロニ)が運び出され、細胞膜上に突き刺さるの である。同じく血流にのってやって来る余分なブドウ糖は、こうして脂肪細胞に取り込まれ、脂肪となってあなた の身体の一部となる。

結局、インシュリンといかにうまく付き合うかが、賢い食べ方につながるということになる。食べ物をドカ食いす ると一挙に血糖値が上昇し、インシュリンが大量に放出される。それが命令となって脂肪細胞はしっかりエネルギーを溜め込む。

逆に、できるだけインシュリンが出ないように「だましだまし」食べることができれば、その分、脂肪細胞が受け取 る命令は少なくなる。つまり太りにくくなる。そんなことが可能か?可能だ。スローな食べ物を選んで、スローに食べればよい。

スローな食べ物とは、よく噛まないといけないもの、消化・吸収がゆっくりと進むものである。

・ グリセミック・インデックス(GI値)は、ブドウ糖をそのまま食べた時を100として、それぞれの食品がどれくらい 血糖値を上げるかを数値化したもの。数値が小さくなるほどスローな食べ物ということができる。

・ 少なくとも普通の食生活をしている日本人であれば、不足する栄養素は一つとしてない。

・ タンパク質は貯蔵できない。なぜならタンパク質(正確に言えばその構成要素であるアミノ酸)の流れ、すなわち 動的平衡こそが「生きている」ということと同義語だからである。

タンパク質の合成と分解のサイクルはとどめることができず、この回転を維持するために、外部から常にタンパク 質の補給をしなければならない。成人の一日あたりのタンパク質所要量は60グラム(乾燥重量)だ。

・ 最近、トリプトファンをサプリメントとして大量に摂取する人々が現れた。トリプトファンから睡眠サイクル と関連するメラトニンが作られることから、トリプトファンが安眠剤、あるいは時差ボケなどの睡眠障害を軽減す るものとして支持を集めているのである。

トリプトファンは生存に不可欠なアミノ酸の一つで、人間はこれを体内で合成することができない。したがってト リプトファンはすべて食事から摂取しなければならない。トリプトファンは体内で変換されて、セロトニンやメラ トニンと呼ばれる、神経活動に必要な物質になる。

セロトニンは情動や気分を作り出す脳内活動に関与し、メラトニンは覚醒と睡眠のサイクルに作用する。またトリプ トファンはビタミンの一つNADの原料でもある。NADはビタミンB群の一つで身体のエネルギー代謝に関係する重要なビタミンだ。

したがって必須アミノ酸トリプトファンが不足することは生命に危険をもたらす。しかし、通常の食生活をしてい る限り、トリプトファン欠乏に陥ることは少なくとも現代の日本人にはありえない。

むしろ最近では、トリプトファンを過剰に摂取することの方がよくないとの観察結果さえある。トリプトファンは 体内で変換されてビタミンNADになる。この過程の中間代謝産物にキノリン酸がある。

NADを作るために、トリプトファンは一旦、キノリン酸という物質に変換され、それからNADに変わる。ところが、 このキノリン酸は強力な毒物なのだ。神経細胞がキノリン酸にさらされると過剰興奮してしまい、その結果、アポ トーシスという自殺プログラムが開始されてしまうのだ。

こうなると神経細胞は死滅する。これはキノリン酸が、グルタミン酸と似ていることに原因がある。グルタミン酸は、 脳の中で興奮性の神経伝達物質として働いている。そして、食べ物として摂取されたグルタミン酸が脳の内部に直接 入らないようなバリアーがある。

キノリン酸は、グルタミン酸に似て非なる物質で、神経細胞表面にあるグルタミン酸を受け取るミクロなレセプター にはまり込んで細胞を過度に興奮させてしまう。もちろん、ただちにキノリン酸を無害な物質に変えてしまう特殊な 酵素が脳内にも、身体のあちこちにも用意されている。

この酵素の名をQPRT(キノリン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ)という。しかしサプリメントとして大量にトリ プトファンを摂取すると、何か特別な原因によってQPRTのレベルが低下する病態も考えられないことではない。

事実、ハンチントン病と呼ばれる、脳細胞が変性して死滅する遺伝病では、脳内のキノリン酸レベルが何らかの原因 で上昇し、その結果、脳細胞がダメージを受けている可能性がある。

・ ES細胞の素晴らしい点は、分化へのプログラムを停止したまま、増殖を限りなく行うことだ。ES細胞を使っ て行おうとしているのは「ある遺伝子の設計図だけは消し去る」ということだ。

細胞分裂する時、遺伝子のコピー作業を邪魔するような物質を振りかけて、「たまたま」特定の場所の遺伝子情報の 消去が成功することに賭けなければならない。つまり、極めて稀にしか起こらないラッキーな偶然を待ち、探すのである。

その確率は100万分の1以下である。しかし、ES細胞は分化せず、かつその状態にある細胞がどんどん増殖を続けて くれる。実験材料になる細胞が何百万個もあるなら、シャーレの中で偶然が起こる確率は低くても、望みどおりの細 胞が一つや二つは誕生する、ということになる。

簡単に言えば、「数撃ちゃ当たる」という方法論が可能になるのである。もちろん、どうやって標的の情報消去に成功 した細胞を探すのかという問題がある。消去した情報の代わりに目印となるマーカーを潜り込ませた。

・ ES細胞は一時停止していたプログラムを再開する能力を持っている。ES細胞はもともと受精卵が分裂を繰り返 し、ある程度、細胞数が増加した胞胚と呼ばれる状態から取り出される。

もし、そのまま胞胚の中の一員として留まっていれば、細胞分化のプログラムは進行し、皮膚とか筋肉とか心臓とか、 何らかの専門細胞になっているはずである。それが胞胚から切り離されたがために、プログラムが一時停止してしまったのである。

では、ES細胞をもう一度、胞胚の中に戻してやればどうだろうか。もちろん、そのES細胞を取り出した元の胞胚 はすでに失われているから、別の胞胚を用意して、細かいガラスのピペットを使って、その胞胚の内部の空間にES 細胞を流し込んでやる。

すると、ES細胞とその周辺細胞は互いに情報交換を行い始める。胞胚にとっては余分なはずのES細胞は、うまく 他の細胞(それも、もともとは別個体の細胞)と折り合いをつけ、全体の中の一員に溶け込むことができる。

つまり、余分なES細胞を途中で注入された胞胚は、余分な部分ができることなく一匹の完全なマウスとなって生まれ 出てくる。後から加えたES細胞は決して余分にはならず、全体の一部となる。

もし、ES細胞を何らかの人為的な刺激によって、自由自在に分化の方向性を決定できれば、それは素晴らしいツール となる。もし、インシュリンを作る細胞ができれば、糖尿病の治療法に使える。神経細胞ができれば、痴呆症の改善に役立つだろう。

つまり再生医療の切り札になりうるのである。ES細胞は全体を作ることはできないが(それは受精卵のみ)、その一部 とはなりうる。だから正確には万能細胞ではなく多機能性細胞と呼ぶべきである。

・ ES細胞にそっくりの特徴を持つ細胞がガン細胞である。ガン細胞はいったんは分化を果たして、生体内での 自分の天命を知った細胞である。身体の一部として、その役割を果たしてきた。

ところが、偶然が重なって、分化の過程を逆戻りし、未分化段階に戻ってしまった。それでいて分裂と増殖をやめることがない。

・ ES細胞は、細胞として扱えばいいので、より汎用性、応用性が高いと考えられる。確かにいろいろな特殊な細胞 に分化できる。しかし、重要なことは、まだ誰も、ES細胞を意図的にコントロールして、任意の専門細胞に分化させ ることに成功してはいない、ということだ。

・ 「ミトコンドリアの細胞共生説」を唱えたのは、ボストン大学の女性科学者リン・マーギュリスだった。彼女は天文 学者カール・セーガンの妻で、セーガンとの間に二児をもうけたが、後に離婚してしまう。

彼女は1967年に『有糸分裂する真核細胞の起源』と題する細胞内共生説の中心となる論文を発表した。それもマイナーな 科学雑誌に。彼女の論文は掲載されるまでに15の学術誌に拒絶されている。現在、マーギュリスの説が定説として受け入れられている。

つまり、真核生物(細胞内に細胞核を有する生物―動物、植物、菌類、原生生物など)はミトコンドリアを体内に取り 込み、共生関係を築き上げることで、より高度な生物へと進化し始めたのである。

植物は、その細胞内にミトコンドリアとともに葉緑体を存在させている。これによって光合成を行い、生存、生長に 必要な炭水化物を合成しているのだが、その葉緑体もミトコンドリア同様、もともとは別の生命体だったものが、よ り大型の細胞に取り込まれて共生するに至ったとされている。

マーギュリスはミトコンドリアがもともと独立した生命体で、それが別の大きな細胞に取り込まれたことの痕跡(二重 の細胞膜)を示した。ミトコンドリアは、より大きな細胞に取り込まれる際、まず、その細胞の体表のくぼみに付着した。

そこは、おそらくミトコンドリアにとって居心地のいい場所だった。生物にとって、外敵から身を守るのは最大の関 心事である。より大きな細胞は、時間の経過とともにミトコンドリアのいる窪みの開口部を狭めていった。

その体表(細胞膜)は巾着状になり、やがて開口部が付着した。こうしてミトコンドリアは細胞内に取り込まれたのだ が、そのまま生存することができた。すると、ミトコンドリアとより大きな細胞との境界には二重の細胞膜が存在することになる。

ミトコンドリアの細胞膜と、より大きな細胞の細胞膜である。マーギュリスはミトコンドリアを包んでいる二重の細胞 膜の存在を共生説の決定的証拠だと言ったのだった。彼女は、最初、異端者扱いされた。しかし、やがて彼女は生物学のヒーローとなった。

・ 卵子と精子が出会って合体する時、精子からはそのDNAだけが卵子の中に入る。精子のミトコンドリアは卵子 に入り込まない。だから新たにできた受精卵の内部のミトコンドリアはすべて卵子由来、つまり母親のものである。

母系由来のミトコンドリアは受精卵の中で分裂し増殖する。そして、それが受精卵の成長とともに各細胞へと分配さ れていく。したがって、ミトコンドリアはすべて母系由来である、ということになる。

そのミトコンドリアの内部には、細胞核内のゲノムDNAとは別に、固有のDNAが存在している。つまり、ミトコン ドリアDNA必ず母親から子に受け継がれ、父親から受け継がれることはない。すると、ミトコンドリアDNAを分析 すれば、その人間の母系の出自をたどることが可能になる。




『日本人の清潔がアブナイ!』 藤田紘一郎 小学館 (2000)
日本人の過度の清潔志向が多くの弊害を生み出していることを実例を紹介しながら、やさしく解説している。お薦め。

・ 日本人の清潔志向が日本を抗菌社会に導いてきた。しかし、今や、この抗菌社会は消臭社会に移ろうとしている。消臭社会 が標的にしているのが、体臭を気にするオジサンたちだ。化粧品大手メーカーが、中高年者の体臭を消すボディシャンプーやロ ーションなどを売り出したところ、大当たり。半年で25億円を売り上げた。

・ 排出されたばかりの「おしっこ」に菌はいない。その意味で「おしっこ」は、この世で最もきれいな物質なのだ。

・ この世で最も汚いところは「口の中」だ。口の中はバイ菌の数も種類も最も多い。

・ 排泄することを非常に恥ずかしがるのは、どうも日本人の特質らしい。「恥ずかしい」の原因には、日本人特有の清潔志向が 関係していると思う。

・ 一人遊びや屋内遊びをしている子供に比べ、泥んこ遊びをしている子供のほうが明らかにアトピー性皮膚炎や喘息が少ない 。

・ 野菜の繊維は最後まで消化されずにうんちに出てくる。しかし、その繊維は余分な栄養素や有害物質を取り除いてくれる。 この野菜の繊維の量で、うんちのボリュームが決まる。そして、うんちを構成している約半分は、我々が食べたものを消化する のに役立っている腸内細菌とその死骸なのだ。腸内細菌は、そのほかビタミンを合成したり、免疫力をつけたりする、人間にと ってとても大切な菌たちだ。外から侵入してきた病原菌なども排除してくれている「共生菌」というわけだ。

・ うんちのあの色は胆汁によってつけられている。胆汁の色素は古くなった赤血球細胞が壊れてできたもので、それに細菌が 加わると、黄色や茶色や緑色に変化する。

・ うんちのにおいは、消化されずに残った食物を結腸にいる細菌類が食べた結果出てきたものだ。結腸にいる細菌類は食物残 滓を食べた結果、インドールとかスカトールとかいわれる化学物質を作り出す。この物質が、あのうんちの匂いのもとになるの だ。

・ 「オジン臭」というにおいは存在しない。ヒトは40歳以降、いわゆる「加齢臭」なるものが出てくる。しかし、これには男女の 性差はない。「オジン臭」も「オバン臭」も同じものなのだ。

・ 俗に「汗くさい」という言葉がよく使われているが、汗の成分は99%が水で、におうのは、汗の中にわずかに含まれている皮 膚の脂肪酸が常在菌によって酸化分解されてできる「イソ吉草酸」などのためだ。

・ 「汗くささ」を予防する方法としてはまず、身体を洗い流して汗や分泌物を皮膚から取り去ること、汗そのものを出させなく すること、皮膚に棲む常在菌の異常な繁殖を抑えること、の三つの方法が基本となる。汗を出させなくするものが制汗剤、皮膚 常在菌を抑え込むのが抗菌剤だ。

・ 発汗は熱発散や感情の高揚時に重要な役割を演じているものだ。皮膚常在菌は病害細菌とたたかって排除し、外からの有害 物質の皮膚内への侵入を阻止して、我々を守ってくれている重要な菌なのだ。これらの重要な働きをしている汗や皮膚常在菌を 、ただ「汗くさい」というだけの理由で、徹底的に抑え込むことが、はたして体によいことなのだろうか。

・ かつて、お父さんやお母さんの匂いはほっとさせる安心感の匂いでもあった。幼児期に祖父母に抱かれた経験があれば、 「加齢臭」は懐かしい思いがして、気にならないはずだ。しかし高齢者が身近にいない環境で育つと、この匂いがかぎ慣れない異 臭に感じられるのかもしれない。
匂いに対する日本人の異常な反応は、新しい市場開拓というコマーシャリズムに後押しされな がら、現代日本の核家族化や都市化の進行とともに起こってきたものと思われる。現代の若者は、年齢や生活習慣の違う多様な 人たちと接する機会が減ってきている。若者を中心に、匂いに対する社会の許容が狭まってきているのも、その辺に理由がある のかもしれない。

・ 口腔内の細菌の代謝産物で硫黄を含んだ揮発性硫化物が口臭の元だ。口臭を防ぐ隠れた方法は、唾液の分泌を促すことだ。

・ 生き物にとって、「におい」は大切な自己主張のサインだ。その匂いを消そうとするのは、自分を見せたくないということ、 消臭でみんな同一化しているのだ。においけしに一生懸命な現代人の傾向に、「個」の行き詰まりを感じる。

・ 人間の皮膚には表皮ブドウ球菌や黄色ブドウ球菌をはじめとする約10種類以上の「皮膚常在菌」というバイ菌がいて、我々の 皮膚を守っている。これらの皮膚常在菌は皮膚の脂肪を餌にして脂肪酸にしている。したがって、正常なヒトの皮膚は「弱酸性」 なのだ。皮膚が酸性であると、外から病原菌が侵入してきてもそれを寄せ付けない仕組みになっているのだ。

・ 一回のお風呂で石鹸を使うと、皮膚の常在菌の90%ぐらいが洗い流されるという。しかし、12時間経過すると、残りの10% の菌が繁殖して元に戻るという。したがって、一日一回、お風呂に入って普通に洗う、ということであれば大丈夫だ。しかし、 強力な洗浄力のあるボディシャンプーを使い、ナイロン性タオルでごしごし洗ったり、一日二回以上お風呂に入ったりすると、 皮膚常在菌がいなくなってしまうというわけだ。

・ 洗いすぎは皮膚常在菌を除いて、皮膚を中性にしているばかりか、皮膚をはがし、アトピー性皮膚炎や乾燥性皮膚炎を発症 させる引き金となる。最近若い人でも冬になると、皮膚がカサカサになり、かゆくて仕方がないと訴える人たちが増えている。

・ 洗いすぎで問題となるのは、薄い膜をはって我々の皮膚を守っている皮膚膜とその下の角質層だ。正常な角質層だと、細胞 が密に手を組んで何層にもわたって存在し、ホコリや、ダニなどアレルギーを引き起こす原因物質や、病原菌などの皮膚深部へ の侵入を防いでいる。
しかし、洗いすぎによって皮膚膜がはがれると、角質層に隙間が生じ、皮膚を組織している細胞がバラバ ラになっていく。皮膚に潤いを与えている水分の多くが蒸発して、皮膚に炎症を起こす。炎症により、かゆみが出てくるという わけだ。

・ 新しい角質層が生まれてから死ぬまで、皮膚はおよそ一ヶ月サイクルで新旧交代を繰り返している。ところが、肌をごしご し洗うことでそのサイクルが狂わされてしまう。デリケートな肌を守るためには、洗いすぎないように自分を意識づけるしかな いだろう。

・ 顔を洗ったときに、突っ張り感を覚えることがある。それは皮脂が取れたことを示す。「これ以上洗ってはダメ」の黄信号だ 。さらに洗うと角質層がはがれ、洗顔後の顔が粉をふいたようになる。この肌に現れた粉のようなものを洗ったり、タオルで拭 いたりして取り除こうとすると、皮膚組織は完全に破壊されてしまう。

・ 最近男性で肌に色素沈着が見られると訴える人も多くなっている。ナイロンタオルや硬毛のボディブラシ、それに洗浄力の 強い石鹸などを使って身体を洗った結果だと思われる。色素沈着は特に、骨が直下にある皮膚に顕著に見られ、一度出るとあざ のようになって残り、なかなか取れない。色素沈着は、皮脂が取れて角質の配列を乱してしまう前段階症状だから注意すべき。

・ 疲れは皮脂の分泌を悪くする。ビタミンB不足や睡眠不足も皮膚の健康によくない。皮膚が元気を取り戻すには午後10時か ら午前2時の間が勝負。この四時間を逃して睡眠をとっても、皮膚は不健康のまま。

・ ニキビ用の洗顔料には吸着効果、つまり肌を乾かす効果がある。これが皮脂を減少させる原因になっている。皮脂は毛穴か ら分泌されるもので、皮膚を薄く覆い、外敵の侵入を防ぐバリアーの役目をしているが、ニキビ用の洗顔料で洗いすぎると皮脂 が減少してドライスキンになってしまう。ドライスキンになると皮膚が過敏になり、ホコリや紫外線、汗による刺激でも湿疹や 炎症の引き金になる。

・ 「顔ダニ」はヒトであれば誰でももっている「共生虫」である。毛穴の奥深く潜んでいて、せっせと皮脂腺から分泌された脂肪 性の分泌物を処理している大切な生き物だ。このダニがいないと、顔の脂肪代謝がうまくいかなくなる。このダニは皮膚常在菌 と同じような働きをしている。化粧品会社の間違った宣伝に騙されないように。

・ 温水洗浄トイレの普及で、若者男性約二割はおしっこをするときでさえも便器に座るようになった。肛門に温水をかけると 気持ちがよいので、その都度温水をかける。そのため肛門周囲の皮膚常在菌が流され、肛門周囲の皮膚が中性となる。そうする と、うんちの中にいたちょっとしたバイ菌でも皮膚に侵入して、炎症を起こす。肛門の洗いすぎは要注意。

・ 女性の膣にはデーデルライン乳酸菌という最近が常在して、膣をきれいに守っている。デーデルライン乳酸菌は膣のグリコ ーゲンを餌にして、乳酸を作っている。したがって正常な膣は「酸性」なのである。酸性なので、膣の中に雑菌が入ってきても増 殖できない。しかし、ビデで膣を洗いすぎると膣のデーデルライン乳酸菌を追い出してしまう。そうすると、膣は「中性」となり 、雑菌がたやすく増殖するようになる。おりものが増えて、嫌なにおいを発するようになる。これが膣炎だ。つまり、洗いすぎ ると「汚くなる」のだ。

・ 毛穴から皮脂と汗の一部が分泌されており、強力な治療で毛穴が破壊されると、皮脂が減り、皮膚がカサカサに乾いて老化 が進む可能性がある。永久脱毛処理はいかがなものか。

・ 日本社会全体は「触れ合う」ことを捨ててきたようだ。20世紀の科学技術は、この「触れ合う」という原始的な触角を切り捨て る形で発展してきた。テレビやインターネットを通じて情報はあふれているが、触れ合いは失われてきたのだ。

・ 我々は母親の胎内で柔らかな羊水に包まれて成長する。やがて生まれると、母親の胸に抱かれ、心臓の拍動を聞く。肌と肌 の触れ合いによって最初の絆ができる。触覚は人の最初の感覚といえる。

・ 触れ合うことの大切さを忘れてはいけない。都会の便利な生活は刺激的だが、ストレスも多い。柔らかでやさしい触れ合い はますます大切になるだろう。

・ 乳幼児の13%が食物アレルギーだそうだ。三歳児で8.6%、小学一年生で7.4%、小学五年生で6.2%、中学生で6.3%の割で 食物アレルギーになっており、成人でも9.3%という高率で食物アレルギーになっている。

・ 食物アレルギーの28.2%が卵、ついで牛乳の22.4%、米の21.6%、小麦の20.4%、大豆14.4%、ソバ4.2%、エビ3.2%、 ピーナッツ2.4%の順だ。

・ 遺伝的な体質を持った子供に母乳を与えないで育てると、食物に反応する子供ができる。この子供たちは食物アレルギーに なる予備軍で、ほとんどが自然に治るが、この時期にダニなどの抗原にさらされると、食物アレルギーになる。

・ アトピー性皮膚炎の遺伝的な体質を持った子供には母乳をたっぷり与え、離乳を遅くすればよい。

・ 健康な腸内細菌叢をもっている人の腸では、病原菌が増殖しにくい。



『原始人健康学』 藤田絋一郎 新潮選書 (1997)
家畜化した日本人への提言というサブタイトルで、日本人の清潔ばかりを求める健康信仰は錯覚にすぎず、「家畜」としてしか生きられなくなった。思い切って原始人に戻すべきという主張。

・ 旧東ドイツの子供達は、旧西ドイツの子供達に比べて、カイチュウなどの寄生虫により多くの割合で感染しており、その結果血清lgE値が上昇し、そのことが花粉症やアトピーーなどのアレルギー症状を抑えていた。

・ 健康な人の大腸には常に四種類ぐらいの大腸菌が見つかる。しかし、必ず優先種というのが一種類あって、その他の大腸菌は週単位で入れ代わっている。O−157はたまたま赤痢菌と共生していたウイルスと親密な関係を結んだ。O−157は「顔型」が赤痢菌の毒素産生を促すウイルスと結合するように変形した為である。そしてO−157はそのウイルスを自分の菌の中に隠し、牛などの家畜の腸の中で静かに暮らしていたらしい。しかし、この大腸菌は文明人のお腹の中に入ると、隠していた赤痢菌産生ウイルスを菌体外に出すようになったのである。しかし、O−157はもともとヒトと共生している大腸菌の仲間である。だから、もしヒトが腸の中に他の大腸菌をたくさん飼っている場合には、例えO−157が侵入してきても、そう簡単には増殖させて
もらえない。

・ すべての寄生虫が人にlgE抗体を産生させている。しかも、寄生虫などの抗原とは結合しない非特異的なlgE抗体がたくさんヒトの体内に産生。

・ スギ花粉を人が吸い込むと、ヒトは異物であるすぎ花粉に対してlgE抗体を作るようになる。このlgE抗体とすぎ花粉結合体が鼻の粘膜にある肥満細胞の表面に付着すると、これが「攻撃命令」となって、肥満細胞の中のヒスタミンやセロトニン等の化学物質をいっせいに放出させる。それが鼻の粘膜の組織を傷害し、花粉症をおこす。

・ 肥満細胞とは、ヒスタミンやセロトニンなどの化学物質をお腹一杯に詰め込んで丸々と肥った細胞で、鼻の粘膜の他、眼の結膜、気管支の粘膜、皮下等からだのあらゆる所に存在する。肥満細胞が「破裂」する場所によって、花粉症や気管支喘息やアトピー性皮膚炎などのアレルギー病となって現れることになる。

・ ひとが寄生虫に感染すると、ヒトの体内には「肥満細胞に攻撃命令を出さない」種類のlgE抗体が多量に作られる。この抗体が肥満細胞の表面にアンテナのように付着してしてしまう。だから、すぎ花粉の抗原がヒトの体内に侵入してきても、肥満細胞に付着する場所がない。肥満細胞は破裂することがないから、アレルギー反応は起こらない。

・ 笑いは、口に入った有害なものを吐き出そうとする動作から起こったと言う。(志水彰大阪外国語大学教授「ヒトはなぜ笑うのか」講談社)。物を吐き出そうとする時、哺乳動物は口を横に広げて口角を後ろに引き、歯をだし、舌を突き出す。このとき高い叫び声をあげることが多いが、それは、有害な物が吸い込まれないようにする為だと言う。これが、進化した霊長類では、危険の
伝達、さらには攻撃してくる相手に対して、親しみを示すための表現に発展。さらにひとでは「免疫のバランス」を正常にする働きがあることが最近分かった。

・ 「いじめ」の原因は最近の日本人の「笑い」の中にある。少し前の日本人の笑いには、人生の機微からなる「あ、オレもやった、やった」といったような、自己に置き換えた共感の笑いがあった。ところが、今、私たちの「笑い」は、弱者の人格を辱めて笑う種類の物だ。この種の笑いには、少し前の日本人なら全員気分を悪くしたはずだが、現在の私たちにはその感覚を失っている。


『空飛ぶ寄生虫』 藤田絋一郎 講談社 (1996)
・ 西郷隆盛はバンクロフト糸状虫症にかかっていた。(フィラリア)症状としては陰嚢水腫や下肢象皮。バンクロフト糸状虫は人の鼠径部や精索のリンパ管に寄生。この虫がリンパ管を閉塞すると、リンパ液のうっ滞が起こり、リンパ管瘤を生じてくる。やがてそのリンパ管瘤は破れ、リンパ液は流出し、陰嚢にたまって陰嚢水腫となり、膀胱に入ると乳び尿となる。また、うっ滞したリン
パ液は皮下組織に浸透し、それが慢性的な刺激となり、皮下組織が増殖する。長年の間に皮膚が肥厚し、ゾウの皮膚のようになる。西郷は巨大な陰嚢を持っていたことにより、首を切られた死体でも身元が分かった。九州の風土病として多かった。

・ 農林水産省の検疫所は、家畜伝染病予防法に基づいて牛や羊を検疫するが、野生動物は家畜ではないので一切の検疫なしに輸入できる。また野生動物は税関で、物品として扱われているのでトンで輸入量を表示。

・ マラリアの感染者は世界に8億人、年間死亡者150万人。1960年代から後半から、薬剤耐性の原虫とDDT耐性の蚊が出現し、マラリアの根絶計画は暗礁に乗り上げた。現在も年々悪化。

・ ツエツエバエに刺され、トリパノソーマ原虫がリンパ節に侵入すると、リンパ節が腫れて、発熱し、やがて肝臓も腫れてくる。原虫が中枢神経系に侵入する時期になると、頭痛が起こり、やがて意識が混濁してきて、嗜眠状態になり、全身が衰弱して死亡する。この眠り病には、人以外に牛、羊などの家畜がかかる。広く中央アフリカから東アフリカにかけて流行しており、このため
家畜の飼育が大きく制約されており、飢餓の原因の一つとなっている。

・ 蚊はO型の血が好きという研究報告あり。

・ 現在地球の温暖化が危惧されているが、気温が三度上昇すると、いまは主に熱帯地域で発生している、マラリアやデング熱、黄熱、ウイルス性脳炎、フィラリア等の伝染病が、中緯度地域まで広がることが予測される。

・ 久留米大学医学部の江下優樹博士は、ローヤル・ゼリーを砂糖水に加えた液を準備して、それを脱脂綿に含ませ、蚊に吸わせた。そうすると、蚊は無吸血で卵を産んだ。蚊が人を吸血しないようになれば、マラリア、フィラリア、デング熱などの病気は世界からなくなる。

・ ヒトはTh1とTh2という二種類の「免疫状態」を持っている。そして普通の状態では、それらが平衡状態になっている。ところが、ヒトがフィラリアのような多細胞の寄生虫に感染すると、IL−4(生体内免疫活性物質の一種、インターロイキン4)の増加によって、Th1とTh2の平衡状態が崩れ、Th2優位の状態になる。ところで、マラリアにかかってヒトが死亡するのは、マラリア感染でTh1優位になった人の脳内毛細血管に、「接着分子(細胞接着に関係する糖蛋白質)」が増加し、これにマラリア原虫が付着して血管を詰まらせ、ヒトを死亡させるというのがストーリー。だからフィラリアに感染した人はTh2優位になるので、マラリアにかかってもTh1優位の状態には戻れない。だからヒトの脳の毛細血管には接着分子が出来ない。マラリアは脳の血管を詰まらせることが出来ない。よって死なないですむ。

・ マラリアの薬や予防薬は、マラリアがヒトの赤血球の中に入った状態の時だけ効果を発揮する。しかし、マラリアが肝臓内にいるときには効かない。つまり、感染防止薬ではなく、単なる発熱阻止剤にすぎない。だから、マラリア予防薬はマラリア流行地滞在中と、そこを離れてから四週間は飲み続けなければならない。マラリアの体内侵入から血液中に出てくるのに二週間から四週間かかるため。

・ 宿主に対して破壊的に振る舞う病原体は、出現したばかりの新参者、いわゆる成り上がりものであって、それはしだいに宿主にとって無害になっていき、さらに宿主と共生する方向へと進化する。と考える学者が増えてきた。

・ たとえば、細菌性赤痢やコレラの病毒性は、明治時代に比べ、現在は大変弱くなっている。細菌自体がヒトに適合し、病害性を少なくする方向に進化している。

・ 1982年、ハミルトンとズックという動物行動学を専攻する二人の学者が「パラサイト仮説」を発表。これは、ヒトを含むあらゆる動物は、寄生虫により進化させられたのだと説く。雌鳥は、外見(トサカや羽の色艶のよさ)を手掛かりに寄生虫に抵抗性のある雄鳥を選んでいる。

・ 皮膚に付着している細菌のほとんどは、黄色ブドウ球菌等の皮膚常在菌といわれるもので、「皮膚の保護膜」として働いている。抗菌商品に含まれている抗菌剤によって、皮膚常在菌まで殺され、カビ類など、本当の病原体に感染してしまうことになる。

・ 女性の膣には、レーデルライン乳酸菌が常在していて、膣内を酸性に保ち、病原体の増殖を阻止している。原虫のトリコモナスが感染すると、膣内のグリコーゲンを横取りし、そのためレーデルライン乳酸菌が減少する。その結果、雑菌が侵入し、膣炎を起こす。

・ このように、からだによい菌はヒトのからだのどこにもあって、ヒトの健康保持に重要な役割を果たしている。それを、抗菌グッズによって、ことごとく殺してしまっているのだから、抗菌剤がからだによいわけがない。

・ 彼の私見では、O−157が出現した理由の一つは抗生物質の乱用と抗菌グッズの氾濫である。これらの乱用や氾濫によって、本来、共生菌である大腸菌は生きられなくなった。大腸菌は何とか生き延びようとして「赤痢菌の仮面」をかぶって、牛や豚の腸管に逃げ込んだのではないか。その証拠としては、このO−157は抗生物質を多量に使ったり、消毒剤が氾濫している先進国のみにしか見られない。

・ 食べ物についている大腸菌は酸に弱い。乳酸菌は、食べ物から入った糖類を分解して乳酸発酵を行う。この乳酸が腸内のPHを低下させ、酸性を強くし、大腸菌などの増殖を抑える。その結果、下痢、腸炎などの発症を防ぐ。

・ ヨーロッパでは「自然に湧き出た水」をミネラルウォーターをいい、その水を日本のように殺菌した場合、もはやミネラルウォーターとは呼ばない。だから、日本国内でミネラルウォーターに細菌類が含まれているから販売が許されないというのはおかしい。

・ 日本の水道法による水質基準は「飲料水中に大腸菌類を検出してはならない」とされる。一方、アメリカやヨーロッパの水質基準は、「飲料水中の大腸菌群の混入は100回検査して5回以内なら許される」と緩い。日本の清潔という常識は世界とかけ離れている。

・ 日本の無菌化と少子化による単純ヘルペスやEBウイルスに外国で感染する人が増えてきた。

・ デング熱ウイルスを伝播するヒトスジシマカは、日本にも多数棲息しているのでこのウイルスが日本に持ち込まれると流行が拡大する可能性がある。

・ デング熱ウイルスには有効な薬がなく、ワクチンも開発されていない。この病気にかかったら対症療法しかない。

・ デング熱ウイルスに二度かかった場合には、出血性のデング熱になる可能性がある。


『本物の力』 船井幸雄 若山敏弘 徳間書店 (1998)
超念力と未病を実証するというサブタイトル。
1940年ピョンヤン生まれ。46年日本に引き上げる。名古屋の中和理療専門学校卒業。指圧・マッサージ免許取得。66年岐阜市にて開院。有名スポーツ選手らのトレーナー兼マッサージ師として活躍するが、85年期するところがあって台湾へわたり、太極拳、気功術を修行。92年帰国後、東京浅草橋に開院、現在に至る。FAX 03-3851-9577

・ 社会を幸せにし、家族を幸せにし、自分を幸せにする成功。それは、こだわりのない、力を抜いた生き方からしか、出てこない。

・ 「超ひも理論」の「影の世界」について補足すると、「実の世界」と「影の世界」は重なっている。オーバーラップしていて、パラレルワールドになっている。まず宇宙誕生のビッグバンが起こる。しばらくたって地球上にいろんな力が出てきた。そのさまざまな力は、重力を除いて、二つに分かれ、二つの世界が出来上がった。その二つの世界が「実の世界」と「影の世界」であり、重力だけはその二つの世界に共通している。

・ 「影の世界」で確たるものができてしまえば、それは「実の世界」に入ってくる可能性が強い。そのためにも「影の世界」で確たるものをつくらねばならない。その時に大切なのはイメージ。イメージ力で確たるものをつくりあげればいい。

・ 仙骨は重要な部分。太極拳は仙骨を重視した武術。体のほぼ中心にある仙骨の動きは手や足と密接に結びついている。仙骨を回すと、手や足に伝わり、連動した動作になる。

・ 足腰の筋肉の中でも重要なのが大腿四頭筋。大腿四頭筋をしっかり鍛えれば、だいたいの病気は治る。しかも大腿四頭筋を刺激すると、脳からドーパミン、エンドルフィン、副腎皮質ホルモンが分泌される。

・ 病気というものは、何かが不足するのではなく、過剰になったために起こることのほうが多い。

・ 病気とは、本来過剰エネルギーにより<気>が滞り固まったもの。そのため、さまざまな凝りや障害を取り除き、<気>が勢いよく流れるようにしてあげれば、だいたいのものは治る。

