転倒発作を消失させる手術法

 転倒発作は左右大脳半球のてんかん波の急速な共鳴現象により出現します。この時に、てんかん波が伝播する重要な経路となるのが脳梁です。脳梁は左右の大脳半球を連絡する最大の交連線維ですが、同時にてんかん波の最も好む通り道でもあるのです。このてんかん波の通り道を遮断することにより、左右のてんかん波の共鳴現象は消失し、同時転倒発作も起きなくなります。
 脳梁離断術によるてんかん発作の消失はきわめて劇的で、手術を受けたほとんどの人が、怪我をするような転倒を起こさなくなります。われわれの施設で、脳梁を切断する手術を受けた15歳以下の小児は80人以上います。中には手術を受けてすでに10年近く経過した方もおられます。脳梁離断術の手術を受けた患者さんにアンケート調査をしたところ、90%以上の方で転倒発作は完全に消失していました。最初転倒発作が消失したが、後になって再び出現してきた方はただの1人で、手術効果はほぼ永続的と考えて良いでしょう。
 危険な発作から開放されると、患者さんの活動範囲が広がるだけでなく、常に患者さんに付きっきりであったお母さんの負担も大幅に軽減します。

脳梁を切断する範囲は?

 私たちの経験では、小児の場合は、脳梁は全部切断しないと手術効果がかなり低下します。また、部分離断では、手術効果が低いだけでなく、いったん消失した転倒発作が再発する可能性が高くなります。
 脳梁を全部切断するより、少しでも残した方が脳のためになるのでは、と考える方が少なくありません。しかし、この考え方は基本的に間違っています。てんかんの左右同期性が完全に消失しないと、大脳機能の改善は期待できないのです。中途半端な手術は、中途半端な効果しかもたらしません。
 基本的に、左右の大脳半球は独立して働くことができるように作られています。サルを使って脳梁離断による障害を実験的に調べても、なかなか半球離断症状を証明するのが困難なほど、脳梁の働きは微妙です。もちろん、脳梁の存在が全く無用というわけではありません。しかし、生まれつき脳梁が存在しないにも関わらずふつうに生活している方もいます。つまり、小児期に脳梁が完全に切断されても、小児の脳は十分にこれを代償できると考えて良いでしょう。
 逆に、部分離断により、残った脳梁を通っててんかん波が左右同期化すれば、転倒発作が完全に消失しないのみならず、大脳機能の改善も不十分になる可能性も出てきます。
 脳梁を切断することにより生じるかもしれない後遺症を恐れて、てんかん波による大脳機能の痛ましい荒廃には無関心というのはきわめて奇妙な考え方です。脳梁離断により、危険な転倒発作が消失し、大脳機能が改善し始めのであれば、目の前でどんどん大脳機能が荒廃していくのを手をこまねいてみているよりは、脳梁を完全に切断する方がはるかに賢明な方法ではないでしょうか。

手術のタイミングは?

 脳梁離断術はいつ受けたら最善なのでしょうか。余り小さいときに手術を受けるのは危険なのではないか、少し成長するまで様子を見た方がよいのではないか。このように考えられる両親がたくさんいます。しかし、このような考え方が、実は取り返しのつかない後遺症を脳に残してしまうのです。
 脳の可塑性という言葉があります。これは、脳が刺激を受けることにより変化する割合、いわば「脳の柔らかさ」ということです。子供の脳ほど可塑性に富んでいるので、すぐに刺激により変化します。プロの音楽家になるためには、幼児期から音感を養う必要があるのはこのためです。
 音楽などの刺激が脳に良い影響を与えるのとは逆に、てんかん波は脳の発達にきわめて悪い影響を与えます。年齢が低ければ低いほど、てんかん波による脳のダメージは深刻です。従って、左右同期性の異常波が出現するようになったら、なるべく早期に手術を受けるべきです。抗てんかん薬が効果のないまま、1年以上も発作が起きるままに放置しておくことは、きわめて危険なことです。脳の発達に必要な外からの良い刺激が、左右同期性のてんかん波に妨害されて、脳の発達につながらないのです。可塑性に富んだ脳は、十分な刺激を受けないと、逆に退行現象が起きてきます。今までに習得した言葉などが次第に減少していくのです。最後には、完全に言語機能を喪失してしまったお子さんも少なくありません。
 このような大脳機能の低下をてんかんという病気による宿命的なものと考えている方が少なくありません。実際は、てんかん波の影響により生じた、防御可能な障害なのです。早めに脳梁離断術を施すことにより、てんかん波の同期性を遮断すれば、このような恐ろしい後遺症を予防できたのです。


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