・ 脳を覚醒させる二つの方法:鼻腔振動呼吸術、大腿筋ストレス法

・ 鼻腔振動呼吸術:正座か、ソファに座る。背骨はまっすぐになるように座る。脳を覚醒させるための呼吸は、呼気と吸気を途切れさせない呼吸です。吐いて吸って、吐いて吸ってというように、呼吸を止めることなく繰り返す。そのような呼吸を、鼻腔の奥のところを振動させるようにして行うと、やがて鼻腔と脳幹が接する部分が振動し始める。すると、その振動が脳幹にも伝わり、脳幹が活性化する。以上のような呼吸を5-6分続けると、手や足が温かくなってくる。そうして、心地よさが全身を包むようになる。一日に数回、この呼吸法を行えば、幸福感が選られるようになる。その幸福感が、体内を良いバランスに保つ。

・ 大腿筋ストレス法:食事は一時間前には済ませておくこと。睡眠不足、下痢、風邪のときはこの訓練をしないこと。週に二、三回。両足を45センチくらい離して立つ。重心は両親指の根元にかける。太股(大腿筋)以外には力を入れないようにするのがポイント。もう一つのポイントはこの時腰をそらさないようにすること。腰をそらすと、エネルギーがスムーズに流れなくなる。次に、膝を屈しながら息を吐き出す。立ち上がったときに息を吸う。息を吐き出すときには腕を前に突き出す。そうして舟をこぐように動かす。これを100回繰り返す。まだ大丈夫ならあと100回。少しきついなと思うぐらいまでやる。次に膝を曲げて立つ。この時、腕はぶらりとし、全身の状態を感じ取るようにする。そうすると、筋肉が呼吸の邪魔をしていたり、関節が体の動きに枠をはめていたことをはっきりと感じるはず。そうしてひたすら立っていると体がぽかぽかしてくる。汗もじっとり出てくる。そこで、意識的にもっと筋肉をゆるめ、関節を十分に開いてやると、熱い〈気〉の流れが両腕、両足、背中、腹部に入ってくるのを感じることができる。その時口の中には唾液があふれてくる。その唾液はとても甘い味がする。やがて全身に震えが出てくる。その震えを私は霊動と呼んでいる。霊動が起こっているときは、変性意識に入っていると考えてよい。その事によりA−10神経が働き出す。

・ 自分を若いと思うことで自律神経が活性化され、NK細胞も活性化される。免疫力が高まる。




『船井幸雄と「本物人」たちPart2』共生社会と企業経営 船井幸雄編 ビジネス社 (1996)

未来食:穀物とその地域で取れる野菜・野草と海草と塩だけで、私たちが「食べたい」と思う世界のいかなる料理も作ってしまう創作料理風(FU):江戸川橋にある未来食のランチレストラン 03―3269―0833

らでっしゅぼーや運動:高見裕一と徳江倫明が作った有機農産物を直接宅配するシステム会員20数万人、年商50億円

カランドリエ:3月に吉祥寺にオープンしたオーガニックカフェ モロゾフとらでっしゅぼーやが共同して国産の安心できる材料を使ったケーキ、フルーツのカフェ

桜沢如一:1893―1966マクロビオティックという食事法によって健康指導を行い、癌などの難病を回復させた実績を持つ。東西の医学を研究し、さらに日本の伝統的な食生活と東洋的宇宙観を加味させた19世紀末の軍医、石塚左玄の食養法を核とする。「身土不ニ」自らの住んでいる土地のものを食べるのが最善




『早起きは自分を賢くする!』 船井幸雄編 三笠書房 (1996)
早起きをして時間が有効に使え、積極人間になった例がたくさん紹介されていたが、これからの時代には合わないのでは。早起きはいいけれども、時間、時間、とあくせく動きまわるのはどうか。
もっとのんびりと、起きたい時に起き眠くなったら寝る。これでいいのでは。それからもっとボーっとする時間を持ったほうが良いと思う。つまらないし、役に立たなかった。

・ 人間の体温は午前三時か四時頃に最も低くなり、午後二時頃が最も高くなる。体温が上昇すれば、人間の脳内の温度も上昇する。脳内の温度が上昇すると、新陳代謝が活発になるので、脳の働きもよくなってくる。

・ 早起きを長続きさせるコツは、早起きするための明確な長期的目的を持つこと。




『百匹目の猿現象は右脳から』船井幸雄、七田眞 KKベストセラーズ (1996)
・ 右脳の特徴
1. 右脳は自立性を持ち、独自の想像力を自由に働かせ思考し、クリエイティブにイメージ化する。

2. 右脳は素晴らしいストーリーテラーである。

3. 右脳は何でも創造できる創造工房である。右脳を使ってイメージ化したことが現実の世界に現れる。

4. 右脳のもっとも大きな特徴は創造性である。

左脳にはない右脳の特別な機能
1. 共振共鳴機能:万物が発する波動と共振する機能

2. イメージ変換機能:波動と共振して、それをイメージ化して見る力。さらに独自の創造力を自由に駆使してクリエイティブにイメージ化する機能

3. 高速大量記憶機能:人目見たものを写真に写すように記憶に収めてしまう。

4. 高速自動処理機能:

・ 爬虫類型の脳である最深部の脳幹には、テレパシーを媒体とする第一情報チャンネルが働く。原始哺乳類型の脳である大脳辺縁系には、イメージを媒体とする第二情報チャンネルが働く。新哺乳類型の脳である大脳新皮質は左脳と右脳に分かれているが、左脳に言語を媒体とする第三情報チャンネルが働き、右脳には下位層の脳のイメージ回路、テレパシー回路とつながっている。

・ 人間の頭脳は脳幹から辺縁系、新皮質へ(新皮質は右脳から左脳へ)と全身的に機能が移って行き、それぞれのシステムに働く機能が異なる。それぞれのシステムには機能の独立性を保ち、システム間に他の機能との混乱を起こさないための強固な防衛機構が働いている。つまり、大人になるにしたがい使えなくなる脳の97パーセントの潜在意識領域へ、情報を送り込む方法をいか
にして見出すかがポイント。防衛機構のしくみとそれを超える方法を開発することが、これからの潜在能力開発の課題。

・ 間脳は全ての中枢を支配している総司令部で、ここにはあらゆる神経が集中しており、大脳新皮質もまた間脳に統御されている。カナダの脳外科医のペンフィールドは、間脳には心を発現させるしくみ(最高位の脳機構)と、機械的コンピュータ装置(自動的な感覚と運動の機構)が互いに影響しながら、独立して存在しているという。

1.間脳にこそ、心・意識の働きの源がある。

2. 言語機能についても、間脳から発したインパルスが新皮質の言語領域を迂回して再び間脳に戻ってくることが明らかになっている。つまり言語を生む心の働きは、間脳から発現する。

3. 間脳はESPの受発信基地。間脳は宇宙にアクセスするサイ情報回路の開け口で、間脳が目覚めるとサイ情報を取り入れることが可能。

4. ホルモンは間脳で分泌される。病気を治すには、間脳に正しく情報を送り込めばよい。

5. 間脳は強力にイメージしたことを現実化していく。

6. サイコ・サイバネティクス(心の自動制御装置)の働きをする。間脳に情報を入れると、間脳は入れられた指示通り、その目標に向かって自分で舵取りをして進む。アメリカの整形外科医マクセル・マルツは、1960年にサイコ・サイバネティクスを著す。

・ 爬虫類型の脳と原始哺乳類型の脳には、思考パターンが生まれつき遺伝的にプログラミングされている。爬虫類型の脳と原始哺乳類型の脳の働きは、右脳に出る。つまり、右脳の機能は生まれつきプログラミングされた機能である。

・ 新哺乳類型の脳、つまり大脳新皮質には生まれた時は情報がプログラミングされておらず、まったくの白紙。

・ 左脳と下位層の脳をつなぐ神経伝達回路は結び付きがゆるく、左脳は下位層の脳の機能から独立して働き、右脳の働きや下位層の脳の働きを大きく抑えこんでしまう。

・ セロトニンは松果体で生成され、知的な発達(知識)を抑制し(つまり左脳の発達を抑え)、知性(右脳)を増大する働きがある。人類とサルは他のいかなる種よりも多量のセロトニンを有する。つまり、人間の潜在能力にはセロトニンが大きく関っている。

・ 第三の目(松果体)を開くには、
@深い瞑想に入ってアルファ波の状態が保てるようにする、
A皮膚視覚を訓練する。

・ 人間は本来、コンティンジェント・システム(ワトソンが名付けた遺伝子プログラムを打ち破るシステム)を働かせる力を内在している。このシステムは、純粋意識の場で発動する。過去から自分を通して未来の孫へと、遺伝子の鎖で繋がれた因果律を超えることができるパワー。

・ オーラ視で右脳の感性を高める ― オーラ視の方法
1. 非反射性の色紙の黒い紙を背景にし、その上に手をかざして見る。まず瞑想をして心を落ち着け、目を開けてから手を熱くなるほどこする。両手の指先をくっつけ、少しずつ間を開いたり閉じたり、また指先を動かしてみる。

2. 両手の指と指を接近させ、目を細めてその中間を見(まばたきはしないこと)、焦点をそれより少し先に置く。手を動かしてみる。

3. 毎日15分、欠かさず三ヶ月間続ける。その間、毎回記録をとる。

・ 高速大量インプットで右脳を活性化させる
速いスピードで情報をインプットするには、速視、速聴、速読をするとよい。左脳は入ってくる情報を言語化するが、速いスピードで情報を入力すれば左脳は言語化が追い付かず、イメージで処理する右脳に働きを任せる。右脳が高速リズムで働く頭だから。

・ イメージで記憶する力を育てる イメージ記憶はいつまでも消えにくい

・ 瞑想・呼吸・暗示・イメージによってシータ波に導く

・ 松果体のホルモン(メラトニン)がイメージを見させる

・ イメージを見るために知っておくべきこと

・ 誰でもはっきりとイメージを見る能力が脳に組み込まれている。それは生理的機構である。

・ イメージが見えないと思わないこと。見えないという意識がイメージを見ることを妨げる。

・ イメージを見るためには、自分がイメージを見ている姿を想像する。

・ 誘導暗示によってトレーニングをするのが楽。それは大脳誘導の法則が働くから。

・ 呼吸と心身の弛緩によってリラックスを深めるとイメージが見やすくなる。

・ 呼吸法にはリラックス呼吸法とイメージ呼吸法の二つがある。

・ リラックス呼吸法 
床に横たわり、目を閉じ、心を落ち着けましょう。最初に予備呼吸を行います。両手を下腹に当て、息をすーッと吐きながら、腹の皮が背中にくっつくくらい、息を吐いて、すっかり息を吐き切りましょう。これを8秒かけて行います。このとき、体中の邪気が抜けてすっかりリラックスするとイメージします。
次にすっと息を吸い込み、腹を極限までふくらませましょう(8秒かけて行う)。このとき、新鮮なエネルギーが頭のてっぺんから入ってきて、細胞が活性化されるとイメージします。これを3―5分、時間をかけてゆっくり行いましょう。
この効果は自律神経中の副交感神経を活性化し、心身をリラックスさせます。この呼吸では普通の三倍以上の酸素を頭に供給することができ、ゆっくりと呼吸するのでとても心が安定する。するとイライラがなくなり、脳波はアルファ波、シータ波が出やすくなります。




『頭痛の話』 古井倫士 中公新書 (2005)
ふるい・ともお:1948年愛知県生まれ。1974年、名古屋大学医学部卒業。1978年、名古屋大学大学院医学研究科修了(医学博士)。 1983〜84年、MayoClinic脳神経外科に留学。名城病院脳神経外科部長などを経て、現在、古井脳神経外科院長。専攻、脳神経外科学。

『片頭痛から遺伝子異常まで』が副題。頭痛の仕組みから頭痛の種類や症状をわかりやすく解説している。でも内容は退屈。

・ 頭部を構成する組織のうち、痛みを感じるのは、次の五つ。

1. 頭皮および頭皮下の筋肉

2. 頭蓋骨の内側にあって脳を包んでいる硬膜

3. 頭皮や脳内に分布している血管のうち比較的太いもの

4. 脳幹(脳と脊髄の間の部分で、上部から中脳、橋、延髄)と頭部や顔面の組織とを結ぶ12対の脳神経のうち、三叉神経、 舌咽(ぜついん)神経、顔面神経、迷走神経の4対

5. 脊髄と末梢を連絡する脊髄神経のうち頸部にある頸神経

・ 頭痛は必ずしも異常の起こっている場所と一致して出現するとはかぎらない。たとえば、頭痛の原因が脳内の動脈や 硬膜にある場合でも、眼の奥あるいは前額部や後頭部に痛みを感じることがある。

頭蓋の内でも外でも痛みの信号を伝えるのは同じ三叉神経か頚神経なので、頭蓋内に原因があっても頭蓋外の神経が刺激 されたと、勘違いするからである。三叉神経脊髄路核は上端を橋(きょう)におき、下端は頸神経の入る脊髄後角まで細長く伸びた構造をとる。

このため、三叉神経を通じて伝わってくる信号は誤って頸神経からきたと認識されることがある。頭部の頭痛が頸部に 拡がったり、これと逆であったりするのはこのためである。また、三叉神経脊髄路核に入る三叉神経には顔面神経、 舌咽神経、迷走神経の知覚枝も合流するので、頭痛がそれらの神経の分布する耳や咽喉の痛みを伴うようなこともある。

この逆の現象も知られている。氷やアイスクリームを一度に多量に口にして、前額部やこめかみ、ときには耳のあたり まで痛くなった経験があると思う。これは咽頭が急に冷えるのが原因で、頭痛として感じられるのは舌咽神経への刺激 が三叉神経や迷走神経に対するものとしても認識されるからである。

・ 締め付けられるようだとか、帽子を被っているようだとか表現されるのは頭蓋周囲の筋肉が収縮するためである。

・ 激しい運動時、酸素消費の増加に伴って血液中の二酸化炭素濃度が上昇すると、脳血液量を増加させるべく脳内の動脈 は拡張する。拡張の度合いが大きいと頭痛が起こることになる。

つまり、スポーツ頭痛のひとつは酸素不足による血管性の頭痛である。高山病やダイバーの経験する頭痛のメカニズムも基本的にこれと同じである。

・ クモ膜下出血が起こると、脳脊髄液に混入した血液に含まれるいろいろな化学物質が硬膜、比較的太い血管、頭蓋底 に位置する脳神経などを刺激することになり、突如として激しい頭痛が起こる。

青天の霹靂で、後頭部を金槌で殴られたようだと表現されたりする。嘔吐を伴うことが多く、多少なりとも意識が低下する ので、たいていの場合は尋常な頭痛でないことが分かる。

しかし、出血がごく微量に止まると、ほんの軽い頭痛が出現するだけで、専門外の医師が風邪のせいだと診断してしまう場合 もある。脳動脈瘤破裂に対して手術を受けた患者の三分の一は、はっきりしたクモ膜下出血が起こる前の二か月以内に、 このような軽い頭痛を経験することがわかっている。

この段階で脳動脈瘤の存在を察知できれば、死亡したり重い障害に見舞われることなく治療を受けられる。突然これまでにない 頭痛を経験した時には、その軽重にかかわらず思い切って専門医を受診するのがよい。

・ クモ膜下出血を起こすと頸部硬直、つまり頸を前屈させると抵抗するように頸が硬くなる徴候がみられる。出血によって 頸神経が刺激されて、その支配する筋肉の緊張が高まるからである。また、出血から数時間を経て腰痛の出現してくることもある。

血液の混入した髄液が脊髄周辺のクモ膜下腔を腰部まで下降して流れるため、腰神経が刺激されるからである。出血源とな る動脈瘤が特殊な部位にあると、眼瞼下垂といって片方のまぶたが下がって眼を開けられなくなることもある。

・ 脳の奥深くに分布する細い動脈が破れて脳実質内に出血する病気で、高血圧に合併して起こることが多いところから 高血圧性脳出血とも呼ばれる。脳出血も頭痛の原因になるが、クモ膜下出血とは異なって、症状が頭痛や嘔吐のみということはまずない。

血腫が小さい場合にはそのようなこともあるが、ほとんどは頭痛と同時に意識が低下したり、片麻痺が出現する。片麻痺 がなくても、知覚鈍麻や知覚異常が認められたりする。視野欠損や構音障害の認められることもある。したがって、頭痛 だけなら脳出血の可能性は少ないと考えてよい。




『統合医療でガンを防ぐ、ガンを治す』 星野泰三 角川oneテーマ21(2005)
医学博士、統合医療ビレッジ理事長(東京・京都)、プルミエールクリニック院長、日本統合医療学会発起人。1960年東京都 生まれ。88年、東京医科大学卒業。同大学大学院で腫瘍免疫を研究後、米国国立衛生研究所(NIH)にてガン遺伝子治療を 研究。東京医科大学病院講師を経て、2002年、ガンやアレルギー疾患などの免疫治療を行うプルミエールクリニック院長に 就任。03年、患者の症状によってテーラー・メイド医療を組み立てる統合医療ビレッジを設立する。

ガンについての基礎知識、新しいガン治療法である統合医療についてわかりやすく解説。

・ ガンの治療には、第一にガンを減量する抗腫瘍力、第二に免疫力を高める基礎体力の回復、第三に環境を改善する精神面 のケアが必要不可欠だ。第一の要素を満たす抗癌剤・放射線治療・手術療法といった三大療法には、この第二、第三の要素が欠如している。

三大療法とその欠点をカバーする補完代替医療の協調こそが、これからのガン治療の最大のテーマであると思う。そこで誕生 したのが、私の提唱する統合医療的ガン治療だ。これは西洋医学から代替医療まで、全ての医学体系を集積し、次に解体して 平等な状態にしてから、シンプルに再構築したもの。

患者の訴える症状だけでなく、もっと患者の全体―生活習慣から食生活、精神状態にまで目を向け、患者一人一人の考え方ま で含めて個人差を重視し、その人の病気にとって最適な医療を見つけて提供する。現代医療と東洋医学の利点をただ加算した だけの東西融合療法や中西結合医療、さまざまな療法の寄せ集めから“いいとこ取り”した療法とも異なる、全く新しい医療体系だ。

・ ガンの中でも、肺ガンと並んで治療の難しいのが膵臓ガンだ。自覚症状がないため早期発見が困難であり、自覚症状があ った時にはすでに手遅れというケースが多い。

・ 基本的には西洋医学のエキスパート医師で、かつ東洋医学の基礎知識も持っている医師を中心に、アロマセラピーやハー ブ、カイロプラクティック、指圧・鍼灸などの施術者・専門家がチームを組んで治療にあたる、というのが理想的な統合医療のあり方だと思う。

・ 統合医療の目的の一つは、自然治癒力を高めることだ。そこで欠かせないのが免疫力の強化だ。人間の健康は、「免疫」 を頂点として、「内分泌系(ホルモン)」、「自律神経系」の三つが互いに連携しあって維持されている。

そのため、この健康の三角形のバランスが崩れると、自分自身の抵抗力や自然治癒力も弱ってしまう。例えば、失恋をした時に 風邪を引きやすいというのは、ストレスによる「自律神経系」の乱れを緩和しようと、「内分泌系」の副腎から、ショックを 緩和するステロイドホルモンが分泌されるから。

ステロイドホルモンは、アレルギーや火傷などの外傷性ショックから体を守るホルモンだが、一方で、免疫力を高めるために 有効に働くリンパ球の活性を低下させ、結果的に「免疫」力を下げてしまうという欠点を持つ。ちなみに、アトピー性皮膚炎 がひどくなると集中力が低くなるのは異常な免疫力のせい。

体内に侵入した細菌や細胞の死骸などを食べて分解する顆粒球から、イライラする物質が分泌されるため、それが神経を逆なでして落ち着かなくなってしまうのだ。

・ 免疫力の五つの要素

1. 細胞レベルの攻撃力チェック(免疫細胞活性):NK活性は免疫細胞であるリンパ球がどのくらい活躍するかを調べる 代表的な検査。採血後、そこから取り出したリンパ球を患者自身のものではないモデルのガン細胞が入っている培養液に 入れ、何パーセントのガン細胞を殺したかで測定する。

患者の免疫細胞の力を測定するうえでは、とても重要な検査だ。たとえ検査で免疫細胞活性が高くても、ガン局所の免疫力 低下が考えられる。そこで、違った角度からも解析する必要がある。

2. 免疫バランスのチェック(Th1/2バランス):発ガン初期におけるキラー系細胞の能力は高まっていることが多い。では、 免疫のどこに異常があるのかといえば、ヘルパー機能が挙げられる。そういった意味では、ガンはヘルパーリンパ球(ヘルパーT細胞)病ともいえるだろう。

キラー系細胞は攻撃の前線部隊の鉄砲玉のようなものだ。直接の攻撃力は強いが、一つのキラー系細胞が複数のガンを次々 に殺傷することなど考えにくく、むしろ「一つのガン細胞を殺すには、10個のキラー系細胞が必要な時もある」とも言われている。

そこで、重要になってくるのが、ヘルパーT細胞だ。ヘルパーT細胞はいわば、サッカーでいう司令塔のようなものだ。ガン 細胞が出現すると、大概は、まず単球系細胞であるマクロファージ、または抗原提示細胞が異変を感知し、ヘルパーT細胞に連絡。

すると、ヘルパーT細胞は免疫の働きを監視し、攻撃態勢を指示するのである。このヘルパーT細胞は、さらにT型(Th1)とU型 (Th2)に分かれる。T型はキラー系細胞を誘導する細胞。ガンができている場所にたくさんのキラー系細胞を次から次へと送り込むほか、 送り込んだキラー系細胞にエネルギーを与えて、その攻撃力を高める。

一方、U型は細胞性免疫を抑制してB細胞を刺激し、液性免疫に免疫系の流れをシフトする細胞。T型とU型はシーソーのように 相互に制御されており、U型が多くなるとアレルギーを起こしやすく、T型が多くなると抗ガン免疫力が強くなる。

一般に免疫力が強いとは、T型とU型の比率が、20対1以上のとき。10対1では免疫力が弱い。さらに逆転して1対1以下では、 免疫的に危険な状態と考えられる。ちなみに、体を守るヘルパー系細胞とガンを攻撃するキラー系細胞の理想的な比率は、3対2から3対1くらい。

これは、司令塔が多ければ、いくらでもキラーを作ることができるため。

3. 三つの善玉免疫物質チェック:善玉免疫ホルモンであるサイトカインは細胞がつくる生理活性物質。細胞の増殖や分化、 機能の向上、免疫反応などに重要な役割を果たす。インターフェロンはサイトカインのいわばキャプテン的存在。

ウイルス性肝炎や腎臓ガンの治療にも使われる基本的免疫ホルモンの一つであり、マクロファージの活性化やキラー系細胞 の活性化、悪玉細胞の排除などをしてくれるほか、自身による抗ガン作用や、ガン細胞の持つ抗ガン剤を吐き出す働きを抑 えて、抗ガン剤の効果を増強する。

なお、インターフェロンの分泌は、喫煙、糖分やアルコール、動物性脂肪の過剰摂取、睡眠不足、ストレスなどによって減 少する。分泌を促すためにもキノコ類や白色野菜などを多く摂る必要がある。IL2(インターロイキン2)は、細胞相互に情 報交換を行う際の作用物質であるサイトカインの一種であり、リンパ球を活性化する最強のホルモン。

血液中にIL2が豊富にでていれば、免疫バランスがいい状態とも言える。注射で使用できるほか、リンパ球の培養に使うこ とも可能。IL12(インターロイキン12)はNK細胞の増殖因子として発見され、一時は、少量の投与で強力なNK細胞活性が 得られると期待された免疫促進物質。

しかし、人につかうには副作用の問題もあり、現在は生体内での免疫検査の一つとして役立っている。ガン局所でキラー細胞 の活躍をサポート。リンパ球をガン局所に誘導させてガンの再発や転移を抑えるともいわれている。逆に、低下すると、ヘルパー機能が悪化し、悪玉リンパ球は増加する。

4. 三つの悪玉免疫物質のチェック:ガン細胞は、自らリンパ球を悪玉化するホルモンを作り出す。この免疫の足を引っ 張るのが、悪玉免疫物質だ。悪玉免疫物質が多くなると、どんなに高価な免疫療法を受けても、いくら健康的な生活様式 を送っても、その効力は奪われる。

IL6(インターロイキン6)は悪の象徴ともいえる免疫マーカー。善玉リンパ球の働きを邪魔するだけでなく、栄養不良、 悪疫質、倦怠感を引き起こすほか、ガンの成長を助長したり、心臓にも悪影響を与えて骨まで弱くしたりする。

IL6が高くなると、段々顔が土気色になり、体が痩せたり、むくんだり、下痢したり、、、、と、栄養管理を含めた、 包括的なガン治療戦略が必要になる。IL6を増やさないようにするには、快便が一番。乳酸菌や生姜湯で腸内環境を整えよう。

TGF-βは、リンパ球の活動全般を抑制する免疫マーカー。多くのガン細胞により生産され、ガンの進行と比例して免疫治 療の邪魔をするほか、細胞周期を調整し、ある種の抗癌剤の効果や、放射線治療の効果を低下させる。TGF-βは老化にも関係する。

髪の毛がバサバサしたり、肌にツヤがなくなったり、体や運動機能が衰えたりするのは、TGF-β増加のサイン。PGE2( プロスタグランディンE2)はガン性の発熱や痛み、悪寒を引き起こすほか、ガン局所でのキラー細胞の働きを抑制するため、 たとえ自己活性化リンパ球を点滴しても、キラー細胞がガンを攻撃しにくくなる。

5. ガンの血管新生因子チェック(VEGF):ガンは正常細胞よりも増殖力が旺盛な分、通常の血管では十分な栄養を賄うこ とができない。そこで、“エイリアン”のように自ら新しい血管を作り出し、正常細胞から栄養分を奪う。

この血管新生因子がVEGF。正常細胞を衰えさせ、ガンの進行を助長する恐ろしいホルモンだ。ほかにもマクロファージの働 きを抑え、免疫力を低下させる働きを持つ。しかし、裏を返すと、この血管の産生さえ止めてしまえば、ガンは干乾しになるともいえる。

VEGFをブロックする方法はサリドマイド、サメ脂質、アザラシの脂質、ウコンなど。

・ 血液顕微鏡検査:採血するのはたった一滴。ガンと闘う白血球もリンパ球の姿も見える。一方、酸化血、ドロドロ血、サ ラサラ血、老廃物の蓄積も一目瞭然。血液細胞だけでなく、血中の異物やバクテリアなどが観察されることもあり、現在の自分自身の健康状態や生活習慣が克明に反映される。

・ 体内に水銀の多い人は、代謝が落ちたり気持ちも滅入りやすいうえ、ガンになりやすい傾向にあるといわれている。必須 ミネラルを補充することにより、有害ミネラルを排出する。例えば、亜鉛を補充すると、必然的に鉛が排出されやすくなる。

・ ガン細胞は核比率が高いために電気抵抗が強く、発熱しやすい。しかも、正常細胞に比べて熱に弱く、43度以上の加熱で 破壊されるといわれている。増えるのが速い分、構造が未熟であり、変成に耐えられないからだ。

一方、正常細胞は核比率が低いために電気抵抗が弱く、適度な刺激により機能を回復しやすい。とくに、瞬間的に通過するリン パ球は熱に強く、37-38度で活性が上がるため、体を温めると免疫治療の効果が増す。

・ 免疫を活性化させるファイトケミカル:ファイトはギリシャ語で植物を意味する。ファイトケミカルとは、植物に含まれる 色や香り、辛味や苦味などの成分で、植物が外敵から身を守るのに役に立っているといわれている。

ファイトケミカルを多く含むものは、ユリ科やアブラナ科の植物だ。たまねぎや長ネギ、ニンニクのほか、らっきょう、あさつき 、ニラなどのユリ科の野菜には、含硫化合物というファイトケミカルが含まれており、免疫力を高めてガンを防ぐ。

一方、キャベツやカリフラワー、大根、ブロッコリー、白菜などアブラナ科の野菜には、イソチオシアナートというファイ トケミカルが含まれており、活性酸素を除去することで、ガンを予防する。トマトのリコピン、ブルーベリーや黒豆のアントシアニンなども有効だ。

・ フラワーエッセンスという療法が誕生したのは、今から120年くらい前のこと。現代西洋医療の医師であり、細菌 学者であり、ホメオパシー医として名を馳せていた、イギリスのエドワード・バッチ博士によって体系化された。

初期のエッセンスは全部で38種類、この中の五つのエッセンスを組み合わせてつくった救急用のレスキュー・レメディを加え れば39種類になる。そのつくり方は、花に含まれている薬効成分を抽出するという発想ではなく、湧き水に特定の花を浮かべ、 太陽の光に数時間さらしておき、花びらを取り除いた水をエッセンスとして使用するというもの。

花が持っているエネルギーが太陽の光にさらされることで、水に情報として転写されると考えられている。

・ リフレクソロジーでは、まず、足裏の色、シワ、湿度、角質、水虫、匂い等を観察し、足裏からのメッセージをチェッ クする。例えば、足裏が黄色いのは疲労、赤いのは何かが過剰、紫なのは排泄の滞り、白いのはエネルギー低下の警告。

長く浅いシワは、該当反射区が長期間にわたってアンバランスにあることを、短く深いシワは該当反射区が最近アンバランス にあることを表している。汗をかいているのは、緊張しているか、言いたいことが言えていない証拠だ。

また、該当反射区の臓器・器具がアンバランスを起こしていて、他から、むやみやたらな刺激を受けたくない場合、その反射 区は角質で覆われる。一方、水虫は疲労している箇所や、免疫が落ちている箇所につく。

水虫が隣の指にうつらなかったり、足全体に広がらなかったりするのはこのためで、免疫が落ちている場所を教えてくれている。

・ ガンであっても、旅行も食事もできるのであれば、疲れを癒しながら体を温めて免疫力をアップさせるには、温泉療法 は最適だと思われる。温泉での注意書き「ガンのかたは、はいってはいけません」の「ガン」とは発熱消耗性疾患のことで あり、「体が弱っている時は、温泉に入ってはいけません」という意味。




『脳はなぜ「心」を作ったのか』 前野隆司 筑摩書房 (2004)
1962年山口県生まれ。1984年東京工業大学卒業、1986年同大学大学院修士課程修了後、キャノン(株)入社。超音波モータや 精密機械の研究開発に従事。1995年慶應義塾大学専任講師、1999年同大学助教授、現在に至る。1990〜92年カリフォルニア 大学バークレー校訪問教員、2001年ハーバード大学訪問教員。博士(工学)。

大学移籍後は、新型アクチュエータ、ヒトの触覚、触覚センサ・触覚提示デバイス、遠隔操作ロボット、生物の進化シミュレ ーション、進化・生命化するロボットなど、ロボットとヒトの研究に従事。機械・ロボット・ヒトについて色々な研究を行う うちに、子供の頃の「心」の疑問に到達して、本書を執筆。http://www.maeno.mech.keio.ac.jp

『「私」の謎を解く受動意識仮説』が副題。『心の地動説から天動説への転換』と作者が述べるほどの衝撃を受けた。意識と はすべて受動的で、「私」という意識はエピソード記憶を覚えるために生まれたものという仮説はびっくりした。心と体とは 別物ではないのか、、。ぜひ読んで考えてもらいたい衝撃の書。

・ バーチャルリアリティ研究の一分野に、オーグメンテッドリアリティというものがある。Augmentedとは増大した、という意味だ。 つまり、オーグメンテッドリアリティとは、画像や注釈のような情報を環境の上に重ね合わせることによって、仮想世界のリアリティを増大させる方法だ。

たとえば、めがねを通してみる実画像の中に、実画像についての注釈や説明を付け加えるようなことが行われる。また、面白い例 として、ある人が見ている仮想画像の中に、その人の画像を埋め込むようなことが行われる。現実世界では、自分が見ている画像 に自分の顔や目など、本来自分の目に見えない部分は目に入らない。

しかし、実は、自分が画像の中に描かれていると、仮想世界への没入感が増して、仮想操作や遠隔操作をより自然に行えるのだそうだ。

・ 私たちの視覚は、オーグメンテッドリアリティと似ている。つまり、リンゴなのか、赤いのか、などの特徴が抽出されていない 生の画像に、大脳で計算して求めた「赤いおいしそうなリンゴ」という情報を巧妙に重ね合わせ、「私」(意識)に対して表示しているようなものだ。

つまり、私たちが、「赤いリンゴを見た」ことを「意識」するとき、実は、私たちは、素の画像を見ているのではなく、脳で加工 された結果作り出され、画像にあわせて表示された生き生きした「赤いリンゴ」のクオリアを同時に感じているというわけだ。

私たちは、「赤いリンゴ」を目で見ているわけではない。視覚受容器が検出しているのは、何の意味も持たない画像。「赤いリンゴ 」は、脳で作られた情報なのだ。「私」は、目で見るのではなく、脳を見ている、というべきなのだ。

・ 私たちは指先で何かに触ったとき、熱いとか冷たいとか、つるつるかざらざらかを、瞬時に、しかも指先で感じるような気がする。 しかし、皮膚には触覚のセンサがあるだけで、脳はない。だから、当然、熱いか冷たいかとかつるつるかざらざらかといった情報を皮膚 で計算することはけっしてできない。なのに、どうして触覚のクオリアを指先で感じるのだろうか。

それは、触っているという生の行為に、触った結果としての感触のクオリアを重ね合わせて「私」に対して表示しているからに他ならない。 私たちが五感を感じるとき、それは感覚器で感じているのではない。脳の「知」の働きが、あたかも感覚器のある場所で感じたかのように 見せてくれている巧みなオーグメンテッドリアリティなのだ。

・ MITのミンスキー教授は、著書『心の社会』(産業図書)の中で、脳の無意識の自律分散的処理のことを、心とはたくさんのエー ジェントから成る社会だという比喩を使って説明した。脳の中にたくさんの小びとがいて、それぞれ自分の仕事をせっせとこなしてい る様子をイメージしてもらえばいい。

「小びと」という比喩を使うと、それぞれ「意識」や「自己意識」を持つ小びとが脳の中にうようよといる様子を思い浮かべるかもし れないが、そういう意味ではない。それぞれ独立して、各々の処理をこなすモジュールが存在するということのたとえだ。それぞれが意識を持つわけではない。

「小びと」というモジュールは、実際は、脳のニューラルネットワーク(神経回路網)が担っていると考えられている。「小びと」 =ニューラルネットワークと考えて差し支えない。

・ 「私」たちが主体的に行っていると思っている「思考」という行為は、実は無意識下の小びとたちが行っている自律分散計算だと 考えられる。「考えた」のは実は自分の「無意識」の小びとたちであり、「私」はそれを「ひらめいた」かのように錯覚しているに過ぎないということだ。

・ あなたが愛する人とともに海に沈む夕日を見ている場合を想像してみよう。このとき、あなたの心は、とても幸せな、しかし なんとも切ない、胸がキュンとした気分になる。これは、「情」が行う複雑かつ理解不可能な働きのようにも思える。しかし、このとき 出現する「情」は基本的に受動的ではないだろうか。

感情というものはそもそも受動的なのだ。怒りたいと思って怒ったり、笑いたいと思って笑ったりすることは、あまりない。普通は、色々 な状況が重なり合った結果、意図するか否かに関わらず、怒りがこみ上げてきたり、喜びがこみ上げてきたりする。「私」にはなすすべがない。

「情」も、小びとたちの連想ゲームの結果であり、「私」から見ると受動的なものだ。

・ 「知」は、目で見た画像そのものと、見ているのは海と夕日であるという視覚情報処理結果を、オーグメンテッドリアリティのよう に重ね合わせて「私」たちに体験させてくれる。この結果を受け取った「情」は、「夕日は切ない」とか「愛する人といるとうれしい」と いった文脈の記憶を呼び起こし、今回のパターンはどれに当てはまるのかを計算する。

また、「情」は、うれしいから脈拍を上げ頬の筋肉を弛緩させる、切ないから頬の筋肉を緊張させる、といった指令を運動系に伝える。 さらに、脈拍が上がった、顔が紅潮した、といった身体の変化が、感覚器で検出された後に再び「情」の処理に反映される。

「情」の情報処理も、「知」と同様、それぞれ自律分散した「無意識」の小びとたちのもとで自動的に行われ、その結果、「私」は夕日 を見ると切ない、あるいは、愛する人といるとうれしい、幸せだ、という感じを、受動動的に感じていると考えられる。

・ 笑った顔を作ってみると、うれしい気分になる。その顔を見ている人がではない。笑った顔を作ってみた本人が、だ。笑った顔を すると、そのときの筋肉の状態が感覚受容器から脳にフィードバックされ、こんな顔をしているときはうれしいはずだ、といううれし さの内部モデルが働く。

その結果、「情」は“「私」はいまうれしい”という心の状態を作り出すのだ。「情」はやっぱり受動的だ。「情」は、意図とは関係なく 、自動的に湧き上がってくるものなのだ。喜怒哀楽は、「情」をつかさどる小びとたちが作り出したものを「私」たちが意識するものであって 、けっして、私たちが主体的・能動的に作り出すものではない。

・ 何のために「情」があるのか?私は、エピソード記憶にメリハリをつけるためだと思う。

・ カリフォルニア大学サンフランシスコ校神経生理学教室のリベット教授は、長い間、人の意識や意図の問題に興味を持っていて、ある とき、次のようなおもしろい実験を行った(1983年の論文)。人が手や体を動かせるのは、筋肉があるからだ。筋肉が動くのは、脳から「動け !」という電気信号が発せられるからだ。

筋肉よ、動け、という「無意識」の指令(電気信号)は、人の大脳の随意運動野という部分で発せられる。そこで、リベットは、頭蓋骨 を切開したある被験者の随意運動野に電極を取り付け、人差し指を曲げる運動に対する運動準備電位(運動の準備を無意識に始めるとき の脳内の指令信号)を計測した

。電位(電圧)があがることは、人差し指の筋肉に指令が伝えられ、指を動かすための準備が行われることを意味する。だから、脳内の 運動準備電位が上がってからしばらくすると指が動き始めることになる。リベットは、時計回りに光の点が回転する時計のような点滅型のモニターを作った。

被験者には、「指を動かしたい」という気持ちになったときに、指を動かしてもらった。さらに、「指を動かしたい」と自発的に「意図」 した瞬間に、光点の位置がどこにあったかを尋ねた。つまり、「意識」が「動かそう!」と「意図」する指令と、「無意識」に指の筋肉を 動かそうとする準備指令のタイミングを比べたのだ。

結果は衝撃的だった。「無意識下」の運動準備電位が生じた時刻は、「意識」が「意図」した時刻よりも0.35秒早く、実際に指が動いたのは、 「意図」した時刻の0.2秒後だった。つまり、心が「動かそう!」という「意図」を「意識」するよりも前に、「無意識」のスイッチが入り、 脳内の活動が始まっているのだ。

心が「動かそう!」と思うのがすべての始まりなのではなく、それよりも前に、無意識下の脳で、指を動かすための準備が始められている。 言い換えれば、「意図」していると「意識」することを人に感じさせる脳の部分は、脳内の小びとたちの活動結果を受け取って、自分が始め に「意識」したと錯覚していると考えるしかない。

・ 目の網膜で光を受け取ってから、その信号が脳の第一次視覚野に到着するには0.05秒かかるのに対して、鼓膜から第一次聴覚野までは 0.02秒しかかからない。なのに、光と音が同時に目と耳に到着したとき、人は、同時か、または、むしろ光の方が早いように感じる。

これは、信号の届いた時刻を、脳が都合のいいようにずらしている結果だ。つまり、脳の中には、「光と音は同時に届いたはずだ」という決まりが書き込まれている。

・ カリフォルニア工科大の下條教授は、脳の視覚野付近に置いたコイルに電流を流して磁場を作り、磁場の影響によりニューロンの活動 を阻害して、人の視覚を騙すという実験を行った(1999年論文)。ある模様を見ているときにコイルに電流を流すと、目で見ているものの一 部が見えなくなり、そこだけぽっかり穴が開いているように見えるという。

脳磁気刺激法という。人工の盲点だ。まず、赤い色、次に縞模様、最後に緑色を見せ、縞模様を見せているときにコイルに電流を流したとしたら、 被験者にはどのように見えるだろうか。もちろん、最初は赤い色が見え、次に、縞模様の一部にぽっかりと穴が開き、最後に緑色が見える、というのが普通の予想だろう。

確かにその通りだった。しかし、衝撃的なのは、ぽっかりと開いたところに見えた色が緑色だったことだ。不思議なことに、磁場で作られた穴は、 未来に提示される色で埋め合わされていた。その理由は候だ。脳の中に、穴が開いたらそこを次にやってきた色で埋め合わせ、そうであるかのよ うに「私」に知覚させる、という錯覚の決まりが書き込まれているためだ。

要するに、脳は、空間だけでなく、時間についても、錯覚によるつじつま合わせをしているということだ。しかも、これは単に「知」が騙されて いるだけではない。時間の流れとともにあるように思える「意識」が騙されているということなのだ。

・ リベット教授は、頭蓋骨を切開した人の大脳皮質の体性感覚野に電気刺激を与える実験を行った。体性感覚野に電気刺激を与えると、本来そこ が処理するはずの感覚を感じることが知られている。つまり、人差し指の触覚を担当する体性感覚野を電気刺激すると、人差し指が「つるつる」な ものや「ざらざら」なものを触っているときのようなクオリアを感じるのだ。

リベットははじめ、大脳皮質を電気刺激すれば、すぐに指が何かに触れた感じがするだろうと考えた。ところが、皮膚への刺激を0.5秒以上続けた ときに初めて皮膚感覚として「意識」された。逆に、刺激が0.5秒持続しないときには、皮膚を刺激された感じがしないのだ。もちろん、実際に皮膚 に直接刺激を与えた場合には、刺激された感覚を、刺激された瞬間に「意識」できる。

それなのに、大脳皮質を刺激したときには、指に刺激を与えたときよりも、「意識」されるタイミングが0.5秒も遅れるのだ。これは奇妙な結果だ。 体性感覚野が活動し始めてから、脳の「意識」をつかさどる部分が触感覚を「意識」するまでに0.5秒もかかるのだとしたら、実際に指が何かに触っ たときに瞬時に触感覚を「意識」できることを説明できない。この結果を説明するためには、「意識」するタイミングは、錯覚なのだ、と考えるしかない。

・ 「私」(意識)は、意図した瞬間や刺激を受けた瞬間を遅れて感じているに過ぎないのに、「意識は無意識よりも前にあるように感じる」と脳 に錯覚の決まりが書かれているために、あたかも「私」がはじめに自分でやったことであるかのように、たとえば、指を自ら動かそうと意図した かのように錯覚しているのだ。

しかも、そのようにリアルに勘違いできるように、脳内では時間調整が行われ、つじつまが合わせられているのだ。私は今、考えている、私は今、 指を動かそうと「意図」している、私は今、触覚を感じている・・・・。この「今」が本当はすこしずれている。今というタイミングが、実は今だと 思っている瞬間よりも、本当は少し遅いのに、それがごまかされている。

・ 「私」と<私>(自己意識の感覚)は、外の世界とつながってさえいない。小びとたちが教えてくれたことを通して外の世界のことを知る監獄の中の 囚人であって、世界のほんの脇役に過ぎない。

・ 赤い色を識別する小びとにリンゴを見せたら赤と答えるし、黄色い色を識別する小びとにバナナを見せたら黄色と言う。丸い形を識別する小びと にリンゴを見せたら丸と答えるし、細長い形を識別する小びとにバナナを見せたら細長いと言う。動きを識別する小びとに、リンゴを動かして見せる と、動いていると言う。

しかし、赤い色を識別する小びとや丸い形を識別する小びとにバナナを見せたら黙っている。また、黄色い色を識別する小びとや細長い形を識別する 小びとにリンゴを見せても黙っている。つまり、小びとたちは、自分に関係のある情報を見つけたら自分の仕事をせっせとするし、関係なければ黙っているのだ。

そして、「私」は、小びとたちがやっていることを受動的に見ているだけなのだ。これが「心の地動説」だ。そもそも、従来の考え方―心の天動説 ―では、小びとたちのまとめ役として「私」がいた。つまり、無意識の小びとたちは好き勝手にいろんなことをしているので、収拾がつかない。

だから、意識の中心としての「私」が、「知」「情」「意」をうまく働かせ、中心になって働いて、自分の個性を発揮しよう、というのが心のやり方だった。 そうではなく、「私」は小びとたちが好き勝手にやった結果を見ているだけだとしたら、誰がどうやって喧騒に決着をつけるのだろうか。

答えは、「私」の独裁政治ではなく、小びとたちの多数決だ。

・ あなたは考え事をしていたとしよう。このとき、「知」の小びとたちはせっせと働いている。もしも、急に、ガラスの割れる音がしたらどうだろう。 はじめに音を聞く小びとが働く。次にガラスの割れる音を認識する小びとが働く。そして、次に、ガラスが割れる音がするのは何か大変なことが起こった ときだ、ということを知らせる小びとに伝えられる。

その小びとは大騒ぎをするだろう。「知」の小びとの仕事を中断させるほどの勢いで。すると、あなたは、考え事を中断してガラスに注意を向ける。 考え事をする小びとは、声を大にしてわいわいがやがややっていたときには明らかに多数派だった。それなのに、聴覚の小びとからガラスの音という 緊急事態が聞かされるや否や、黙ってしまった。

代わって主役の座に躍り出たのは、ガラスのことに携わる小びとたちだ。彼らは大きな声を上げたから多数派に躍り出たのだ。

・ 私たちの体験を日記のように記憶する「エピソード記憶」は、何のためにあるのだろうか。リンゴは食べ物だ、とか、私の仕事は狩猟だ、 といった「意味記憶」しかできないとしたら、単純な狩猟生活はできるかもしれないが、不便だ。

夕食はもう食べた、とか、昨日の獲物の残りを穴においてある、とか、一週間前に自分の子供が生まれた、とか、去年の夏に家を建てた、といった 「エピソード記憶」ができないと、場当たり的な行動しかできない。

つまり、私たち人間の「エピソード記憶」は、高度な認知活動をするために、「意味記憶」よりもあとで進化的に獲得されたものだと推測できる。

・ では、エピソード記憶ができるようになるためには、何があればいいだろうか。答えは、「意識」だ。エピソードを記憶するためには、 その前に、エピソードを個人的に体験しなければならない。そして、「無意識」の小びとたちの多様な処理を一つにまとめて個人的な体験に 変換するために必要十分なものが、「意識」なのだ。

「意識」は、エピソード記憶をするためにこそ存在しているのだ。「私」は、エピソードを記憶することの必然性から、進化的に生じたのだ。

・ 「意識」とは、小びとたちの連想ゲームの結果をクオリアとして感じるためのシステムであって、そこには「知」「情」「意」「記憶と学習」 は含まれない。ただ、私は思い出した、とか、こう考えた、こう決めた、こんな感情状態にある、といったことを感じるためのシステムだ。実はそこには個性はない。

「無意識」の小びとたちがどんな結果を出して、そのうちのどれが選ばれて意識に運ばれるか、によって、その人の個性は決まる。「私」は、 その結果を感じているだけのシステムだから、どの人の「私」もさほど変わらない。<私>とは、その「私」の中から、自己意識の部分だけを取 り出して、さらにその中から「自己意識についての意味記憶」も取り除いたものだから、「私」にもまして個性がない。

・ <私>とは、記憶とも「知」「情」「意」の多様さとも関係なく、ただ単に、ピュアに、「<私>というクオリアは<私>である」、という決まり が脳の中に定義された結果作り出されたクオリアに過ぎないと考えられる。主体的であるように思える「知情意」のクオリアが錯覚だったように 、リアルに存在するように思える<私>のクオリアも、錯覚の決まりがあるから作り出されたに過ぎない。

何も個性はない。人間の身体一つに、<私>は一つ。進化とともに「意識」というものができた以上、人間の身体一つに、一つの<私>というもの の決まりが定義された。それだけの話だ。

・ 小びとたちの最初の人員配置(学習前のニューラルネットワークの初期構造)は遺伝による。DNAという設計図による。だから、性格や能力 は大雑把にいって親に似るわけだ。そして、ニューラルネットワークのつながり方や発火しやすさは、その後の学習によって後天的に変わっていく。

つまり、小びとたちが何を体験するかによって、笑う小びとの声が大きくなっていくのか、怒る小びとのほうなのか、数を数える小びとなのか、 言葉をつかさどる小びとなのか、が決まる。だから、育つ環境は人格形成のために重要だ。小びとたちの体験とは、外界とのインタラクションと 、脳内の記憶とのインタラクションの二つだ。

あなたがどんな環境に身を置き、どんな体験をし、何を脳の内部に記憶し、どんな思考をするかによって、あなたの小びとたちは、よりあなたの 小びとらしくなっていく。これがまさにあなたの個性となり、自分らしさになる。

・ あなたの意識である「私」は受動的で、そのクオリアである<私>は無個性だけれども、あなたの無意識の中にいる小びとたちは個性的なのだ。

・ クオリアとは、個人的な体験に対し、これらの実感を付加し強調するものだといえる。つまり、クオリアとは、エピソード記憶のどこを強調 するかを決め、索引をつけるためのものだ。

・ 感情・情動は、クオリアを強調するためにあるのだ。面白いことに、感情・情動は、それを見た他人のエピソード記憶を強調する役割も果たす。 あの人は私と一緒にいて本当に嬉しそうだ、とか、私と思いっきり口論した、といったエピソード記憶として、あなたと接した人の記憶に刻まれる。

したがって、感情は、自他のクオリアを鮮やかにし、その結果としてエピソード記憶を強調しメリハリをつけるために存在するのだと考えられる。 だから、エピソード記憶のできない生物は感情がないに違いない。

・ クオリアとは、五感から入ってきた情報と、自己意識のように心の内部から湧き出てきた情報を、ありありと感じる質感のことだ。

・ 言葉というのは、単語を順番に並べ、時間の経過とともに論理を展開するものだ。そのきまりが文法だ。ある時刻の近傍では一つのことしか 言わない。つまり、言語とは時間軸上に伸びた紐のような構造体だ。これに対し、クオリアは時間で輪切りにした断面は、脳の「私」の前に広がった鮮やかな空間である。

しかも、それは、縦横高さからなる実際の三次元物理空間よりも広い。視聴覚や触覚で外界の情報に、風が気持ちいいなあ、とか、子供はかわいい なあ、とか、幸せだなあ、といった、心から湧き出てきた情報もオーグメンテッドリアリティのように加えられている。

そして、この多元的な断面が時間とともに展開していくのが、時空間に多元的に広がるクオリアなのだ。こんなクオリアを、既存のコンピュータ言語で 表現できないのは当たり前だ。既存のコンピュータの言語は、「一足す一は二」とか、「もしAならばBである」とか、人間がしゃべる自然言語で表せる。

原理的に自然言語と同じなのだ。これまでのコンピュータ言語が、人間の言語を真似て作られていたのだから、コンピュータがクオリアを表せないのは、当たり前だ。

・ 質感は大脳内の感覚野や連合野で知覚されているにもかかわらず、材質感のクオリアは指先で感じる。指先には単に何種類かの触覚受容器がたくさん 埋め込まれていて、それぞれが刺激に応じて発火しているに過ぎない。それにもかかわらず、「意識」下では、「つるつる」「ざらざら」「熱い」「冷たい」 「痛い」「くすぐったい」をあたかも指先で知覚しているかのように実感する。

指先が熱い、というクオリアは脳ではなく指先で感じる。これは不思議だ。なにしろ、脳のないところでクオリアを感じているのだ。どういうことだろうか。 こう考えるしかない。大脳内に、「感覚野で知覚した指先の触感のクオリアは指先で感じるものとする」という錯覚のきまりが書かれているために、人はあた かも指先に触感があるかのように幻想に浸っているのだと。

・ 触感覚のクオリアも、視覚のクオリアも、自己意識のクオリアも、所詮は同じものだと考えられる。そうだとすると、私たちの「意識」は、生き生きと したクオリアがここにあるかのように錯覚するようにつくられているに過ぎない、と考えざるを得ない。

大脳内に、「生き生きとした感覚情報のクオリアも、<私>という自己意識のクオリアも、「意識」で感じるものとする」という錯覚の決まりが定義されて いるために、人は、意識下に感覚や自己意識の質感があるかのような幻想に浸っているに過ぎない。

・ 人間も昆虫のように反射による運動や行動を行っている。たとえば、熱いものを触ったとき、私たちは反射的に手を離す。このとき、熱い、とか、 驚いた、といったクオリアは意識されるものの、意識は手を動かす判断には介在しない。手を離すのは、触覚受容器からの情報が脊髄までフィードバック されて、脊髄が行う制御(脊髄反射)だ。

また、私たちが重さも滑りやすさもわからないコップを持ち上げるとき、私たちは実に適切な大きさの把持力をコップに加えることができる。把持力が 大きすぎるとコップをつぶしてしまうし、小さすぎるとすべり落としてしまうが、そうはならず、最小限必要な力よりもわずかに大きい力でコップを持つことができる。

これは、指とコップの接触面でのマイクロスリップを触覚受容器で検出して、これを使って下位中枢によるフィードバック制御を行うからだ。この自動 的な制御は、脳幹や小脳あたりで行われていると考えられている。意識が把持力制御の判断に介在しないという点で、脊髄反射と同様に昆虫的(反射的)だ。

・ 「無意識」の小びとたちとは、昆虫の反射と同じように、何かが起こったらわき目も振らずに自分の仕事だけを行う存在だ。小びとたちがた くさんネットワーク状につながっていて、延々と連想ゲームをしているということは、言い換えれば、複雑なフィードバック結合が巧みに組み合わ せられているということに他ならない。

知情意の小びとはみんな受動的で、小びとたちのうち、声の大きい者が勝つ多数決が行われている、という考え方は昆虫的な行動生成法の拡張とい っていい。もちろん、脳のニューラルネットワークの規模は違うものの、単に、昆虫の脳の中の小びとの数百万倍の数の小びとが、人の脳の中にいるだけだと考えればいい。

違う点は、小びとたちの仕事の仕方ではなく、川の下流に「私」がいるということだ。ただし、その「私」は、小びとたちがやったことを受動的 に見ているに過ぎない。すべてを理解してバインドしている「私」とは違って、ささやかなシステムだ。

「私」は、無意識の小びとたちが行っている膨大かつ並列な連想ゲームを、非常に単純化されたうその直列演算(脳の他の部位のモデル)で近似するこ とに過ぎない。つまり、「私」は、エピソード記憶の準備段階としての、脳の他の部位のモデルにすぎないのだ。

「私」が他のもののモデルである以上、これはもはや特別な形而上のシステムではない。「私」が発生する前から、運動や行動の内部モデルは脳の中 に存在していたのだから、それらの拡張に過ぎまい。つまり、自動的な「私」は、前肢が羽になり手になったように、既存の神経系の構造を少し設計 変更することによって作り出されたということだ。

・ アメリカの脳外科医であるペンフィールドは、1933年に、てんかん患者の側頭葉を電気刺激すると、あたかも、ものすごくリアルな夢を見ているか のように、過去の体験が鮮やかに再現されることを明らかにした。これは、脳の中に、エピソード記憶に基く体験の順モデルが極めて精密に構築されているからに他ならない。

私たちが何かを体験したとき、それは間違いなく現実に起こっていることだと思う(錯覚する)。しかし、脳は、現実と全く違わないバーチャルな世界 を実は作り出すことができるのだ。もっといえば、生命現象にとって、自分と外界、中と外、という分け方が無意味だったのと同様、現実と幻想、 という分け方にも意味がないということだ。

・ 夢は昼間起きていたときの体験を脳に記憶として定着させるためのものだ。私たちは昼間に自分が行っていると「意識」したことをエピソード 記憶するわけだが、昼間に経験したことは膨大で、よく覚えておきたいことも、忘れてしまっても構わないことも、たくさんある。膨大な記憶は編集したほうが後で便利だ。

そして、編集作業こそが、夢という脳内シミュレーションなのだ。

・ 子供がたくさん寝るのは、昼の間に学んだたくさんの新しいことを編集し定着させるために必要だからに違いない。

・ 催眠術というのは、心の働きである「知」「情」「意」「記憶と学習」「意識」のうち、「意識」のみを眠らせ、他の四つは働かせた状態と考えれ ばよい。思い出せない夢と同じことだ。

・ キリスト教にも仏教にも断食という行がある。面白いことに、どちらの場合も、三十日間くらい断食して瞑想していると、神秘体験をするという。 これらは、こう考えれば説明がつく。断食するほど信心深い人は、それまでにその宗教について深く学んでいて、最終的な悟りの状態についても、頭では知っている状態だろう。

つまり、脳の中に究極体験の内部モデルはだいたいできあがっている。また、三十日もその宗教のことばかり考えているのだから、内部モデルは どんどん完成版に近づいていく。動物の身体が栄養不足に陥ったとき、最も大事な臓器である脳への血液輸送が最優先されるという。

しかし、三十日も何も食べなければ、脳への血流が不足し、脳内物質の状態もおかしくなり、脳機能が変調するのは当然だろう。すると、外界への運動指令と 外界からの感覚入力が遮断され、実体験は、内部モデルを使ったりリアルな夢のシミュレーションに切り替えられる。それは、修行者が夢見た神秘体験であるに違いない。

・ <私>とは、心から、個性や感情や欲望や自分らしさを取り除いた、なんとも無個性で無に近い、小さな存在だ。<私>は、ただ単に、「<私>と いうクオリアは<私>である」という脳内定義に従う錯覚現象にすぎないのだ。そんなささやかな<私>を維持することが、古今東西、はるか昔から 人々が願ってきた永遠の命の姿だというのだ。

・ 1990年代に、脳の中にミラーニューロンというものが発見されて騒がれたことがある。人が何か運動しているときに発火するニューロンが、同じ 運動を思い浮かべているときにも発火しているのだ。実際の運動と仮想の運動が鏡に映したように対称なので、ミラーニューロンと名づけられた。

運動のやり方が脳に順モデルとして格納されているならば、この順モデルを使えば、その運動を思い浮かべることができるはずだ。その中に存在するミラ ーニューロンが発火するのは、当然予想できることだ。では、運動の順モデルは何のためにあるのだろうか。それは、イメージトレーニングのためだと考えられる。

「順モデル」とは、実際にスキーをしているときと同様、原因から結果を導くモデルだ。つまり、このように筋肉に力を加え、このように体を動かそう とすれば、実際にどうなる、ということを脳内でシミュレーションする働きといえる。一方、逆モデルは、結果から原因を推定するためのモデルだ。

つまり、いまの自分の体とスキーとゲレンデの状態から、フィードフォワード制御のための入力情報、即ち、どの筋肉二度くらい力を入れて、体をどの ように動かすべきか、を求めるための働きを担う。順モデルを使ったイメージトレーニングでは、実際に運動をしなくても、頭の中で(ミラーニューロン を使って)運動をイメージし、よりよいやり方を学習(よりよい逆モデルを獲得)できる。

実際に運動しなくても学習できるので、肉体の疲労無しにいろいろな可能性を試してみることができる。

・ 行動の三つの方法とは、フィードバックによる制御、フィードバック誤差学習による逆モデルの獲得、順モデルを使ったイメージトレーニン グによる逆モデルの獲得の三つだ。

・ フィードバックに基く行動とは、脊髄反射のような場当たり的な行動だ。昆虫の反射のような行動といってもいい。つまり、痛いと感じたら 手を引っ込めるとか、いい匂いがしたらそちらに向かうとか。頭(大脳などの上位中枢)で考えるというよりも、もっと下位の中枢で処理するような単純な行動だ。

・ フィードバック誤差学習による逆モデルの獲得とは、自分が何か行動して失敗したとき、その結果を、うまくいったときの結果と比較し、 その差をなくすように逆モデルを更新する働きだ。積み木を端のほうに積んだら倒れたので、次にはもう少し真ん中に載せよう、と思う。

仕事中に凡ミスをしたら、次からはミスをしないように心がける。とにかく、失敗しても、がむしゃらに行動あるのみ。そして、失敗したらその 失敗に学んで次は頑張ろう、というやり方だ。だんだんうまくなっていく、という点が昆虫のやり方よりもかなり人間的だ。

ただ、よく考えてから行動している、というよりも、場当たり的にいろいろやってみる、という戦略だ。

・ どうするか「考える」とはどういうことかというと、頭の中で行動のシミュレーションをする、ということだ。行動のシミュレーションとは、 順モデルを用いたイメージトレーニングと同じことだ。運動のイメージトレーニングを行動に拡張すると、それはつまり「思考」ということなのだ。

「思考」とは、過去の様々な経験によって脳の中にストックした、「こうしたらこうなる」という行動の順モデルを使って、行動のシミュレーション をしていることなのだ。「こうするためにはこうしてみたら?」という逆モデルを、「こうしたらこうなる」という順モデルを使っていろいろと試してみて、 よりよい行動を見つけ出す行為が「思考」なのだ。

・ 脳がやっている心の五つの働き、「知」「情」「意」「記憶と学習」「意識」をつかさどる、それぞれの小びとたちのふるまいは、すべて、ニューラ ルネットワークを用いて記述されたフィードバック制御・フィードフォワード制御、順モデル・逆モデルという形で実現できる。




『高岡英夫は語る すべてはゆるむこと』 松井浩 総合法令 (1999)
1960年京都生まれ。早稲田大学在学中からフリーライターとして仕事をはじめる。
高岡:東京大学、同大学院教育学研究科卒。東京外語大学講師等を歴任。幼少時より武道・気功・ヨガの修行に明け暮れ、達人の域に至る。その過程での発見を学問的に体系化した「運動科学」は、スポーツ、武道、ピアノ、声楽、教育、医療、ビジネス、料理から科学的研究、あらゆる分野に応用領域を広げ成果を上げつつある。
彼は武道の達人で、何人もの人間に腕を取られても一瞬のうちに彼らを倒してしまう。非常に興味のある人間だ。

・ 高岡英夫に関する問い合わせ先:潟fィレクト・システム社 
〒113-0033文京区本郷3-19-4本郷大関ビル7階 TEL:03-3817-7723 FAX:03-3817-7724


・ 超一流の運動選手は太ももの裏側をしっかり使っている。

・ 身体がゆるむことは健康に重要。特に、胴体の背骨周りの筋肉、肋間と肋骨の間の筋肉、脇腹腹横筋、内外腹斜筋といった筋肉がゆるゆるになることが重要。

・ 身体の固まりが風邪をひかせる。でも、逆にいえば、風邪をひくことには、硬くなった身体をゆるめる作用もあるといえる。風邪もひかずにそのまま硬くなっていけば、ほんとに重要な心臓だとか、肺だとか、その下の内臓だとか、それを司っている神経系なんかを圧迫して、身体にとってきわめて重篤な状態をつくってしまう。

・ 身体が柔らかいと、頭も心も柔らかくゆるんでくる。身体がゆるんでないと、心もゆるまないし、心がゆるんでないと、多くのものを許容できない。

・ 「ゆる」体操とは、身体の各部位をゆすり、骨、筋肉、臓器を順番に揺らしながら、ゆるめていくものである。高岡氏が、人間の身体を「ゆする」と「ゆれる」、「ゆれる」と「ゆるむ」ところから考案した。

・ 「学級崩壊」というのは、数年前に社会問題化した「家庭内暴力」「校内暴力」からつながっていると思うけど、子供たちが、何らかの方向へゆるみ始めた現象であることは間違いないと思う。ただ、そのゆるみ方がいい方向か、建設的なゆるみ方に向かうか、非常に問題ではあるが。


『眼筋を伸ばせば視力は回復する!』 松崎五三男 成美文庫 (2006)
手軽に視力を回復するトレーニング方法が紹介されている。おすすめ。

・ 虹彩、毛様体、眼球移動筋の三つの筋肉組織を鍛え上げれば、視力は必ず回復する。

・ 虹彩とはいわゆる黒目の部分だ。その中央には瞳孔と呼ばれるさらに黒い部分がある。この虹彩の筋肉組織が、瞳孔から 眼球の中に入っていく光の量を調節する。瞳孔を囲む部分にある瞳孔括約筋と、黒目に放射状に並ぶ瞳孔拡散筋という二種類 の筋肉があり、その筋肉の働きによって瞳孔を開いたり閉じたりして、眼球内に入る光の量を調節している。

つまり、この筋肉組織は明暗に応じて動く。虹彩は不随意筋で、自分の意思で動く筋肉ではない。明暗という環境の変化で動く のであり、自分の意思で瞳孔を開いたり閉じたりすることはできない。だから、虹彩を鍛えるには、明暗の刺激を与えることが有効になる。

・ 毛様体は毛様小帯という繊維の束で水晶体とつながっており、水晶体の厚みを調節する筋肉だ。水晶体の厚みによって 目に入っていく光の屈折率が変わるのだが、屈折率がおかしいときちんと網膜に像が結ばない。

しかし、毛様体の運動機能が柔軟であれば、毛様体を緊張させたり緩めたりしながら水晶体の厚みも自在に変えられる。この毛様体は自分の意思で動かせる随意筋だ。

・ 眼球移動筋は、眼球を内側(鼻側)に向ける内直筋、外側(耳側)に向ける外直筋、上に向ける上直筋、下に向ける下直筋、 外下に向ける上斜筋、外上に向ける下斜筋の六種の筋肉で構成されている。眼球移動筋も随意筋だ。

・ 全身の筋肉の柔軟さと視力は関係がありそうだ。

・ 目の筋肉を鍛えるトレーニングのコツは、とにかく顔を動かさないことだ。

・ 蛍光灯を使った明暗トレーニング その1

1. デスクの蛍光灯に顔を近づける。距離はだいたい20cmくらい。手は蛍光灯のスイッチの所に置いておく。

2. 目を閉じてから、蛍光灯の明かりをつける。目を閉じていても明るさを感じるはず。そのまま5秒。

3. そのまま蛍光灯の明かりを消す。目を閉じたままでも暗くなったのがわかる。そのまま5秒。

4. これを10回繰り返す。

・ 蛍光灯を使った明暗トレーニング その2

1. 部屋全体を暗くして、デスクの蛍光灯の前に顔を近づける。距離は20cm以上とる。

2. 目を開けたまま、蛍光灯の明かりをつける。そのまま5秒。まぶし過ぎる場合は蛍光灯との距離を離す。

3. そのまま蛍光灯の明かりを消す。部屋全体を暗くしてあるので目は開けたままで5秒。

4. これを10回繰り返す。

・ 簡易な明暗トレーニング その1

1. 窓に差し込む光の方へ体を向ける。直接、太陽を見つめるのは危険だが、差し込む光なら大丈夫。

2. 目を開けて差し込む光を見つめる。そのまま5秒。

3. 次に目を閉じて5秒。暗さが足りないようならさらに手で目を覆う。

4. これを10回繰り返す。

・ 簡易な明暗トレーニング その2

1. 椅子に座ったまま、あるいは寝ころんで天井の蛍光灯に顔を向ける。白熱灯は危険なのでやらないこと。

2. 目を開けて、蛍光灯の光を見つめる。そのまま5秒。

3. 次に目を閉じて5秒。暗さが足りないようならさらに手で目を覆う。

4. これを10回繰り返す。

・ 遠近のストレッチ

1. 背筋から首を伸ばして、まっすぐ前を向く。

2. 目の高さ中央、顔から30cmくらい離した場所に右手(左手でもOK)の人差し指を立てる。

3. 指紋を見るようなつもりで指先を見つめる。両目で見つめたまま指をゆっくり顔に近づける。

4. 両目を指先からはずさず、寄り目の状態になるまで見つめる。

5. 目の周辺の筋肉に軽い痛みを感じるところまで寄せたら、両目で見つめたまま指を顔から遠ざけていく。

6. 顔から5cmから30cmくらいの間で、指を近づけたり遠ざけたりを15回繰り返す。目の筋肉の動きを意識して行う。

・ 上下左右のストレッチ

1. 目の高さ中央、顔から5cmくらい離した場所に右手(左手でもOK)の人差し指を立てる。顔は動かさずに両目で指先 を見ながら、両目で見える限界まで指を上げていき、そこで3秒止める。

2. 高さはそのままで、指を両目で見つめながら右方向に動かす。両目で見える限界まで指を動かしたら、そこで3秒止める。

3. 高さはそのままで、指を両目で見つめながら今度は左方向に動かす。両目で見える限界まで指を動かしたら、そこで3秒止める。

4. 指先を最初の位置(目の高さ中央、顔から5cm)に戻し、両目で見つめながら指先を右に動かす。両目で見える限界のところで3秒止める。

5. そのまま左方向へ指を動かす。両目で見える限界の所で3秒止める。

6. 指先を最初の位置(目の高さ中央、顔から5cm)に戻し、両目で指先を見つめながら、見える限界まで垂直に指を下げ3秒止める。

7. 高さはそのままで、指を両目で見つめながら右方向に動かす。両目で見える限界まで指を動かしたら、そこで3秒止める。

8. 高さはそのままで、指を両目で見つめながら今度は左方向に動かす。両目で見える限界まで指を動かしたら、そこで3秒止める。

・ 反り目の練習 その1

1. 背筋を伸ばしてまっすぐ前を向き、両腕を前に突き出す。両腕は肩幅くらいに開き、両目の高さで両手の人差し指を立てる。

2. そのまま右目は右の人差し指を、左目は左の人差し指を見つめるようにする。難しくてもできるだけ意識を集中する。

3. それぞれの指先を見つめたままで、徐々に肘を曲げていき、指先を顔に近づけていく。最終的に顔から5cmくらいの距離まで近づける。

・ 反り目の練習 その2

1. 背筋を伸ばしてまっすぐ前を向き、目の高さに両手の人差し指をくっつけて立てる。顔からの距離は20cmくらいのところにする。

2. 右目で右の指先を、左目で左の指先を見つめながら、高さを変えずに指を顔から5cmくらいまで近づけていく。指先はくっつけたままだから、寄り目の状態になっている。

3. そのまま指を左右に離していく。右目で右の指先を、左目で左の指先を見つめたままで、30cmくらい離していく。

・ 木陰やベンチで一休みするときに、どこか日当たりのいい場所を見つけて、その場所を5秒見つめて、次に5秒目を閉じると いうことを繰り返すだけでいい。ただし、太陽はじかに見てはいけない。これで明暗のトレーニングができる。

・ ベンチに座って、そのまままっすぐ顔を前に向ける。顔はこのままうごかさずに、自分の鼻先を3秒凝視、視線を下に移して スニーカーの結び目を3秒凝視、視線を斜め上に移して大木の枝先を3秒凝視、前方の物を3秒凝視、そこから横に視線を移し道路 に止まっている車を3秒凝視、最後に遠くのビルの窓を3秒凝視という具合で方向・遠近トレーニングを行う。

・ お風呂に入り、全身の血行が良くなっている状態でトレーニングを行えば、目の筋肉もほぐれ新陳代謝もよくなる。目を開け てお風呂の照明を5秒見つめ、5秒目を閉じるということを繰り返せば「明暗トレーニング」も行える。さらに方向・遠近トレーニングをおこなう。

・ 紫外線は白内障の一因になる。そもそも白内障は、目のレンズと言われる水晶体が白く濁ることで起こる。水晶体はタン パク質が主成分だが、太陽光線のうちで特に紫外線はタンパク質の変性を引き起こす。

・ 緑内障は、基本的には眼圧が上がるために視神経が侵されて視野が欠損してくる病気だ。ただし、さほど眼圧が高くない のに視神経が障害を受ける「正常眼圧緑内障」というものも存在するので一概には言えない。いずれにしても緑内障は白内障よ りも危険で、早い診断と治療が望まれる。

・ 大人になってから失明する一番の原因は糖尿病性網膜症によるものだ。血糖値が高い状態が続くと、網膜の血管の一部が弱 くなり破れて小さな出血をおこしたりする。さらに進行していくと網膜の細い血管が詰まり、網膜は酸素不足になる。 それをカバーするべく新生血管をつくろうとするのだが、そこで無理がかかって失明につながる大きな出血を起こしてしまうのだ。

・ 目の前にチラチラ蚊が飛んでいるように見える、本を読んでいると余白の白い所に黒い点が飛んでいるように見える。こう いった症状を「飛蚊症ひぶんしょう」という。この症状は網膜剥離の前触れであることがあるので、自覚したら一度は眼科医に行く べきだ。ただ、ほとんどの人は特に治療の必要はないと言われるだろう。

飛蚊症は、一つには目の硝子体の老化現象として起こる。老化によって収縮した硝子体が網膜から一部はがれ前方に移動し、 それが黒い点となって映るのだ。この「後部硝子体剥離」と呼ばれる現象による飛蚊症は老化現象として扱われ、とくに心配はいらない。




『2週間で目が驚くほど良くなる本』 松崎五三男 三笠書房 (2003)
1930年札幌生まれ。信州大学教授。理学博士。北海道大学理学部卒業。60年から71年にかけて二度にわたり渡米・留学。専門分 野である物質工学に関する著述や講義などで活躍する傍ら、人間の潜在能力を引き上げる「脳力増進法」を開発。さらに80年、自ら の視力が低下したことを機に、脳力増進法をベースにした「松崎式視力増進法」を開発した。

自らが実践し、短期間で視力0.3から1.5まで回復させた。その方法論を『自分で治す脅威の視力回復』として出版、好評を博す。 本書は、その理論をさらに進化させた決定版である。

眼球の中に入る光の総量を調節する虹彩、水晶体の厚さを調節してピントを合わせる機能の毛様体、目玉を上下左右に動かす機 能の眼球移動筋の三つを鍛えることによって目を良くするという理論。イラスト付きでわかりやすく、効果がありそうだ。おす すめ。




『こころと脳の革命』 松澤大樹 徳間書店 (1999)
超人への招待という副題。痴呆症、アルツハイマー病が同じ原因である事がわかり、また治すことも予防することもできることがわかった。前作より面白い。

・ 「こころのコア」は、後方に位置する感覚系の大脳辺縁系の諸核と、前方に位置する運動系の大脳基底核の諸核の合体によって構成される。また、一番外側の大脳皮質も、知能だけでなく、行動の中枢であることも知られている。

・ 「こころのコア」の感覚系は、大脳皮質の知能の座をコントロールし、また、運動系は大脳皮質の行動の座を支配する事が新しくわかってきた。

・ 「こころのコア」は、大脳皮質の知能の座と行動の座だけでなく、視床下部を介して全身をコントロールしていることもわかってきた。

・ 人間の脳は三十歳前後で一番充実することもわかった。

・ 脳の最充実年齢と平均寿命の関係は、動物では脳の最充実年齢の3.5倍くらいが平均寿命となっている。人間に当てはめると、30歳の3.5倍で平均寿命は105歳になる。

・ 「こころのコア」を活性化すれば、気持ちやからだが活性化し、癌をやっつけ、アルツハイマー病を克服し、新たな言語野さえも作ることができる。こころと体は本質的に不離一体で、肉体そのものも若くなる。

・ 「こころのコア」に、風邪その他の病気と闘う決意を強く持つ
    ↓ 情報が流れる
 視床下部を刺激
    ↓ 自律神経へと働きかける
 ナチュラルキラー細胞が活性化する
    ↓
 風邪の原因となる細菌やウィルスを殺す

・ 海馬、扁桃核、無名質などの大脳辺縁系と、大脳基底核の主要神経核によって、大脳皮質の稼動が統御されている。

・ 多発性梗塞性痴呆は、アルツハイマー病に脳梗塞が併発している病気と考えられる。

・ 老人性痴呆は、脳の三層構造のうち、中間層の大脳辺縁系及び大脳基底核系の主要神経核である海馬、扁桃核、無名質などの崩壊により、これらによって統御されている大脳の高次機能を営む連合野の機能障害と、視床下部諸核の機能障害によって発症し、病期が進展する。

・ 禅宗の僧侶にアルツハイマー病患者が少ない。座禅による瞑想は、心の休養に大いに役立っている。作無という重労働は、身体を鍛えるのに有用。それに、質素な食事により過栄養を避けることに成功している。

・ 一般に、老人性痴呆の最も有効な予防法は、老化しないこと。まず、自分は絶対に老人にならないという強い意識を持つこと。次に若者と同じ体型となり、行動するための食事、運動などの生活習慣を樹立すること。過食を避け、野菜を十分にとり、乳製品、豆類、魚を主とした高蛋白食を心がける。脂肪、米、パン、うどんなどの食べ過ぎには注意をする必要がある。

・ 個体の老化に伴い、長年にわたって絶え間なく使われてきた「こころのコア」が疲れ果てると、老化物質が蓄積し始める。そうして、やがて細胞自らが死を決意するアポトーシスという細胞の自殺によって、「こころのコア」の崩壊が進む。

・ 脳は、脊髄の末端が膨らんで分化してできあがったものです。そのため、発生学的には 脳幹の次が中間層の脳であり、大脳皮質はいちばん新しい脳であるといえます。 また、大脳皮質は、細胞がすっかり分化してしまった細胞からできていて、再生不可能であるのに対し、中間層は未分化の細胞からできていて再建が可能であると考えられます。これはアルツハイマー病に代表される老人性痴呆は、治療できる可能性をもっている根拠 ともなります。脳の中間層においては、細胞移植により崩壊した部分を再生させるという治療が可能なのです。

・ 海馬は記憶と関係のある神経核。出発点として、側頭、頭頂、後頭の知能を産生する脳の後半分の諸連合野を統御しているので、知の神経核であるとする。

・ 扁桃核は、情動と関係の深い神経核。ここを出発点として、攻撃、快楽、空腹、性欲などの視床下部の情動発現の諸核を統御しているところから、情の神経核とする。

・ 無名質は、大脳基底核群の重要な神経核です。この神経核に内蔵されているマイネルト基底核から、前頭連合野、諸運動連合野および背側線条体などに向かって、運動性のコリン作動性神経を送り、これらの稼働を統御しているので、意の神経核とする。

・ 以上、三神経核はーつの社会を構成し、こころの中核をなしていますが、三神経核のうち扇桃核は感覚系と運動系の両系にまたがる情動の核で、最重要な役割を果たす神経核です。したがって、「こころのコア」のまたそのコアであり、すべてのこころの決定は、この扇桃核において情的に行われます。

・ 一般に、こころを産生する大脳辺緑系と大脳基底核系には、多種類かつ大量の脳内モルヒネ様物質とその受容体が多く存在します。それらが存在することにより、こころの決定と出発は、苦痛なく自由に行えるのです。

・ 扇桃核は種族保存と個体保持の諸機能をもっており、視床下部の諸神経核を統御することにより、全身(身体)をも統御しています。さらに、視床下部の諸核は、脳下垂体を介して全ホルモン系を統御しています。これは、自律神経を介して個体の防御系を統御しているともいえます。なお、種族保存は個体保持に優先される仕組みが組み込まれています。

・ これらの神経核や神経組織またはホルモン系とその働きは、相互的で往復の二本線で結ばれている。しかし、扁桃核から無名質に至る神経経路は、往路だけで復路がない。扁桃核から無名質へ行く路はあっても、無名質から扁桃核へと戻る神経繊維はない。

・ 人間以外の哺乳類の猿、犬、猫などは、嗅脳が人間と比べてはるかに大きく、一方、一次の嗅覚は直接こころの主座の扇桃核に入ることが知られています。こころの決定は扁桃核で行われます。したがって、人間以外の動物のこころの決定には、視覚、聴覚のほかに嗅覚が大きく関与しています。

・ 人間の嗅覚は、これらの動物に比べてずっと退化しています。そのため、嗅覚がこころの決定因子として働く割合は、彼らよりはるかに小さく、その分、扁桃核の機能は小さなものになっています。人間の場合、こころの決定因子の多くは、視覚と聴覚からの情報だけです。

・ 動物の「こころのコア」は、決定の主権を持つ情動核の扁桃核を中心に、知能の核海馬と、意志の核無名質がこれに付き従うという形で、きちんと秩序が保たれています。

・ 人間の大脳皮質は著しく大きく発達していて、相対的に「こころのコア」の知能と意志の機能が大きくなっています。情動から意志への情報は一方的で、往路のみで復路がないので、この経路について扁桃核の意志決定の主権が侵されることはありません。

・ こころの決定は、常に扁桃核が主権をもち、情的に行われなければなりません。例えばやる、やらない、好き、嫌い、信じる、信じない、愛する、愛さないなど、きわめて簡単に情的に決定されるのです。「こころのコア」が秩序を保って機能するためには、扁桃核が主権をもつことがきわめて重要で、知能が情動の決定を脅かすようなことが起こってはなりません。 人間以外の動物では、情動の機能に比べて、知能の機能ははるかに小さく、この秩序はきちんと保たれていて、こころのバランスについての問題は起こりません。しかし、「こころのコア」の知能が比較的に大きい人間においては、比較的に小さい情動の機能の決定を常に脅かす状態にあります。ここに、暗示またはマインドコントロールがたやすく入り込むという人間特有の問題点があると同時にきわめて優れた点があるのです。

・ 「こころのコア」で自分は若いと思い込むと、このこころの情報は、「こころのコア」と 直結している脳下垂体に流れます。その脳下垂体は、ホルモンのメッカで、全身のホルモン分泌をコントロールしています。具体的には、脳下垂体から甲状腺や副腎、睾丸、卵巣などに、インパルスが伝えられるわけです。これら各種のホルモン臓器から若いホルモンが分泌され、血液を介して全身の細胞膜にその情報が伝えられ、細胞が若く活き活きした細胞となります。このようにして、「こころのコア」が若々しい情動で満たされたとき、全身に若さが溢れることになるわけです。

・ 自己暗示を行うには、口に出したりせずに、こころ密かに、そして深く思い込むことです。本気で自分に言い聞かせ、本気で信じ込まないと、強い情動は生まれません。

・ アルツハイマー病の初期の患者には、音楽療法やアロマセラピーが功を奏することが最近明らかになった。

・ 教授は、脳梗塞により左脳の言語野をやられてしまったが、しゃべろうという強い意志を持ったために、「こころのコア」から神経繊維が伸びて新たに右脳に言語野が形成された。(右利きの人は通常左脳に言語野が形成される)脳細胞というものは、一度壊れてしまうと、二度と活性化することはない。そのため、左脳の言語野を使ってしゃべることは二度とできないので、反対側の右脳に新しい言語野を形成したということ。

・ 「こころのコア」が、一対でー体であるということが、大きなポイントです。海馬も扁桃核も無名質も、左右一対で一体となっています。そのため、「こころのコア」の 各部位は、一方の側に電気を通すと、反対側も同じように反応するのです。教授の言語野が反対側の脳に再生したのは、左脳の言語野は壊れてしまいましたが、喋ろうという強い情動が右脳のなかに新たな神経細胞のネットワークをつくり、ついには右脳のほうに新しい言語野が形成されたということです。「こころのコア」は、それを可能にするのです。これは、「こころのコア」の再建能力、機能再生能力であります。

・ 「こころのコア」は、人が何かを感じるたびに情動が流れるようになっている。のべつまくなしに使われると、海馬、扁桃核、無名質といった「こころのコア」が、疲れてしまう。その疲れをとる方法として、瞑想はかなり優れたもの。無念無想の境地こそ「こころのコア」にとっては理想的な休息となる。

・ 戦国時代の臨済宗の禅僧で、武田信玄の帰依を受けて夢想疎石が開山した甲斐の恵林寺に住んでいた快川紹喜(かいせんじょうき)和尚は、織田信長に焼き討ちにあったとき、「心頭を滅却すれば火もおのずから涼し」と言って死んだ。

・ 「こころのコア」を鍛えるには、まず最初に体を鍛える必要がある。無理をしない範囲で体の鍛錬をし、それを日々積み重ねていくことが大切。心肺機能が上昇することによって、脳や身体の血流量が増加し、「こころのコア」の若々しさが保たれる。

・ 脳が老化して萎縮すると機能障害が起きるというのは大きな間違い。脳は老化して萎縮しても機能は保たれる。

・ 痴呆の場合も癌と同じように、性格が内向的で暗い人がかかりやすい病気。楽天的な人は痴呆にも癌にもなりにくい。

・ 喜と楽は「こころのコア」にやさしくせせらぎのような情動のもとになり、体を若返らす。怒と哀は「こころのコア」を疲れさせ、土石流のような情動のもとになり、細胞を老化させることにつながる。

・ 実用三次元PETが本格的に稼動するようになれば、癌患者の90%は助けることができると期待している。問題は価格で六億円の開発費が必要。

・ 視覚、聴覚、味覚、体性感覚、嗅覚などの情報は、すべて大脳辺縁系(中間層)に集まる。そうして、この大脳辺縁系で、喜怒哀楽といった情動が、かもしだされる。これら喜怒哀楽の情動は、もともと愛の情動ともいえるもの。愛というものは、千変万化する。愛する思いがつのって哀しみになったり、憎さにつながることもある。そのように愛をとらえるならば、喜怒哀楽などの人間的な情動は、すべては人間愛の情動と捉えられる。 その愛の情動は、こころの源流とでもいうべきもの。愛の情動は、頭の後側にある海馬に集まり、扁桃核を経て、前方の無名質に向かって流れる。その間、海馬からは「知能の座」に向かって愛の情動の支流が流れ、記憶や認識といった働きを分化することになる。また扁桃核から下方の視床下部、自律神経および脳下垂体に至る愛の情動の支流は、食欲や性欲、ホルモン分泌、自律神経などの働きをコントロールする。さらに、無名質に流れたもう一本の愛の情動は、「意志・行動の座」に行き着き、行動に関するさまざまな働きにかかわることになる。これは一瞬のうちに起こっていること。

・ 日常生活の中に、非日常の世界を作ることも、「こころのコア」を育むうえでは大切。いわゆる感動体験が、「こころのコア」にはとてもいい刺激になる。

・ アルツハイマー病が後期の段階にさしかかると、患者の顔からは表情が消えはじめる。それは、「こころのコア」のなかで表情を司っている無名質が壊れはじめ、大脳基底核が稼働しなくなるから。そのため、表情をコントロールしている大脳基底核をふだんから活性化しておくことが、痴呆にならない心がけということになる。

・ 「こころのコア」の健全な人は、感情も表情も豊か。向きあっていても、その豊かな感情が、言葉なしでも伝わってくる。 その表情のなかで、とりわけ大事なのは笑いの表情。笑いは「こころのコア」そのものをアクティブにする。「笑う角には福来る」

・ おしゃれに気を使うのは、「こころのコア」を育むうえでも大変重要。おしゃれをして歩けば、多くの人に振り向かれる。そのときの「人に見られている」という意識が大事。他人の目にさらされているという自意識が、「こころのコア」に刺激を与え、ホルモン分泌もよくする。


『「こころ」のコアがわかった!』 松沢大樹 同朋舎 (1998)
東北大学名誉教授。1926年長野県生まれ。松本歯科大学(現信州大学)で医学博士号取得。開業医を経て、62年アメリカ・ノートルダム大学に留学。放射線障害に関する研究で実績を積み、帰国後64年に東北大学医学部助教授に就任。その後、愛知ガンセンター研究所放射線部長を経て、73年東北大学・抗酸菌病研究所教授に就任。80年にはポジトロン断層装置(PET)の国立大学1号機を稼動させ、ガン診断法の開発と、脳の老化と痴呆の研究を推し進める。91年予見医学研究所設立、同所長に就任。
内容は非常に面白かったが、CT,MRTの宣伝をしすぎるのが気になった。

・ 脳は三層でできている。一番中心にあるのが脳幹。ここに障害が起きると死んでしまうので「生命の座」ともいわれる。発生学的には最も古く、ヘビでさえ持っているので「ヘビの脳」ともいわれた。

・ 中間層は性欲や食欲などの重要な中枢をになう神経核が集まっていて「情動の座」ともいわれてきた。「犬猫の脳」ともいわれた。

・外側は大脳で「知能の座」といわれ、また「人間の脳」ともいわれた。

・脳の中間層が大脳の高次機能の座(連合野)をコントロールしていることがわかった。

・アルツハイマー病は中間脳に障害が起きることにより発病。

・ 老人性痴呆は、脳の中間層にある主要神経核(海馬、扁桃核、腹側線条体)の崩壊により、これによってコントロールされている大脳の連合野の機能障害と、視床下部諸核を介して全身の機能障害によって発症・進展する病気だ。その崩壊を起こしていた主要神経核がある場所こそが「こころ」のコアだった。

・ 「こころ」のコアは左右一対だが、一体となって働いている。これは原始的未分化ということの証でもある。実は、この「原始的未分化」ということは、非常に重要で、原始的であるからこそ、ただ思いつづけるだけでその力を発揮できる。未分化であるからこそ、鍛えることもできるし、再建も可能。あるいは、「こころ」のコアで愛という情動が生まれるのも原始的だから。本来、生き物にとっては得なことはない。自分のことより、相手のこと、まわりのことを考えるのが愛だから。

・ 海馬:タツノオトシゴを海馬とも言うが、そのタツノオトシゴに形状が似ていることが名称の由来。記憶をつかさどる「知の神経核」として知られている。

・ 扁桃核は「好きか嫌いか」「やるかやらないか」といった判断や決断をつかさどり、また視床下部を通じて個体維持機能や種族保存機能とも深く関わっている。いわばコア中のコアといっていい。

・腹側線条体は無名質と側座核からなっている。意欲をつかさどる神経核。

・ 最初にほとばしる愛の情動が、「こころ」の源流ともいうべきもの。「こころ」の源流はまず、頭の後ろにある海馬に集まり、扁桃核を経て、前方の腹側線条体に向かって流れる。その間、海馬からは「知能の座」に向かって情動の支流が流れ、記憶や認識といった働きを分化することになる。また扁桃核から下方の視床下部、自律神経及び脳下垂体に流れる情動の支流は、食欲や性 欲、ホルモン分泌、自律神経などの働きをコントロールする。更に、腹側線条体に流れた情動は意志・行動の座」に行き着き、行動に関するさまざまな働きに関わることになる。

・ 「こころ」のコア三司令官の中で、最も主導的な立場にあるのは扁桃核。認識、判断、決断といった重要な役割をになっているから。扁桃核と海馬は緊密な連絡をいつも取り合っており、神経回路も「扁桃核→海馬」「海馬→扁桃核」と双方向の回線が敷かれている。

・ 扁桃核からは腹側線条体へも回路が走っているが、腹側線条体から扁桃核へ戻ってくる神経回路がない。決断したときに扁桃核の情動の流れは、腹側線条体を通って、前頭連合野と諸運動連合野がある「意志・行動の座」へとたどり着く。例えば運動選手がスタートラインについて「よし、やるぞ!」と自分に言い聞かせたときから、この一方通行の情動の流れは、ひたすら「意志・行
動の座」へと流れる。自分を奮い立たせる決断を重ねていけばいくほど、一方通行の流れは、堰を切った川の流れのように、勢いを増していく。本流の逆行は絶対ありえない。ただ、前方に怒涛のごとく流れていくだけ。本流の行く先、大脳皮質の「意志・行動の座」では、運動機能をコントロールする中枢が大回転で働く。注意力も鋭敏になり、意欲もさらに鼓舞される。

・「こころ」のコアと「知情意」の対応
→腹側線条体【意】→前頭及び諸運動連合野
 からだ←視床下部←扁桃核【情】
⇔海馬【知】→側頭、頭頂、後頭連合野

・ 細胞死には、外的な損傷などで病的な死に方をする「ネクローシス」という形態と細胞が自ら死を選ぶ「アポトーシス」という形態がある。アルツハイマー病の細胞死は、細胞が自ら死を選ぶ。

・ アポトーシスは胎内の発生過程で、そして今でも身体の中で起きている。例えば胎児の指が形作られるとき、指になる回りの細胞が死んで、指となる細胞の役に立つ。つまり、死ぬ細胞はあらかじめそのようにプログラムされている。

・人生の目的を失って、「私はもう駄目だ」と思ったときから「こころ」のコアは活力を失ってしまう。

・我々の脳の機能には、抑制と推進があり、普段は抑制三:推進七くらいの割合で働いている。

・人間の脳は三十歳前後で一番充実する。

・ 「こころ」のコアはすぐ下の脳下垂体へ神経の基幹ルートが通っている。脳下垂体はホルモンのメッカのような器官。ホルモンの総元締めからは、全身のホルモン分泌腺に神経回路がつながっている。ホルモン分泌腺には、甲状腺、副腎、睾丸、卵巣などがあるが、ここから発するホルモンが身体そのものを若くする。そのホルモン分泌腺を刺激するのが「こころ」のコアでほとばしる情動。情動の発露を促すのは、「私は若い!」と思う気持ち。ただ、そう信ずるだけ、思い込んでいるだけでいい。

・ 「情動」とは、こころの動きといった抽象的なものではなく、まさに神経繊維の中を伝わる情報のこと。その情報は決していつも一律同一のものではなく、「思い」によって変わるものだ。「俺は若いんだ」と思えば、まさに「若い」という情報が流れる。それが、脳下垂体を通じて、全身のホルモン分泌腺に伝わる。

・ 自然治癒力に欠かせない役割を持つナチュラルキラー細胞を働かせるのは、「こころ」のコアから発する情動。ガンと闘う意志を強く持つことで、扁桃核から発した情動が、視床下部と自律神経を通って全身のナチュラルキラー細胞へシグナルを送る。

・ 同じ「喜怒哀楽」といった感情的情動でも、喜びや楽しさは「こころ」のコアにやさしく、怒りや悲しみにといった情動は「こころ」のコアを疲れさせ、細胞の老化につながる。

・子供たちのキレタ行動の背景には、海馬や扁桃核の機能障害が考えられる。

・瞑想はこころのコアを休める効能がある。

・ 適度な運動を継続していくことにより、筋力や骨などと共に心臓と肺が鍛えられる。心肺機能が上昇することによって、脳や身体の血流量が増加し、こころのコアの若々しさが保たれる。

・ 自分にタスク(仕事)を課して、それを一つ一つ達成していくプロセスを踏んでいくことは、肉体的な鍛練とは違うこころのコアのトレーニングになる。

・ 自己暗示によって扁桃核から発した決意の情動は、全身のホルモンを活性化させ、普段は自分の意志によって直接作動させることができない自律神経系にも刺激を与える。

・ 自己暗示を習慣づけていると、こころのコアと大脳の連合野との連絡が頻繁になる。いわば共闘体制ができるようになる。共闘体制ができれば頭の回転が速くなる。

・ 極度の緊張感の連続はストレスをため込んでしまうが、こころのコアの若さを保つためには意欲につながるようなほどよい緊張感が必要。肝心なのは、その緊張感を解きほぐすこころの休息をいかにきちんと取るか。基本的にはしっかり睡眠をとること。脳には、脳幹からこころのコアを通って大脳皮質に通じるA10神経という大事な神経回路がある。このA10神経からは、快感 と覚醒をもたらす神経伝達物質ドーパミンが分泌される。ドーパミンは、睡眠をとることによってA10神経に再び蓄えられる。

・ 睡眠の一単位は90分。レム睡眠に続いてノンレム睡眠をいわれる深い睡眠に入る。レムとノンレムを合わせた睡眠時間は45分。睡眠はレム睡眠→ノンレム睡眠の経路を逆戻りすることによって一単位が完成される。

・ 睡眠中枢が働かないようにする神経があり、睡眠物質はこの不眠神経を遮断する物質。結果、睡眠中枢が不眠神経から開放され、自由に眠りに就くことができる。

・ 毎日の日常生活に、逆に「非日常の世界」を作ることも、「こころ」のコアを育む上では大切なこと。いわゆる感動体験というのが、「こころ」のコアにはとてもいい刺激になる。

・ 笑いも大事。笑いは感情的効用を促すホルモン、ドーパミンの脳内での分泌を助ける。ドーパミンは、快感と覚醒の神経伝達物質。「こころ」のコアを豊かに育む上では欠かせない物質。

・ 脳の老化を抑制し、いつまでも若い身体を保つ食事法。とにかく過食を避ける。そして野菜を十分に取り、乳製品・豆類・魚を中心とした高タンパクな食事を心がける。脂肪分、米・パン・うどんなどの炭水化物ばかりを食べるのは良くない。高タンパク、低カロリー、高ビタミンーこの三ポイントを押さえることが「こころ」のコアを強くするための基本条件。

・ にんじんやかぼちゃに含まれるベータカロチンはガンに効果あり。ベータカロチンは体内でビタミンAに変化するが、油を一緒に取ることで吸収率が高まるため、炒め物のような形で体内に取り入れるといい。

・ オシャレに気をつかうのは「こころ」のコアを育む上でも大事。おしゃれとは、人に見られて初めて意味がある。その「人に見られている」意識が大事。他人の目にさらされているという自意識が「こころ」のコアに刺激を与え、ホルモン分泌もよくする。



『老眼と正しくつきあう』 丸尾敏夫 岩波アクティブ新書 (2002)
帝京大学医学部長。医学博士。1932年生まれ。東京大学医学部卒業。65年同大学講師、71年帝京大学医学部教授を経て、2 000年から現職。95年から99年まで財団法人日本眼科学会理事長。

あまり参考になる内容ではなかったが、目から鱗の事柄が少しあったことだけが収穫。立ち読みで十分。

・ 十代からつづく調節力の低下が、近くが見えにくいという結果として、自覚されたものが老眼である。実際、老眼の自覚症状は 多くの人で、40過ぎからすでに始まる。

・ 老眼については一般的に、以下のような誤解がある。

1. 高齢になると始まる―平均42、3歳でなり、それ以前でもなる人がいる。

2. 特定の人だけがなる―誰でもいずれはなる。病気ではなく生理現象の一つ。

3. 視力が落ちる―近くだけが見えにくくなる。遠くを見る視力は変わらない。

4. 見えにくさは皆同じ―個人差があり、それ以上に屈折状態による差が大きい。

5. 眼鏡は進行を速める―老眼鏡は見やすくするが、調節力の低下を促進しない。

・ 正視では、遠くを見るときには水晶体が最も薄くなり、調節が休んだ状態になる。近くを見るときは、水晶体が厚くなる。

・ 角膜は光を屈折させるだけだが、水晶体は光を屈折させるだけでなく、前方にふくらみ、距離の応じて凸レンズの厚さを変え、ち ょうど焦点が網膜上に合うように調節する。この生理反射が調節である。

・ 調節力の強弱を水晶体の焦点距離の逆数で表したものが、ジオプトリー(D)(diopter)だ。

・ 10歳で12D、30歳で6D、40歳で3D、50歳で2D、60歳以降で0.5Dと調節力は落ちていく。

・ 12Dとは1m/12=8.3cm手前のものまで、はっきり見ることができる。

・ 6Dとは1m/6=16.7cm以上先のものでないと、はっきり見えない。

・ 3Dとは1m/3=33.3cm以上離さないと、はっきり見えない。

・ 2Dとは1m/2=50cm以内のものがぼやけてしまう。

・ 0.5Dとは1m/0.5=200cm以内のものがぼやけてしまう。

・ 視力は離れた二点を見分ける最小角で表し、これを視角という。視角は一分=一度の六十分の一を基準にする。視力を検査す るのには、切れ目のある輪状の記号(ランドル環)を使う。一つのランドル環は、直径が7.5mm、太さ1.5mmで、切れ目の幅は1.5 mmになっている。

この切れ目の幅を5mの距離で見ると、視角が一分になる。このときの視力を1.0にする。もしこれではよく見えず、その二倍のラ ンドル環なら見えるときには、視角は二分になり、視力は0.5になる。また視力表に半分の2.5mの位置まで近づかないと、1.5mm のランドル環が見分けられないときも視力は0.5になる。

・ 視野の広さは、見ようとするものの、色・明るさ・大きさで変わる。色では、白、青、赤、緑の順に狭くなる。明るければ明るいほ ど、大きければ大きいほど、視野が広くなる。

・ 明るいところでは黄緑が最も明るく、黄昏時には青緑が最も明るく感じる。この現象をプルキンエ現象という。

・ 誤解の最たるものは遠視で、「遠くが見えるいい目」と信じている人が多い。しかしこれは誤りで、遠くが見えるいい目は正視 だけ。遠視は、遠くは本来ぼやけて見える。

・ 42,3歳を超すと、近くを楽に見ることのできるのは近視だけ。正視も遠視も老眼鏡による矯正が必要になってくる。高齢化 社会・情報化社会の今日、近くを無理せずに楽に見ることのできる生活、すなわち文化的な現代生活を送るうえで、実は近視は最も有 利な目になっているといっていい。

・ 現在の国際的な眼科学の見解では、仮性近視説(仮性近視から真正近視になるという説、仮性近視は不適切な検査による誤診) や近業近視説(長時間による読書や手元の細かい作業が近視の原因だという説)はもちろん、近視が訓練で予防できたり、治療でき るという学説はすでに、古くて根拠のないものとして退けられている。近視は個体が生来持っている、生物学的なバリエーションと して生じるもので、それ以外は何もわかっていないのが現状だ。

・ 老眼鏡は進行により、二、三回はつくり直す必要がある。

・ 目を休ませる基本は、正視の人では遠いところを見ることで、これだけでもだいぶ回復する。眼鏡やコンタクトレンズで矯正し ている人は、遠いところを力を抜いて、ぼんやりと眺めるといい。職場などで目の疲れをほぐしたいときには、文書や機器から視線 を外し、とにかく目をつぶって休むのが最善。

・ 目薬を点眼すると、その間必然的に目をつぶるから、休むことができ、同時にさっぱりして気分も良くなる。実は、目薬は成分云 々よりも、疲労にいいという精神的な効果が大きい。




『98歳、 元気の秘密』 三浦敬三 祥伝社 (2002)
1904年青森県青森市生まれ。北海道帝国大学農学部卒業後、青森営林局に勤務。青森林友スキー部の選手・部長として活躍。 1955年、51歳で営林局を退職後、東京練馬に在住。(財)全日本スキー連盟の技術委員を務める等、日本スキー界の草分けの一 人であり、「八甲田の主」とも呼ばれる。

現在も11月から5月まで、1年の半分近くを国内外のスキー場で過ごし、また国内外の賞を数多く受賞している現役のスキー山 岳写真家でもある。還暦で海外に遠征して以降、古希(70歳)でエベレストのシャングリ氷河を滑降するなど、節目節目で大きな海 外遠征を実現している。世界七大陸最高峰からのスキー滑降を達成した、三浦雄一郎の父。

98歳になってもいまだに一年の半分近くをスキーをして過ごしている驚異的な著者の健康の秘密を食事、トレーニングの面から 解き明かしている。非常に参考になった。

・ 主食は玄米と胚芽米を混ぜたもの。一回に炊く量は3合。配合の割合は、玄米が2カップ(2合)、胚芽米が1カップ(1号)。これ を電気圧力鍋で炊き上げ、三日ぐらいかけて食べる。食べる量は朝、晩一膳ずつ。

・ 玄米は繊維分が豊富で、腸の働きを活発にするので、便秘に効果てきめんだった。

・ 玄米は硬いけれど、よく噛めば大丈夫。総入れ歯の私でも美味しく食べている。また、よく噛む、よく顎を使うということも体 にいい。

・ 玄米食にするなら、30回以上は噛んだほうがいい。私は60回ぐらい噛んで飲み込むようにしている。よく噛むと甘味が出て、い っそう美味しく食べることができる。

・ サケ・ブリ・タイなどがひたひたになるぐらいまで水を入れ、醤油と砂糖少々で味付けをして圧力鍋で30―40分煮込むだけ。 骨まで食べられ、カルシウム補給にはうってつけの料理。

・ カルシウムを体に吸収しやすくするためには、ビタミンDが必要。このビタミンDを摂取するため、私はキクラゲをできるだけ 食べるようにしている。ビタミンDの豊富な食材として椎茸がよく知られているが、キクラゲのビタミンDは椎茸の10倍も20倍も ある。しかも、鉄分が豊富で造血作用にもいいし、さらに、昔から不老長寿の食べ物といわれている。

・ キクラゲは乾燥した状態で売っているので、使うときはそれを水で戻し、醤油と砂糖少々で味付けして、30分ほど圧力鍋で煮る。 ただし、ただキクラゲだけを煮るのではなくて、煮干の粉末を大さじ1杯ぐらい入れて、カルシウムの補強とダシ代わりにしている 。この粉末は自家製で、煮干を買ってきて自分で粉末にしたもの。この粉末は味噌汁のダシにも使っている。

・ 納豆は朝晩食べるが、食べる量は朝食のときに一口、夕食のときに二口ぐらいのもの。それでも一週間でちょうど200グラムぐ らになる。納豆は一週間に200グラム食べれば、それだけで十分に効果があるという。1パックで50グラムぐらいあるので、200グラ ムというと、4パックということになる。この4パックを一週間かけて食べている。

・ どんなに栄養がある食べ物でも、体が求めている以上の量を食べるようなことを繰り返していたら、逆に、体に余計な負担をか けることになってしまう。

・ 肉はあまり食べないが、豚の赤身のところの挽肉とピーマンを炒め合わせるという簡単なもので、味付けは醤油だけ。挽肉のか わりにホタテを使うこともある。

・ ヒジキと椎茸の煮物もよく作る。これは普通の鍋で煮る。味付けはやはり醤油と砂糖少々。

・ デザートは自家製「小豆あん」。小豆をひたひたぐらいの水に入れ、砂糖を入れて圧力鍋で煮る。隠し味の塩もひとつまみいれ る。圧力鍋なら35分程度で出来上がる。

・ 豆類は体にいいといわれている。その中でも植物性タンパク質が豊富な大豆は、消化のよい納豆の形で納豆菌とともに摂取し、 大豆に次いで栄養豊富な小豆は、これも消化がいいようによく煮て、糖分とともに摂取する。毎日必ず、大豆と小豆の二種類の豆を 食べている。

・ お茶は急須を使わない。ミキサーでお茶を細かい粉末にしておいて、飲みたくなったらスプーンですくって湯呑みに入れ、お湯 を注いで飲んでいる。粉末は細かくするために、いったんミキサーにかけた粉末をふるいにかけて、大きな破片を取り分け、もう一 度、ミキサーにかける。

ミキサーは鋭い刃を高速で回転させているので高い熱が出る。あまり高い熱になると、機会の故障の原因になる。熱が高くなりそ うだと思ったら、機械を止めて、お茶を冷却材の上に取り出して冷ます。それからまたミキサーにお茶を入れて動かす。

・ お茶は体にいいだけでなく、脳の働きにもいい。

・ カキ、イチジク、イチョウの葉を干して煎じた「自家製のお茶」も飲む。カキとイチジクの葉は、春に若葉を集めて、乾燥させた うえで粉末にする。これを保存しておいて、夏になったら、カキの葉とイチジクの葉を3対2の割合で混ぜて大きな鍋で煮る。煮る 時間は2時間ほどで、煮汁は黒褐色になるが、この煮汁を冷蔵庫で冷やしておくと、いい飲み物になる。そのまま飲めて、体にもいい 。イチョウの葉も同じように春のうちに若葉を採取しておいて乾燥させたうえ、粉末にしたものを飲む。

・ カキの葉は腎臓にいいといわれているが、たしかにこれを飲みだしてから小水の出もよくなったようだ。

・ イチジクとイチョウは血液をサラサラにしたり、血管の弾力を保つのに役立つし、集中力や記憶力、ボケ防止にもいい。

・ 特製ドリンクを毎日飲んでいる。中身は次のとおり。これを「コップ1杯の牛乳」に入れ、かけまぜて、よく溶かしてから飲む。 私は朝と夕方、食後にコップ1杯ずつ飲んでいる。

1. 黒ゴマをミキサーで粉末にしたものを中さじ2杯。

2. 黄な粉(これは大豆の粉)中さじ2杯。

3. テンサイ糖(サトウダイコンからつくった砂糖でミネラルが豊富)小さじ1杯。

4. 酢タマゴ中さじ5杯。

5. プレーンヨーグルト(甘くないヨーグルト)大さじ1杯。

・ 酢タマゴは生卵で作る。まず、殻をつけたまま水で洗ってきれいにする。そして、適当な容器に殻をつけたままの卵を入れて 、そこに醸造酢を注ぐ。酢の量はタマゴが浸るぐらい。私は一度に2個のタマゴを使う。酢を注いだら蓋をして、四、五日そのまま にしておけば、殻はすっかり酢に溶けてしまい、殻の内側の薄皮と黄身、白身だけが溶けずに残る。この薄皮は捨ててかき混ぜる。 これで出来上がり。

私はゆで卵の殻が残っていたら、それも一緒に入れて酢を注いでいる。この殻も一緒に溶けてしまうから、それだけカルシウムが多 くなるというわけ。酢タマゴは長く保存しておける。

・ 特製ドリンクの効果としては、髪の毛を黒く保つことができること。多分特製ドリンクに入れている黒ゴマのおかげだろう。 髪の毛だけでなく、皮膚の色や色艶も年齢の割りにはいいようだ。顔のどこにもシミは出ていない。酢タマゴはシミを消す効果も あると昔から言われているので、やはり、特製ドリンクの効果ではないだろうか。

・ 私のトレーニングの内容は、基本は8種類で組み立てている。以下、朝起きてから順番に@首の運動、A口開け運動、B呼吸法、 C体操、Dゴムチューブ運動、Eスキー体操、F深呼吸、Gウォーキングの8種類。このトレーニングを毎日行う。

・ 首の運動:椅子に座るか正座した姿勢で、背筋を真っ直ぐ伸ばし、まず首を前後に30回傾ける。回数は前に傾けたら1回、 後に傾けたら2回というふうに数える。続いて左右に30回傾ける。これも左で1回、右で2回と数える。それがすんだら、最後に 首を回す。回し方は右回りで20回、左回りで20回。

力の入れ方は、どの運動も、はじめのうちは軽くして、次第に強くしていく。トレーニング初期には回数は少なめにし、徐々に増や していく。

・ 首の運動は頭への血行をよくするのが目的。ボケ防止にもいい。

・ 口開け運動:口開けの回数は140回から150回。顔のあたりの筋肉が疲れるぐらい繰り返さないと効果がない。口を大き く開けると同時に、舌を思い切り突き出す運動も加える。やり方は、口を大きく開けて、下を右側に思い切り出す。これ以上は出せ ないというところまで舌を突き出す。そして、口を閉じる。

次に口を開けるときは、下を真ん中に突き出すという具合に、口を開けるたびに、右、真ん中、左と舌を突き出す。この運動も、椅子 に座ったままの姿勢で行う。床に座った姿勢でも構わない。ただし、背筋は伸ばす。

・ 口開け運動をすると、口の周りの筋肉だけでなく、目のまわりの筋肉も引っ張られるし、頭や肩、胸のあたりの筋肉や筋までほぐ してくれる。その効果は、顔のシワがなくなる、肩こりをほぐし、集中力が出てくる。

・ 呼吸法:この呼吸法では、バラ、ラベンダー、ジャスミンなどの香料を使うが、気分が爽快になると同時に、適度に脳を刺激して くれて、ボケ防止にも効果を発揮するようだ。

・ 右手の人差し指を伸ばして、右の鼻の穴を小鼻の上から押さえてふさぎ、口を閉じたまま、腹式呼吸で左の鼻の穴から、大きく息 を吸い込む。鼻の穴のすぐ下のあたりには、好きな香料を入れた小瓶を置いて、空気とともに、香りを鼻の穴の奥まで送り込むよう にする。香料はいい匂いがするものなら、どれでも構わない。

そして、吸い込んだ空気はすぐに吐き出さず、両方の鼻の穴をふさいで、息を止めたまま5秒ほど我慢する。同時に、少しいきんで 耳にまで空気を通す。耳の中に空気を送り込むことで、耳の内部を刺激する。そうしてから吸い込んだ空気を、ゆっくりと口から 吐き出す。この呼吸は25回行う。

息を吸い込む鼻の穴は左のほうだけで、右の鼻の穴からは吸い込まない。これは右脳を刺激したいからだ。左脳を刺激したい場合 には、右の鼻の穴から吸う。耳を刺激するようになって、私の難聴の度合いが進むのが止まった。

・ 体操:真っ直ぐ立って、万歳をするような形で両手を振り上げる運動を20回。次に片方の手を頭の上まで真っ直ぐ伸ばし、手 と反対側のほうに、体を横に曲げる運動を、右手と左手でそれぞれ20回。この運動をするときは、体の横の筋を伸ばすように意識 する。

次に、両手を体の横に真っ直ぐ落とし、腕を振りながら体を回す。円盤投げの形と同じ。この体操も最初は軽くして、次第に強くし ていくようにする。この円盤投げ運動も20回行う。次は前屈。膝を曲げずに体を前に倒し、手の先が床につくようにする。回数 は20回。

ただし、最初から無理に手を床につけようとしてはいけない。最初は軽く前屈させる程度にする。手の先が床につかなくても構わ ない。

・ ゴムチューブ運動:「スクワット」といわれる運動で、大腿やお尻の筋肉を鍛える効果がある。まず、真っ直ぐ立って、両足を肩 幅より少し広くなるぐらいに開く。そして両膝を折ってお尻を落とし、膝の高さの少し上までお尻が落ちたところで、体を引き上げ て、また真っ直ぐ立った姿勢に戻る。これは30回から100回。

注意点は常に背筋を真っ直ぐにしておくこと、お尻を膝の位置よりも深く落としこまないこと。特にお尻の位置には注意すること 。あまり深く落としこむと膝に大きな負担がかかってしまう。手の位置は頭の後で組んでもいいし、両手を体の横につけてもいい 。

チューブを使うときは、@チューブを足で踏み、肘に引っ掛ける、A頭の高さまで腕を上げる、B最後の10回は頭の上まで手を上 げる。これを30から50回。

・ スキー体操:いつもしているわけではなくて、スキーシーズンが開幕する二ヶ月ほど前から、トレーニングメニューに加える。 この体操は、スキー特有の体の動きを強く意識した運動。二つの椅子を背を内側にして、1メートルほど間隔をあけて置く。次に二 つの椅子の間に体を入れて、両足をそろえて立ち、左右の手でそれぞれ椅子の背をつかんで、体を支えられるようにする。

椅子の背をつかんだまま体を傾け、スキーの回転のようなかんじで、谷側、山側と、体重のかけ方を変えながら、右、左と体の傾きを 変えることを繰り返す。回数は100回をめどにする。

・ ウォーキング:無理なく基礎的な体力を作るためにウォーキングをする。初期段階は普通に歩く。体力が少しついた頃次のよ うにやる。

1. 5分ほど「六分程度」の速さで歩く。

2. ジョギング50歩

3. 速歩

4. ジョギング70歩

5. 速歩

6. ジョギング50歩

これを繰り返す。3キロから4キロの同じコースをタイムを測って歩くと体力のつき方がわかって楽しい。ジョギングの歩数は、「 50,70,90,120,150歩」と次第に多くしていく。

・ 普段の体調をチェックする目安は「脈拍」。普段の脈拍が速くなったら注意する。

・ 多少のことでは医者に行かない。また、医者に行ったとしても、それこそ数えるほどの日数で切り上げてしまい、普段の生活の なかで治してしまう。薬も基本的には飲まない。




『万病の原因はウイルスだった』 宮崎雅敬 KKベストセラーズ (1996)
1952年愛知県生まれ。十字の漢方社長。薬剤師、鍼灸師、指圧師、臨床検査技師の資格。

・ “気”には“えいき栄気”と“ えき 衛気”に分けられる。栄気は血液の流れに沿って身体をめぐるエネルギー、つまり血を動かし各々の器官においてそれを機能させる働きのもとになるエネルギー。衛気は、通常体表約十センチメートルぐらいの幅で体の外をめぐっており、外からのマイナスの波動やウイルス、細菌などから身体を守っている。

・ 高次元医学とは、西洋医学に東洋医学、つまり“気”=“サイ”という見えない世界の情報、意識と波動などを盛り込んだ医学。

・ 意識波動医学研究会を1997年6月15日設立。高次元医学に、漢方薬、気功、鍼灸、さまざまなヒーリング、瞑想、言霊、意識エネルギー、波動研究、水の研究など、意識と波動に関する様々な分野の人に集まってもらう。

・ 病気の原因は、「根本原因」と「直接的原因」がある。根本原因の三大要素は「感情のマイナス波動」と「不調和な波動」の中の「電磁波」と「食事の問題」。

・ 感情のマイナス波動:怒り、ねたみ、悲しみ、恐れ、不安、恨み、不満、不信、迷い、こだわり、わがまま、威張る・天狗になる、ストレス、人の欠点指摘。

・ 不調和な波動:電磁波の障害と霊的障害、土地から受ける波動障害、レントゲン及び放射能、過剰な紫外線の五つ。土地のマイナスエネルギーを良くするには、EG火山灰を竹筒に詰めて土地の四隅と真ん中に埋めるか家の中に置くとよい。

・ 食事の問題:過食、便秘しやすい食品、過剰な飲酒、多肉、もち米・栗の過剰摂取、過酸化脂質を含んだ食品、ジュースや菓子などの砂糖、卵や牛乳、電子レンジで調理した食品、インスタント食品等の過剰摂取は避ける。

・ 直接原因で最も多く発生するものは、サイトメガロウイルス、ヘルペス単純型ウイルス、クラミジア。これらはありとあらゆる慢性病、難病の原因となっている。それと同時によく出てくるのが血行障害物質であるトロンボクサンB2.これがウイルスと同時に発生しているため、ウイルスの発生部位に薬などの吸収が妨げられる状態が起きており、慢性病が治りにくい要因のひとつ
になっている。

・ 「よい人間になります。ありがとうございましたー」この言葉がすべてをプラスに変えてくれる魔法の言葉。

・ O―リングテストの原理:人間のからだの組織からも電磁波が出ているが、正常組織と異常組織とでは、違った周波数の電磁波が出ている。そしてからだの異常部分に近い皮膚に刺激を与えると、この異常部分の電気的情報が大脳に伝わる。すると大脳は筋肉の緊張を緩ませる命令を発し、リングが開いてしまうのでは。

・ 病気を必要以上にこわがり、意識しすぎると、ウイルスは増長するようだ。病気を受け入れ、病気を通じて学び、自然治癒力を高め、治癒に向かう道筋は、結果としてその人の人間性を大きく向上させる。

・ きれいな色の染料を使っている食器のほとんど、食品やセラミックにも最近水銀と鉛を多く含んでおり、これが体内に蓄積し一定量になると、そこにウイルスを発生させる。また、水を浄化するというセラミックも時として水銀、鉛が入っている場合がある。

・ 人間は何のために生まれてきたのか。
1. 前世に対する自分の行いを償う
2. 自分の魂の歴史の中で果たそうとする使命を実現させる
3. 肉親や愛する人との死別の悲しみを体験し、魂の永遠なることを知って、それを乗り越える
4. 自分の死を一番調和のとれた形で迎える
5. 病気やケガや障害を体験し、その意味を考え、病気の治療を通じて人間性を向上させる

・ 「ゴオウ牛黄」は、千頭に一頭ぐらいしか見つからないという牛の胆石であり、大変貴重な漢方の生薬のひとつ。その効能は、
1. 脳出血、脳梗塞などの発作時に即時服用すると劇的な効果を発揮し、命拾いをする。
2. 肝機能がよくなり二日酔いが起こらない。
3. 高血圧、動脈硬化には、血管壁のコレステロールを除き、血管を若返らせる。
4. 強心作用や血圧降下作用を有する。
5. 鎮静効果により不安を取り除き、精神を安定させる。
6. 鎮痙効果によりけいれん等に有効。
7. 赤血球新生促進作用がある。
8. 解熱作用がある。

・ 腸内細菌は約三百種類、その数は約百兆個、総重量は約1kgにもなり。人間の大便の約三分の一から二分の一が腸内細菌。腸内細菌の働きは、
1. 脂質代謝の活性化:摂取したコレステロール、中性脂肪などの脂質の消化・吸収をコントロールしたり、余分な脂質の排泄を促進する。

2. 消化・吸収・代謝への作用:腸内では消化できない繊維質を分解したり蛋白質や糖質を分解して消化を助ける。

3. ホルモンやビタミンの産生に関与:ステロイドホルモンやビタミンB1,B2,ビタミンKなどのビタミン類の産生に関与。

4. 有害物質や発癌物質の分解・排泄

5. 免疫系の賦活:免疫系の活性化、抵抗力の上昇。

6. 腸内pHの調整と腸の蠕動運動の活性化:腸内細菌が産生する酸によって腸内のpH値を弱酸性に保持し、病原菌の増殖を防いだり、腸の蠕動運動を活発化させて消化を助ける。

7. 病原菌、有害菌の感染防止:腸内細菌が消化管壁に定着し、壁面を覆うことによって、侵入した病原菌や有害菌の増殖を防ぎ、感染から我々を守っている。

8. 各種臓器の機能の活性化や保全に関与:肝臓や腎臓など。

9. 過剰なエネルギーの取り込の制限:腸内細菌は我々が食べた食物を栄養源として消費することによって、我々の体内に取り込まれるエネルギーを減少させている。特に乳酸菌群の存在が重要。

・ 抗生物質の多用は、腸内細菌を死滅させ、耐生菌である超細菌スーパーバグを作り出す。


『脳のなかの身体』 宮本省三 講談社現代新書 (2008)
みやもと・しょうぞう:1958年高知県生まれ。高知医療学院理学療法学科卒業。高知医療学院学生部長、日本認知運動療法研究会会長、理学療法士。

現在の脳卒中に対する運動療法によるリハビリテーションは、旧態依然の考えに基づいており、認知運動療法の立場からは、 逆に危険な療法と考えられる。また、現在のリハビリテーション治療が麻痺した側を治すのではなく、麻痺していない側を鍛え、 早期に社会復帰を求めるものだということも新しい発見だった。今後の認知運動療法に期待。

・ “脳の中の身体”を治療する認知運動療法は、イタリアのリハビリテーション医カルロ・ペルフェッティによって提唱されている。 この療法では、患者は、目を閉じて、自分の身体を感じたり、セラピストの動きの介助によって接触した物体の特性を感じたりすることを要求される。

そうした訓練によって、自己の身体の空間的な位置、動き、重さなどを知覚したり、それに注意を向けたりすることができるよう になる。また、それを記憶したり、どんな感じなのかを言葉で表現したりすることができるようになる。身体は精神としても存在している。

運動麻痺の本質は、脳の中の身体の消失または変質である。認知運動療法によって失われた脳の中の身体を取り戻すことができる。 傷ついた脳が、再び、身体を使って世界に意味を与え始める。だが、現実には認知運動療法を支持する声は小さい。難解だとの批判も多い。

・ 身体表面の感受性は均一ではない。皮膚で最も感受性の高いのは手、唇、舌、顔などであり、この身体領域が最も繊細である。 それは、二点識別テストという検査で簡単に確認することができる。皮膚にコンパスの先端を二か所接触させて、それが一点か二点 かを問い、二点であることを感じ取れる距離が短いほど、その場所の感度が高いことになる。

例えば、人差し指の皮膚の先端は「第二の目」と呼ばれ、ミリ単位の差異を完璧に識別できるが、背中の皮膚は数センチの差異を 識別できないほど感度の違いがある。この表在感覚が麻痺すると、皮膚の触覚、圧覚、温度覚、痛覚の異常が生じることになる。

・ 一般的に運動器とされている関節、靱帯、筋も、実は感覚器である。深部感覚は自己の運動が刺激となって生じる感覚で、 関節の運動覚と筋感覚とがある。運動覚は関節の位置や関節運動の方向、距離、速度などの情報である。筋感覚は筋収縮の力や重さの情報である。

深部感覚の機能には、身体の空間的位置をリアルタイムで知らせたり、抵抗力を探知したりする働きがある。また、物体の形状 や重さを認識するという特性もある。目を閉じていても、手に持った物体の形や重さがわかるのはこのためである。

関節や靭帯には物理的刺激に反応する機械受容器(メカノレセプター)と呼ばれる深部感覚受容器が多数存在する。これが身体感覚の基盤をつくる。

・ 深部感覚は身体の「動く感覚」と「力の感覚」である。さらに、動く感覚は「位置覚」と「運動覚」に、力の感覚は「抵抗感覚」 と「重量覚」に分類できる。脳からの運動指令によって身体が動く時、関節や筋は身体を自由自在に動かしつつ、自分自身の状態を脳に知らせているのである。 このような性質をもつ深部感覚の麻痺により、関節の運動覚と筋感覚の異常が生じる。

・ 現在のリハビリテーション治療では、頑張って車椅子から立ち上がることを発症後早期(急性期)に要求する。立位で患側の 下肢に体重をかけろと要求する。しかし多くの脳卒中片麻痺患者は麻痺肢を使って立ち上がることはできない。歩くことができない。

患者は、自分の足の位置、足底と接触している床の状態、体重をどこに荷重すればよいか、どこの関節を動かしたらよいかが、 そしてどのようにして筋を収縮すべきかがわからないのである。また、そのこと自体に気付いていない患者も数多くいる。

脳卒中後の運動麻痺と感覚麻痺の背後に、身体空間の変質という深刻な問題が潜んでいる。だからこそ、患者たちは自由に動く ことができないのだ。多くの医師やセラピストたちは、その事実を見逃してしまっているのである。

すなわち、身体空間の変質は、単なる感覚麻痺の量的な異常ではなく、身体の空間的存在感と動きの質感の変質を伴っている、という事実をである。

・ 脳損傷によって高次脳機能障害(前頭葉や頭頂葉の大脳皮質連合野損傷による認知障害)を来すと、身体の「所有感覚」と 「身体感覚」に異常を生じる場合がある。身体の所有感覚とは「身体が自分のものであるという感じ」である。

人間は身体としての自己を自覚している。これは主観的な自覚ではあるが、単に視覚、聴覚、体性感覚など複数の感覚情報を 認知することによって生じる身体感覚ではない。もっと根源的な、自己が身体であることについての身体意識である。

一方、身体の主体感覚とは「運動を起こしているのが自分であるという感じ」である。それは単に自分の身体が動いていると いう受動的な感覚ではなく、自分が運動を起こしているという能動的な感覚である。自己が意図的に身体を動かしていることに由来する、根源的な自己意識である。

・ 統合失調症では「自己喪失体験」と呼ばれる、主観的な自己が崩壊する事態が生じる。そこでは主体としての自己感が喪失し、 思考が外来的意志により強奪されるため、体験が現実から乖離してしまう。

「自分の頭の中に受信機が埋め込まれており、誰かが発信機から電波を送って自分の身体を動かしている」といった患者がいるが、 自己喪失体験では身体に関するあらゆる種類の奇妙な「妄想」、「幻聴」、「離人体験」などが生じる。

なかでも、もっとも有名なものに「させられ体験」がある。これは自我意識の障害であり、行為の主体が自分ではなく、他の何者か によって自己の行動があやつられ、強制的にさせられてしまうと感じる体験である。統合失調症では、所有感覚よりも主体感覚に異常が生じている。

・ 脳卒中片麻痺を単なる運動麻痺や感覚麻痺と捉えてはならない。それは、時に「私の身体」の消失という劇的な意識経験 の変容をもたらす。失われる「私の身体」とは、「脳の中の身体」のことなのである。

・ 心が生まれるためには脳(神経系)が必要である。しかし、脳だけでは心は生まれない。心は身体に由来している。また、 心は他者と共有する相互主観的な言語コミュニケーションに根ざしている。心は生物的進化と社会的文化の産物である。 心は身体に起源し、まず身体があって脳が生まれ、脳が発達して言語が生まれ、人間は心を持った。

・ ペルフェッティは新しい仮説を提言している。それは、身体と物体との相互作用においてどのような情報を抽出するのかに 応じて、脳での身体部位再現の組み合わせが決定されるという考え方である。例えば、目を閉じて、手で「リンゴ」を掴んでいる 場合を考えてみよう(手とリンゴとの接触による相互作用)。

手の運動野や感覚野の身体部位再現が一回であれば、すべての場合に手指の運動ニューロンや触覚の感覚ニューロンはすべて活性化する。 しかし、手でリンゴを掴んでいる状態に対して、リンゴはどの方向にあるのか、リンゴの直径はどれくらいか、リンゴの状態はどうか、 リンゴの表面はツルツルしているか、リンゴは固いか柔らかいか、リンゴの重さはどれくらいかと問われたら、同じ持っている状態で あっても、同じ掴んでいる状態であっても、多重身体部位再現では問いに応じて異なる複数の運動野や感覚野のニューロンが活性化する。

つまり、ひとつの物体に対して、それとの関係で主体が意図的に何を知覚したいかによって、同じ掴むであっても運動野や感覚野の 活性化するニューロンの組み合わせは違ってくる。一方、異なる掴み方であっても、問いが共通していれば運動野や感覚野のニューロンの組み合わせは同じとなる。

・ 頭頂葉損傷による失行症患者ではジェスチャーやパントマイムの障害が起きる。この模倣障害は視覚と体性感覚間の照合がうま くいかないことを示しており、その結果として、運動イメージの想起ができなくなる可能性が指摘されている。

また、小脳は実際に運動しなくても運動をイメージするだけで活性化することが判明している。また、脳卒中片麻痺患者においても 運動イメージの想起が困難な症例が多数存在する。さらに、運動イメージは整形外科的疾患(骨折や関節症の手術後)で筋力低下した 症例の治療においても考慮する必要があるだろう。

運動科学者のユーとコールは、運動イメージが小指外転筋の筋力増強に及ぼす影響について研究している。正常な被験者を「抵抗訓練群」、 「運動イメージ訓練群」、「対照群」の三つに分け、五日間の訓練期間の前後で筋電図を使って筋力を測定した。

その結果、抵抗訓練群では30%、運動イメージ訓練群で23%、対照群で5%の筋力増強効果が認められたという。筋力強化に運動イメージ の活性化を試みる価値は十分にあるだろう。

・ 運動イメージが生成できなければ随意運動は生じない。リハビリテーションにおいても運動機能回復を促進するためには適切な 運動イメージを想起させる必要がある。治療に運動イメージを使うことにより、患者を運動プログラムの改変に直面する状況に、 つまり自分の中であたかも運動を組織化し運動を実行しているように「見る」もしくは「感じる」という状況に導くことができるのではないだろうか。

ペルフェッティによれば「あらゆる行為には運動イメージが先行する」。行為のすべては「予測制御」されているからこそ円滑な 随意運動を遂行することができる。したがって、運動イメージは運動プログラムを改変するために必須なものである。

この予測制御を改変するためには「期待される運動感覚」を変える必要がある。この期待される運動感覚こそが運動イメージな のである。それによって事前に結果を知ることができない行為に対する新しい運動プログラムを準備することができる。

運動学習の初期段階では「こういう風に筋感覚イメージをすれば、こういう運動感覚が期待できる」という運動イメージの想起が 極めて重要である。運動イメージが想起できないということは、動けないということである。運動麻痺の回復のためには、「脳の中の身体」を動かす必要がある。

・ 21世紀を生きるセラピストは、現在のリハビリテーション治療(理学療法や作業療法における運動療法)では、脳機能の回復や 運動麻痺の回復が十分には達成できないことを認めるべきである。その治療効果は残存部位の機能代償によるものがほとんどであり 、日常生活動作能力の向上や社会復帰がはかれる症例はあるものの、脳損傷後の高次脳機能障害(失行、失認、失語)や運動麻痺の 回復という点では無力に等しいのが現実である。

また、中枢神経疾患のみならず、整形外科的疾患におけるリハビリテーション治療の現実も同様である。そこには、運動器損傷後の 回復にも脳の学習メカニズムが関与するという考え方がまったく存在していない。

・ 痙性麻痺によって関節拘縮(関節が固まって動かなくなること)や筋短縮(筋肉が短くなって関節可動範囲が制限されること)が生じる。 これを予防、改善するためのセラピストによる他動的な関節可動域訓練や伸張訓練が正当化された。

だが、いくら関節を動かしても、筋をストレッチしても、運動麻痺が回復するわけではない。特に脳卒中片麻痺に出現する筋の痙性 は神経生理学的には脊髄レベルにおける伸張反射の亢進状態であり、痙性は筋伸張の速度に比例して亢進する。

他動的な関節可動域訓練は拘縮予防として絶対的に正当化されているが、この筋への物理的な伸張刺激によって逆に痙性を高めている 可能性がきわめて高い。だとすれば、セラピストは、一方で関節拘縮を予防し、一方で関節拘縮の原因となる異常な筋緊張を生み出していることになる。

・ 日常生活動作訓練(運動療法)は運動麻痺に対する治療ではなく、「利き手交換の練習」に代表されるように、主に残された健側 の手足を使っての練習だ。麻痺した手の回復や正常歩行が獲得されるわけではない。運動療法は運動麻痺の回復を目的とはしていない。

運動麻痺の回復には限界があり、それをあきらめたうえで、家庭復帰や社会復帰をさせようとするリハビリテーション治療なのである。

・ 現在のリハビリテーション治療は身体を物理的に捉えており、その治療は脳の中の身体の回復を目指していないという致命的な 欠陥がある。あらゆる回復は脳の学習であり、脳に働きかけない治療は運動麻痺を回復させることはできない。

また、代償による限界を超えた、人間の行為する能力を再獲得させることはできない。

・ 認知運動療法は、セラピストが患者に「問い」を投げかけることによって、患者自身が脳の認知過程を活性化し、運動機能回復を はかろうとする教育的なアプローチである。その最大の特徴は、患者自身が能動的に学習するということ、すなわち患者は自らの身体 を使ってその問いに解答しなければならないという点である。

認知運動療法では、患者に対し「認知問題」の解決を求めることを要求する。それは、現在行使できる能力だけでは環境と身体との 相互作用が解釈できないと、患者が意識するような状況が作り出されるからである。知能の発達から身体運動能力の向上に至るまで、 あらゆる学習は問題(課題)−仮説(予想)−解答(検証)を経て成立していく。

そこで、患者自らが中枢神経系を一定の方式に従って組織化するために、運動療法を認知問題として展開するのである。これが認知運動療法の基本構造である。

・ サルの手指に振動刺激を与えると、サルの手指に対応する頭頂葉の体性感覚は改変される。しかし、リカンゾーネは、この時 手指に振動刺激を与えながらも、サルの注意をそらすために音を聞かせ、その音の周波数の識別という経験に対して餌を与えた。

この結果、振動刺激を与えた手指の体性感覚野の改変は起こらず、音の周波数を識別する側頭葉の領域が数倍に広がった。脳の可塑性 は注意という認知能力の活性化に依存して生じたのである。これは、意味のない振動刺激を単に与えても可塑性を起こらず、サルが音 を意味ある情報として解釈することによって可塑性が生じたことを物語っている。

外部世界の経験ではなく、内部世界の注意という認知過程の活性化が、脳のニューロン・レベルの生物学的変化をもたらす領域を決定したのである。

・ 中枢神経系には階層性(脊髄・延髄・中脳・大脳皮質)があり、大脳皮質が最も可塑性や機能代償の可能性を有している。失語、 失行、失認といった高次脳機能障害の回復や中枢性運動麻痺の機能回復は、すべて大脳皮質の機能的再編成によると考えてよい。

・ 経験は脳を改変する。しかし、その経験は患者の「脳の中の身体」を治療する経験でなければならない。そのためには、まず 「身体を使って世界に複数の意味を与える経験」を再構築し、脳の認知過程に働きかけなければならない。

具体的には、目を閉じて、注意を体性感覚に集中する。セラピストの介助によって手で物体に触れ、その位置や距離を認識する。 その手と接触した物体はどのような素材なのか、固いのか柔らかいのか、どれくらいの重さなのかを認識する。

さらに正しい運動を観察し、健側と患側の差異を比較し、模倣し、運動イメージを想起し、その動きを言語に変換し、どのように 学習すべきを思考して、行為を脳の中で意図する。そうした脳の表象の再構築を目指す経験が、運動機能回復を引き出し、現実の 行為を生み出すことにつながる。

さらに、「身体意識」に働きかける経験が重要である。患者自身が、自己の身体について思考しなければ回復しないということに 気づくことが回復への出発点である。セラピストは、患者に、麻痺した自分の身体をどのように感じているのか、失われた感覚を脳の中で探索させる必要がある。

・ 脳卒中片麻痺の運動機能回復を目的とした回復期のリハビリテーション治療を少なくとも一年間は行うべきである。現在のリ ハビリテーション医療は、リハビリテーション思想の障害構造に準拠して、「機能障害レベル(運動麻痺や感覚麻痺)」、「能力障 害レベル(日常生活動作能力の障害)」、「社会的障害(社会復帰・職業復帰への障害)」という三つの障害レベルに対処しようとするものである。

この思想自体はすばらしいが、現状は運動麻痺の回復には限界があり、日常生活動作能力の回復や維持に主眼が置かれている。 実は、急性期や回復期に行われているリハビリテーション治療も、そのほとんどは日常生活動作の練習なのである。

これでは、急性期や回復期に最大限の「機能障害レベル」の回復を図るという患者との暗黙の約束が守られていないことになる。

・ 脳卒中片麻痺の回復には想像以上の長い時間と努力が必要である。現在の日本のリハビリテーション訓練室での治療は、一日 1〜2時間程度で、発症後180日の時点でリハビリテーション治療は原則的に打ち切られる。これでは最大限の運動機能回復ははかれない。

厚生労働省は早急に、少なくとも一日四時間(午前二時間・午後二時間)の治療時間と発症後一年間の治療期間を保障すべきである。 また、重度な場合は数年、脳性マヒの子供の場合は十年以上の治療が必要である。さらに、治療を打ち切った場合、回復した運動機能が維持できず「寝たきり」になる恐れもある。

・ 脳卒中片麻痺の急性期には失語症、半側空間無視、運動麻痺などの自然回復が予想以上に認められることがある。これは脳の 「機能解離」の解除であると考えられている。機能解離とは脳のある部位が急激に損傷を受けると、その領域と連絡している損傷 していない他の領域が、発症直後には機能を停止してしまう現象である。

急性期の自然回復は多くの場合、この機能解離の解除によるといわれている(その期間は、発症後六か月程度までが目安)。つまり、 失語症、半側空間無視、運動麻痺などの予想以上の回復は、本来、損傷を受けていない領域が一定期間だけ機能を停止していたために 出現していた症状であり、機能解離の解除によってそれが回復したように見えるのである。

これは、厳密には、脳の自己回復力であり、リハビリテーション治療の効果とは言えない。また機能解離は、過度な筋収縮や困難な 動作を求める「強い刺激」を与えると解除が遅れるという意見がある。急性期の早期リハビリテーションにおける関節可動域訓練は 、関節拘縮や筋短縮、筋委縮といった廃用症候群の予防が必要であるという観点から常識化されている。

しかし、関節可動域訓練によって麻痺筋を伸張することは伸張反射を亢進させ、痙性麻痺を誘発する強い刺激となる。また、早期の 平行棒内での車椅子からの立ち上がり訓練、立位での患側下肢への体重負荷訓練、歩行訓練などは、全身に筋収縮を求める強い刺激 である可能性がきわめて高い。

急性期は、身体に意識を向けたり、手足の触覚の感覚再教育や、左右の関節位置感覚を比較するといった、認知運動療法のような 「弱い刺激」によって治療を進めてゆくべきである。




『歯は臓器だった』 村津和正 KOS九州口腔健康科学センター (2000)
九州大学歯学部、同大学院博士課程卒、歯学博士。米国テキサス大学生命医学研究所留学後、九州大学健康科学センターにて日 本で最初の健康外来歯科口腔内科を担当、爾来、歯と命のつながりを追及しつづけている。その間九州大学歯学部予防歯科医局 長、同健康科学センター講師(併任)、佐賀県保健環境部健康増進課長補佐(技術補佐)を歴任。

1993年、福岡市博多駅前にKOS九州口腔健康科学センターならびに、むらつ歯科クリニックを設立。歯は臓器であり、脳 を介して自律神経など、生命中枢機能にも重要な役割を果たすことを科学的、医学的に明らかにし、全身的歯科治療の推進と虫 歯根絶による、歯があるのが当たり前の社会の達成を目指す。

歯が臓器だったとはびっくり。歯は体全体にとって非常に重要な機能を持っており、歯を抜くこと、詰め物をすること、噛みあ わせが悪いこと等が万病の元になっているという。健康を維持するには歯を大切にしなければならない。今までの歯に対する認 識が根底から覆された。是非お薦め。

・ 歯は単に食べるだけの道具ではなく、「臓器」だったのです。これまで歯の異常は、食べる不自由はあっても全身の健康に影 響を及ぼすものと考えられてきませんでした。しかし犬を用いた動物実験で噛み合せの変化によって背骨が曲がることが報告さ れ、ヒトにおいても噛み合せの改善によって背骨の異常な湾曲が回復されることが確認されました。また九州大学健康科学セン ターが実施した「生き生き老人健康度調査」でも、歯が自律神経機能にも影響し唾液分泌や血圧を変動させ、個々の歯で異なる相 反的な前進への情報発信性、つまり臓器性があることが認められました。

・ 歯は唾液分泌に決定的な影響を及ぼしていることがわかりました。

・ 歯には、歯根膜機械受容器という情報発信のためのアンテナが備わっています。それらのアンテナは、三叉神経核と三叉神 経中脳路核という二種類の神経核から神経が伸びて、末端として歯の歯根部の歯根膜内に広く分布しているのです。よく私たち は「歯ごたえ」という言葉を使いますが、これは咀嚼による歯ごたえ信号をこのアンテナから脳に送り、その信号を脳で処理した 結果を歯ごたえと表現しているのです。

こうした伝達における歯と大脳皮質体性感覚野との関係は、歯からの一次求心神経が識別応答の単位(ユニット)として一歯だけ に受容野を持つ「一歯支配ユニット」で、多歯支配ユニットではないとされています。一本の歯に一つの脳細胞が対応して関係が 成り立っているのです。ですから、個々の歯で異なる情報伝達が可能になるのです。しかし、歯が一本でも抜けて無くなれば、 それに対応する脳細胞も消え、その歯からの咀嚼や温冷感の刺激による情報伝達は失われ本来32本の歯によって構成される歯 集合体の情報発信器官としての全体性は変化し、失われていくことになります。

・ 唾液腺には三大唾液腺と呼ばれる耳の下にある耳下腺、顎の下にある顎下腺と舌下腺そして口の中の粘膜の下にある小唾液 腺があります。全唾液に占める割合は、顎下腺由来の唾液が70%を占め、ついで耳下腺唾液が25%を占めています。顎下腺と舌 下腺には顔面神経、耳下腺には舌咽神経という名前がついた副交感神経が、脳の中の橋と延髄との接合部付近にある唾液腺を中 枢として取り込んでいます。また同時に、視床下部及び大脳皮質辺縁葉を上位中枢、脊髄を下位中枢とする交感神経の繊維も入 り込んで、交感、副交感、両神経の支配を受けているのです。

交感神経も副交感神経もともに唾液分泌を促進し、拮抗的な作用 はありません。しかし、その両者の役割は違うようです。副交感神経刺激のときは、主として水分の多いしょう液性の唾液が分 泌され、交感神経刺激のときは、主として固形成分の多い粘液性の唾液が分泌されると考えられます。また、副交感神経の刺激 では耳下腺、顎下腺いずれの腺からも唾液分泌は起こりますが、交感神経の刺激では、顎下腺からの分泌はありますが、耳下腺 からの分泌は生じないのです。

・ 唾液の分泌量は奥歯にいくほど、唾液蛋白濃度は逆に前歯にいくほど影響が大きい。

・ 唾液の分泌量は自律神経のうち主に副交感神経による影響性が強く、唾液の蛋白濃度は主に交感神経による支配が強い。

・ 奥歯、ことに下顎第一、第二大臼歯や上顎第一大臼歯は副交感神経の刺激を非常に発生しやすく、上顎犬歯や下顎第一小臼 歯を中心とした中間部の歯や上顎の前歯は交感神経の刺激を出しやすいといえます。

・ 高齢者を中心とした国民全体に見られる口腔乾燥症は、歯の喪失や噛み合せの狂いから来ています。50代で平均5本、60代 で10本、70代で17本、歳をとるなかで歯は抜かれてしまっています。そして80代前半では7本しか残っていません。しかも普通歯 は奥歯から失いやすいので、副交感神経の刺激傾向の優れた歯から無くなっていると言えます。つまり、さらさらしたしょう液 性の唾液の分泌が無くなり、粘液性の強い唾液が分泌され、口の中がねばねばし、口腔の乾燥感を煽るのです。失った歯を生ま れ変らせることはできませんが、噛み合わせを改善したりすると、唾があふれるように出だす人もいます。

・ 歯は血圧にも影響を及ぼしています。特に下顎の第一小臼歯と第三大臼歯、上顎の犬歯と第二小臼歯、さらに上顎の第一小 臼歯と第一、第二大臼歯が強い影響を及ぼします。大きな傾向として歯は血圧を上昇させますが、上顎の第二小臼歯や第二大臼 歯、下顎の犬歯は血圧を低下させることがわかっています。

・ 左側の顎に麻酔をかけて感じないようにして、右側で物を噛んでみます。当然、右側の噛むほうの歯は麻酔していないので 噛んだことがわかりますが、左側の噛まないほうの歯は咀嚼したことがわかりません。その結果唾液は出ないのです。つまり脳 の中では左右の歯の相違がきちんと計算されていて、それが情報処理されているということです。

この場合「今、届いている刺 激はものを噛んでいる刺激ではない」と識別して唾液を出さないのです。これらのことからも歯を一本抜くということは、実は 歯臓の機能を考えたとき、非常に大きなダメージとなる可能性が考えられます。つまり両方の歯が対として共同で働いているわ けです。

・ 歯が左右とも全部なくなった場合と、片方が部分欠損して対の効果がなくなった場合とでは、歯の効果の低下率は同程度に なっているのです。

・ 前から五番目の第二小臼歯の高さが狂うと、他の前歯や奥歯をいくらいじっても適切な噛み合わせバランスを得ることはで きず、さまざまな症状が出てきます。例えば、高さが低いとき、上半身では肩甲骨から肩にかけての痛み、肩から腕の外側を通 って手にかけての痛みとしびれ、あるいは中指の痺れや親指の腱鞘炎や痛み、そして力が入らないなどの症状が起こることがあ ります。また下半身では腰から大腿部にかけてや膝の痛み等が起こることがあります。

・ 歯(噛み合わせ)は姿勢を制御し、腰痛や側湾症の根本原因であることが判明しました。

・ 私たちの身体にあるたくさんの関節のなかで、身体の中心軸をはさんで、左右に関節を有する部位は仙腸関節(股関節の近 く)と顎関節だけなのです。そして私たちが重力や大気圧に抗して、立位の姿勢をとるとき、この両関節が正中を挟む関節であ るがゆえに抗重力筋を中心とする全身の筋肉の要として、決定的な役割を演じるのです。特に「顎関節」は位置的に身体のなかで 最も重い頭を支える頭頚部の筋肉群との関連性が強く、また可動性の限られた仙腸関節と異なり、さまざまな動きが可能です。

そのため私たちが体を曲げたり、反らしたりいろいろな動きをするとき、全身の筋肉群の「バランサー」として重要な機能を果た していることが考えられます。このような咀嚼筋や頭頚部の筋肉と全身の筋肉とが一つのシステムとして連携していることは明 らかです。

・ ガムの効用:前歯から奥歯まで全体的な噛み方では、交感、副交感両神経の均等なバランスの取れた刺激が得られ、自律神 経のバランスをとるのによいでしょう。もし安らぎ系の刺激を主に取り出したかったら、第二小臼歯より後方の奥歯でガムを噛 むとよいし、逆に目を覚まし、血圧を上げ興奮系の刺激を取り出したかったら、前方の犬歯や第一小臼歯付近で噛むとよいでし ょう。

・ ガムを噛むことによって体の代謝率が一時間当たり19%向上し、脂肪を11カロリー余分に燃焼させ、肥満が抑制されるとい うことが報告されています。噛むという行為は、実は脳の血流や機能の促進を含めた全身運動でもあるのです。そのため、ガム を噛みつづけることによって全身の代謝が活発になり、代謝率が向上するのです。

・ 食べ物を噛むことによって、大脳辺縁系を入り口とした脳への刺激が起こり、唾液分泌の促進によって口の中に唾が溢れ出 すように、胃や腸など全身において生体メカニズムが機能し始めます。例えば、食事の際よく噛んで食べると、食物の消化、吸 収器官である胃や腸などの機能準備体制が整い、体にとって必要なものを選択的に吸収し、不必要なものは体内に取り込まない 機序も働くことが、最近明らかになっています。糖尿病患者が噛むことを励行しだすと、空腹時血糖値が低下し、さらに糖尿病 の指標であるヘモグロビンA1Cの値も低くなることが報告されています。

・ 唾液腺の一つである耳下腺からは、パロチンという昔から若返りのホルモンと呼ばれる物質が分泌されていることが知られ ています。また、動物実験では糖代謝に関係するホルモン様物質の分泌が確認されています。耳下腺から分泌されるパロチンは 、食事の際噛むことなどによって発生する副交感神経刺激による唾液分泌と同時に合成され血液中に取り込まれ作用します。

副交感神経刺激は安らぎの神経ですから、美味しい、楽しい、愉快、安心などの心の感情が背景にあるほど、刺激は強くなるので す。ですから、食事中は余計な、特に仕事や嫌なことは一切考えないで、楽しく、愉快な気持ちを持ち、できたら笑いがこぼれ るような会話をするように心がけることが大切です。

・ 片噛みは非常に危険です。噛みあわせもズレてきますし、噛んでいる側と噛まない側で、左右の咬合力は明らかに異なって きます。そのため目を支えている上顎骨の骨梁が左右で異なってきて、目の眼軸がズレ、それが原因で目の機能に異常をきたす ことが指摘されています。もちろん姿勢もズレてしまい、顔の輪郭も左右不等になって醜くなってしまいます。

・ 噛むという咀嚼筋を使う運動に伴って、身体各部に骨格筋に不随意的な同時放電が生じ、前腕伸筋や足のひ腹筋など歯から 遠い部位にも放電が発生していることが報告されています。また歯を噛みしめると全身の筋肉に連動した電気的変化を発生させ 、全骨格筋の緊張増加が必ず起こることが認められています。さらに咀嚼によって歯に生じた歯ごたえや温冷感覚は、大脳辺縁 系から大脳皮質までその電気的信号が送られていきます。

つまり、噛むことは、心と身体の全身運動なのです。全身を効果的に しかも簡単に、さらに満足感と快感を伴って活性化する優れた身体の装置でもあったのです。ですから寝たきりになっても噛む ことに努めれば、全身運動を行ったのと同じような身体の活性が得られるかもしれません。

・ 虫歯菌がエナメル質を溶かしてしまうと歯に実質欠損が生じ、虫歯になってしまいます。これは虫歯菌が砂糖を分解すると きに生じる酸によるものです。虫歯菌は歯を溶かす酸と同時に、歯の表面に多糖類を主成分とするグルカンと呼ばれる粘着性の 物質を作ります。この粘着性のグルカンが殺菌や除菌作用のある唾液から菌を守るバリヤーとなって、虫歯菌が多量に歯の表面 に生息することを可能にし、バイオフィルムを形成します。このようなグルカンや虫歯菌を含む歯の表面の白い生息層をプラー クと呼びます。

・ エナメル質の結晶は六角形の構造をもっています。このような構造には、ピラミッドパワーや自然界における1:1.618とい う黄金率の形状など、空間のフリーエネルギーを凝集する働きがあります。歯は実はフリーエネルギーの体内への取り込み装置 でもある可能性もあるのです。

・ クリスタルとしてのエナメル質は、その構造から高い波動性を有していると考えられます。歯にはクリスタルによる共鳴現 象によって、血液、殊にその「水」成分の波動を浄化、活性化するシステムがあると思われます。都市部に住んでいて、波動の低 い水道水を飲まざるを得なくても、歯クリスタルがそれらを毎瞬、毎瞬波動の活性化をしてくれているのです。一方裏返して、 この歯を削って人口歯に置き換えたとき、それが生体にとって好ましくないものであった場合、それは非常に恐ろしいことが起 こる可能性もあるのです。命が汚染されてしまうのです。

・ 歯は内分泌の要である脳下垂体機能にも関係している可能性があります。

・ 歯は各指とも連関しています。第一小臼歯は人差し指、第一大臼歯と犬歯は薬指、第二大臼歯や中切歯、側切歯は小指にそ れぞれつながりがあります。東洋医学における経絡研究では、人差し指には大腸経、中指には心包経、薬指には三焦経、小指に は心経と小腸経のそれぞれに関連する原穴が存在し、内蔵を含む全身と連関することがすでに示されています。

・ 最適化した噛み合わせレベルを維持するには、定期的なチェックと必要に応じた調整が必要です。殊に人は日常、靴を履き ますので、そのズレが仙骨の歪みを引き起こし、影響してくることもあります。

・ 歯の再植治療によって、もう歯は抜かなくていいようになりました。いったん歯を抜き、治療をし、もとのところに埋める と、歯はちゃんと生着するのです。

・ 歯が植わっている部分は歯槽骨と呼ばれ、歯の表面にある歯根膜に由来して作られ、顎本体の骨とは発生学的に異なります 。ですから歯槽膿漏などで歯の表面が感染し、歯根膜細胞がすべて壊死してしまったような歯はもとに戻すことは不可能です。 しかし、歯根膜細胞がしっかり残っている歯であればその抜けた場所に戻すことで、歯自体が歯根膜細胞の作用によって骨を作 り出したり、骨と生着することが可能となります。

・ 歯の詰め物として戦後から頻繁に使用されてきた「アマルガム」は水銀50%、銀30%、銅6.5%、スズ13.5%の比率でそれぞ れの金属が含まれています。たとえ無機水銀だからといって生体へ埋め込むなど決してしてはいけないのです。いつ口のなかで イオン化して有機化するか、安全性の保障は誰にもできないのです。このアマルガムはスウェーデンでは、数年前に安全性に問 題があるとして、使用禁止になっていますが、一方の日本ではアマルガム使用だけでなく、さらに最近は永久磁石の生体内への 埋め込みまでなされるに至っています。

・ 歯に詰められた不適合金属はさまざまな形で、生体に悪影響を及ぼします。その一つがマクロガルバニック電池腐蝕作用で す。口腔内に異なった種類の金属を詰めると、唾液を電解質として金属間に電気回路が形成され、電流が流れます。その際電気 的により不安定な金属が負極となり、電子を放電しながら酸化し、金属イオンが溶け出します。また一種類の金属でも、それが 不適当なものだと口腔粘膜を正極として金属間と同程度、あるいはそれを上回る起電力が生じ、金属イオンが溶出します。唾液 を含め、さまざまな食物や飲料水でも、常に電位的に正極となり安定している金属は金やチタンです。

一般的に使用されている パラジュウム合金、銀合金、アマルガムは負極になり、電気回路を形成し、金属イオンが溶出します。これらの溶け出した金属 イオンは体内に取り込まれ、皮膚や臓器内の蛋白質と結合し、蓄積されていきます。そのような蓄積された金属イオンが誘発量 に達すると、異常な免疫反応などが起こり、口の中の粘膜や体表の皮膚に扁平苔せん、アトピー性皮膚炎の症状などが生じてき ます。また、鼻炎や花粉症、気管支炎などのその他のアレルギー性疾患やリュウマチなどの自己免疫性疾患の発症にも関係して いるのではないかと思われます。

・ 歯磨剤に通常含まれるラウリル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤は、「アジュバント」効果という作用によってアレルギー反 応における金属感作を増強するとされています。

・ 口腔内の金属を取り除くだけで、電磁波に対する生体の反応が変化し、筋力は正常化します。このことは明らかに歯に詰め た金属が電磁波障害に関係していることを意味します。

・ 噛み合わせのズレによって咀嚼筋群や舌骨上・下筋群さらには頭と頚部や胸部をつなぐ筋肉群などに不調和を起こし、その ためそれらの筋肉に支えられている重たい頭蓋骨の身体の重心軸に対するバランスが狂ってきます。その結果それを直接支えて いる背骨との接点である軸椎(第一頚椎)や環椎(第二頚椎)に無理なストレスがかかるようなズレが生じます。これら第一、第二 頚椎は背骨の起点にあたりますので、そのズレや歪みは頚椎、胸椎、腰椎と連鎖的に背骨全体の歪みを引き起こすとともに重力 と身体の不調和を引き起こし、抗重力筋を中心とした全身の筋肉に連動した持続的な異常緊張とそれによるストレスを脳に発生 させることになります。

その結果、頭痛、肩こり、背中の痛み、腰痛、股関節痛、膝痛、腕や手足のしびれ、腕が上がらない、 耳鳴り、生理痛、不眠、めまい、手足が冷える、目がぴくぴくする、ふらつく、真っ直ぐに歩けない、指に力が入らない、物覚 えが悪い、生理不順、耳が聞こえない、目が見えにくい、味がしない、鼻がつまるなどの全身の痛みや身体症状が起こってきま す。

・ 顎関節症や歯ぎしり、歯槽膿漏は歯が原因。

・ 噛み合わせにズレがあると、咀嚼の際ある特定の歯に咬合力が集中したり、持続的に無理な力が歯に加わり、歯にダメージ を与えます。また、歯臓病があると、しっかり噛めないため、軟食傾向になったりもして、歯の周囲の防衛機能や自浄作用も低 下し、歯槽膿漏を引き起こす細菌への感染防御が弱くなり悪化しやすくなります。さらに、歯臓病は全身機能も低下させますの で、口腔局所の自然治癒力や免疫機能も低下し、併せて病気を治したり、進行を食い止めたりする力が落ちたりするのです。

・ ガンは高齢者に多い病気で、年齢が二倍になると、ガンになる確率は四倍になると言われていますが、これは単に加齢によ る遺伝子変化の率が高まるだけではなく、歳をとるにつれ歯も悪くなり、多くのしかも多種類の金属が口の中に埋め込まれ、そ の結果金属イオンの溶出量の増大とその体内への蓄積が急速に進むとともに、発生する起電力も大きくなり、細胞膜や遺伝子の 損傷や変化が起こりやすくなったからではないかと危惧されます。



『フォーカシング・セミナー』 村山正治 福村出版 (1991)
ジェンドリン博士と婦人のヘンドリックス博士のセミナー記録
 
1.注意をからだの中心部へ向ける
2.からだが既に抱えている幾つかの事(幾つかの異なった感覚、意識、経験)の間の違いを区別する。

すなわち、思い浮かべる問題や状況によって、からだに起こってくる経験が様々である事を実感する。その微妙な些細な気持ち、感覚の状態に暫くの間留まる訓練をする。すぐに言葉にしてしまうと、フェルトセンスから意味が開かれていく過程が妨げられる危険がある。しかし、その内的な過程の後、自分自身の言葉を口に出して耳から聞くために言語化する事も客観化という過程として重要。

私たちの内面において私達の自信を攻撃しようとする私達のある一面(超自我)が邪魔をしてくる。だから、自分を超自我から開放してやる必要がある。こう言ってやる。「あー!お前はまたいつもと同じ事を言ってるな。私がうまくやれなかったかどうかなんて、おまえは本当は分かりっこないんだ。たとえお前が正しいとしても、それは偶然にすぎない。」



『化粧する脳』 茂木健一郎 集英社新書 (2009) 
化粧品会社とのタイアップ企画で、内容的にはいまひとつ。

・ 化粧をした顔を認識している時の脳の活動は、自分の顔を認識している時と明らかに異なる。むしろ他者の顔を認識してい る時の活動に近い。

・ 素顔については、通常、鏡を見ている時と同様の顔、つまり鏡像を「より自分らしい」と判断している。ところが、化粧を した顔については、本来なら自分の顔なので「鏡像」を選んでしかるべきところを、他者から見た自分の顔である「正像」のほう を「より自分らしい」と判断する。これは驚くべきことだ。

つまり、鏡像と正像の認識プロセスでも、素顔か化粧した顔かによって、あきらかに判断に差が出るのである。自分の顔はたい ていの場合、鏡像でしか見ることができない。しかし、化粧によって左右の対称をとることで、本来、他人が自分を見ているで あろう顔=正像に近づけることができるのだろう。

つまり、他者の視線を自分の中に取り込み、自分の顔を確認することができるということである。

・ 自分自身で他者が好感を持つ社会的な自己の姿をつくりあげ、その顔を他者に開かれた窓として提供していくのに、化粧は 重要な役割を果たしていると考えられる。




『「脳」整理法』 茂木健一郎 ちくま新書 (2005)
タイトル、ベストセラーということで読んだが、抽象的な話が多く、いまひとつぴんと来なかった。

・ 体験から様々な意味を整理し、編集していく機能を果たす脳にとって、偶有性こそが何よりの「栄養」だ。だから、人間の脳は、 常に環境の中で偶有的な出来事を探している。

・ ある程度規則があり、またある程度ランダムであるという人生における偶有性とは、実に味わい深いものだ。他人の心はわからな いと言うが、他者が全く予測不能ではなく、偶有的存在であるからこそ、私達はお互いに心を惹かれあうのだ。

・ 生きることを不安に感じることは、ときに避けられないものではあるが、できれば楽しんでしまった方がいい。不確実性を楽しむと いう「生活知」は、そもそもこの世界の本質、とりわけ生の本質は「偶有的」なものであり、不確実性は避けられないものであるという 認識のもと、「覚悟」を決めることによってこそ得られるのではないだろうか。

・ 私達の脳は、自己の範囲、自分の身体の範囲を、成人になっても偶有的/ダイナミックに表現し続けることによって、環境との時々 刻々変わる相互作用に備えている。たとえば、自動車が登場したのは人類の進化の歴史上でもごく最近のことだが、私達の脳が偶有性を 通して身体知覚をしているおかげで、熟練した運転者は、「車両感覚」というかたちで、車のボディーをあたかも自らの身体が延長され たもののように知覚することができる。

「身体」という「私」の範囲を、脳が定まったルールとしてではなく、偶有性を通してダイナミックかつフレキシブルに把握していると いうことには、重大な意味がある。そのように「私」を定義してこそ、はじめて、偶有的な出来事に満ち溢れているこの世界といきいきと渡り合うことができるのだ。

・ 現在大きな関心を集め、今後脳科学や認知科学に限らず広い領域にインパクトを与えるであろう概念がある。それが、「セレンディ ピティ」(serendipity)だ。「セレンディピティ」は、「偶然の幸運に出会う能力」と訳されることが多く、もともとは、18世紀のイギ リスの作家、ホラス・ウォルポールが、1754年に友人への手紙の中で初めて使った造語だ。

「セレンディピティ」の元になったのは、「セレンディプの三人の王子」という童話だった。この童話で、三人の王子たちは、旅をする中で、 自分達が求めていたものではないものに出会う。そのような偶然の出会いが、結果として王子たちに幸運をもたらした。そのような偶然の幸運 に出会う能力を、ウォルポールは「セレンディピティ」と名づけた。

王子たちは、いうなれば「A」というものを探し求めている旅の途中で、全く異なる「B」に出会い、その結果幸運をつかんでしまったわけだ。 「セレンディピティ」が注目されるのは、それが、「偶然を必然にしたい」という願望をもち、それを実際にある程度実現している人間の脳の 働きと関係していると考えられるからだ。

・ 「セレンディピティ」を高めるためには

1. 行動:とにかく何か具体的な行動を起こすこと

2. 気づき:偶然の出会い自体に気付くこと

3. 受容:素直にその意外なものを受け入れること

・ 不確実性を乗り越えてチャレンジする勇気を持つためには、「成功体験を持つ」ことだ。どんな小さなことでもいいから、うまくいくかど うか分からないことに挑戦して成功する。そのような体験を持つことが重要だ。偶有性の海の中に飛び込んで、自分の人生にとって価値のある 意味を掴み取った、そのような経験を積み重ねることが大切だ。

・ 成功するかどうかわからない、不確実な状況に直面した時に、不安な気持ちを乗り越えてチャレンジし、それが成功するといった体験が一度 でもあると、「不確実な状況下でチャレンジする」という脳のルートが強化され、そのような行動が苦労しなくても無意識のうちにとれるようになる。

一方、不確実な状況を前にして、尻込みしてチャレンジすることを避けてしまって、それで済んでしまったということがあると、次に似たような 状況が訪れた時に、再び挑戦を回避してしまう傾向が強められてしまうのだ。

・ 不確実な状況下であえてチャレンジする勇気を持つためには、不確実性の中で行動する時には結果を左右する因子の全てをコントロールす ることは不可能だ、と認識するのが有効だ。




『意識とはなにか』 茂木健一郎 ちくま新書 (2003)
1962年東京都生まれ。ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。東京工業大学大学院客員助教授。東京大学理 学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職。 専攻は脳科学。

「クオリア」(意識の中でとらえられる質感)をキーワードとして、心と脳の関係を探求している。

「<私>を生成する脳」が副題。なぜ、脳という物質のふるまいに伴って、私たちの意識が生まれるのか?意識の中で、<あるもの>が まさに<あるもの>として感じられること、そして、そのような意識を持つ<私>が<私>であることの不思議さは、全てを説明し尽く すかのようにも見える科学的世界観に開いた穴として存在している、という著者の言葉はこの本のエッセンスを著している。

この本はけっして解答を説明しているわけではないが、私たちが無意識に問題にしていない点を問題として取り上げたところに 価値がある。おすすめ。

・ 朝、目覚めるとともに脳の神経活動のレベルが上がって、ある一定のしきいを越えると、突然、そこに<私>の意識が生まれる 。そして、私たちの意識の中に体験されるさまざまなものたちは、それぞれがユニークな質感(クオリア)に満ちている。

クオリアとは、もともとは「質」を表すラテン語で、1990年代の半ば頃から、私たちが心の中で感じるさまざまな質感を表す言葉と して定着してきた。太陽を見上げたときのまぶしい感じ、チョコレートが舌のうえで溶けて広がっていくときの滑らかな甘さ、 チョークを握りしめて黒板に文字を書いたときの感触。

これらの感覚は、これまで科学が対象としてきた質量や、電荷、運動量といった客観的な物質の性質のように、数量化したり、方程 式で記述したりすることが難しい。

・ クオリアは、私たちの意識の中で「あるもの」が「あるもの」であることを支える、意識の基本的な性質である。私たちの意識の 中で、「あるもの」が「あるもの」として感じられるとき、必ずそれは一つのクオリアとして感じられるという意味では、意識の中で は同一性=クオリアであるといってもよい。

・ 私たちが、心の中で「あるもの」が「あるもの」であることをめぐる問題について、それを難しい問題として一日中考えるという ようなことを決してせず、たいていの場合は「赤」とは何かわかりきったことのような「ふり」をしているのも、他者とコミュニケ ーションしなければならないという強烈な圧力があるからである。

逆に言えば、心の中で「あるもの」が「あるもの」であることについて思い悩むという態度は、他者とのコミュニケーションから外れ て自分自身のプライベート(私秘的)な感覚に浸ることでもある。自分の体験をプライベートなものとしてとらえる態度(ふり)と 、他者とのコミュニケーションへ向かって開かれたものとしてとらえる態度(ふり)の間を行き来するということが、私たち人間 の本質である。

私たちが、クオリアや言葉の意味の問題を、易しい問題としても難しい問題としてもとらえることができるのは、まさにこのよう な「ふり」の自由な切り替えの能力の一つの現われなのである。

・ 私たち人間は、一日中何かの「ふり」をしているようなものである。タクシーの中で、あたかもそれが自然なことであるかの ように会話をする「ふり」をすることもできる。一つ一つの言葉の意味も、もし立ち止まって問い直せば、そこにはたちまち「むず かしい」問題が立ち現れるというのに、そのようなことに気がつかないかのように、あたかも言葉の意味などわかりきったことで あるかのごとく会話を交わす「ふり」をすることもできる。

このような「ふり」の背景には、幼少時からの、圧倒的な「強化信号」としての他者の存在、そこからのフィードバックがある。いわ ば、私たちは、そもそもその誕生の瞬間から、他者とのコミュニケーションという文脈に組み込まれた存在なのである。そして、 「私」という「個物」の属性は、このようなコミュニケーションの文脈から生成されてきたものなのである。

このような生成は、社会的動物として生きる人間にとって、ごく自然な認知プロセスの一部として起こる。

・ <私>は、他者と結ぶ関係性の仲でダイナミックに変化していく。一方、その<私>の心の中で感じられるクオリア(<あるもの >が(<あるもの>であること)も、脳の中のダイナミックな神経機構を通して生成されてくる。脳の神経細胞は、外界からの刺激が 入力する以前に自発的な活動を行っている。

近年の脳科学の知見により、この自発的活動の中に、外界からの刺激が入力されたときに喚起される状態が、既に存在しているこ とがわかってきた。脳は外界からの刺激を単に受け止める存在ではなく、むしろ、脳の中に自発的に生成されるいくつかの状態 のレパートリーがあって、刺激がきっかけとなり、そのレパートリーの中のあるものが選択されるのであろう。

私たちの感じることのできるクオリアのレパートリーは、脳の中の自発的な生成のプロセスによってあらかじめ決まっていて、 外界からの刺激がきっかけとなってそのうちのあるものが選択されるに過ぎない、ということが明らかにされてきたのだ。外 界からの刺激が、クオリアを直接生み出すのではない。

外界からの刺激は、脳の中の自発的なクオリア生成のプロセスを条件付け、導く役割を担っているのである。

・ ある試算によれば、全ての神経活動のうち70%程度は、「今この神経細胞はこんな計算をしている」というような特定のコンテ クストでは説明できないような活動をしている。このような、通常は「ノイズ」として片付けられてしまうような神経活動が、私 たちの脳の持つ生成作用を担っていると考えられる。

例えば、青森出身の人が、故郷の母親から送ってもらったリンゴを見ているとする。この時、リンゴという情報の入力処理にかか わる神経細胞は、「リンゴの入力の、視覚情報としての処理」というコンテクストに加えて、「リンゴが好きか嫌いか」、「そのリンゴ は、誰からもらったものか」、「故郷のリンゴ畑の白い花の思い出」、「リンゴの香り」といった、さまざまなコンテクストを反映し て活動している可能性がある。

このようなコンテクストが反映された結果生じる神経細胞の活動を、私たちはリンゴにまつわる一つのコンパクトなクオリアと して感じる。これらのコンテクストは、無論、脳の中である程度異なる領域において担われる傾向はある。しかし、脳のどの領域 も他の領域といくつかのシナプス結合を介してつながっているという構造を考えれば、これらのコンテクストを完全に分離する ことは不可能である。

脳は、むしろ、これらの複数のコンテクストを一つの神経細胞の活動に同時に反映させることによって、頭蓋骨の内部の限られた 空間の中で高度な情報処理を実現させているのだと考えられる。ある特定の神経細胞が、一見ノイズに見える複数のコンテクス トを担うことによって、脳は新しいものを生み出す生成の能力を実現させていると推測される。

・ ほとんど別人になってしまうのではないかと思われるほどのダイナミックな変化にもかかわらず、<私>が、終始一貫した<私> 、同じ<私>として感じられるのはなぜか?ここで、クオリアが支える<あるもの>が<あるもの>であることの継続性、一貫性が重 要な意味をもって来る。

クオリア自体も、さまざまなコンテクストを反映する、外界からの刺激に条件付けられた神経細胞の自発的活動によって生じる 。それにもかかわらず、あるクオリアは常にそのユニークな質感とともに、まさにそのクオリアとして感じられる。小学校に入 学したときの<私>と、今こうしてこの本を書いているときの<私>は同じ人間とは思えないほど変わっている。

しかし、晴れた空を見上げるとき、その<青のクオリア>は、小学校入学時の<私>にとっても、今の<私>にとっても、同じ<青の クオリア>としてユニークに心の中で成立している。砂糖の甘さは、お菓子が好きだった小学校入学時の<私>にとっても、今の <私>にとっても、同じ<甘さのクオリア>として感じられている。

これらのクオリアが、劇的に変化していく<私>の中で、同一のユニークさを維持しているからこそ、<私>は、変化していくにもか かわらず、世界を、そして自分自身を、継続性の中に把握しつづけることができる。このように考えると、<私>が他者、そして世界 との関係性を通して絶えず変化していくことと、その<私>の中で感じられるクオリアとは、ちょうどコインの表裏の関係にあり 、両者が抱き合わせになって、<私>というシステムがうまく機能していることがわかってくるのである。




『ねぎを首に巻くと風邪が治るか?』 森田豊 角川SSC新書 (2010) 
もりた・ゆたか:1963年東京都生まれ。88年秋田大学医学部卒業。95年東京大学大学院医学系研究科修了。96年東京大学医学部 附属病院助手を務め、97年ハーバード大学医学部専任講師。2000年埼玉県立がんセンター医長。

04年板橋中央総合病院部長となり、現在、現役医師、医療ジャーナリストとして、テレビ、ラジオ、新聞等のメディアで活動中。 さまざまな病気の概説や、医療に関する種々の問題に取り組む。

『知らないと損をする最新医学常識』が副題。伝承されてきた、あるいは信じられてきた対症療法や食べ合わせが医学的に本当 か否かを解説。取り立ててびっくりする内容はない。ちょっと副題がイヤらしい。

・ 突き指をした時に指を引っ張るのは、絶対にやってはいけない。切れかかっていた腱や靭帯をさらに損傷することがあるからだ。 添え木をして指を固定したり、安静を保つためにはテーピングをすることが重要だ。できれば固定後に、冷水や氷で冷やした方がいい。

・ 指の関節を一日に五回以上一カ月続けると、関節に炎症が起こり関節自体が太くなって指輪も入らなくなる。 さらに、関節に違和感が生じたり、痛くなったり、だるくなったりするので、指に悪影響が生じる。

骨と骨との間にある関節は、関節包という袋に覆われている。そして、関節の隙間には、関節液という液が満たされて おり、これが潤滑油のような役割を果たしている。関節を引っ張ったり曲げたりすると、この関節内の関節液に圧力の 変化が生じ、気泡が発生する。

一般的には、伸ばされる側の関節包の内部圧力は低くなり、関節液の中に気泡が発生する。逆に縮められる側の圧力は高 くなる。関節をさらに曲げていくと、さらに圧力の変化は強くなり、気泡がはじけて消失することになるが、その際に音を発生する。

その音が、関節包周囲の骨、軟骨、靭帯、腱に反響してポキポキという音が聞こえるわけだ。

・ 50年前の日本人の平均体温は36.8度だったが、現在は36度前後。

・ 傷はまず、大量の水で洗うことが最も大事なことだ。大量の水で洗う意味は、細菌を除去することだ。傷を、消毒薬 で消毒すると、消毒薬に刺激性があるので細菌より先に自然治癒力を持った皮膚の細胞を殺してしまう。

消毒薬を使うと傷にしみる、痛いのは、正常な細胞を殺しているからだ。また傷を乾燥させずに、ラップのようなもので 覆った方が、早くかつきれいに治る。

・ 鼻血は、鼻の手前から出ていることが多く、前屈みになり、鼻のふくらんだ部分(小鼻)を親指と人さし指で強く5分以 上圧迫すると、ほぼ確実に止まる。顔は真っすぐ正面を見る感じがいい。

ティッシュではなく、小指ぐらいの太さに丸めた脱脂綿を鼻の穴に入れて止血する方法は正しい処置法だ。

・ やけどをした時には、水道水を流しながら、少なくとも20分以上冷やす。冷やすと、やけどの部分に起こるいろいろな 病変の進行がとまり、痛みも非常に軽くなる。昔からの民間療法で、いろんな物を塗る例が多くみられるが、化膿の原因にもなるから推奨できない。

・ 緊急時など患者の血液型が不明な時は、O型を使う。ただし、O型の赤血球のみの輸血だ。

・ 耳の穴は、骨部と軟骨部に分かれていて、骨部が内側で、軟骨部が外側だ。皮膚は鼓膜がある内側から外側へ移動 するようにできていて、正常であれば、奥に耳垢はたまることなく、軟骨部と骨部の移行部まで出てくる。

だから、耳垢を取ることは医学的には不要だ。医学的に見れば、正常な耳垢には雑菌の繁殖を抑え、皮膚を保護する効能が ある。中国や韓国では湿性耳垢(湿った耳垢)は4〜7%、日本人では16%、白人では90%以上、黒人では99.5%も占めている。

・ おへそのゴマの正体は垢であり、これを不潔にしておくと、悪臭がする。また、感染を起こして、おへそが真っ赤に腫れ あがることもある。だから、よく手入れをした方がよい。

ただし、すぐ下にある腹膜を刺激して、腹膜の炎症を起こす可能性があるので、綿棒にオリーブ油等をつけてやさしく拭き取ることが大事。

・ 子宮頚がんに対するワクチン投与が、がんの発症を70%程度予防できると証明されている。

・ 牛乳やヨーグルトなどの乳製品を飲んだり食べたりすると、胃の痛みを和らげることができる。胃が痛む時には、 胃の中の胃液量が多くなっていたり、胃酸の量が多くなっていたりして、胃の粘膜に刺激を与えていることが多い。

牛乳やヨーグルトなどの乳製品は、胃の粘膜に付着すると、他の飲み物や食べ物に比べて、付着している時間が長く、 さらに胃液が薄まるので、胃の中の酸が少なくなり、胃の痛みが軽減される一時的な効果がある。

・ ブルーベリーに含まれる、ポリフェノールの一種のアントシアニンは、眼球内の網膜に存在するロドプシンという物質 の合成を促進し、網膜の血行をよくする。アントシアニンというのは、ブルーベリーの深い青色を作り出している色素だ。

この色素が、眼精疲労、視力低下の予防や改善に効果がある。アントシアニンやポリフェノールは、ファイトケミカルと総称 されている。野菜やフルーツに存在し、ビタミンやミネラル以外で体の機能を高める働きのある成分だ。

ファイトケミカルには、次のようなものがあり、カラフルな色のついた野菜やフルーツに含まれている。

@ニンジンに含まれるβカロテンは、免疫力向上やがんの予防に効果がある。
Aネギ、ニンニクなどには、アリイン・アリシンといって、利尿作用、発汗作用を促進する物質が含まれている。
B蕎麦に含まれるルチンは、血行促進、動脈硬化予防作用がある。
C長芋、ナメコには、ムチンが含まれ、消化を助け、滋養強壮に効果がある。
Dナスには、主に果皮の色素にナスニンが含まれ、コレステロール値を下げて、動脈硬化予防作用を発揮する。
Eカボチャの黄色の果肉に豊富に含まれるカロテンは皮膚や粘膜を丈夫にする作用がある。
Fピーマンには、葉緑素のクロロフィルが存在し、体内の有毒な物資を解毒する。

・ 柿に含まれるタンニンは二日酔いの原因であるアセトアルデヒドと反応する性質があり、結合してそれを体外に 排出する作用がある。また柿に含まれるカタラーゼがあせてアルデヒドの分解を助けるから生柿、干し柿を問わず二日酔いに効果がある。

・ ショウガには強力な殺菌作用のある物質が含まれており、医療用漢方薬の70%以上にも使われている。

・ うなぎと梅干しの食べ合わせが悪いというのは、まったくの迷信。ただし、桃とうなぎとの食べ合わせは悪い。桃に含ま れている有機酸が、脂肪の吸収を阻害するため、消化不良に陥りやすい。

生ハムとメロンの組み合わせは好ましい。生ハムは多量の食塩、すなわち塩化ナトリウムを含む。塩化ナトリウムの摂り過ぎは 高血圧などの原因になる。メロンにはカリウムが多く含まれており、体の中の食塩として存在するナトリウムを排出する働きがある 。つまり、生ハムの塩分をメロンが調節してくれるというわけだ。

・ キャベツには、塩素、硫黄などが含まれ、これらには、消化、吸収を助けてくれる働きがある。キャベツ特有の成分、 ビタミンU(キャベジン)にも胃酸過多によるむかつきを抑えてくれる作用がある。

ビタミンUは抗潰瘍作用、胃腸病全般の予防回復に効果があり、多くの胃腸薬にも配合されている。また、キャベツは豊富 に含まれている食物繊維と、インドトール化合物が抗酸化作用と免疫力強化で、発ガンを抑制する効果の高い野菜の一つといわれている。

・ キュウリ・ニンジンとトマトは一緒に食べない方がいい。トマトには豊富なビタミンCが含まれているが、 キュウリ・ニンジンに含まれているアスコルビナーゼという酵素には、ビタミンCを壊す作用がある。

また両者とも体を冷やすので医学的には食べ合わせは悪い。ただし、アスコルビナーゼは、加熱や、酸や酢によって、 その働きを失うので、トマトとキュウリ・ニンジンを一緒に食べる時には、酢が入ったドレッシングやマヨネーズをかけると効果的。

・ らっきょうには、アリシンという成分が多く含まれていて、消化液の分泌を促進する。もたれがちな胃を保護 したり、辛みを軽減したり、食欲を増進したりする効果もある。

また、アリシンには、ビタミンB1の吸収を助ける作用もあり、疲労回復の効果や、タマネギやニンニクと同じように 血液をさらさらにする効果もあるので、カレーと一緒に食べることは、栄養という意味からも医学的にも大変好ましい。

・ お茶のタンニンは薬の吸収を少しブロックするがそれほど影響ないことが分かり、現在は、鉄剤をお茶で飲んでも 差し支えないというのが正しい知識。ただし、薬と飲み物で、飲み合わせの悪い組み合わせもある。

たとえば、高血圧の薬(カルシウムブロッカー)とグレープフルーツジュース。グレープフルーツジュースに含まれるバイ オフラボノイドという物質が、高血圧治療薬の体の中での代謝分解を抑制する。グレープフルーツジュースで、この 高血圧の薬を飲むと、必要以上に血圧は下がってしまう。

また、ニキビの治療に広く使われているテトラサイクリン系抗生物質を牛乳と一緒に飲むと、牛乳に含まれているカルシ ウムが薬の吸収を妨げる。

また血栓を溶かす役割のあるワーファリンという薬を服用する際に、納豆・緑黄色野菜・海藻類をたくさん食べては いけない。納豆・緑黄色野菜・海藻類にはビタミンKが含まれている。ワーファリンの服用中は、ビタミンKの活性 が抑えられた状態にあるが、この時にビタミンKを多量に摂ると、ワーファリンの作用が減弱してしまう。




『すべてで一つ』 森眞由美 PHP研究所 (1999)
人生はいつでも一瞬でぬり変えられる、という副題。今一つ文章がこなれていないために非常に読みにくい。いまひとつ。

・ すどう美術館:〒104-0061 中央区銀座6-13-7 新保ビル4F 
TEL03-3547-1016 FAX03-3547-1017

・ ポテンシャル農業研究所: FAX0577-53-3488

・ 量子医学:薬を用いずに病気を治療することを可能にする。発病以前に正常化されるという予防医学の確立への現実的なステップを踏んでいく事ができる。心身の調和の本質の原点に向かい現実に今すぐ実践可能な方法としてその技術を学び始めている。中村国衛先生が指導。

・ 国際的な生涯学習ネットワーク機関「地球大学」事務局:〒222-0033横浜市港北区新横浜3-20-5スリーワンビル801 FAX045-473-0049

・ 「まだここが不十分な人」と見られるか「あと少しこの軌道が合わされば、すばらしい可能性のある人」と見られるかにより人の反応は全く異なってくる。それは理屈や口でどう言っているかではなく、どう感じているかがそのまま伝わってしまうということ。


『人間らしく死ぬということ』 山形謙二 海竜社 (1996)
1946年東京生まれ。神戸アドベンチスト病院副院長(〒651 神戸市北区有野台8−4−1)がホスピス医療の現場から提言。日本のホスピスは遅れている。告知の問題を考える。

・ ガン告知を考えるうえで重要な事は、患者を決して孤独にさせないこと。病名を知ることが悲劇なのではない。がんを告知せず、患者に嘘を言ったりして患者が医者への不信と孤独に陥ることこそが悲劇。

・ 十分な情報が与えられたうえで、患者自身が治療法の選択に参加できる。或は家族と相談しながら、その後の生き方を決められる、ということが最重要。次に必要なのは、患者が自己決定できる環境。患者は説得されるのではなく、自ら納得する必要がある。言われる通りにしなかったら、見放されるのではないかという心配なく、患者が自分の希望を述べられる雰囲気が必要。

・ ホスピスのルーツは中世時代にさかのぼる。それはカトリック修道院の無料宿泊所から出発しており、西欧の主な都市や町、或は荒野の修道院や聖地への途上の難所といわれた峠や川の渡し場にもあり、病人はもちろんのこと、空腹の旅人、貧しい人たちなど、すべての助けを必要とする人たちにその門戸を開いていた。その根本思想は「温かいもてなし」にあり、病人の病気を治すと
いうよりも、寄り集まってきた人々を仲間として保護し、慈しみ、元気を回復する場であった。

・ 終末記医療の場としての近代的ホスピスは、1967年シシリー・ソンダーズ医師がロンドン郊外にセント・クリストファー・ホスピスを設立したのが、その始まり。そのケアの対象は主に癌の末期患者であったが、最近ではエイズもその対象としている。米国では1974年に最初のホスピス医療チームが発足。日本では1977年に大阪の淀川キリスト教病院にて、柏木哲夫医師
を中心とするホスピス・ケアのプログラムがスタート。初の使節ホスピスは、1981年に原義雄医師等によって、浜松の聖霊三方原病院に開設。

・ 家族は、死期が近いと分かっていながら、死を直視することを拒否して「そんな弱音を吐いたら駄目よ。もっと頑張らなくちゃ!」と言ってしまう。しかしこのような叱咤激励の言葉に、患者はかえって不安と重荷を感じてしまう。患者は自分は家族の期待に応えていないという絶望にも似た気分になってしまうからである。患者は別れの時にあたって「良く生きた」という家族からのある意味での賞賛の言葉を期待しているのである。「辛かったでしょう。でも今まで本当に良く頑張られましたね」と言ってあげると、患者は安らかな気持ちになれる。

・ がんのため右足を切断し、その再発と戦いつつ、与えられた生を生き抜いた青年医師、井村和清氏の「あたりまえ」という詩。
  あたりまえ
  こんなすばらしいことを、みんなはなぜよろこばないのでしょう
  あたりまえであることを
  お父さんがいる
  お母さんがいる
  手が二本あって、足が二本ある
  行きたいところへ自分で歩いてゆける
  手をのばせばなんでもとれる
  音がきこえて声がでる
  こんなしあわせはあるでしょうか
  しかし、だれもそれをよろこばない
  あたりまえだ、と笑ってすます
  食事がたべられる
  夜になるとちゃんと眠れ、そして又朝がくる
  空気をむねいっぱいにすえる
  笑える、泣ける、叫ぶこともできる
  走りまわれる
  みんなあたりまえのこと
  こんなすばらしいことを、みんなは決してよろこばない
  そのありがたさを知っているのは、それを失くした人たちだけ
   なぜでしょう
   あたりまえ     ―「飛鳥へ、そしてまだ見ぬ子へ」 祥伝社


『ヒーリング・ハイ』  山川健一  早川書房 (1995)
ピンク・フロイド : ヒーリング・ミュージックとしての役割を果たしている。
『THE DIVISION BELL』(94) 『ANIMALS』(77)
『WISH YOU WERE HERE』(75)
『THE DARK SIDE OF THE MOON』(73)

軽いメディテーション用アルバム : NOEL POINTER 『PHANTAZIA』
ハービー・ハンコック 『MR.HANDS』(80)
マイルス・デイビス『AURA』(89)
チック・コリア『TIME WARP』(94)
ボブ・マーリィ レゲエ
チャーリィ・マクマーン&ゴンドワナランド 『ゴンドワナランド』『トラヴェリング』
チャーリィ・マクマーン 『tjilatjila』

ゴンドワナランドの音楽は太古から続くアボリジニの楽器であるディジュリドゥと現代楽器の組み合わせによる演奏
 
ディジュリドゥは白蟻が中をくり貫いてしまった木で作る大きな笛のような楽器で、五万年前にアボリジニ人がオーストラリア大陸に移りすんできたころにできた楽器らしい。


『皮膚感覚の不思議』 山口創 講談社ブルーバックス (2006) 
『「皮膚」と「心」の身体心理学』が副題。

1967年生まれ。1997年、早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程修了。現在、聖徳大学人文学部講師。臨床発達心理士。専攻は臨床心理学、身体心理学。

痛み、痒み、くすぐったさ等の現象に関する生理学的解説がなかなか面白かった。人体の不思議さを感じる。お勧め。

・ 皮膚の機能は、有毛部と無毛部では大きく異なる。有毛部では触れた(触れられた)対象よりも、接触した自分の皮膚の 感覚(どんな感じがするか)へ注意が向く。これに対して無毛部は、触れた対象がどのような性質をもつのかを探るはたらき をもち、触れた対象へ注意が向かう。このため私達は、ものの大きさや材質、形を知ろうとするとき、手の平や指で触れるのである。

・ ヒトの手は、触れたものの特徴を知る識別感覚系の機能が非常に優れている。その主な機能は四つある。

1. 体のどこかでアリなどの小さな昆虫が動いているのを感じるような微細刺激の検出。

2. 微細テクスチャー(質感)を識別する機能。その識別は触覚の最も得意とするところで、視角よりもはるかに優れている (粒子の大きさが3μm(1000分の1mm)程度の違いまで識別できる)。

3. 二点弁別閾。これは二つの刺激が与えられたとき、それを別々の刺激として知覚できる感覚の最小値をいう。その能力 は身体の部位によるが、大体一〜数十mm程度。例えば指先では数mm離れていれば認識できるし、顔面も比較的感度が高い。 しかし、ふくらはぎや大腿、上腕、背中では40mm以上開かないと二点だと感じられない。

4. 触ったものがどんな形をしているのかを知覚する三次元形状認識(実体触知)。この機能は、単なる機械的な刺激を 受け取る受容器による認識ではなく、手や指を動かす能動的な動作があってはじめてできる認識である。

・ 皮膚の受容器で捉えた刺激は、電気信号として脳へ伝わる。その脳への伝導路には、原始感覚系と識別感覚系の二つがある。 原始感覚系は痛覚や痒み、温度感覚などからなり、主に危険回避や生殖など、生存に直接関わるような感覚である。

原始感覚系では、脳が広範囲に活性化され、触れられた刺激からは、快や不快といった原始的な情動を引き起こし、そこからさ らに攻撃や逃避といった運動を起こすことと結びついている。一方、識別感覚系は、環境を作り識別する役割を担っている。 自発的な運動をするときの筋肉や腱の動きの情報を伝える運動覚や、触れたときの皮膚の触覚や圧覚などが含まれる。

・ アメリカの社会心理学者バーディーンの実験がある。被験者に、ある人物に三通りの方法で出会ってもらい、それぞれの 印象を評価してもらった。出会いの方法とは、身体接触だけ(目隠しをして、話はしない)、見るだけ(話はなく、目隠しも接触 もなし)、言葉だけ(接触なし、目隠しをする)の三通りだった。

つまり、被験者は同じ人物に、視覚、聴覚、触覚のいずれか一つの感覚だけで三回出会ったわけだ。すると、接触だけの出会い では「信頼できる、温かい」といった印象、視覚的な出会いは「冷たい」という印象、聴覚的な出会いは「距離がある」という印象が もたれることがわかった。

この結果から、バーディーンは人間関係における触覚は、視覚や聴覚よりも、親愛的な感覚を伝達する機能をもつと考えている。

・ 皮膚には痛みを感じる点(痛点)が散在している。痛点は全身に200万〜400万あるといわれている。ただし痛点には、痛みだ けを感じる特異的な受容器があるわけではない。神経がそのまま枝分かれして密集しているだけで、そこが痛点となっている。

・ 痛みには「速い痛み」と「遅い痛み」がある。たとえば向こう脛を思い切りぶつけてしまうと、まず、ぶつけた瞬間のガーンと いうショックや皮膚のひりひり感が伝わる。その刺激はAδ繊維を伝っていち早く脳に届くため、ファーストペインと呼ばれている。

それからじわじわとセカンドペインの鈍い痛みが続く。ファーストペインは、刺激のある部位を正確に判断でき、触れてしま ったらすぐに手を引っ込めるような、素早い逃避反射を起こす警告信号として機能している。ファーストペインは、刺すよう な痛みではあるが、不快な感情を引き起こすものではない。

セカンドペインの仕組みは次のとおり。ナイフで指を切ってしまったり、火傷を負ったりして、皮膚を侵害する刺激が加えられ ると、痛みを起こす化学的物質が作られる。この物質が皮膚や粘膜の神経繊維の末端部分を刺激する。セカンドペインの厄介な ところは、痛みを起こす刺激がなくなった後も、苦しみを与え続けることである。

セカンドペインはゆっくりと大脳に届き、大脳辺縁系のさまざまな不快感情を起こす部位に伝わる。その結果、痛みがあると、 無性に腹立たしくなったり、恐怖や不安などの感情が呼び起こされる。このような不快な感情を長期にわたって引き起こすのは 、痛みの原因を記憶に刻み込んで、危険を回避することを学ばせ、痛みが続く間は安静を保たせるためだとも考えられる。

・ カナダの世界的な疼痛学者メルザックとイギリス人ウォールの二人が、1965年に発表したゲート・コントロール説(GC説) は画期的な理論である。痛みの信号は末梢神経から脊髄後角を通って脊髄に入り、脳へ伝わっていく。この脊髄後角に、痛み の信号の流入をコントロールするゲート(門)があるという考え方だ。

末梢の皮膚で皮膚で受けた情報は、太い繊維(Aδ繊維)と細い繊維(C繊維)を伝って脊髄に入る。Aδ繊維を伝わる信号はいち早 く脳へ達し、そこにある記憶を検索したり、痛みの意味付けをする。この処理された情報が脊髄後角のT細胞へ届き、C繊維が入 力するゲートを閉じる。

すると痛みの情報は脊髄へ入りにくくなる。たとえば、ケガをしたり何かにぶつけたりしたとき、思わずその部位に手を当てて 撫でたりさすったりする。これはGC理論にかなったやり方である。ケガをした部位を撫でたりさすったりして触覚情報を与える ことでゲートを閉め、痛みの感覚をブロックしているのだ。

・ 痛みの感じ方は、その痛みに対してあらかじめもっている考え方、すなわち「思い込み」の効果が大きいことがわかっている。 同じ刺激を与えても、痛みが大きいと思い込むと、脳の「島」や前帯状回の血流が増えて、実際に感じる痛みも1.5倍にも膨れ上がる。

たとえば、過去に似たような場面で感じた痛みの記憶や、他人からどの程度痛いのかを聞いたり、想像したりすることで、痛みの思いは増す。

・ 心の痛みの場合の脳の反応は、体の痛みに反応するのと同じパターンである。このことから、私達は心理的な痛みを身体的 な痛みと同じように経験しているということができる。さらには、失恋などの精神的なショックを受けたときや、それを思い出し たとき、「胸がキュンと痛む」ことがある。

このとき、心臓には実際に痛みを感じているようである。精神的なショックを脳で感知すると、それが視床下部や延髄を経て、 心臓全体に張り巡らされた交感神経に伝わる。すると心臓の筋肉が瞬間的に収縮し、痛みを感じるわけである。

・ 痛みの生理的メカニズム自体には民族差はない。しかし、同じ刺激でもそれを「痛い」と感じるか否かについてはある程度 の民族差があるようだ。ラテン系の人は、ネイティブアメリカン系やユダヤ系の人たちに比べて、痛みに弱い。また、東洋や インド、北欧の人々は、ラテン系や地中海沿岸の人々に比べて、痛みに強い。

アメリカでは、痛みは悪者と割り切って考えるため、痛みは取り除くことが当然だと考えられている。そのため一人あたりの 鎮痛剤の使用量が日本の三倍にもなる。また、出産も95%以上が無痛分娩である。

・ アメリカの生理学者バーマンは、男女の被験者に軽い痛みを与え、そのときの脳の活動部位を測定してみた。すると、女性 は痛みを感じると、男性よりも感情に関与している部位(前帯状回)の活動が高まった。それに対して男性の脳では、痛みを認知 し分析することに関わる「島」の活動が、女性よりも高まることがわかった。

その理由は、原始時代の行動の違いに由来するらしい。つまり、主に家事や子育てを担当していた女性たちは、危険が迫ると、 まず子どもを守ることを第一に考える。そのため、実際に痛みを感じたり、危険を予知したりすると、まず不安や恐怖の感情 が喚起され、それを顔に表して、他者に訴えて取り除いてもらおうとする。

つまり、他者の助けを借りて、子どもを守ろうとするのである。それに対して男性の場合、危険が迫ると自ら「戦うか逃れるか」 の選択を迫られるため、状況から情報を集め、分析するための機能が発達したのだと考えられている。

・ 生まれてから熱刺激を繰り返し加えられたラットは、逃げることを学習し、生後20日ほど経つと成体と同じように逃避できた。 しかし、麻酔をかけて一切の刺激が与えられないで育ったラットは、成体になってから熱刺激を加えても逃避反射も現れないうえ、 その後も逃げることを学ぶことができなかった。

この実験結果から、痛みからの逃避反射を起こすためには、発達の初期から「適度な痛み」を経験し、痛みからの逃避行動やそれに 接近しないことを学習する必要のあることがわかる。ただし、強い痛みを長期間与えれば、慢性痛ようなシステム自体の変化を引 き起こしてしまい、逃避反射を学習することにはならない。この「適度な痛み」というのが重要だ。

・ 脳に存在するノシセプチン(ペプチドの一種)という物質は、痛みを感じたときに増えることから、これまでは痛みを増幅する 作用があると考えられてきた。しかし最近の研究から、ノシセプチンは記憶や学習にも関与していることが明らかとなった。

つまり、ある程度の痛みを感じてこそ、そこから学習し、二度と同じような刺激に近づかないように記憶する働きが脳にはあるということである。

・ イギリスの生理学者シンガーらの研究では、他者の痛みに共感するとき、痛みを感じている人と同様な脳の神経活動が起きて いることが示された。実験ではまず、16人の女性の手に電気ショックを与え、その際の彼女らの脳活動部位をfMRIで観察した。

次に、それぞれの女性の恋人である男性に同様の電気ショックを与える場面を見せ(ただし手に通電される様子だけで、男性の表情 は見えない)、同じく彼女らの脳をfMRIで観察した。すると実際に自分が痛みを受けた場合は、「島」の後部と前帯状回、第一次お よび第二次体性感覚野、および脳幹、小脳の活動が亢進した。

それに対して恋人への刺激場面を見た場合は、「島」の後部と前帯状回の活動が活発になった。また、共感性の高い被験者ほど、 これらの部位の活動も活発になった。シンガーらはこの結果について、実際に痛みを体験する場合、知覚と情動の両部位での 脳活動の亢進がみられるが、共感による追体験は、情動に関わる部分だけの活動亢進であることが実証されたとしている。

・ あまりにも熱い温度のお湯に手をつけると、「痛い」と感じる。その境界は45度である。この温度はタンパク質が固まり始 める温度である。同じように、冷却材のドライアイスに触れたときや長時間雪や氷に触れても痛いと感じる。適温以上でも以下 でも皮膚が痛みを起こす理由は、どちらも身体にとって危険であることを示しているからだ。

・ 痛みは記憶には残りにくい。複雑に分化した、つまり情報量が多い感覚は手がかりが残りやすいが、単純な感覚である痛みは 記憶としては残りにくい。もし痛みの不快さやつらい感情が、正確に再現できたとしたら、その人は繰り返し苦痛や恐怖にさらさ れることになる。

どんな状況で痛みが起こり、その結果どんな行動をしたのか、ということだけを覚えていれば十分だ。つまり、痛みというのは、 二度と似たような刺激に近づかないよう、生体に大きなインパクトを与える。その一方で、痛みが去った後は、痛みそのものの 感覚は記憶から去るという、実にうまく仕組まれている。

・ 生理学では「痒み」は「弱い痛みの感覚」と考えられてきた。たしかに両者は似ている点がある。第一に、皮膚の痛点に弱い 電気刺激を与えると、痒みを感じる。この場合、痒みを起こす物質の一つであるヒスタミンをみると、単に分泌量の違いに過ぎない。

つまり分泌量が少ないと「痒み」を、その量が100倍ほど多いと「痛み」を感じるのだ。第二に、痒点(痒みを感じる感覚点)と痛点 の分布がよく似ている。第三に、それぞれの伝導路も共通している。第四に、痛みに急性痛と慢性痛があるように、痒みにも即 時型と遅延型がある。即時型はヒスタミンによる反応であり、遅延型はサイトカインによって引き起こされる。

・ 右腕に痛みを加えると、その痛みから逃れさせようと、右腕をコントロールする脳部位が活性化される。それに対して、 同じく右腕に痒みを感じたときには、左手で掻くために、左手をコントロールする脳部位が活性化するのである。すなわち、 痛みと痒みを感じる脳部位は同じだが、それぞれに対応する行動を司る脳部位は異なる。

・ 痒みのある皮膚をたたいて軽い痛みを与えると、痒みは和らぐ。その理由は、痒みを伝える神経と痛みを伝える神経は 同じもので、痒いときに痛み刺激を与えると、その痛み情報が脳に伝わり、脳から抑制信号が発射されて脊髄を下行し、脊 髄後角で痒みが上行するのを抑制するのである。また、痒みは、掻かずに、しかも痒い部位とは異なるところに痛みを与えても収まる。

・ ストレスに対する対処能力の低い人ほど、痒みも強いという報告がある。このように、ストレスは痒みを悪化させる大き な原因である。しかし、ストレスがなぜ痒みを起こすのか、というのは非常に難しい問題だ。

・ 不快な感情エネルギーが高まり、それを外に向かって発散する必要があっても、社会生活を円滑に営む必要性から、それ ができないときがある。たとえば、困惑を表すとき、頭をポリポリと掻くしぐさをする。特に頭が痒いわけではなく、無意識 にそうすることで、ストレスを緩和している。

人は掻くことで、ストレスや困惑といったエネルギーの高まりの原因を、象徴的に体外に掻き出そうとしているのかもしれない。 その傍証として、アトピーで痒みを訴える子どもは、親からの愛情が不足しており、子どもは愛情への飢餓感をもっている、と いわれている。このような子どもたちは、その欲求不満を抑圧している結果が、皮膚症状として現れているのかもしれない。

・ 人にくすぐられるときは、くすぐられた部位の触覚や圧覚などの刺激情報が脳の体性感覚野に達し、くすぐったさを感じる。 ところが自分で自分をくすぐるときは、小脳からは自分の指を動かす指令が出ると同時に、体性感覚野へ感覚を抑制する命令がい く(遠心コピー)。

このため、くすぐったくない。なぜ抑制する必要があるのか。それは、くすぐったさは、もともと虫や寄生虫など外からの刺激 を感じるためのものであるため、自らが生み出す刺激とは区別する必要があるのではないだろうか。

・ くすぐったさを感じる特異的な皮膚の受容器はまだ見つかっていない。今のところ、触覚や圧覚、痛覚などがブレンドさ れて生まれる感覚だと考えられている。

・ 進化の過程で、「痛み」から「痒み」が生まれたのではないか。そして「痒み」からさらに派生的に進化して生まれたのが「くす ぐったさ」(軽いくすぐったさ)だと思われる。この「軽いくすぐったさ」は、皮膚についた寄生虫や、ハエやノミなどの害虫の存 在をいち早く察知するためのものであろう。

他の動物でも、そのような刺激は不快に感じるのだろう。尻尾を振り回したり、胴体をぶるぶると震わせて、その虫などを追い 払おうとする。サルやチンパンジーのように、さらに進化した動物では、指が器用になり、つまんで取り去るようになった。

さらには、自分のばかりでなく、他の個体の害虫をつまんで除いてやることで親密さや連帯感を示すようになる。このようにし てコミュニケーションとしてのグルーミングに進化したのが、ヒトの場合は「重いくすぐったさ」ではないだろうか。

「軽いくすぐったさ」は痛みや温かさを伝える、進化的に古い受容器で感知し、脳への伝達路も古い。それに比べると「重いくすぐ ったさ」は、構造をもった受容器で捉えられ、触覚を伝える新しい伝達路を通って脳へ達するというのも、この考えが正しいことを間接的に示している。

・ くすぐりの刺激はそれ自体が笑いを引き起こす刺激であり、それと対にして言葉が発せられると、言葉(たとえば「こちょこちょ」)を聞いただけで笑うようになる。

・ くすぐられて笑うときには、快と不快の両方の感情が現れている。感覚としての不快さに加え、遊びとしての喜びの感情が入り混じった表情なのである。

・ くすぐったさに対しては、まず不快としての防衛反応だけが現れる。生後六ヶ月ほど経つと、誰がくすぐっているかが分か るようになる。それが母親だと安心して、くすぐり行動に遊びの要素が加わることで、防衛反応だけでなく、笑うようになる。

すなわち、くすぐったさは生まれつきの感覚ではなく、コミュニケーションによって学ぶものだろう。

・ 快を感じる部位と苦痛を感じる部位は、脳のほぼ同じ場所にある。このため、苦痛を感じるときには同時に快楽も感じや すいのだ。生物は常に、エサや群れの仲間のように快をもたらすものと、敵の存在や危険な状況のように不快をもたらすものと を、瞬時に区別して行動する必要がある。

その判断は同じ部位でする方がはるかに効率的だから、進化の過程でほぼ同じ部位で感じるようになった。

・ 人間が最も快く感じる振動刺激は、心拍に近い0.8秒間隔の振動とされている。つまり、愛撫などによる刺激を敏感に感知するのである。

・ 親とのスキンシップが多かった人は、他人からタッチされたとき、相手に対して親しみや励ましという肯定的な印象を受けた。 これに対して、スキンシップが少なかった人は、同じタッチに対して「緊張した」といった否定的な評価をした。幼少期からの親子 の触れ合いによって、人との触れ合いが快に変わるのである。

・ 動くことによって、自分の体がどうなっているのかというイメージ(身体像)が生まれる。体を動かすと、まず筋の伸び縮みか ら固有感覚が得られる。また、全身をもんだり、さすったり、たたいたり、指圧したりすることで、触覚や圧覚その他もろもろの 皮膚感覚が刺激される。

こうして体のあらゆる場所からの情報の蓄積が、固有感覚を呼び起こして、身体像を確固たるものにする。固有感覚は、生まれな がらに備わっているわけではない。徐々に育っていくものだ。

・ アメリカの生理心理学者エレスは、子ネズミを四つのグループに分け、第一群は優しく愛撫しながら、第二群は乱暴に触れ ながら、そして第三群はそれらを交互に繰り返しながら、第四群はまったく触れずに、それぞれ育てた。その結果は、第一群の ネズミの状態が最も良かった。次に第三群だった。

ところが、第二群と第四群のネズミの情緒的発達を比較すると、むしろ第四群のほうに有害な影響が認められた。原始感覚系の 皮膚感覚は、延髄網様体などを経て大脳辺縁系の視床など情動を起こす部位に伝わる。

この部位は、快適な皮膚感覚を受けたときにもっとも適切に発達するが、乱暴に扱われて不快な皮膚感覚ばかり受けて育つと、歪んだ発達をしてしまう。 そして、まったく触れられないで育った場合は、この部位がほとんど発達しない。

・ 幼少期に皮膚感覚への適切な刺激が不足すると、大人になってからはそれを埋め合わせるように、無意識のうちに歪んだ形 で皮膚感覚を刺激する行動に走ることがある。体のさまざまな部位へのピアスや刺青をし、果てはリストカットに至るまで、自傷行為が多くなる。 こうした極端な手段で皮膚感覚を呼び覚まし、欲求不満を解消するのだろう。




『壊れた脳 生存する知』 山田規畝子 講談社 (2004)
1964年香川県高松市に生まれる。東京女子医科大学在学中に一過性虚血発作と脳出血を起こす。「モヤモヤ病」の持病が発覚し たが、後遺症もなく卒業。整形外科医として同大学付属病院に勤務。26歳で郷里の大学病院に転勤、30歳で長男を出産。

33歳で父親が院長を務めていた山田整形外科病院の院長になる。34歳のときの脳出血に脳梗塞を併発。「高次脳機能障害」とな り、外科医への復帰は断念するが、高次脳機能障害のリハビリ医としての研修を兼ねて愛媛県の伊予病院に勤務。37歳で三度 目の脳出血を起こし、巨大血腫を摘出。

さまざまな後遺症や薬の副作用に苦しみながらも、自ら考え出したリハビリで快方に向かい、今治市の老人保健施設の施設長 として社会復帰を果たす。その後、夫と離婚、今後は一人息子と二人三脚の暮らしをしながら、新たな側面から脳機能障害に 取り組む予定。

三度の脳出血に襲われ、高次脳機能障害に苦しむことになった著者ではあるが、その文章は明るく、客観的に自分の体に起こ ったことを分かりやすく説明している。例えば、空間をきちんと認知できず、階段が横線が入った蛇腹のように見えたり、便 器と地面が同じ平面に見えたりする。

また記憶障害、言語障害も併発し、さぞ毎日が苦難の日だと思う。しかし、彼女は自分の体験をリハビリ医療に活かそうと日 夜奮闘している。おすすめ。

・ 脳の血管に異常が起こる病気を総称して「脳卒中」といい、脳梗塞や脳出血、くも膜下出血などがある。脳梗塞は、脳の血 管が詰まったり狭くなったりした結果、血液の流れが停滞したもの。脳出血は、細い脳動脈が破れて出血すること。

くも膜下出血は、脳を包んでいるくも膜の下のほうにできた動脈瘤が破裂する病気。その際、破れた血管からあふれ出た血液 が血腫となって、脳組織を破壊してしまう。

・ モヤモヤ病は、正式には「ウィリス動脈輪閉塞症」という。原因は不明で、厚生労働省が難病に指定している病気でもある 。脳に栄養と酸素を供給している主要な血管が、何らかの原因で狭窄、または閉塞してしまうため、脳の血液が不足する。す ると体は、そんな状況でも脳に血液を供給しようと、間に合わせの新生血管をにょきにょき伸ばす。

だがその血管は細くてもろく、伸縮性にも乏しいゆえに、切れやすく詰まりやすい。つまり、脳出血や脳梗塞を起こる確率が 高い。造影検査をすると、タバコの煙のようにモヤモヤと見えることから、「モヤモヤ病」と命名されている。




『いろは呼吸書法』 山本光輝 平凡社 (2003)
「声を出して書けば世界が変わる」が副題。健康に非常に役立つかもしれない。お勧め。

1937年、東京生まれ。前衛書家。合気道七段。1980年より「いろはうた」を書き始め、82年、第一回個展を開催。86 年、表具師・井澤満保氏とともに第一回二人展「いろは書装展」を開く。以後、精力的に個展及び二人展などを開催。90年の ドイツでの巡回展をはじめとして、アメリカ、フランス、スペイン、スイス、チェコ、ウルグアイなどで合気道の指導ととも に、いろは呼吸書法の展覧会及び講習を行う。

現在、「日本伝統文化研究会 いろは・ひふみ友の会」(03-5373-8048)を主宰し、全国でいろは呼吸書法の講演や指導にあたっ ている。

・ アイウエオという母音をはっきり発音することが痴呆の防止につながるという医学的研究結果も出ている。日常、普通に しゃべっているだけでは母音が強く出ることはないが、いろは呼吸書法で、「イー」「ろオー」「はアー」と発声しながら文字を書 いていくと、常に母音をはっきり発音することになる。この母音を発するところに、大きな意味がある。

・ いろは四十八文字を発声しながら書くと、余計なことは考えなくなり、集中しやすくなる。そして発音によって余計な緊張 がなくなり、副交感神経が活発になる。さらに、声をゆっくり出すということは、息を吐いている状態を長く続けるということ になる。つまり声を出すことそのものも、もちろん大事だが、声を出すことによって息を吐きつづけることが大切だ。

・ 今、その人がある姿は、過去に使ったことばの集積である、という考え方がある。将来幸せになるには、現在使っている ことばが非常に大切だということだ。したがって、日々、やさしい、愛のあることばを使って過ごすことが、どれほど将来の 幸せにつながるか計り知れない。

・ いろは呼吸書法の準備

・ (1)肩から力を抜く

1. 両足を肩幅に開いて立つ。

2. 肩から力を抜いて、リラックスする。

3. 腕、肩も体の動きに合わせて、上体をゆっくりと左右にねじる。

4. 同時に、頭、首もできるだけ左右にねじり、目は指先を追うようにする(このとき目が回るという人もいるので注意するこ と)

5. 左右に30回から50回行う。

・ (2)手首を内側に曲げる

1. 両手を「前にならえ」のように伸ばす。

2. 左手の親指が下になるように甲を返す。

3. 右手の手のひらを左手の甲にぴたりとつけ、右手親指で左手首を引っ掛けるようにして持つ。ここで、下腹に入れるという 意識で息を吸い、腹を大きくふくらませ、止める。

4. 肘を曲げて手首を引き寄せる(手首が少し痛くなるまで曲げる)。同時にゆっくりと息を吐き出す。

5. まず、左手首を10回曲げる。同様に、右手首を10回曲げる。

・ (3)手首を外側に曲げる

1. 両手を「前にならえ」のように伸ばす。

2. 左手の親指が下になるように甲を返す。

3. 右手の親指を左手の甲の中央部に当て、残りの四本の指で左手の指全部を上から握る。

4. 右手で左手の指を手前に引き、手首を曲げる。呼吸はその1と同じく腹式呼吸で、手首を曲げるときにゆっくりと息を吐 く。

5. まず、左手首を10回曲げる。同様に、右手首を10回曲げる。

・ (4)手首をひねる

1. 両手を「前にならえ」のように伸ばす。

2. 左手首を前回とは反対に左回転させ、小指が上にくるようにする。

3. 右手の親指を、左手の甲の薬指付け根の骨に当て、残りの四本指で左手親指の付け根あたりを包み込んで持つ。

4. 少し痛みを感じるまで、右手の親指で押しながら左手首をひねる。その1・2と同じく腹式呼吸で、手首をひねるときに ゆっくりと息を吐く。

5. まず、左手首を10回曲げる。同様に、右手首を10回曲げる。

・(5)手首を振る

1. 両手の甲を上にして軽く前に伸ばす。

2. 手首をぶらぶらと上下に振る。30回行う。

3. 同様にして、手首を左右に振る。30回行う。

・ (6)背筋を伸ばす

1. 両足を肩幅に広げ、二人が向き合って立つ。

2. 一人が相手の両手首を持つ。

3. そのまま手を上に上げながら、二人ともゆっくりと体を返し、背中合わせになる。

4. 手首を持たれた方が、体をかがめながら相手をゆっくりと背中に乗せる(乗せる人は少し膝を曲げたほうがやりやすい)

5. 相手を背中にのせたまま、膝を屈伸させる。

6. 交代で10回ずつ行う(この運動は、体重のある人や高齢の人はやめておく)

・ まず、姿勢を正しくして座る。椅子でもいい。肩から力を徹底して抜く。あごを軽く引いて、目は閉じても半眼でもよい が、目を開けている場合は一点を見るようにして、目を動かさないようにする。はじめに、体の中にある息を吐ききるが、み ぞおちの下にへこみができるくらいまで腹をへこませて息を出し切る。

すると吸気は自然に行われ、一瞬にして、また腹いっぱいに新鮮な空気が入ってくる。そしてまた、できるだけゆっくりと息 を吐いていき、腹の中の空気の最後の一滴まで吐くような気持ちで出し切る。吐く息は長く、吸う息は短くという繰り返しだ が、この力強い呼吸は、肺の拡縮、大量の二酸化炭素の排除、脳の血液循環を良好にし、精神活動も好ましい状態にする。

腹式呼吸によって横隔膜の直下にある肝臓は、横隔膜で直接マッサージされ、強力に血液の流動が繰り返される。肝臓だけで なく、全ての内臓も同じように横隔膜でマッサージされるので、血液による血液の入れ替えが円滑に、かつ旺盛に行われ、血 液とともに新鮮な酸素が体の隅々まで行き渡ることになる。

・ 筆の持ち方だが、まず親指と人差し指で筆の一番端をぶらさげて持つ。それに中指を添え、薬指と小指で反対側から軽く 押さえて、筆を垂直に保つ。筆の中ほどを持つほうが書きやすいが、そうすると筆が自分の意のままになりやすいので、あえ て書きにくい先端をもって書いてみる。うまく書こうという意識を捨てるためにも、この持ち方が有効だ。

・ いろはを書く準備

1. 螺旋を書く:筆にたっぷりと墨を含ませて、大きく息を吸い込み、息を腹中に納める。そして息を小さくスーッと吐きな がら、右回りの螺旋を、半紙の上から下まで、ゆっくりと一息で書く。これは「の」の字の連続と考える。体内の気が腹中から 脊髄、腕、筆を通って墨の中に流れ出ていくという思いをもって書いてみる。

半紙一枚に何回書いてもいい。次に同じ要領で左回りの螺旋を書く。今度は「と」の字の連続と考えて書く。

2. 直線を書く:筆にたっぷりと墨を含ませて、大きく息を吸い込み、息を腹中に納める。そして息を小さくスーッと吐きな がら、縦に一本の線をゆっくりと書く。等間隔の線を三本書いてみる。どれも一息でゆっくりと書く。息をついで、今度は横 に等間隔の線を三本、同じように一息ずつで書く。

3. 円を書く:筆にたっぷりと墨を含ませて、大きく息を吸い込み、息を腹中に納める。そして息を小さくスーッと吐きなが ら、ゆっくりと一つの円を書く。書を書くはじめに、いつもこの円を一つだけ書くようにしてみる。今のあなたの心の境地が わかるはず。

・ いろは文字を書く:いろは呼吸書法の特徴は、腹式呼吸とともに、いろは四十八音を発声しながら文字を書くことにある 。

1. 一行に同じ文字を書く:半紙の上に、右から左へと横に「いろはにほへ」と六文字を書く。そして最初の行には「い」だけを いくつも書く。次の行は「ろ」というように、同じ文字を続けて書いていく。「い」のときは「イー」と発音しながら、ゆっくりと 息が切れるまで吐きつづけ、一息で書く。

「ろ」のときは、「ろオー」と母音の「オ」をのばしていく。次の半紙には右から左へと横に「とちりぬるを」と六文字を書き、各行 、同じ文字を発音しながら書く。こうして四十八文字すべてを一行ずつ書いてみる。

2. 四十八文字を一枚に書く:一行目に「いろはにほへとち」の八文字を、発声しつつ、息をゆっくり吐きながら縦に一息で書 く。次の行には「りぬるをわかよた」の八文字を書く。これを続けて、全部で六行になるように、いろはの全ての文字を書いて いく。

「れそつねならむう」「ゐのおくやまけふ」「こえてあさきゆめ」「みしゑひもせすん」。半紙一枚に、一行一息で、各文字をはっき りと発音しながら書く。つまり息を長く吐き出しながら書く。途中、筆に墨をつけなおすのも自由。それができるようになっ たら、次には二行を一息で書く。そして最終的には、この四十八文字を二呼吸で書くことに挑戦する。

・ いろは呼吸書法で、深く長い呼気によっていろはを唱えることは、チャクラを開くのと同じ効果がある。




『気でひきだせ、無限の治癒力』 矢山利彦 太郎次郎社 (1997)
西洋医学と東洋医学、つまり漢方、鍼、そして気功を有効に使い、患者の自然治癒力を高めていく方法を試行錯誤で模索。その歴史と患者さんの具体例でわかりやすく説明。

矢山さんの気功研究所 (株)コスミック・エナジー研究所
〒849 サガシ鍋島6−8−3 Tel/Fax 0952−32−4486


『先端技術が応える!中高年の目の悩み』 横井則彦 集英社新書 (2011) 
よこい・のりひこ:1957年徳島県生まれ。京都府立医科大学卒業。同大学院医学研究科博士課程修了。医学博士。 眼科専門医。オックスフォード大学留学などを経て、京都府立医科大学眼科学教室准教授。

日本眼科学会評議員、日本角膜学会評議員、日本シェーグレン症候群学会理事、日本涙道・涙液学会理事、 ドライアイ研究会世話人。専門は涙液疾患、眼表面疾患、角結膜手術。

ドライアイ、白内障、緑内障等の目の病気についてその原因、最新の治療法など解説。涙の役割、涙を出 したり、排出したりする目の仕組みには驚いた。

・ 「目を開けているのがつらい、閉じていた方が楽」という訴えに、ドライアイがどんな病気なのかが示 されている。「目を開けているのがつらい、閉じていた方が楽」とは、裏を返せば何かを見ていようとすると、 まばたきせずにはいられないということだ。

ドライアイになると、無意識のまばたきの頻度が増えたり、まばたきを意識するようになる、あるいは無理矢理 にでもまばたきしなけばならなくなる。まばたきをすると、目尻にある涙腺から涙が分泌され、目頭にある涙の 出口(涙点)を通って排出される。

涙(涙液)はいつもほぼ同じ量が一定の厚みで目の表面に広がる。そして、暫くの間(10秒以上)はこの状態が持続する。

・ 皮膚や内臓には隅々まで血管が張り巡らされ栄養を補給しているが、角膜には血管がない。角膜や結膜 のいちばん表の細胞に栄養を補給するのは、涙の大切な役割だ。しかし涙の役割はそれだけではない。

涙は眼球の表面の乾燥を防いでいるし、角膜の上皮細胞にできた傷を治すのも涙だ。涙があることで細菌など の感染を防ぐことができ、涙が流れて異物を流し去る働きもしている。

また、目の表面にとってまばたきは衝撃であり、摩擦も起こるが、その時涙がまぶたと眼球の間に広がってク ッションや潤滑剤の役目も果たすので、傷がつくことがない。

さらに重要なのは、涙が薄く均一に安定して目の表面に広がっているから、私たちはものを見ることができるということだ。

・ ドライアイの人の目の表面では涙がきれいに広がらず乱れを生じている。つまり、ドライアイが 起こるメカニズムの本質は、目の表面で涙が安定して広がらず、水滴になりやすいということにある。

そのために、目の表面の細胞が、涙で十分に覆われなくなり、乾燥したり剥げ落ちたりする。目の表 面にある角膜に傷が生じるわけだ。その上、角膜は、痛みを感じる神経が体中で最も多く集まっているところだ。

そこで細胞が乾燥したり剥げ落ちたりすると、痛みが生じる。「目を開けているのがつらい、閉じていた方が楽」というのはこのためだ。

・ 涙の最大の構成成分である水分は、主に上まぶたの外側の奥にある涙腺で作られる。この水分には 目の傷を治す成分(上皮成長因子など)や細胞を育てる成分(ビタミンAなど)、目を感染から守る成分(ラク トフェリン、リゾチーム、免疫グロブリンなど)、その他、様々な物質が含まれている。

この涙腺は主涙腺と呼ばれている。それ以外に、上下のまぶたの付け根部分の裏側あたりにも、副涙腺と 呼ばれる小さな涙腺がいくつかあり、そこからも涙が分泌される。

涙の水分はまばたきするごとに上まぶたの目尻に近いところから出てきて、目の表面全体へと広がっていく。

・ 涙は油層と液層の二層になっていて、その下に眼球の角膜や結膜の細胞がある構造になっている。 油層に含まれる油分のほとんどは、上下のまぶたの中にあるマイボーム腺という組織で作られ、分泌される。

上まぶたには、7ミリくらいの細長いマイボーム腺が30〜40本並んでいて、上まぶたのまつげの内側に 油分の出口がある。下まぶたの内側には、やや短くて太いマイボーム腺が20〜30本並び、やはりまつげの内側に油分の出口が並んでいる。

ここから、目の表面に注ぎ込むように油分が分泌され、涙の水分の上に広がる。油層は水分の蒸発を 防ぐ役割をし、また目の表面の涙を安定して広げる働きにもかかわっている。

この油層には、水になじみやすい性質の油分と水になじみにくい油分の二層構造になっている。これに よって、涙の水分の上で十分に伸び広がることができる。油層の下は水分とムチンが混じった液層だ。

ムチンとは粘度の高い、つまりねばねばした糖たんぱく質だ。このため、液層は液体の層といっても、 実は、ムチンゲルという、ムチンが混じったゲル(ジェル)状になっている。

このムチンゲルに含まれているのは、結膜の杯細胞という細胞から分泌される、分泌型ムチンと呼ば れるものだ。これが涙の主体である水分と混じり、濃度勾配、つまり濃淡の差をもった層になっている。

液層の上にいくほど分泌型ムチンの混じり方が少なく、下に行くほど分泌型ムチンが濃くなってい て、一番下の分泌型ムチンが最も濃いところには、別の種類のムチンである膜型ムチンがある。

膜型ムチンは、ティアフィルム(涙液層)を構成する成分ではなくなくて、角膜や結膜にある細胞を 構成している成分の一つだ。

膜型ムチンは、角膜や結膜の上皮細胞の最も表面にある細胞の突起のさらに先から突き出るように分布 していて、目の表面を水に濡れやすい状態にしている。いわば、膜型ムチンは涙を目の表面につなぎとめる役割をしているのだ。

また、この膜型ムチンには、異物が入ってこないように目の表面を守る働きもある。このように、 油分とムチンが含まれていることで、涙はフィルムのように薄く、均一に安定して広がることができる。

テーブルの上に水滴を落とすと、水は半球状に盛り上がるが、そこにムチンを少量垂らすと、水の 半球は少々平らになる。ムチンのおかげで表面張力が弱まるのだ。

さらにそこに油を垂らしてみると、水の半球は崩れ、テーブルにさっと広がる。油がさらに表面張力 を弱めるからだ。目の表面でもこれと同様のことが起こっている。

涙の主体である水分にムチンと油分がバランスよく加わっていることで、表面張力がぐんと弱まり、 丸い水滴になることなく目の表面に涙が広がることができる。

逆に言うと、油分やムチンの量に問題が生じると、涙はその役割をうまく果たすことができず、目の 表面に広がりにくくなって水滴のようになろうとするわけだ。これが、ドライアイの中心的なメカニズムの一つになっている。

・ まばたきをすると、涙の水分が上まぶたの目尻あたりから出てきて、目の表面全体に広がっていく。 同時に、上下のまぶたの縁に平行して帯状に広がる、「涙液メニスカス」と呼ばれる涙のたまる部分を 通って、目頭の上下にある涙点という小さな穴に吸い込まれていく(これを「涙のターンオーバー」という)。

この、目の表面に涙を広げ、同時に排出させるというまばたきの働きのポイントとなるのが、涙がたま る部分、涙液メニスカスだ。

涙液メニスカスは断面が凹面になっていて(そのために「メニスカス(半月、あるいは三日月)」と呼ばれる)、 このことはそこに陰圧が存在することを意味する。

メニスカスには、涙を引っ張りこみ、保持する力があるということだ。涙液メニスカスは、まばたきで 上まぶたが下まぶたにくっつくと、いったん消える。

そして上まぶたが開く瞬間にすかさずできて、そこにたまっている涙が上のメニスカスに引っ張られるよ うに持ちあがることで、涙がフィルムのように目の表面に塗りつけられていく。

そして、上まぶたが開き切ったときに、まぶたの筋肉の一部の働きによって、涙小管という器官に大き な陰圧が発生して、メニスカスにある涙を涙点へと吸い込む。

こうして、目の表面で蒸発する10%ほどの水分を除いて、ほとんどの涙が涙点から排出され、涙小管へ と入り、鼻の付け根あたりの涙嚢という袋状の器官にたまって、鼻の後ろの鼻涙管を通ってのどの奥へと流れて行く。

この涙の排出ルートを涙道と呼ぶ。こうしてみると、まばたきのたびに、目の表面の涙は、中央部分 と上下の涙液メニスカスに部分とでは異なる方向に動いていることになる。

これによって、目の表面では、ティアフィルムの形成と涙の入れ替えという、一見矛盾するような、 しかし、どちらも目にとって不可欠な働きが同時に行われている。

つまり、まばたきをすると、その都度涙が目の表面に安定して広がることで、ものをきちんと見えるよ うにする、乾燥を抑える、傷を治す、感染を防ぐという涙の働きが得られ、一方、常に新たな涙が供給さ れることで、細胞への栄養補給が絶えず行われている。

さらに、またばきは目の表面をこするように行われるので、目の表面の古くなった細胞をまるで垢を落と すようにこすり落とす。この、目のワイパーとも言うべきまばたきの働きによって、目の表面の細胞もリフレッシュされている。

・ 健康な目であっても、たとえば一分間もまばたきをせず、目を開けていたなら、ものはぼやけて 見えてきてしまうし、目も痛くなる。

フィルムのように目の表面に広がっていた涙が丸まって、水滴の状態になろうとするからだ。このよう に涙の安定した広がりが破綻することを「涙液層のブレイクアップ」という。

このブレイクアップが起きる前、あるいは起きるや否や、私たちの目は反射的にまばたきをし、それに よって涙を目の表面に広げ、涙をリフレッシュさせるということを繰り返している。

・ 涙の量などに異常が起きたり、まばたきのシステムのどこかに問題が起きると、涙液のブレイクア ップが起きやすくなる。

それに対するまばたきが間に合わないと、目が痛くなるし、ものが見えにくくなったり、ぼやけて見えたりする。

・ 薬の副作用で涙の水分が減り、ドライアイになることがある。考えられるのは抗コリン作用のあ る薬の副作用だ。

抗コリン作用のある薬としては、「総合感冒薬」「胃腸薬」「鎮痛薬」「降圧薬」「抗不整脈薬」「気管支 拡張薬」「抗めまい薬」「抗ヒスタミン薬」「向精神薬」などが挙げられる。

ちなみに、抗ヒスタミン薬とは花粉症の薬や睡眠改善薬など。向精神薬とは抗不安薬や抗うつ薬など。 抗コリン作用とは、アセチルコリンという神経伝達物質の働きを遮断する作用のこと。

この作用によってアセチルコリンがかかわる副交感神経の働きがブロックされるために、結果として 様々な症状が出る。

涙のコントロールシステムであるリフレックス・ループには涙腺神経が関係しているが、これは副交感 神経系の神経のひとつだ。

だから、抗コリン作用のある薬を飲むと涙腺神経がブロックされ、涙の水分の分泌が減ってしまうこと がある。長期的に服用しているとドライアイを引き起こすこともある。

また、緑内障の目薬である「β遮断薬」が、ドライアイの原因となる場合も考えられる。

・ 涙の水分を分泌する涙腺や油分を分泌するマイボーム腺の働きには、男性ホルモンも関与してい る。だから、もともと男性ホルモンの少ない女性の方が男性よりも涙の水分や油分が減りやすく、 ドライアイになりやすい。

しかも女性の場合、更年期以降にはさらに男性ホルモンが減るため、ドライアイが多くなる。

・ マイボーム腺機能不全とは、マイボーム腺の出口が細胞のかけら(過剰角化物)で詰まり、マイボー ム腺の働きに異常が起きてしまう病気だ。

マイボーム腺の出口が詰まると、マイボーム腺の途中の導管部分に油分がたまり、ふくれて目に圧迫 感を感じる。

また、油分がたまった部分では、細菌が繁殖してリパーゼという酵素を生み出し、その作用でマイボー ム腺の油分が分解されて脂肪酸が作られる。これによって、灼熱感などの強い刺激症状を伴う場合もある。

この病気では目の表面に油分が供給されなくなるので、水分の蒸発が進み、ドライアイを引き起こす 原因ともなる。マイボーム腺機能不全は、化粧品が原因となる場合もある。

まつげより内側に、しかも上下にアイラインを引く化粧は、マイボーム腺の出口をふさいでしまうことがあるので注意が必要だ。

・ 目が充血していたり疲れていると感じた時、目をすっきりさせたいと、水で目を洗う人がいる。 しかし、これは逆効果だ。

涙に含まれるムチンや油分を洗い流してしまうため、涙がブレイクアップしやすくなって、ドライアイ になる可能性がある。目をリフレッシュさせることができるのは涙だ。

・ 洗眼剤の使用もおすすめできない。洗眼剤で目を洗うと、目の周りのゴミや皮脂、皮膚の汚れな ども目に入り、涙のブレイクアップが起こりやすくなる。

さらに、洗眼剤に加えられている様々な成分や防腐剤などが、かえって目の表面にダメージを与えかねない。

・ 目を冷やすことも一般的にはよくない。血流が悪くなる上、マイボーム腺の油分も硬くなって目 の表面に出にくくなり、結局、ドライアイ症状を引き起こしやすくなる。

・ 充血、疲れ目のときにおすすめしたいケアは、人口涙液をさし、蒸しタオルなどで温めることだ。 意識してまばたきをすることも、涙や目の表面の細胞のリフレッシュを促す効果がある。

・ 近年の白内障手術では、眼鏡を使用せずに遠くも近くも見ることが可能になろうとしている。 それは、モノビジョン法や多焦点眼内レンズが開発されたことによる。

モノビジョン法は左右の目で度数の異なるレンズを使う方法だ。白内障手術の際に、利き目には遠く に合わせた単焦点眼内レンズを入れ、もう一方の目には近くに合わせた単焦点レンズを入れ、両目で 見た時に遠くのものも近くのものも見えるようにするものだ。

治療を受けた人の82%が満足しており、60歳以上の人にはより有効とされている。この単焦点眼内レ ンズによるモノビジョン法は保険適用なので、通常の白内障手術と同じ費用で老眼対策ができる。

もう一方の多焦点眼内レンズは、遠くも近くもピントが合いやすくなる遠近両用の眼内レンズだ。 こちらも白内障手術が老眼対策にもなるということで、注目を集めている。

ただし、このレンズを使える人にはいくつか条件があり、誰でもというわけにはいかない。

また、この手法は先進医療に指定されているので、先進医療を行うための施設基準を満たしている施設 での治療であれば、先進医療部分は自己負担、それ以外の診察や検査など通常と同じ治療の分が保険適 用となるが、そうではない施設で治療を受けると全額自己負担となる。

・ 白内障の原因は様々あるが、最も多いのは加齢だ。40代から水晶体の濁りが認められるように なり、50代で37〜54%、60代で66〜83%、70代で84〜97%、80歳以上ではほぼ100%の人が白内障になる。

透明だった水晶体が濁ってくると、光がうまく通らなかったり乱反射したりして、網膜にはっき りとした像が結ばれなくなってくる。

「目がかすむ」「眩しさを強く感じる」「ものが二重、三重に見える」などの症状が現れ、やがて視力 の低下にも気がつく。治療法としては、目薬や内服薬による治療と手術とがある。

手術による治療は症状が重くなって、日常生活に支障が出てきた場合に行われる。ただし、薬による 治療は進行を遅らせることを目的として行われるもので、濁り始めた水晶体を元の透明な状態にする ことも、落ちた視力を回復させることもできない。

・ 白内障の手術は急速な進歩を遂げ、すばらしく発達してきた。現在主流となっている、超音波乳 化吸引術によって濁った水晶体の中身を取り去り、眼内レンズを挿入するという手術によって、よく 見えるようになるだけでなく、老眼への対策の一つとして、より視機能を上げることもできるようになってきた。

手術にかかる時間は10〜30分程度。最初に開ける切り口にも工夫を加えて、手術の最後に縫合しなく ても自然に眼圧でふさがるようになっているので、術後まもなく視機能が回復する。

最近は、日帰り手術とする施設も増えている。不快症状は1〜2週間でなくなるのが一般的。 ただし、1〜2ヶ月間は感染症や炎症を防ぐための目薬の点眼が必要だ。

・ 緑内障とは、なんらかの原因で視神経の出口に異常が起き、視神経線維が減ってしまうため に視野が欠けたり狭まったりする視野障害を起こす病気だ。そこには眼圧が深くかかわっている。

緑内障には自覚症状がほとんどない。視野の異常を感じるまでに時間がかかるので、ごく初期の 段階に自分で気がつく人はほとんどいない。

早期発見によって重篤な緑内障を回避するためには、40代以上の人は、年1回の定期的な検査を受け たほうがいい。特に眼底検査は重要だ。網膜の視神経乳頭部のへこみなどをよく観察し、神経線維が減っているかいないかを確認する。

緑内障では、病気によって減ってしまった視神経線維を増やすことはできないので、治療の 目的は病気の進行を食い止めて視機能を維持することとなる。開放隅角緑内障では、点眼治療が基本となる。

・ 中高年になると、生理的な変化によって現れる症状もある。たとえば、黒い点や虫のよう なものが目の前を飛んでいるように見えて、視線を動かしてもついて回ってくる−こうした症状 を飛蚊症というが、ほとんどの場合は病気ではない。

眼球の中の硝子体の濁りが影のように見えていることが多い。硝子体はドロッとしたゲル状の透明 な物質だ。

これが加齢によって性質が変化し、ゲルから少しずつ水に変わっていくと容積が減り、もともとは網 膜にくっついていたのが、前方へと移動していく。

この時、一番強く張り付いていた部分の網膜の細胞のかけらが、硝子体の裏面にくっついたまま漂い、 その影が眼球の動きとともに動く。これを「後部硝子体剥離による飛蚊症」という。

硝子体剥離自体は、生理的なもので病気ではない。しかし、その剥がれるときに、網膜との強い癒着 があると、網膜が裂けて穴があく網膜裂孔や、硝子体のゲルからできた水が、網膜裂孔から網膜の裏 に回り込む網膜剥離を起こすことがある。

また、病気や外傷で網膜に出血が起き、その血液が硝子体に入って飛蚊症を感じたり、突然赤いもの が目の前を覆う感じがすることがある。これが硝子体出血だ。




『癒しの自然音楽』 リラ研 自然音楽研究所編著 でくのぼう出版 (1997)

・ 自然音楽伝曲者のかぜおめぐる風緒輪さんによれば桜は主に植物に満遍なく伝える送信塔、受信塔の役割。サボテンは動物や人間といった異種のも
のに強く伝える事ができる。松は全てのものに対して癒しの波動が強い。チューリップも人間と交信する能力が高く、植物皆の波動を一つにまとめて強力に同じ方向に持っていく統率力があるリーダー役。

・ 植物全体はそれぞれ波動を出して地球万物をバランスを保ってその安らぎの中に入れてしまいたいと思っている。また波動を高める働きもある。病人の側に置くと回復力を早めてくれる。

・ 植物達の癒しの力はみな一緒。ただ、癒しの力を伝える強さが違うだけ。松、ツワブキ、紫蘇は癒しの波動が強い。

・ 現在、植物達がオーバーワークで疲れきっている。そこで、植物へ呼びかけたり、自然音楽を歌う事によって植物を生き返らせる事が必要。すると万物への癒しの波動が殖える。

・ 植物は異種の者が自分達に送っているのは(自然音楽を歌う事)何か大事な事ではないのかという感じで聞いてくれ、喜ぶ。ああ、自分達と同じ歌を唄っている、自分達も一緒に唄おう。それがますます癒しにつながっていく。

・ 人間の心や波動を整えてくれる波動が自然界の波動。その自然界の波動が自然音楽からは出る。

・ 波動の調整役が植物なのだから、植物と一体となって自然音楽を聞けば、歌うようになれば、植物全体の癒しの力、自然界の癒しの波動をフルに受け取る事ができる。

・ リラ研究グループ 自然音楽研究所は自然音楽を広めるボランティアグループ。心身を癒し高める自然音楽のレッスンを行いコーラスと楽しむ「音楽クラブ」と、医師の協力のもと自然音楽による音楽療法で心身の病気を治療へ指導する「ヒーリング倶楽部」を開設。
青木由起子所長。〒247鎌倉市大船2−7−33 
tel:0468−72−3161



『病院のカラクリ、医者のホンネ』 和田秀樹・テリー伊藤 アスキー (2001)
期待はずれ。もっとビックリするような病院の裏側の実態が暴露されると期待していたが、ありきたりの話だった。

・ 東大をはじめとする大学病院は、臨床よりも研究優先というか、教授を手術のうまいヘタで決めるのではなくて、論文の数で 選んでいる。だから大学病院の手術はへたくそだ。

・ 医療広告の規制を緩和する「改正医療法」が2001年3月に施行された。これによって今まで禁止されていた項目がいくつか広告 できるようになった。しかしその項目の殆どは、「クレジットカード利用の可否」「対応できる言語」「保健指導の実施について」など で、医師のウデとは直接関係ないものだった。

・ 医療ジャーナリストや医療評論家の病院ランキングは全然当てにならない。そういう本のランキングのトップは、たいてい大 学病院になっている。まともな取材などしていない証拠。

・ アメリカのランキングは、非常に信頼度の高いものだ。ランクも毎年変わる。AMAによるランキングは、「USニュース& ワールドリポート」という雑誌に、毎年出る。

・ AMAはアメリカ医学会のこと。また「USニュース&ワールドリポート」は、国内外に200万人の読者を持つアメリカのニュ ース週刊誌。毎年掲載される病院ランキングは、大学ランキングと並ぶ同誌の名物企画である。これはAMAの70万人近い医師に 選ばれた専門分野別の病院ランキングと、各病院の患者死亡率などのデータに基づくランキングで、専門別、地域別などで、細か く順位がつけられている。

・ 本人や家族が「手術をビデオで撮らせてくれ」と権利として要求すべきだ。もっと言えば、そういう記録を残す義務を厚生労働 省が課してもいい。

・ 大学に残った場合、教授にはたいてい50歳くらいでなれる。日本では教授になってしまうと、そのあと、本当に勉強しなくな る。日本では、教授というのは「上がり」のポストだからだ。いったん教授になってしまったら、よほどのことがない限り、辞めさ せられることがないからだ。

・ 大学病院での給料は500万円くらいだが、だれも町医者になろうとしない。町医者は一段レベルの低い地位とみなされているか らだ。かれらは助っ人医者として他の病院にアルバイトに行ったりしている。いまは、一日7―8万円くらいもらう。助っ人医者の 問題は、「外来のとき」と「入院のとき」とで、担当医が全然違ってしまったりすることだ。

たとえば、助っ人医者が診察して「入院しなさい」といったとする。それで入院してみると、その医者に診てもらうわけではなかっ たりする。そういうふうに、「外来」と「入院」とに連続性が全くなくなってしまう。

・ 多くの病院は、常勤の医師だけでなく、非常勤の医師を雇っている。これには、「常勤医が少なくて当直にまで手が回らない」 「特殊な診療科なので、常勤医を雇うまでもない」などの理由がある。一般的には、病院側が大学医学部教授などに頼み、若い医師 を回してもらうことが多い。

・ 現在、「カルテ公開」の義務は法律上はない。1980年代にカルテ公開を求める訴訟が起こされたが、東京地裁は「必ずしもすべ て閲覧させる義務はない」として一部棄却する判決を下した。しかしその後、カルテ公開を当然とする声が高まり、国内最大の病 院団体である日本病院会では「患者の権利章典」を策定し、そのなかに「カルテの閲覧」を明示した。厚生労働省でも「診療情報に関 する検討会」を組織し、カルテ開示義務付けを求める報告書をまとめた。

・ 日本の裁判で一番問題なのは、「原告側に立証責任がある」という点だ。損害賠償を請求する側に立証責任がある。つまり、医 療ミスの裁判の場合、「患者側が、医療者側にミスがあったことを立証しなければならない」ということだ。

・ 患者取り違え手術ミスをした横浜私立大学医学部付属病院の精神科教授は、2代続けて、教授になる前の20年間、臨床経験が なかった。横浜市大は少なくとも教授会がそういう決定をする大学だ。だから、あんなコワイ病院はちょっとないなと感じる。

・ 国立大学の場合、教授の年収は1300万円くらい。教授になったばかりなら、1000万円。

・ 外科の教授なら、手術のたびに謝礼をもらうということがある。手術一回につき30万円なら、年間50例で1500万円になる。謝 礼の総額は、多い人で2000―3000万円。あと、製薬会社から様々な名目の研究費がある。

・ 教授への謝礼は少々払ったところで効果はない。逆に、立場が下の医者は、一般に思われているほどもらっていないから、謝 礼をもらうと気を使ってくれる。

・ 製薬会社は、「処方箋に自分の会社の薬をできるだけたくさん書いてくれるように」と、勤務医への接待をしている。

・ 治験をすると、製薬会社から報酬がたんまりもらえるので、その治験をやった大学病院の医局はみんなリッチになる。

・ 製薬会社が、治験病院を決めることができる。だから、製薬会社と大学病院の癒着が発生する。

・ 大学病院は、もし悪い治験結果を出したら、二度と製薬会社から治験の依頼がこなくなってしまうので、決して悪い報告は出 さない。

・ 治験大学は、学会のボスと製薬会社とが決める。治験の結果をマスコミにリークなどしたら、学会のボスに睨まれ、そこの医 局から出る論文は全部没にしてやろうなどという報復がある。

・ 日本製薬工業協会に加盟している会社は80社くらいある。その海外売上比率の平均は、3.3%(1998年)。アメリカでは、ほと んどの製薬会社で30-40%くらい。日本の薬の8割は、アメリカで認可されていない。副作用が強かったり、効き目が悪かったりの 理由。

・ 株式会社の病院はつくれない。社員向けの病院ならつくれる。この背景には医師会の強い圧力がある。

・ 昭和60年の「第一次医療法改正」によって地域医療計画が導入された。都道府県ごとに「医療圏」を定め、それぞれの圏ごとに 「病院の無秩序な増加をコントロール」し、「必要な病院を必要な数だけ整備」しようというもの。病院数が過剰な地域では、開設・ 増床の中止を勧告することもある。「医療の体系的整備をはかる」のが目的とされているが、「既得権益を守るための方策ではない か」という反発も強い。

・ 「カルテを見せてほしい」「一度、別の病院でも診てもらいたいので、検査結果などを渡してほしい」と言い出す時期は、「病状 や、手術の説明が行われるとき」がいいだろう。こういうときに、大勢の身内―これは、友達などに頼んで、身内のフリをしても らうだけでいい。

つまり、大勢の人が居並ぶことによって、数で圧倒するわけだ。それで、たとえば、「カルテを見せてください」と頼んで、医者か ら断られたら、後のほうから「どうして!?」「どうして!?」と声をかける。「おいおい、カルテ見せないなんて、ヘンだよ」「ウチ のほうじゃ見せてるよな」とか、ワイワイガヤガヤとやる。

ここで大切なことは、一番身近な家族は黙っていること―後々の関係をギクシャクさせないために、身近な家族は、あくまでも「 いい子」になっておいたほうがいいだろうから。それで、あとから「どうもすみませんでした。うるさい叔父が来まして、、」なん て、シラっと謝っておく。さらに、「親戚に新聞記者がおりますが、この親戚がずいぶん神経を尖らせていまして、、」というよう なのも効果があるだろう。

「親戚に弁護士がいるんですが、これがまたうるさくて、、」というのもいいだろう。一般に医者というものは、「ジャーナリスト」 とか「法律家」とか聞くと、それだけでビビってしまうものだ。

・ もし救急車に乗るようなことになったら、「あの病院に行ってくれ」と、自分で搬入先を指定したほうがいい。

・ 近所の評判というものには、実際の評判だけでなく、「外来患者の数」というもの考慮する必要がある。「いい」と思っているか らこそ、患者は続けて通うわけだから。「アソコは、救急外来が多いわりに、一般外来が少ないよ」と言われている病院は、おそら くアブないところだ。

・ 手術を受けるときに、医者に謝礼をする場合には、最低20―30万円―「ミスしたらヤバイ」と緊張させる金額―必要。逆に 、その額を払うのが大変な人は、一切払う必要はない。2,3万といった、中途半端な金額なら、払うだけ無駄。

・ 入院した場合には、看護婦さんにもお礼をしたほうがいい。看護婦さんは、実質的な世話をしてくれる人だし、色々な情報を もっているので、「看護婦さんを押さえておくのが一番賢い」ともいえる。断られても、「わかってはいるんですが、どうしても受 け取ってほしい」と何度も言って、受け取ってもらおう。それでも断られるなら、病院で出前をとって、夜勤の看護婦さんに「お寿 司、うっかりよけいに取ってしまったので、食べてもらえませんか」と言ってみるとか、、。